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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1054 空中移動

「ふむふむ、これだけの建物を全て、この座標の場所……工場用地だったのが半分空き地になっていますね……とにかくここへえい行移転すると……なるほどなるほど」


「……おいババァ、誰だこの知らないおっさんは?」


「この者はアレじゃ、王都中央法務局の登記官じゃよ、おぬしに任せると法律上色々と問題を起こしそうなのでな、専門官を呼んで来た次第じゃ」


「なるほど、建物の移動に関してはこの役人のおっさんを頼れば良いということか……で、ブラウン師はどうしたんだ?」


「あの者は貸し与えられた部屋で考え事をしているようじゃの、どうやってあの金属を加工し、変形合体ロボの外面プレートにするのかがわからぬようでの」


「そうか……あ、それならちょっと俺にツテがあってな、ブラウン師よりもっと詳しい奴が居るんだ、ここへは呼べないが、ちょっと帰って聞いて来てやる」


「うむ、何じゃか知らんが頼んだぞ」



 あの魔界の神について何か言われたらどう誤魔化そうか、などと考えていたのは杞憂に終わり、特に問題なくその俺達しか知らない者から情報の共有を受けておくということで話がまとまる。


 王宮の方では次のミッションは確保した建物の移動ということになっているのか、それはそれで問題ではあるが、まぁ筋肉団辺りが上手くやってくれることであろう。


 何よりも、建物自体が自分で移動することが可能であるとか、その次元まで到達しなくてはならないのが今回の変形合体ロボ作戦なのだ。


 移動ぐらいで躓いていたら、それはもう物体との戦いに勝利する可能性が皆無な、滅びた方が良い無能ばかりの世界出るという証明になってしまうのだから。


 ということで俺は、一旦話をまとめようということで来ていた王宮を後にし、魔界の神とコンタクトを取るべく屋敷へと戻った。


 そしてどういうわけか連絡チャネルの管理を委託されたエリナを探し出し、質問をしたいゆえすぐに奴に繋げるか、呼び寄せるようにと要請する……どうやらまた電話のような機能で話をするようだな……



「……もしもし? おい、繋がっているのか? もし聞こえているなら返事をしろ」


『もっしも~っし……てまたお前かよ、我にはサルの鳴き声を聞く趣味はないのだが?』


「うっせぇなこの愚かな神が、そんなんだから魔界堕ちすんだよ実際」


『残念! 我は最初から魔界出身でな、もう魔界のエースとも呼ばれて……はいないのだがな、で、今回は何の用だ? くだらない話なら死ね、さもないとブチ殺すぞ』


「あぁ、ちょっとグレート超合金の加工についてなんだが、見たところかなり硬度が高いようだが、何を使ってどうやるんだよアレ?」


『はぁ~っ? そんなもん1兆度の熱でアッツアツにして、柔らかくなったところを手で捏ね繰り回せば良いじゃねぇか、火傷に注意しつつな』


「いや火傷どころか一瞬で蒸発するわそんなもん、やるのは普通の人族なんだぞ、神の基準で物事を語るんじゃない」


『……もしかして人族というのはその程度のことも出来ないような存在なのか?』


「当たり前だろう、100度の熱だって場合によっては死ぬからな」


『なんと脆弱なっ!? いや待て、そんなひ弱な生物が世界に存在して良いはずがない、ちょっと試しにそこ、お前等が今居る地上の町に火球落としてみて良い? 1億度ぐらいの、町全体を飲み込むぐらいのやつ』


「ダメに決まってんだろぉぉぉっ! とにかくだっ、そんな脆弱で矮小な人族にも可能な方法を、その中でもグレート超合金を任意の形にするうえで最も簡単な方法を提示しろっ、わかったな?」


『う~む、仕方ないな、少し魔界の文献で調べてみることとしよう、確か「漫画でわかる!」とかそういう系の書籍がどこかにあったはずだ』


「いやもっと専門書的なので調べてくれよな……」



 こんな奴に任せていて本当に大丈夫なのかと思ってしまうほどにいい加減な神なのであるが、他に頼るべき有識者がいないため我慢せざるを得ないといったところ。


 そもそも、神界から分離してこの世界に付属しているという魔界の神である以上、少なくとも俺などよりこの世界の状況や、住んでいる生物について詳しい必要があるとも思う。


 まぁ、俺がその辺をブンブンと飛び回るような虫けらについてどうでも良いように、絶大な力を誇る神にとっては、地上を這い回るわけのわからない生物である人族のことなどどうでも良いということなのであろうが。


 で、グレート超合金の加工方法についてはその神と、それから王宮のどこかでせっせと研究を進めているというブラウン師に任せておくこととしよう。


 時空を歪めるコーティングについては研究所の、あのだらしない女性新室長がどうにかしてくれるはずだし、当面の期間の侵入する物体への対処もそちら任せだ。


 そうなると俺達がするべきは、やはり王宮の方で話が進んでいる建物の移動の件についてなのだが……それも中心となるのはあの登記官だというおっさんか。


 つまりやることがなくなり、あとは実際に変形合体ロボが仕上がって始動するまで待つ感じになってしまうのだが、それでは暇だし、そうなってくると物体狩りの方に動員されそうな予感がしてならない。


 あの変質者タイプの物体はまだそのまま侵入を続けているであろうし、さらに進化してとんでもないことになっている可能性さえあるから、可能であればそれとバッティングするような状況には陥りたくないのだ。


 ではどうするべきか、やはり皆で建物の移動を手伝うべきところだな……もう一度王宮へ戻って、今しがた魔界の神……といってもその存在については秘匿するべきだが、とにかく有識者に金属加工についての調査を依頼した旨の報告と併せて、何か出来ることがないかと聞いてみることとしよう……



「……ということだ、面倒なことにならないためにも、俺達は比較的セーフティーで余計な仕事の発生がないと思料するミッションに参加すべきだと思う」


「そうね、建物の移動ぐらいなら持ち上げて空を運べば良いわけだし、比較的楽よねきっと」


「いや、空からいけるのは精霊様だけだと思うぜ、リリィにぶら下げさせるのはかわいそうだからな」


「とはいえ私達には他に出来ることがありませんね、勇者様、今からもう一度王宮へ行きましょう」


「そういうことになる、じゃあ馬車を準備して……と、ゴンザレスが来たからちょっとタンマだ」



 出掛けようと立ち上がった瞬間、凄まじい衝撃波とともにやって来たゴンザレス、クソ暑いというのに音速を超える勢いで走って……いや、普通に徒歩だが急ぎがちであっただけのようだ。


 走るならともかく徒歩で音速を超えるというのはいかがなものかと思ってしまうところであるが、この男は別に人間であるというわけではないため、特に不思議なことでも何でもない。


 で、そんな感じでやって来たゴンザレスが言うには、グレート超合金の比較的簡単で効率的な加工方法が見つかったとのこと。


 早速話を聞いてみて、人間にも可能であるようならすぐに実践すべきところだと、これに関しても王宮に伝えることとしよう……



「で、どんな感じで加工するんだ? 本当に簡単なのか?」


「おうっ、至極簡単な方法を見つけたのでな、まずあのグレート超合金というのを1兆度の熱で柔らかくして、それから素手で捏ね繰り回すのだ、まるで粘度のように自由自在だぞ」


「いやだからそれ……」


「今ここで実際にやってみることも可能だが、どうする?」


「いや屋敷が全焼するから、もっと広い所でやって欲しいと思うぜ、もちろん1人でな」


「そうか、ではこの方法で、少しばかり建物に貼り付けるためのプレートを作成しておこう、ではっ」


「王都内でやるなよ~っ」



 帰って行くゴンザレス、少しばかり嫌な予感はしていたのだが、あのアホな魔界の神が推奨したのと全く同じ方法を提示してくるとは思わなかった。


 しかしまぁ、それが出来るというのであればやって頂くのが賢い選択だとは思う……もちろん他者の迷惑になったり、大惨事になるような場所で実行するのはぜひ避けて頂きたいところではあるが。


 で、その話についてはまた今度、ゴンザレスがサンプルとして外壁プレートを作成してからするとして、当初の計画通り、俺とマリエル、それから精霊様の3人で王宮へ向かうこととする。


 いつもならセラが来るところなのだが、今回に関しては特に話をすることもなく、単に報告と、それから俺達が建物の移動に参加する旨の表明に行くだけであるため、行かなくても問題はないと判断して……屋敷でゴロゴロしているつもりらしい。


 帰って来てまだそんな態度で休んでいたのであれば、とっ捕まえてくすぐり倒してやろうと決めつつ、向かい絵に来た馬車に乗って王宮へと向かったのであった……



 ※※※



「……ということです総務大臣よ、私達は他のことをするのが面倒だと思って、建物の移動ですか? それのお手伝いをするフリでもしてやった感を出そうかと思います」


「王女殿下はそこの勇者と違って正直でストレートであらせられるな、適当に言い訳をして、あわよくば楽な方へ走ろうとするどこかの異世界人と違って……」


「うるせぇなクソババァ、マリエルが馬鹿なだけなんだよ、余計なことばかり言うと磨り潰してグレート超合金に練り込むぞ、人柱としてな」


「なんと恐ろしいことを……で、建物の移動に関する計画なのじゃがな、先程専門の業者に依頼して、速攻で建物の配置図を作成させたのじゃ」


「ほほう、どれどれ……完全に高級団地だな、庭が全然ないのが気掛かりだが、そこはまぁ狭いので仕方ないだろうよ」


「うむ、そしてこの位置であれば、間違いなく変形合体ロボをビルドアップする際にも効率が良いと、ブラウン師にお墨付きを貰ったものじゃ、よってこの案でいこうということが決まっておる」


「なるほど、じゃあこの通りに建物を配置して……基礎ごと引っこ抜いて来て埋め込むのか?」


「それなんじゃが、どうやらグレート超合金を基礎部分にして、変形合体時にはそれが複数舞のプレートに分かれて、せり上がって来て壁などを覆うとのことなんじゃが……正直なところ意味がわからなくての」


「すまんが俺にも意味不明だ、とにかく建物だけ移動させて、そのグレート超合金の基礎? については後から工事する感じでいこう」



 何やら特殊な工事が必要になるらしいが、それがどのようにして行われ、最終的にどんな感じのものが完成するのかなど、全くと言って良いほどにわからないのが現状。


 それにそのグレート超合金の基礎とやらを用いるという話自体、まだ研究の途上にあるのだから、そこから少し修正をする、この世界において利用し易いかたちに変更するなど、まだまだやるべきことが確定でないというのもまた事実である。


 ということで先に出来るだけのことをしておくべきであり、まずはサンプルとして、最初の頃に獲得した比較的小さな建物を、実際に現在地から運び出して任意の座標に移転させることとしよう。


 すぐに例の登記官が呼び出され、その者とババァと、無駄に付いて来ておそらく邪魔しかしないであろう駄王も含めて、また、少しばかりの作業員も引き連れた状態で現地へと向かった。


 選択した建物は変形合体ロボの両肩部分になるべき、そのジョイントを担うための建物であり、平屋建てのアパートに斜めの屋根が付いたような、細長い古民家のような形をしているもの。


 これを真ん中で分棟することが可能な状態に改造して、さらにはかなり高い部分にまで飛び上がり、変形合体ロボのボディーにセットすることも可能なようにしなくてはならないものでもある……



「さてと、これなんだが……やっぱり基礎を引っこ抜いて運ばないとならないのかな? 上だけ取って運んで、新しい場所に置いておくってのはどうだ?」


「それはダメですね、土地に定着していないものは法律上建物として認められませんから、ここは少し大変だと思いますが、基礎ごと引き抜いて運搬して下さい」


「なるほどな……で、この広大な敷地が完全な更地になると……それはそれでもったいないような気もするな」


「勇者よ、この敷地についてはじゃな、変形合体ロボが実際に戦ううえでの足場となり得るものなのじゃ、というか、そんなデカいのが好き放題歩き回ったら大変じゃからな、何かありがちなゲームみたいに指定された場所にしか手足を突いてはならぬルールになるであろうぞ」


「面倒臭せぇな、せっかくのロボなのに自由度が低すぎるぜ」



 言われてみれば確かにそうである気がしなくもない、そもそも超巨大ロボが、こんな人口密集地体で戦うということ自体どうかしているのだ。


 普通に踏み潰されて粉々になる家があり、飛び散った破片でミンチになる人間が居る、それが市街地ロボットバトルによる、通常は描写されていないような実際の被害なのである。


 で、それを避けるため、これから建物を移転することによって更地となる場所を、その変形合体ロボの着地場所として指定するということなのだが……かなり操作に慣れていないと失敗するであろうな。


 完成後は、一度王都の外で練習をして、感覚を掴んでから本来のミッションである物体との戦いに臨むべきなのだが、果たしてそんなことをしているほどに時間的余裕があるのかどうかということについては、まだ何とも言えないような状況だ。


 ということで、本題に戻ってこの建物をどうやって移動させるかなのだが……足が生えるような魔法を使うわけにもいかないし、そもそも建物を丸ごと運ぶなど、目立ってしまううえに邪魔である。


 場所によっては通ることが出来ないようなことも生じ得るし、そうなってしまえばもう、公共の利益を優先してその詰まってしまう箇所にある何かを破壊しなくてはならない……きっと苦情が殺到するであろうな……



「……精霊様、やっぱ上空を運ぶってのが一番手っ取り早いぞ、途中で落としたりして大惨事になる可能性がないのであればの話だがな」


「う~ん、1人で支えると途中でポッキリ折れそうなのよね、そしたら絶対に落ちるわけだし……そもそもあんたが空も飛ぶことが出来ない無能なのが悪いのよね、勇者なら飛ぶでしょ普通」


「普通は飛ばないぞ、てかそうだなぁ、可能であれば4点で支えて運搬したいところだが……そうだ、セラの風魔法で全体を浮かせつつ角の4点に熱気球を設置して、真ん中を精霊様が支えて移動しよう、そこまですれば移動は簡単なはずだ」


「やりすぎてそのまま飛んで行かなければ、の話だけどね」


「とにかく必要な人員を呼び集めましょう、話はそれからです」


「だな、セラとユリナは確定として熱気球は連れて来た作業員に任せれば良い……そのぐらいだな、すぐに集めて作戦を実行しよう」



 ということで必要な人員が集められ、屋敷でグダグダしていたセラはあえなくお仕事となってしまったのである。


 俺と精霊様が土台を引っこ抜くような感じで地面から持ち上げたその建物の下に、まずはセラが風魔法を差し込んで地面と完全に分離させる。


 直後にはユリナが、その四隅に設置された熱気球の火種に魔法で火を灯し、その無駄にカラフルなバルーンがフワフワと浮き上がるのを確認した。


 上へ移動する精霊様、特に問題がなさそうであることを確認した後に、屋根の真ん中にセットされた極太のワイヤーの端を持って浮かび上がる……



「……うむ、しっかり浮いたようだな、なかなか上手くいきそうじゃないか」


「これ、私は魔法を使ったまま歩いて移動しなくちゃならないのよね、ちょっと大変よ」


「かもな、それなら少しやり方を考えるとして……ひとまず今回はこのまま移動してやってくれ、後でかき氷買ってやるから」


「それならば少しは頑張るわ」



 簡単に買収することが出来たセラは良いとしても、確かにこのまま全ての建物を王都南のあのスペースに移動するのは骨が折れるし、精霊様からは莫大な費用を請求されそうだ。


 それゆえ少しやり方を考え、効率良くかつ楽に運搬する方法を探し当てなくてはならないのだが……さすがに一度建物を分解して、それを現地で組み直すわけにもいかないよな。


 そうなるともう別の建物になるわけだし、登記官のおっさんが付いて回っている以上、余計なことをすればすぐに『法律上の~』が始まって、余計に面倒なことになってしまうのは確実であろう。


 それを避けるためにも、建物をそのままの形状で、安全かつ確実に目的地まで運搬する技術を開発しなくてはならないところ。


 これもグレート超合金の力でどうにかならないものかと、頭を悩ませつつ、特に運搬作業を手伝うわけでもなく、そしてセラのように歩くわけでもなく、普通に馬車で目的地を目指した。


 到着したその広い場所では、ゴンザレスが何やら作業を……グレート超合金のプレートを作っているのか、この暑い夏の盛りに、さらに1兆度の熱を加えて何とやらであるため、その作業半径ではこの世のものとは思えない、とても生物が生息することが可能な状態でない感じになってしまっているではないか。


 仕方ないので馬車から降りた俺が防御しながら接近し、一旦作業を中断してくれと要請して事なきを得る。

 地面が若干蒸発してしまったようだが、これは埋め戻せばどうにかなるであろうし、ゴンザレスにどうにかさせよう。


 しばらくして余熱がなくなり、本来の夏の暑さに戻ったその場所に建物を空から搬入し、指定の場所に基礎ごとドシンッと置いてしまう。


 これで第一の運搬が完了したわけだが、この後さらにやるべきこととして、グレート超合金製の基礎に差し替える、またはその方法自体を変更して、変形合体時にどうにか外壁をグレート超合金で被覆することが出来るようにしなくてはならない。


 それを必要な建物の個数分、全てについてやってのけなければならないのだが……これはかなりの人員と投資がひつようとなりそうな予感だ……

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