1051 大量仕入
「……ということだ、このぐらいの質量がないと、物体で出来た最大クラスの、向こうからしても決戦兵器となるであろうそれを叩きのめすことなど出来ない、わかったかこの馬鹿共?」
『ぜ~んぜんわかりません』
「相変わらずカスだなお前等、もうちょっと賢くならないとこんな薄汚れた世界では生きていけないぞ」
『薄汚れた魔界の存在に言われたくありません』
「うっせぇぞコラ、それでだ、我はちょっと新しい物体回収係を募集しに戻らないとならないんだが、戻る際に可能な限りの分量のグレート超合金を調達して来ることとする、だからそれまでにその保管場所を確保しておくように、結構な量だからな、わかったか?」
『うぇ~いっ』
体良くグレート調合金の調達先を確保することが出来た俺達、いずれ敵対するであろう魔界の存在であって、あんなモノとの協力は女神への冒涜に等しいのだが、状況が状況なのでそんなことを気にしていられない。
ひとまず口ぶりがムカつくことなど、殴り掛かってやりたくなるような態度についてはグッと我慢し、ご機嫌を損ねることのなきよう、徹底して『聞く姿勢』に回る感じで当人のウザさをやり過ごす。
もっとも、あまりにもムカついたからといってコレに攻撃を仕掛けるのは良いことではない。
かなりの強さを有しているのは確認済みだし、場合によっては物体などどうでも良くなるぐらいに危険な神なのだ。
そもそもどこかの世界の高度な思念体を、バイトとして扱き使った挙句にアッサリ殺害してしまうような狂った奴だからな。
あの思念体の連中が無能であったのは確かだが、だからといってああも簡単に始末してしまうとは。
殺しても死なないような、というか肉体をいくら滅ぼしても堂にでもなるような、そんなモノを始末する能力はきっと神固有の凄いもの。
俺には到底真似出来ないし、もちろん勇者パーティーにおいて最大最強の能力を有する精霊様でさえも、そのようなことをやってのけるのはなかなか困難であろう。
おそらくこの魔界の神と戦うとしたら、その能力と真っ向から衝突する覚悟で臨まなくてはならない。
普通に負けそうだし、負けると完全に調子付かせてしまうため、余計なことをするのは避けた方が良いのだ……
「……と、どこかに転移したようね……相手をするのも疲れるわ、どうしてあんなのがこの世界に……やっぱ女神の奴に通報しておいた方が良いわね、そうしないと後々うるさそうだわ」
「えぇ、何も言わずにこのままあの神に協力したら、結果として女神様の怒りを買うことになりそうです、女神を信ずるこの国の王女としては、それはあまりよろしくないというか何というか……」
「まぁ、どっちでも良いんじゃね? あの低能な女神がこの話を聞いて何か出来るとも限らないし、どこかへ報告するにしても、その報告を受けた神界の何かが動き出す頃には全部終わっているだろうよ、物体関連の事案はな」
「というか、まず神界の方で物体に対処して欲しいところよね、あまり干渉しないってのはわかるけど、これはちょっと大変すぎるわよ、女神様、この状況を見ていて何とも思わないのかしら?」
「案外見てさえいなかったりしてな、後になって、いやむしろ俺達が言うまで気付かないかも知れないからなアイツは、『常に地上を見ている』なんて言いそうだが、言ったとしたら詐欺だぞアイツ」
「その可能性はあるわね……で、今度はあの魔界の神様の方の話だけど、場所をキープしておけって、どのぐらい確保すれば良いのかしら?」
「こーんなに沢山だと思いますよ、だってお城と戦うんですよね? あのでっかいのと同じぐらいの広さじゃないとダメなんじゃないですか?」
「物体城と同じぐらいか……まぁ、壁や屋根だけをグレート超合金にするにしても、結構な寮を使うだろうからな、そういう計算とかはマジで無理だが……」
両手を一杯に広げ、どれだけ広い面積の『資材置場』が必要になるのかということを目一杯アピールするカレン。
もちろんこの中でもトップクラスに、グレート超合金の必要量について理解していない者なのであるが、その有している感覚については間違いでもないと思しきところだ。
ここからは建物の確保と並行して、いや、まずは資材置場の方を先に確保しておくべきか。
あの魔界の神のことだから、すぐに戻って来てグレーと超合金を置きたがるに違いないからな。
そしてその際、もし資材置場が確保出来ていなかった場合には、適当に王都内の人口密集地帯に放り込まれたり、最も目立つであろう王宮に叩き込まれたりして、少なくない数の死傷者が出ることは確実。
ゆえに、可及的速やかにその場所を確保したうえで、上空などから目視した場合に、確実にそこが資材置場であると認識出来るような場所を設けておかなくてはならないのである。
となれば早速不動産屋だ、もしアレなら、最悪王都の城壁の外側でも良いこととするが、可能な限り作業員、つまりグレート超合金を用いて変改合体ロボを組み上げる者の安全が担保されるような場所を選択したいところだ。
すぐにいつもの不動産屋に移動した俺達は、困り顔の店主に対して、地価の極めて高い王都内において、競馬場かその程度の広さを有する『空き地』を用意してくれと無理難題を突き付けた……
「勘弁してくれよミラちゃん、そんな場所、王都内だとほら、食糧増産のために最近拓かれた耕作地ぐらいしか存在しないよマジで」
「あっ、あの場所は絶対にダメよ、西のも東のも、まだお野菜が育ついい土なんだからっ」
「だな、グレート超合金の置き場所より食糧の方が大事だ、仮置きするにしても、もしかしたら有毒で土とか水とかがダメになったりするかも知れないからなあの超合金は」
「さっきから言っているそのグレート何とかってのは……まぁ、勇者パーティーがやることだからもうツッコミを入れても無駄なのはわかっているが……とにかくそんなに広い場所はこの王都内では確保出来かねるよ、外ならまだしも」
「そうなんですね、そしたら……勇者様、闘技場を使わせて貰うというのはどうでしょう? それならそこそこの広さもありますし、中に人を入れなければ比較的安全かと」
「なるほど、あの場所なら良いかも知れないな、一応王都の外に出られなくなった王都民の唯一のストレス発散の場になっている場所だが、それでも世界平和の方が重いからな」
「それに、物体がなくなれば王都民もまた外に出ることが出来る、だからここは少し我慢して貰って、しばらくの間闘技場を資材置場にしてしまうべきであろう」
「……だな、ということで場所は決まった、不動産屋、あんたは引き続きザックリした物件の選定でもしておいてくれ、次は変形合体ロボの足部分になる強靭な建物がふたつ欲しい」
「本当に何をしようとしているのだね勇者パーティーは……」
一般人であるこの不動産屋には、特別な存在である俺達のやっていること、その壮大な、世界規模のプロジェクトに関して理解することなど出来ないであろう。
もちろん時がきて、作戦が実行され、俺達の変形合体ロボがお目見えすれば、その凄さについて視覚情報で認識し、理解することが出来るのだが、それはまだしばらく先の話だ。
とはいえ、その前に物体が王都の包囲を完了し、そして全ての物体城を完成させたうえで、その攻勢を強め始めたらどうなるのかわからない。
こちらが動く前に敵が動けば、それだけで被害は甚大なものとなり、この不動産屋もそれを生き延びることが出来るかどうか定かでないのだ。
そうなると、この不動産屋だけでなく、俺達の作戦に協力した、またはこれから協力する者が、自分がそれを成し遂げることの一端を担った大作戦の完遂を見届けることなくこの世を去り、その無念から王都は幽霊の都として……まぁ、さすがにそれは考えすぎだし、その場合には諦めて成仏して貰う他ないか……
「よしっ、じゃあ早速王宮へ向かって要請をしよう、これについてはほぼ強制になると思うし、もし断られたらババァの自宅に火を放つぐらいのことはしなくてはならないが、少なくともそのようなことはないだろうからな」
「そうね、世界の命運が懸かった一世一代の作戦だもの、国としては協力するのが当然だし、そのための金も全部出してくれるはずだわ」
「ついでに私達が頑張っている分の報奨金とかも……それはケチだから出ないかもですが、ひとまず行って来て下さい」
ということで王宮へ向かったのは俺とセラ、それにマリエルといういつものメンバー、闘技場の使用についてはかなり調整が必要にはなりそうだが、そこをどうにかしてくれることは期待の範囲内だ。
馬車をチャーターして移動した俺達は、どこに用があるのかという守衛の兵士に対して挙手の礼のみをしつつ、まっすぐに王の間へと向かったのであった……
※※※
「ダメに決まっているじゃろうそんなもん、闘技場は現在、連日人気のバトルが催されておって、1日たりとも予約が空いておらぬような状況なのじゃ」
「は? ブチ殺すぞこのクソババァ、人族の命運よりも金儲けかよ、堕ちすぎなんだよそんなもん」
「とは言ってもな、わしや国の中枢、それに闘技場の管理者がどうこうというわけではなくて、そのイベントの主催者が権利を有しておってじゃな……わかる?」
「わからん、その主催者とやらを殺してでも闘技場を使う、イベントとやらを中止するなら、その命令を出すなら今だぞ、もしそのままにしたら、どこかのタイミングで観客ごとグレート超合金の山に埋まることになるからな」
「……仕方ないのう、別室にその人気のバトルを主催しておる興業主を呼ぶゆえ、そこで直接交渉するが良い、ちなみに殺してしまうでないぞ、一応ほれ、献金とか凄いんじゃその金持ちは」
「チッ、面倒臭せぇ奴とバッティングしてしまったようだな、死なない程度の暴行を加える練習でもしておくか」
「・・・・・・・・・・」
その興業主とやらはあくまで『国に献金をする凄い金持ち』でしかないため、王の間になど入れるわけにはいかないということである。
時折悪魔のエリナなどが侵入したり、その他わけのわからない奴が勝手に入り込んでいたりする同でも良い場所であって、その最奥に鎮座しているのもどうしようもない馬鹿だというのに、その辺りは実に固いようだな。
なぜか俺達が先に別室に移動させられ、そこで先方の到着を待つというかたちになったのは実に不満だが、まぁ、すぐにやって来るということなので……と、もう到着したようだな……
「失礼する……と、今回の交渉相手は勇者パーティーなのか、大臣、これは融資の依頼か何かということでしょうか?」
「そうではなくての、この者達が闘技場を使いたいということなのじゃ、もちろん勇者の頼みなら突っ撥ねるところじゃが、王女殿下もそれに賛同しておられるのでな」
「それはそれは、で、我が興業を中止させるのに一体いくら積んでくれるのかね? もちろん、王女殿下のポケットマネーから出すというのはナシだぞ、それはもう不正行為だ」
「……はい、俺の財布の中身全て、鉄貨にして3枚だ、これ以上は振っても捌いても何も出ないからな、これで我慢してどこへなりとも行け」
「ハッハッハッハ! そういう冗談を聞きに来たのではないんだがな、いやはや面白い、勇者ともあろう者がそんなに貧乏とは……ちなみに交渉は決裂だよ」
「そうか、じゃあ死……殺しちゃダメなんだったな」
いかにもエリートの金持ちの、しかも知能まで高そうなタイプのムカつく野郎がやって来たのだが、どうやら端から交渉に応じようという気にさえならないらしい。
仕方ないので殴ろうとしたのだが……ここで殴っても俺がとやかく言われるだけだ、ここはひとつ、作戦を立ててどうにかしようではないか。
まず、そのバトルイベントが催されているのは毎日であって、そこには人気の闘士なども出場しているということ、それが現時点でこちらにある情報だ。
それを上手く利用して……そうだな、イベントを中止することを条件として、そこで賭けをすれば良いのではないか。
そんなことなら非常に簡単だし、選手もあり余っているのがこちら側の状況である。
いや、むしろそのイベントにおける人気の闘士を、その会場で試合をもってブチ殺してしまうのが得策かも知れないな。
そうすればもう、誰もその闘士の活躍に期待して、イベントの催される闘技場へ足を運ぶこともなくなるわけだ。
その『ブチ殺し作戦』を、あの魔界の神がグレート超合金を持って再びこの世界に顕現するタイミングまでにやってのければ或いは……
「おい金持ち、そのイベント、俺達が出場したら面白いのか?」
「そりゃもちろん、最強の戦闘集団である勇者パーティーが登場して、試合を勝ち上がってきた優秀な闘士の挑戦を受けるというのもアリといえばアリだな、客が入りそうだ」
「そうなんだな、じゃあ俺が単体で出場する、もちろん敵は何人でも良いから、可能な限り有名で、客を寄せそうな奴を集めておくことだな」
「……いつ出られる?」
「今日でも明日でも、てか今すぐにと言われても断るようなことはしないぜ」
「承知した、では明日の夕方に催される試合を、『勇者VS最強闘士軍団』というものに差し替えて、その旨を今日中に公表しようではないか……言っておくが我々の闘士は強い、敗北して権威が失墜したり、万が一があって殺されたりしても文句は言うなよ?」
「そんなもんわかっている、むしろそっちの闘士が心配だぜ、まぁ、ビビッて逃げられても困るからな、俺が対戦の相手であるということは、出要するその他の選手には伏せておいてくれ」
「言うではないか、そうなると興業のタイトルを少し……うむ、ではその儲け話をさらに儲かる話にブラッシュアップしなくてはならないのでな、ここで失礼しよう」
「じゃあな、明日は楽しみにしているぜ」
帰って行く金持ち、作戦は完全に成功であるといって良いであろう、この非戦闘員の金持ちにはわかるはずもないが、一般的な『強い闘士』と、『勇者たるこの俺様』の戦闘力には、もはや比較のしようがないほどの大きな開きが存在するのだ。
もちろん数百人の人気闘士が相手であったとしても、俺は足の小指の第一関節だけ使って勝利するなども、さらには動きもせず、気迫だけでその全部を肉塊に変えたり、消滅させることさえ可能なのである。
そうやって人気闘士を全て消し去り、鬱陶しい興業とやらを不採算ゆえの中止に追い込んで、その空いた場所をグレート超合金置場にするというのが今回の狙いだ。
金持ちが帰って行った後、ババァが後ろで溜め息を付いているのを目撃したのだが、きっとそれはあの金持ちが興業の失敗によって破産し、これ以上の献金が見込めなくなることについてものなのであろう。
だがそれはもう仕方のないこと、あんな奴が1匹どうにかなろうとも、国に献金しようとする志の高い金持ちなど、そこら中から(何らかの政治的ベネフィットを狙って)集まって来るのであろうから……
「ということだ、明日は俺、闘技場で殺戮ショーをやってのけるから、皆楽しみに待っていてくれよな」
「そうなんですね、別に見に行きませんけど……それよりも勇者様、先程魔界の神が再び顕現して言伝をして行きましたよ」
「魔界の神が? で、何だっていうんだこんなに早く」
「それが、グレート超合金の調達が終わったから、準備が出来たらその投下する場所を指定してくれと、その後、合図で全てを一気にこの世界へ持って来るとのことで……」
「マジか、ちょっと奴と連絡とか取れるか? 早すぎて対応が間に合わないぞ、このままだと闘技場の一般客まで犠牲になりかねない」
「いや、避難指示も出さずにそのまま落とすつもりなんですか……」
魔界の神との連絡については、先程やって来た際に『悪魔だ』という理由だけでその連絡の窓口に指定されたエリナが有しているとのこと。
早速テラスでダラダラしていたそのエリナの首根っこを掴んで部屋内へと引き入れ、直ちに魔界の神と連絡を取るようにと命じる……
『……あ、もっしもーっし、どうかしたのかなエリナちゃん?』
「エリナちゃんじゃねぇ勇者様だ、グレート超合金、もう調達出来たんだって?」
『チッ、エリナちゃんじゃねぇのかよ』
「舌打ちしてんじゃねぇよ、それで、どのぐらいの分量なのかはわからないが、今から指定する座標の、どのぐらいが埋まるのかを教えてくれ……ここだ」
『……闘技場かな? それなら観客席を除くほとんどの部分に山盛りになると思うが……それでも良いか?』
「観客席を除くか……うむ、それがベストだ、だがちょっとタイミングが重要でな」
『タイミング? そんなもんどうでも良いだろうに、せいぜいたまたまそこに居た虫けらのような人族が犠牲になるだけだ』
「いや、別の理由でかなり重要だから、ひとまず明日の夕方に俺が、明らかにグレート超合金をフォールさせるタイミングである旨の言葉を発したら、観客席を壊さないよう慎重に投下してくれ、頼んだぞ」
『何だか知らんが、まぁ別に良いだろう』
「マジで頼んだぞ、人前でやることだから、タイミングがズレたりスカだったりするととんでもねぇ恥をかくことになるんだからなこの俺様が」
『……その方が少しは面白くなると思うのだがな』
俺様のグレート大活躍を見せつつ、大量仕入が確定したグレート超合金をキッチリ闘技場に収めてやると、作戦の修正を考えつつその日を終える。
翌日は昼のうちから闘技場の控え室へと移動し、自分が誰だかわからないようにするためのマントを装備、フードも被ってもはやどこからどう見ても勇者だとは思わない、完璧な変装が完成した。
あとはこのスタイルで登場し、有名だか人気だか知らないが、所詮は粋がっているだけの雑魚を相手に攻撃……はせず、もう少し賢い方法でブチ殺してやろう……




