1055 大規模な事業
「このグレート超合金製のプレートがこうっ、ここにくるというわけだな、しかも外壁の全面と、それからこの建物に関しては屋根の部分に関してもそうしないと、防御に隙間が空いてしまうことになるな、ふむ……」
「ちなみにゴンザレスよ、先程やっていた激アツの作業はそれを作るためのものじゃったらしいが……何枚完成したのじゃ?」
「えぇっと、90cm×180cmのものなんですが、全部で10枚程度完成しております、これには1時間程度時間を要しました」
「ふむ、ゴンザレスの力をもってそれとすると、変形合体ロボの全面を覆い尽くすための数を揃えるのは至難の業じゃの、一般の兵士にとっては」
「あのなババァ、さっきの温度は1兆度だぞ、一般の兵士なんか近付いただけで蒸発するからな、普通にても足も出ないどころか消えてなくなるんだぞ」
「なんとっ、そんなに激アツであったのかあの作業は、となると一般の兵士には無理な作業で……業者に依頼するわけにもいかんしの……よし勇者よ、おぬしがゴンザレスの補助に入るかたちでやるのじゃ、大丈夫じゃろうその程度の温度であれば?」
「イヤだよ1兆度なんて、すぐに汗だくになって着替えも燃え尽きるっての、ということで俺はパスだ」
「おうおう勇者殿、その程度の汗だくを忌避していると、真の漢とは言えないと思うぞ」
「そういう汗臭い漢はもう流行らないと思うんだよな……」
どうにかこうにか言い訳をして、そのグレート超合金を加工する、現場温度1兆度の作業から逃れる。
というかゴンザレスの奴、どうしてその温度で服が燃え尽きたりしていないのだ。
基本的に汚いモノにはモザイクが入る、というかサリナが咄嗟に入れるはずなので、もうあり得ない格好になっていたとしてもそれはそれでセーフだというのに。
まぁ、一応は王都内に居るわけで、こんな所で服が燃え尽きるのはコンプライアンス上良くないということで、真面目なゴンザレスは力をそちらに傾けてまで、1兆度の熱からそれを守ったのかも知れないが……
で、そこまで苦労して、ようやく10畳分にしかならなかった作成効率の悪いグレート超合金製のプレート。
これを重ね合わせたり何だりして建物の基礎とし、さらに変形合体時には場所を移動して外壁を覆うと……なかなか気の遠くなるような改造、いや改装になりそうだな。
もちろんそれをするためには、まずこのゴンザレスが作成したプレートを基本として、同じようなものを大量生産すると同時に、全ての建物をここへ運んで来なくてはならないのだが。
そしてそれをすべきは俺達であって、ついでに言うとそろそろあの魔界の神の方も、外壁プレートについて何か答えを出したのではないかといったところだが、果たして……
「うむ、じゃあゴンザレス、俺達はまた建物をここへ運搬する作業に戻るから、出来れば別の場所を探して、そこで作業をするようにしてくれ、じゃないといつか誰か死ぬぞ」
「おうっ、じゃあ仕方ないな、南門から出て、少し広い場所で実行するとしよう、この熱ならそこらの物体にもダメージを与えることが出来るはずだし、一石二鳥というやつだなっ、ハッハッハッ」
「ちなみにさ、参考までに教えて欲しいんだが、その1兆度の熱、どういう原理でそんな温度上げてんだよ? 火魔法なんぞ使えなかっただろう?」
「ん? 普通に両手を擦り合わせると温かくなるだろう? それを超高速で行いつつ、間にグレート調合金の比較的ザラザラした塊を挟み込むことで……」
「わかった、わかったからやらなくて良いっ! マジかよ、摩擦熱でそこまでやっているとは思わなかったぜ」
「凄まじいわね……とにかく勇者様、もっと上手く建物を運ぶ方法を考えましょ、もう疲れちゃったわ私、1兆度じゃないけど普通に暑いし」
「だな、さてどうするか……それもアイツに聞いてみようか、賢さが自慢みたいだし、何か精霊様でも思い付かないような凄いアイデアを持ち出すかもだぞ」
「わしの方も、王宮でブラウン師に質問してみようと思うでの、何かわかったら使者を送って伝えるゆえ、そちらも少し考えて参れ」
「おう、じゃあそういうことで、良い方法が発見され次第作業の続きだな……というか今日はもう夜になるから無理か……」
何だかんだで夕方になりつつある王都、夜間に建物を飛ばすのは危険だし近所迷惑にもなるということで、今日は何かわかっても、もうこれ以上の作業はしないということに決まった。
ぞろぞろと解散していく作業員……ほとんど熱気球を作る以外役に立たなかったのだが、それを見送ったうえで、俺達も屋敷へ帰るべく用意された馬車へ乗り込んだ。
馬車の中では改めてこれまでの話を整理するなどし、結局問題が山積みでしかないという結論に至って溜め息を付く。
各方面が努力して乗り越えていくしかない難局ではあるが、努力というものをしたくない俺達にとっては、実に頭が痛いというか何というかだ。
もっとこう、ガーッとやってパーッと終わってしまうような、そんな夢の大作戦が立案されれば……などとは考えてみるも、具体的な案がひとつも出てこないまま、馬車は屋敷の前に到着してしまった。
どうせ考えても無駄であろうな、いつもは突拍子もないものであっても、それなりに考えを出してくれる精霊様が、半分寝たような感じで黙ってしまっているのがその証拠。
で、結局最後は馬車の中で寝てしまい、大人なのに起きようとしないセラを抱えて屋敷へ帰還すると、既に夕食の準備がほぼほぼ整った状況であったため、仲間達に顛末を話しつつそれを頂く。
そこでも良い案は出なかったため、食後にもう一度あの魔界の神に接続してみようということになり、片付けが終わるとすぐにそのようにしたのであった……
『あーっ、あーっ、もしもし? またお前かよ鬱陶しいな、こっちは今忙しいんだから後にしてくれよな、じゃあなっ』
「ちょっと待てコラ、先に質問した分の返答と、可能であればもうひとつ質問に答えてからにしやがれ、まずグレート超合金の加工の方はどうなった?」
『その話か、それならもう我の中でとっくに解決済みだぞ、やはり漫画で体系的に理解することが出来たのと、我の能力の高さがそうさせたのであろうが、あっという間に答えが見つかったのだ』
「……1兆度の熱は使わない方法だよな?」
『もちろんだ、まずは魔界にしかないとんでもない硬さの、確か硬度は5,000だったか、ダイヤモンドをまるで生クリームのように削ってしまうと言われる大変希少な鉱石の、もちろんそれの形を変えるのは困難だからな、良い感じの形状のものを用意して……』
「用意しろよな、出来たらそれを送れ」
『そちらの貨幣価値にして金貨10億枚になります、ひとつな、どうだ払えまいっ、フハハハハーッ!』
「ざっけんじゃねぇよ、物体を回収したかったら無償で提供……いや、こっちの情報と交換しないか? 物体をこの世界に呼び寄せた犯人、捜していたんだろう? それを俺達は知っている」
『マジか? じゃあその情報と、こちらにある加工のための鉱石片を……ひとまず300個あるから、それと交換ということで』
「わかった、じゃあその話は直接会って、慎重に協議して決めることとしよう、それで、建物の移動に関してなんだが……」
きっと真っ暗でだだっ広い魔界のどこかに住んでいるのであろうこの神には、狭苦しい人口密集地体である王都の事情などわからないであろう。
人間や家々が多くある、隙間など通りぐらいしか存在しないこの王都において、一体どうやって比較的大きな建物を移動するのかについて、ここでコイツに聞くのは間違いである気がしてきた。
だが他に探るアテもないのだから、ひとまずはコイツに質問するというかたちで情報収集をしていくのがベストの選択肢か。
まぁ、もしかしたら解答には至らないまでも、ヒントとなり得る何かを提示してくれるかも知れないし。
ということでしばらく、何やら考え込んでいる様子の魔界の神からの返答を待つ。
どうやら王都のマップをオンラインか何かで仕入れ、それを確認して状況把握をしているらしい。
なお、その間に念のため、こちらから一方的に『上空を移動させるのはキツい』という話を付け加えておくことも忘れはしなかった……
『……ふむ、なかなか面倒臭せぇ状況だな、まずここを軽く爆破して、衝撃波でここまで更地になるから』
「おいおい、破壊行為は一切ナシで頼むからな、何も壊すな、そして何も殺すな、わかったか?」
『え? じゃあ無理じゃん、迷路とかならまだわからんでもないが、この狭さじゃ物理的に何かを通すことなど不可能、まずは区画整理をしてから作戦を開始すべきであったな』
「それじゃあ時間がねぇんだよ、何かこう、もっと良い方法はないのか? 破壊と殺戮さえしなければ、ちょっとぐらい違法なアレでも構わないからさ」
『ふむ……そういうことなら簡単だ、そうだそうだ、亜空間を創って、それを様々な場所に接続させてしまえばそれで良いではないか』
「普通にアウトだろ……というか可能なのか? 俺達にはそのような違法行為、物理的に可能であったとしても出来はしないが、どうなんだ?」
『亜空間だろう? ちょっと待てよ……ほれ、もう完成したぞ、我にとってはこの程度のこと、夕食の準備をするよりも遥かに簡単なことだからな』
「……そんないすぐに出来るのか亜空間って」
『我の実力の賜物だ、ほれ、今亜空間と現実世界を行き来するための鍵をそちらに送ったゆえ、受け取ってそこら中に扉を設置すると良い』
そう魔界の神が言い放った直後、天井付近に出現した比較的大きな鍵が、ストンッと落ちてボーっとしていたカレンの頭に直撃した。
怒ってそれを破壊しようとするカレンをどうにか宥め、手にした鍵は一度精霊様に管理を任せる。
確実に神界のルールを蹴破る行為だが、まぁ女神の奴に報告してしまえば、後でどうにかしてくれることであろう。
ということで建物の移動に関しては……これが上手く使えるかわからないが、とにかく明日やってみようということで解決したのであった……
※※※
「……てことなんだよ女神、何か知らない魔界の神がさ、勝手に亜空間とか創っちゃってさ、どう思うよ実際?」
「あ、え~っと、私は常に地上を見守っていて……ちょっと1ヶ月程度温泉旅行には行っていましたが、空白の時間はその……結局何が起こっているんですか地上で?」
「使えねぇ奴だなホントに、かくかくしかじかで……あとはもう自分で調べろ、とにかくお前が目を逸らしている間に、この世界はもう何度目かわからない崩壊の危機に瀕しているんだ」
「わかりました……と、変質者タイプの物体というのはあの低い城壁にへばり付いたアレのことでしょうか?」
「あっ、また侵入を……とにかく、このことについてお前も少しは協力しろ、俺達はその違法な神が違法に作成した亜空間を上手く使ってだな……」
念のため先に事情を伝えておこうと呼び出した女神は、やはり遊び歩いていてこちらの様子をかんししていなかったらしいということがわかった。
どこから見ていなかったのか、正確にはわからないのであるが、とにかく現状を理解していないということだけはもう確定である。
一応事件の概要については伝えておくが、どう考えてもあの魔界の神の方がコイツより優秀であるため、しばらくは余計なことをさせず、邪魔にならないようにして貰うスタンスで物事を進めていくべきかも知れない。
ということで女神には報告をしただけに留め……良く見たらポケットに旅行のパンフレットが丸めて収めてあるではないか、コイツ、またどこかへ遊びに行くつもりだな……
「ということで私は『仕事のために』神界へ戻ります、また何かあったら……そうですね、今週は忙しいので来週辺りにご連絡下さい、わかりましたね? 今週は忙しいので」
「わかったわかった、とっとと帰れやこの役立たずがっ、ボケッ、カスッ!」
「は~いっ、ではでは~っ」
罵倒されたというのに、そのようなことを気にも留めない様子で神界へと戻って行く女神。
正直今回の件においては、もうコイツを使うタイミングがなくなり、次に会うのは事後報告の際となりそうだ。
そしてこの後は一度亜空間の実験をし、夕方に戻って来たら魔界の神と面談、そこでブツと、それから魔王が犯人であるという情報を交換するかどうかについて、お互いに話し合って検討する次第である。
ということでまずは亜空間を使うべく、本日移動させる予定となっていたひとつの建物を目指して……と、別に亜空間を移動すれば良いのだが、危険かも知れないので先にその安全性の確認を、どうなってもまた沸いてくるようなモブを使ってしてしまおうといったところだ。
ゆえに馬車を使って普通に移動し、昨日の作戦と同じメンバーで向かった先には、既にババァを始めとした王宮側の連中が来ていて、昨日と同じセットを準備している様子であった……
「おっす、申し訳ないが今日それの出番などないと思うぞ、ちょっと良いモノをゲットしてな、精霊様、適当に鍵でその辺を開けてくれ」
「そうね、じゃあなるべく建物の近くに……ここで良いかしら?」
「……なんとっ!? 何なのじゃその……亜空間への扉なのか?」
「その通り、しかもこんなにでっかいのが出るとは思わなかったぜ、これで向こう側にも同じものを開けば、建物の移動などあっという間に完了するんだ、ひとまず実験が必要だがな」
精霊様が鍵を使うと、何もなかったはずの空間に巨大な黒いゲートが出現した……と、あの魔界の神が引き篭もっていた場所と同じような感じなのか、それならば比較的安全性は担保されていそうだ。
だが念のため、兵士のうちの数人に対し、その中へ入ってみるようにと指示して先に行かせる。
中は真っ暗な空間であるようで、その連中が戻ってそう語ったので、きっと大丈夫そうだと判断して俺と精霊様も入った。
その空間内で、目的地を意識しつつもう一度鍵を使った精霊様、真っ暗なのは変わらないが、そこを手で押すと明るい光が差し込み、なんとまさに目的地、今から建物を設置する区画がそこに広がっていたのである。
早速建物を基礎ごと抜き去り、亜空間を経由してその場所にドシンッと置いて……これで完了とは一体どういうことだ。
昨日の苦労が嘘であったかのように、本当にあっという間の出来事であったな……
「何じゃか知らんが、ヤバいモノをどこかから仕入れているようじゃの、それは本当にやって良いこのなのか、心配で仕方ないのじゃが?」
「大丈夫だ、昨日女神にも伝えておいたから、ほら、次に移動すんぞ」
「女神様に……本当かどうかはてさて……」
疑うババァであるが、確かに昨日の段階で女神には『変な魔界の神が勝手に創った亜空間を使用する』という旨の発言を聞かせている。
おそらくまともに聞いてはいなかったであろうが、それでも言って、それを否定されなかったことには変わりない。
よってこの亜空間を使って、今日中に全部の建物を移動するという大規模プロジェクトを済ませてしまうこととしよう。
ここからは亜空間を使って移動、移動した先で建物を回収し、それを別で作ったゲートに放り込むという、パワーさえあればサルでも出来てしまいそうな簡単な作業となる。
次から次へと建物を移動させ、ほぼ何もなかった更地の空間には、まるで新興の住宅街が完成しつつあるかのように、連続で大型の居宅、その他の建物が運び込まれた。
もうこれは完全に町だな、物体との戦いが終わった後には、ここを分譲するかたちで売りに出すことによって、そこそこの利益を確保することが出来るであろう……まぁ、俺達がではなく国が、ということにはなるのだが……
「さてと、次でラストの建物ね、場所はここで……合ってたみたい、ほら、サッサと運ぶわよ」
「へいへい、せぇ~のぉっ!」
最後の建物をサラッと持ち上げ、既に開いていたゲートを用いて任意の場所へと移動させ、これで『町らしきものを作る』という大規模なプロジェクトが完了したのである。
施工開始から僅か2日、作戦を考える時間も含めてそれなのだから、スピード感を持った対応が出来たと評価しても良い結果であろう。
あとはグレート超合金でプレートを作って、それを建物の下に重ねるようにして敷き詰めて、片kネイ合体時には外壁を覆うようにするための作業なのだが……これも本来は時間がかかりそうなところ。
だが俺達にはあの魔界の神が付いているのだから問題はない、昨日話をしたとんでもない硬度の鉱石の、ナイフのようになった良い感じのものを仕入さえすれば、それを使ってグレート超合金の塊からプレートを削り出すことが可能なのだ。
そして余ったカスなどは、もったいないのでゴンザレスに頼んで1兆度の温度で加工させ、そのままプレートにしたり、もう一度塊に戻して再使用すれば良い。
あとはその道具をゲットするための交渉が上手くいくかどうかについてなのだが、それはこれから屋敷に帰って、ジックリと時間を掛けて交渉していくことが決まっている。
万が一にも決裂することのないよう、犯人情報以外の何か有益な情報を提示する準備をしておいたり、或いは物体との戦いにおいて、何かこちらに譲歩出来ることがないかなど、色々と考えておいた方が良いかも知れないな。
だがまぁ、その話をいきなり出していくのではなく、まずは当初の予定通りの提供情報でどうにかならないかと試してみるところから始めなくてはならないであろう。
全ての作業が本当に終わっていることを確認した後、一番小さな建物を用いてプレートのサイズ感などをテストし始めたゴンザレスに挨拶だけして、俺達は亜空間を用い、交渉のテーブルに着くために屋敷へと戻ったのであった……




