1053 収集完了
「オラァァァッ! お前の有する権利全部寄越せやぁぁぁっ!」
「ギョェェェェッ! かっ、金ならいくらでもやるっ、ほら、投資勧誘詐欺を中心に多種多様な詐欺行為で搔き集めて、しかもモロに脱税しているから物凄い金額が……」
「それなら死刑じゃオラァァァッ!」
「ギャァァァッ!」
「はい完了っと、今回もとんでもねぇ悪党だったな、詐欺グループをいくつも持っているみたいだぞ」
「ご主人様、特殊詐欺の出し子とか受け子とかのリストがありましたの」
「そうか、それがそのまま処刑リストになるわけだから、後で憲兵の所に届けて礼金を貰おう」
「いつも『ご協力ありがとうございました』の紙切れしかくれませんわよあの人達……」
「ケチ臭っせぇ連中だな、金一封ぐらい寄越せってんだよ全く」
変形合体ロボの構成材料となる建物を確保すると同時に、犯罪捜査とその犯人の処分まで行っている俺達。
だが国の方からは礼などひと言もなく、ただただ早く不動産集めを終え、ブツの製造に入れと言われるのみ。
ちなみにあの『世界のケツ穴』と呼ばれているらしい穴に住んでいたブラウン師は、グレート超合金および変形合体ロボについての有識者として認められ、王宮に招聘されているとのことだ。
あんな薄汚い、どう考えてもウ○コでしかない野朗を王宮入りさせるとは、この国のトップ連中はもう瘴気ではないと疑わざるを得ないな。
もちろん事前に洗って綺麗にしたのであろうが、前世から染み付いた臭いというモノがそう簡単に落ちるとは思えない。
まぁ、酒臭い馬鹿が国王であることを考えれば、臭い同士仲良くやっているのではないかという想像をすることも可能ではあるのだが……
「で、次はどこへ行くの勇者様? これで変形合体ロボの両手両足、それにボディー上部が揃ったわよ、あとは……」
「ボディー下部だな、もうモロに弱点となり得る場所だし、ベースからなるべく頑丈な建物を選択しておきたいところだ、もちろんあの部分も最強にしないとだし」
「主殿、そこはグレート超合金を厚めに盛っておけば良いのではないか? 少しモッコリするぐらいが自然であろう」
「自然かも知れないが恥ずかしいわそんなもん、普通に強い素材で出来ていればそれで良い、そもそも物体がそこを弱点として狙うようなことが……」
「あると思いますわよ、あの変質者タイプの新種、明らかにその部分を弱点として認識している感じだったはずですわ」
「……確かにそうだな……やっぱジェシカの言う通り、モッコリさせて対応するということも考えておこう、それと、やはり強固な建物をベースにするんだ、股関節部分でもあるわけだからな」
「わかりました、それを踏まえると……悪徳経営者が支配しているというこの工場みたいなのはどうでしょう? かなり広い敷地なんで、倉庫とかを破壊すれば変形合体ロボのベース基地とか、製造の際に色々する場所になりそうですよ」
「ほうほう、じゃあちょっとその場所へ行ってみようか、王都の……南の外れにあるわけだな」
時間はまだ早いため、特に問題なく現地に到着し、仕事を終えて夕食までに帰還することが出来るであろう。
チャーターした国の馬車に乗って、そして時折見つかる城壁を這う物体にも対応しつつ、思っていたよりもかなり長い時間を掛けて王都の南端へと移動する。
普段はあまり来ることがない場所だが、こちら側は物体の被害も少なく、また比較的大きい、工場や流通倉庫のような建物が多いようだ。
そのお陰で働く場所に困る者が出辛いのか、ちょちょっと覗いた路地裏は比較的綺麗で、そういう系の連中もあまり隠れてはいない様子。
あまり面白くはないな、せっかくならチンピラの1匹や2匹、『経験値』に変えておきたいところであったが……と、それはこれから向かう工場だという建物の、悪徳経営者とやらをそうすることで補完してしまうこととしよう……
「え~っと、そこそこデカい工場が多いみたいだな、アレは……缶詰工場か、凄い手際のおばちゃんが見えているぞ」
「ご主人様、缶詰って煮ちゃうんですか? 何かそうしているみたいですけど」
「その方が長持ちするようになるからな、熱で中に入り込んだやべぇ奴等をブチ殺すんだ」
「ほぉ~っ、じゃあ今度から最初に煮て、それから食べます」
「カレン、煮るのは工場で一度だけ良いんだ、まぁ温かい方が美味いかも知れないがな……と、あそこは目的の場所じゃないな、建物の形が違うし、そもそも中の従業員が普通に休憩とかしているからな」
「悪徳ブラック工場であれば休憩の時間もないし、退勤とか出勤とかもなく、死ぬまで働き詰めになるはずですからね、そうなると……あの上空に黒い雲と稲光が見えるの、そうじゃないですか?」
「……だろうな、露骨すぎるような気もするが」
缶詰工場以外にも、周囲には駆け出し冒険者などが使う安価な装備品を大量生産するための工場や、魔法使いが集まって魔法薬の原料を作る工場などが点在していた。
その中でひときわ目立つ、かなり遠くにあるもののすぐにわかってしまうような、暗黒のオーラを放っているひとつの工場が……かなりデカいようだな、ひとまず行ってみることとしよう。
ということでその場所へ近付くと、まず見えたのは真っ黒な、それこそ時空を歪めるコーティングでもしたのではないかと思えるような高い塀。
上部にはこれまた真っ黒な有刺鉄線が張り巡らされ、どう考えても外からの侵入ではなく、中からの脱走に備えている感じだ。
その塀の向こうに見える真っ黒な四角い建物からは、まるで地獄の責め苦を味わっているかのような、そんな者が出すような悲鳴が聞こえてきているではないか。
これはただ事ではないな、そして地図の表示から何から、どう考えてもこの場所が目的としている悪徳経営者の所有する工場だ……
「ご主人様、向こうに正門がありますよ、隣に……株式会社暗闇のダークブラックって書いてあります」
「ヤバすぎるだろうそんなもん、誰がこんな場所で働こうと思うんだろうな……」
「えっと、資料によるとですね、工場の従業員は全て誘拐などによって集められた方々で、主にやべぇクスリなどを作る作業に従事させられているそうです……完全無給で」
「まぁ、色々ヤバいどころか犯罪の臭いしかしないってとこだな、とりあえず正門だと守衛が……とっくに死んで白骨化してんじゃねぇかっ!」
「この守衛所、中にこの人を入れてから壁を作っていますね、出入口がありませんし、閉じ込められたということでしょう」
「とんでもねぇな、そして門の向こうに積まれているあの廃棄されたマネキンのようなものは……人間の死体だろうな、この工場で扱き使われて死んだ、或いは普通に殺された人間のな……」
こんな場所が存在していて良いのか、ここは王都であって、この一帯の管理を任されている役人は何をしているのか、行政指導どころの騒ぎではない凶悪犯罪が、今まさに目の前で行われているというのに。
まぁ、役人は役人だから気付かない振りをしていて、問題が表面化したらその瞬間に『やっている感』だけ出し始めるということではなかろうか。
だとすればその役人が動き出すためのキッカケを作るのは俺達であって、まずは建物を安全に確保した後に、しかるべき機関に通報するなどして中で囚われ、強制労働をさせられている被害者の救助を任せることとしよう。
白骨化した死体がひとつだけ入った守衛所をスルーし、敷地の中へ入った俺達は、まずメインの建物であり、これから確保する必要がある工場へとまっすぐに向かった……
「ふわぁ~っ、何か頭がクラクラするわね」
「マーサちゃん大丈夫? 凄い臭いだものねここ、あまり無理しないで良いわよ」
「カレンもダメみたいだし、あとリリィがさっきから麻痺して硬直しているぞ、すげぇ毒が撒き散らされているんだきっと」
「こんな場所にずっと居たらどうかなってしまいます、一旦下がりましょう」
「だな、特に敏感だったり耐性がなかったりする仲間は外へ出そう、メンバーを選抜してもう一度突入するんだ」
まるで毒の沼地を泳いで渡っているかのような、そんな強烈な感覚に襲われる工場の敷地内。
これは建物をゲットしたとしても、徹底的に清掃してからでなければ使うことが出来ないであろう。
まぁ、ここは変形合体ロボのあの部分に利用することが確定しているため、『その部分(後方)から毒のガスを出す攻撃』をすることが可能なものにするという場合には、そのままでも利用出来る可能性があるにはあるが。
で、一旦守衛所があった場所まで移動した俺達は、もうこういう状況では参加することが確定となっている俺と、それから少しは我慢出来るというジェシカ、毒の類を無効にする術? を、なぜか自分にだけ用いた精霊様の3人で、再び内部へと突入することとした。
またしても嗅がされるとんでもない臭い、その中で目指すのは呻き声というか助けを求める声というか、そんな地獄の叫びが発せられている方角。
しばらく歩くと工場の建物入口が見えたため、そこに嵌っていた鉄格子を一部破壊して中へ入る……と、顔が紫になった人々が、明らかにヤバい色の液体を素手で攪拌しているではないか。
その動いている人々の周囲には、既に死亡し、動かなくなった人々が倒れており、時折やってくる専用の係がその死体を運搬して……その係員も倒れて死体になることが多いようだ。
そんな様子を眺めていると、裏口があると思しき方向から何やら馬車のような……いや人力車だ、どう考えても人間が引っ張って良いサイズでない荷馬車の荷台部分を、2人だけのおっさんが死にそうな顔で引っ張っているのが見えた。
どうやら工場の建物に向かっているようだが、そこへ1人の人物が接近し、釘バットでその引っ張っているおっさんを殴り殺して人力車を止めた……
「オラァァァッ! モタモタしてっと日が暮れてしまうぞぉぉぉっ! とっとと『従業員』を運ばんかぁぁぁっ!」
『おいっ、どういうことだっ、ここから出せっ!』
『そうだっ、就職の面接を受けに行ったらいきなり捕まって、どうなるんだ一体?』
『狭いっ、暗いっ、暑いぃぃぃっ!』
「うっせぇぞボケ、この俺様が儲かるためにお前等は死ねっ! もう良いから全員降りて、徒歩で違法な薬物の製造工場へ向かうんだっ、ほら早くしろっ!」
「クッ、やっと出られた……おいお前! こんなことして良いと思ってんのか? 捕まるぞ普通にっ!」
「俺様が捕まるわけなどなかろう、なぜならば俺様とこのエリアを管理している役所の人間のほとんどが、金で繋がったマブダチなんだからな、ハーッハッハッ! ほら早く行けっ! 臭っせぇから工場には近付きたくねぇんだよっ!」
早速登場したあの男が悪い奴であったのか、かなりムカつく顔面をしていて、いかにも金にモノを言わせてどうのこうのといった感じの奴だ。
早速武器を準備し、そのおっさんと新たに誘拐されて来た犠牲者の所へと向かう。
すぐにブチ殺しても構わないが、ここは一応役人との癒着も調査すべきだし、しばらくは生かしておくこととしよう。
特に隠れたり忍んだりすることもなく、普通にツカツカと歩いてそこへ向かっていると、どうやらこちらの存在に気が付く被害者が出たようだ。
それを見て、悪人の方もこちらを向いて……と、少しばかり首を傾げた後に、ビックリ仰天の顔に変わったと思ったら、そのまま腰を抜かし、這い蹲るようにして逃げ始めた。
どうやらこの悪人は俺や仲間の顔を知っていたようだな、こちらは全く知らないただの悪いおっさんなのだが、それでも向こうが一方的に知っているというのであれば話が早い……
「ひぃぃぃっ! どうしてこんな所に勇者パーティーがぁぁぁっ!」
「おい待てやコラ、どこへ行くってんだこの野郎、そんなに動いていたら殺すことも、痛め付けることも出来ないじゃないか」
「ひょえぇぇぇっ! やっぱり殺しに来たんだっ! 俺様は何も悪いことをしていないのにぃぃぃっ!」
「いや御仁、余裕で現行犯なのだが、あと違法なやべぇクスリの方ももう確認済みなのだが……どうするつもりだ?」
「ぜ、全部あげますから許してっ! 役人との癒着も白状するから、頼むから殺さないでくれぇぇぇっ!」
「ふ~ん、どうしたら良いのかわかっていてナイスね、じゃあまずはこの工場の中に居る連中を解放してちょうだい、掃除するのに巻き込んじゃうと申し訳ないから」
「わっ、わかりましたっ、すぐに解放しますので……おいそこっ、突っ立ってないで早くしろっ!」
「へ、へい……」
未だにこの悪人の言うことを聞く姿勢の人力車のおっさんの片割れ、なおもう片方は完全に息を引き取っている。
なかなかハードに洗脳してあるようだが、まぁ、積極的に協力したわけではなさそうだし、特に追及する意味もないであろう。
で、顔が紫になり、もうどう治療してもダメであろうとしか思えない犠牲者が、一応解放されてフラフラと、列を成して工場から出て行くのを眺める。
そのまま建物内部を観察して、毒々しい以外には特に問題点などないことを把握して……いる最中に悪人が逃げ出したようだ。
人々を解放した後、やることがなくて棒立ちしていた人力車のおっさんに話を聞くと、どうやら取り巻きと一緒に敷地内の倉庫へ逃げ込んだらしい。
どうせ中には大量のやべぇクスリが保管されていて、それを闇ルートで販売したり、悪い役人に賄賂として送ったりしていたのであろう。
早速3人でその工場内倉庫を取り囲んで、とっとと出て来るように声を掛けてやるのだが……無反応、どうにかしてやり過ごそうと息を潜めているようだな……
「ふむふむ、なるほど、さっきミラちゃんが言ったみたいに、このでっかい倉庫を退かせば変形合体ロボの製造現場になるぐらいの広さはあるわよ、消し去ってしまいましょ」
「おうっ、じゃあ一瞬で更地にしてやるからな、ちなみに中に逃げ込んだ馬鹿共はキッチリ……は無理だと思うから、どうにか生き残らせるような感じでいこうと思う」
「主殿、それはかなり難しいのではないか? 中には犯罪者だけでなく、山のような違法薬物も保管されているのであろうに」
「なぁに、数日ぐらい生きて喋れて、それから処刑されるのに耐えられるだけの状態であればそれで良いんだ、ということで勇者スラァァァッシュ!」
勇者スラッシュとは今考えた俺固有の必殺技であって、聖棒を思い切り横薙ぎにすることによって生じたソニックブームを、前方向に向かって飛ばすものである。
その性質上、遠ければ遠いほど威力が落ちるものの、その分角度が広がってどうのこうので、まぁ目の前にある違法薬物倉庫を消し去るには十分な攻撃だ。
ソニックブームは超高速で前進し、良い感じの場所に直撃してその建物全体を吹き飛ばす。
悪人が貯め込んでいた違法薬物は、この工場の付属建物である倉庫と共に滅失したのである。
で、残った更地には大量のやべぇクスリを全身に浴び、さらには破片などで血塗れになった役人と、それから数匹の取り巻き野郎らしき人物の姿。
そのままバタバタと倒れ、全部が気を失ったようだが、まぁしばらくは死なないであろうし、ルビアに治療させれば数日、どころか1週間程度は持ち堪えるであろう程度にしか毒を受けていない様子。
あとはもう少し地面を均して、ここを変形合体ロボの製造現場とする作業が必要だな。
だがとりあえずは生き残った、いや生き残らせた馬鹿共を、汚いので何かに引っ掛けて運搬し、敷地の外へ運び出す作業が必要だ。
その辺に落ちていた鳶口を手に、3人で協力してその馬鹿共を運び出し、面倒臭そうな表情のルビアを引っ叩いて喜ばせ、回復魔法を使用させる……と、どうにかなったようだな。
「さてと、ここからはアレだ、どうするかだが……とりあえずこれで建物の収集はすべて完了したのか?」
「えぇ、この簡易な設計図によると、どの部分も漏れなく確保していますよ、あとはこの工場だった建物を清掃したり、他の建物をここへ運んだりする作業ですかね」
「そうねぇ、出来ればだけど、この場所を団地みたいにして建物を集めて、その状態から全部が動き出してビルドアップする感じの変形合体ロボにしたいところね」
「難易度高いな、だがまぁ、その方が後々別個に売却したりするのに有利だ、工業地帯に団地があるのもどうかと思うが、とりあえずそれを目指して建物を移転させようぜ」
『うぇ~いっ』
ということで、これにて長かった不動産の収集は完了となった、あとはグレート超合金で外壁等を補強し、屋上で100人のOLが弁当を喰らっても大丈夫な、立派な手足付き陸屋根のビルディングに変形合体することが可能なように調整するという、とても人間には不可能な作業が残ったのみだ。
また、完成後には物体との戦いに備えるため、直ちに全面を時空を歪めるコーティングで覆う必要も出てくる。
そこまでしてようやく完成であり、ついでに言うとそこからまた、操作方法などの訓練もしなくてはならないのだ。
それゆえこれでミッションコンプリートと言うには程遠く、まだまだ変形合体ロボへの道は遠いというのが実情である。
もちろん最終の、本当に最後の工程までを、物体が東西南北の城を完成させ、それを起動させて王都に押し寄せるその時までに完了させなければならない。
この段階でそのタイミングに間に合うかどうかということを断言することはもちろん出来ないのであるが、だからといって間に合わせないわけにはいかないし、間に合わなかったらとんでもないことになるのもまた事実。
明日からも休むことなく、これからどうしていくべきなのかを考え、また王宮に招聘されているブラウン師やあの魔界の神などの意見も聞きつつ、立派な変形合体ロボを築造していくのが、これからの俺達がやるべきことである……




