1056 引き換えに
「というわけでだ、変形合体ロボのベースとなるべき建物は全てを移動することに成功した、あとはグレート超合金だ、今回はそのための話をしよう」
「うむ、ではまず我が所有している数々のコレクション武器の中から、その鉱石で造られた伝説の剣を見るが良い、この赤黒さ、いかにも硬そうであろう?」
「……伝説の剣って、ただ変な色しただけの打製石器のナイフじゃねぇか」
「甘いな、この鉱石は硬すぎるゆえ、同じもの同士がぶつかって割れることでしか形を変えない、よってその割れた鉱石のうち、刃物のような形になったものの中から、『剣じゃね?』というレベルのモノを剣と、そしてその中でもさらに『伝説っぽい形』をしていたモノは、もうその場で『伝説の剣』と認定されるのだ」
「いや伝説の定義があやふやすぎて……だがまぁ、そんな簡単に伝説認定されるほどのスグレモノだということは良くわかった、で、本題なんだが……」
俺達が帰ったときには既にやって来ていて、ストックしてあった酒を勝手に飲んでくつろいでいた魔界の神。
それとの交渉をスタートするわけだが、まず見せられたその謎の鉱石で出来た剣はおそらくなかなかのもの。
見た目は完全に石器時代のアレなのだが、その力は俺の聖棒をも上回る強力なものであり、リーチが短いのさえどうにかしてしまえば、きっとどのような敵に対しても絶大な効果を発揮することであろう。
むしろこの鉱石を使った刃物を、時空を歪めるコーティングにしてしまったらどうか、一般人でも容易に物体と渡り合うことが出来るはずだし、きっと消滅させるのも簡単になってしまうほどの攻撃力を有する何かが出来上がるに違いない。
だがまぁ、今は変形合体ロボを駆使して戦うという流れであり、そのための準備はもう着々と進んでいるのだ。
それに、どこの世界においても物体との戦いはそれであるという、無視すべきでないトレンドがあるのだから、今回はそれに従っておくべきところ。
ということで謎の鉱石を用いて造った刃物に関しては、あくまでも物体と戦う変形合体ロボの外壁部分を補強する目的で製造するグレート超合金のプレート、それを完成させるためにだけ使用することとしよう。
で、そのためにはまずこの場で、交渉を成立させてその刃物を必要なだけ確保する必要がるのだが……
「……それで、この世界に物体をもたらした犯人というのはどこに居るんだ? 迷惑を掛けやがって、発見したら直ちに、魔界における奉仕活動に従事させてやるぞ」
「だから罰則が甘いと思うんだよそれ、もっとこう、苦痛に塗れるような罰じゃないとダメなんじゃないのか実際?」
「いや、別に我が回収の仕事が面倒というだけであってだな、世界を滅ぼしかけた、むしろ滅ぼす可能性がまだゼロではないというだけで、そこまで厳しく罰する必要はないだろう? リスクに晒されるのは結局どうでも良いモノだけなんだからな」
「いやいや、魔界ってこの世界に付属する神界の分離した部分なんだろう? それなのに関与する世界がなくなったらどうするつもりなんだよ?」
「別に、また新しい世界を創って、1億年ぐらい熟成させれば同じような感じになるだろうよ、これもまた簡単なことだ、たったの1億年だぞ? そんな時間じゃカップラーメンもまだバリバリのままだぞ」
「どうなってんだよ魔界のカップラーメンってのは……」
お湯を入れて1億年待つだけ、そんなキャッチフレーズで売られているカップ麺があったら見てみたいところだ。
というか、魔界神界問わず、そこの存在はもう俺達とは時間の感覚が違い、また物事の大小についても受け取り方が大きく違うようである。
単にこれまで深く関与してきた女神が、この世界の管理者であるから比較的それを重要視していたわけであって、例えば神界の他の神であれば、この世界の終わりなど、3話ぐらいまで見て忘れてしまったドラマが終わるのと同等の感覚しか抱かないのであろう。
そしてこのような感覚の持ち主に、この世界の命運を懸けた作戦の重要な部分について助言を依頼しているというのは気が引けるのだが、まぁそういうものだと思って続けるしかないのが現状だ。
で、そんな話はさておき、ここで魔王を引き渡したとしてもたいしたことはなく、特にどうにかされてしまうような心配もないということは、今の神の発言からもわかった。
嘘を付いているようには見えないし、本心でそう言っているであろうと考えることにつき妥当であると判断して構わないようだ。
ということで犯人について、既に俺達が捕らえてその身柄を管理しているということを、大々的にお伝えしたのであった……
「なるほど、そっちで犯人を捜し出して、その犯行について白状させたということなんだな?」
「いいや、モロに現行犯だったぜ、悪い顔しながら俺達の前で物体を召喚したんだ、最悪な奴だろう?」
「それはアウトだな、で、そいつはどこに閉じ込めてあるんだ?」
「っと、その情報を教えて欲しいのならってやつだが……わかっているんだよなもちろん?」
「良いだろう、多少粗末なモノだが、この鉱石で出来た、グレート超合金を容易に加工することが可能なナイフ……もちろん伝説級のアイテムなんかじゃねぇからな、それを300……いや500、物体の回収が終わるまでの間、我がトップを務める闇の勢力より貸与してやろう」
「……全部貸与なのか? 1個、いや10個くれ」
「やるのはちょっとな……結構高価なものだし、あのナイフ1本で物体回収のための人員を1兆人は雇えるんだぞ、そこんとこわかってんのか?」
「物体回収要員安いなおい……」
話し合いの結果、結局俺の要求は一部認められることなり、最も粗末なモノをひとつ、作戦終了後にこちら側のものとしてしまって良いということに決まった。
特に用途などはないが、それだけ希少な素材で出来た、しかも通常は絶対に壊れないような最強クラスの武器ともなれば、やはり手元にひとつ置いておくのが、伝説となる勇者として当然のことであろう。
で、それ以外にもわちゃわちゃと話をしたが、そもそも魔界の神の持つ『常識』と、俺達が持っている『本当の常識』が嚙み合うことなどないため、交渉の方も同じく噛み合わないといった状況。
途中で話に参加してきたリリィが要求した、高級な骨付き肉という無駄なものは、神がその場で魔界から召喚して与えたのだが、最終的に追加要求として通ったのは本当にそれだけであった。
世界の半分も貰えないし、後に攻め入る際の情報収集を目的とした『魔界ツアー旅行』も、安全上の理由から拒否されてしまったし、ついでに『魔界産の強力な魔導兵器1年分』という、極めて軽い要求も、継続して提供するのが面倒だという理由で突っ撥ねられてしまったのである。
しかしまぁ、当初の目的であった『情報とブツの交換』という目的はどうにか達成することが出来そうであるため、ここで手を打つこととして、俺達の方にある情報と、それからブツとして魔王の身柄を引き渡すこととした、だがその前に説明が必要であろうな……
「……ではこっちの持っている交渉材料を提供しよう、もちろん犯人の身柄もセットでな、どうだお得だろう?」
「そうかな? 我が提供してやるブツのほうがよっぽど価値があると思うのだが、所詮は小悪党なわけだし、もし本当に見つからない場合にはこの世界に存在する全ての生物を個別に調査すれば良かったわけだからな」
「チッ、マジでムカつく野朗だな、だが交渉は交渉だ、こちらの情報提供として、まず犯人には魔界が、そこの神の誰かが関与しているということを示しておこう」
「魔界が? まぁ魔界といっても広いし、我も知らない奴の方が多いからな、何をしているのかさえわからない部署もあるわけだし」
「だと思ったぜ、でな、今回の事件はその魔界の神の誰かが、この世界の人族を苦しめるため……というかおそらくは戦争をさせて人口を抑制するために送り込んだ、異世界人の魔王だ」
「魔王!? って、あぁ、何かそういうのを送っているような所があるって話は聞いたことがあるな……で、そいつがやらかしたのか?」
「その通り、俺がやめろと何度も言ったにも拘らず、自らの利益のためだけに、その制止を聞かずにやらかしやがったんだ」
「で、結局敗北して捕まっていると……こんなサルのような馬鹿に敗北する魔王とは一体?」
「失礼な奴だな、てかルビア、ちょっと魔王を持って来てくれ、ダッシュでだ」
「あ、は~いっ、いってきま~す」
何かと俺をディスってくるのは、神であろうが人であろうが変わらないということがようやくわかってきた。
そのような暴言に反応するのも比較的飽きつつあるし、サラッと批判的な言葉を述べるに留めておく。
で、ルビアがノロノロと出て行った後しばらく待つと、下の方から魔王の騒ぎ立てる声と、ジタバタと抵抗しているような音が聞こえてくる。
もちろん背の高いルビアに抱えられれば、戦闘力などまるで有していない魔王がそこから逃げ出すことなど出来ない。
しかしルビアの奴め、魔王に対してこれから何が行われる予定なのか、それを言ってしまったのか?
いや、奴のことだから雰囲気で察して、そこそこヤバい目に遭うのではないかと判断して暴れたのであろうな。
それは半分正解ではあるのだが、結果としてそこまで酷い目には遭わないこととなっているため、実際には暴れるほどのことでもないというのに。
というようなことを考えた直後、抵抗空しく俺達が居る2階の大部屋へと連れ込まれた魔王は、魔界の神の存在感を前にして、さらにジタバタと手足をばたつかせて抵抗を始めたのであった……
「やめなさいっ! 私をこの魔界の神に引き渡すつもりねっ! どうしてそんなことするのよ? 私何かしたかしらっ?」
「いや、物体をこの世界に呼び寄せた犯人の情報を得たいとのことでな、それはお前だし、あの事態を引き起こしたのはお前の独断であって、もちろん単独犯であって、だからもう諦めろ、もうそういう感じでこの神にお前のことを紹介してしまったからな」
「なんてことをっ!? あぁ神様、魔界の悪い神様! 本当に犯人なのは私じゃなくて、いや私だけど、そん、それでもここまでのことになったのはこの勇者が悪くてっ、信じて頂けますでしょうか?」
「いや、別に信じるとか信じないとかどっちでも良いんだがな、どうせたいしたことじゃないわけだし、この我に面倒臭い仕事をさせる結果となった分、ちゃんと働いて支払って貰うからな、1週間だぞ1週間! もちろんタダ働きの奉仕活動だ、わかったか?」
「……へ? あ、それだけなのかしら?」
「それだけ、とあと極めて少額な罰金が待っているらしいぞ、俺達が与える罰の何万分のいくらかって話だよな」
「何だ、それなら先にそう言いなさいよ、で、どこでどうタダ働きすれば良いわけ?」
「……この異世界人の小娘、身の安全が確保されていることを知った瞬間にえらい変わりようだな」
「そういう奴だ、ムカつく分は後で俺が尻でも引っ叩いておく、で、コイツの身柄と交換で、例のアイテムを必要なだけ、可能なだけ持って来てくれよな」
「それと、さっきのお肉もうひとつ下さいっ!」
「よかろう、じゃあちょっと魔界へ行って送付手続を取るから、それと同時に……そうだな、そいつの身柄は一時、魔王の派遣に関与している誰かに……まぁ、適当な堕天使にでも預けるとしよう、迎えに行かせるからそのつもりで、ではさらばだっ!」
「はいはいいってらっしゃい、出来れば魔界の主神にでも伝えておいてくれ、そのうちにブチ殺してやると……もう聞いていないのか……」
颯爽と立ち去って行った魔界の神、どうせすぐに例のアイテムを送って寄越すのであろうが、それがどこに出現するかを聞いていなかったのはもしかしたら問題かも知れない。
で、余裕を取り戻した魔王は、ルビアによってその場に降ろされ、プレゼントラッピング仕様で縛り上げられていたのだが、それでももう何かにビビッて居るような様子ではないようだ。
まぁ、全てについて安全が担保された後に、俺達が王宮前広場でこの魔王に対して与えようと考えている罰に考えたら、魔界における罰は極めて軽いものでしかないというのが現状であるため、この態度も仕方がないものといえよう。
そのまましばらく、魔界の神からのアクションがどのようなかたちで現れるのかと中止していると……まずは真っ黒なゲートが出現し、その向こうから……黒い羽を生やした黒髪の女性が出て来たではないか。
きっと魔王を連れて帰るために派遣された天使、いや堕天使なのであろうが、きつそうな表情でいかにも悪の女幹部というか……と、ここで魔王の態度がまた急変しているようだな……
「居ましたね魔王、さぁ、こっちへ来なさいっ!」
「ひぃぃぃっ! どうして担当官がこんな所にっ?」
「担当官? 堕天使が魔王の担当官なのか」
「そうです、私は魔界の『魔王派遣部門』で、これまでこの世界の人族を苦しめるために送ってきた魔王の管理を担当している者です、趣味は拉致した異世界人を痛め付けること、特技はこの世界の人族を殺害することです」
「めっちゃ悪い奴じゃねぇかお前っ!」
「まぁ、噂に名高い勇者にそんな褒め言葉を送られるとは、知っていますよ、魔王に対抗するため神界から送られた勇者であるにも拘らず、悪逆非道で人の心など持たない、しかも超絶知能の低い勇者が当代のそれであると」
「それ、最初に言った奴絶対に殺すからな……で、魔王はどうしてビビッてんだこの担当官とやらに?」
「ひぃぃぃっ! そ、それはっ……」
「それは私が個別に、この魔王に与えるべき罰を与えるからです、全く、物体を召喚して、しかもコントロールを切ってしまうとは、その情けない肉体で、最もな避けない格好をしなさいっ!」
「へへーっ!」
「お尻出してっ!」
「はいっ、仰せのままにっ!」
「制裁の鞭を受けなさいっ!」
「ぎゃんっ! ひぎぃぃぃっ!」
「……なかなか良い鞭捌きですね、後でお相手して貰いたいです」
「おいルビア、敵の管理者なんぞから鞭を貰って喜んだらアウトだぞ……」
キツい顔をした担当官は、やはり性格もかなりキツかったようで、魔王に対して高圧的に命令をし、尻を出させたうえでそこをビシバシと鞭でシバいていく。
一度は余裕な、本当に軽微な罪にしか問われないということで安心し切っていた魔王であるが、この担当官の女性堕天使の登場により、当初予想していたよりも遥かに危機的な状況に陥ってしまったようだ。
そのまましばらく、担当官の堕天使によってお仕置きされていた魔王は、ズタボロになった状態のまま抱えられ、ゲートを通って魔界へ連れ去られてしまった。
去り際、担当官の方でこれを少しばかり再教育し、キッチリ1週間後に同じ場所へ、つまりこのゲートから放り出して解放するという話しがあったのだが……果たして無事に戻って来るのか、そこそこ心配になってしまったではないか……
と、そこで天井にもゲートが出現し、何やら四角いものがドサドサと……ゆ○パックの山だ。
送り元が魔界であり、品名が『危険物』となっていることからも、約束のブツが送付されて来たことと考えて良いであろう。
早速そのひとつを開けて中を見てみると……赤黒く鈍い輝きを放つ打製石器らしき形状のナイフが、パックに入るだけ詰め込まれた状態でお目見えした。
これはいくつ送ったのか、神の方でも確認していない可能性が十分にあるな、ひとつやふたつぐらいパクッてしまってもバレないであろうし、約定である『最も粗末なモノ』だけでなく、中程度の品質のモノも貰ってしまうこととしよう。
「うむ、あの神が持っていた伝説級の剣ではないようだが、それでもそこそこの強さを持った刃物だな」
「ご主人様、使う前にちょっと実験してみたいと思いませんか? 試しに何かと戦ってみましょう」
「そうだな、じゃあ明日ひとつ持って、コーティングしていない状態で物体でも討伐してみるか」
「それと、人間相手にも試しておきたいわね……あそうだ、あの悪徳工場主? だったかしら、あれとズブズブだった役人が、そろそろ摘発と拷問を終えて処刑待ちしているんじゃないかしら?」
「そうだな、そういえばそんな話もあったな……よし、じゃあ明日王宮に頼んで、その役人共をこの謎の鉱石で出来たナイフで『腑分け』してみよう、もちろん生きたままな」
「臓器が良い感じに切り取れそうね、しかもスパッといくからそれを本人に見せて、それから……(お伝え出来ない内容です)……みたいな感じかしら? 火で炙るより面白いわねきっと」
「そうだな、まぁ、気持ち悪りぃから実際にはその辺のモブにやらせて、遠くから笑って見ているだけにするがな、まぁ、とにかくこれで色々と準備が整ったわけだ、あとは……」
「あとはもうひとつ、どうやってグレート超合金の基礎を造るかってことですね、しかも可動式の」
「それと、建物自体が空を飛んだり、合体したりする方法も編み出さないと……やっぱりほとんど前進していないじゃないの……」
とはいえ、これまで引っ掛かっていた、しかもどう足掻いても解消することが出来ないであろうとも思われた部分が、神の力を借り、魔王を犠牲にすることによって開通したのは非常に大きい。
ここから先は自分達の力でどうにかなるであろうところであって、建物が空を飛んだり変形合体したりなどの超常現象は、この世界の魔法力を用いれば小学生でも出来てしまいそうなことなのである。
その日はそのまま終了として、翌日になってすぐ、朝早くに屋敷を出た俺達は、建物を集合させた南へと向かう最中に、まずは物体の『試し討ち』をすべく、王都の城壁沿いを探して回ったのであった。
物体はすぐに見つかり、カレンが代表して例の武器を手に取り、馬車から飛び降りる……




