1047 超合金の情報
「あの執事の人、双子とかそういうのじゃないわよね、てかホントに人間なのかしら? さっきの死体も消えちゃったみたいだし、ねぇねぇ、物体じゃないのアレ?」
「そうじゃないことを祈る……としか言えないなもう、とにかく物体であるような感じはしないということだけは確かだぞ、普通に生者のオーラがあるのは確認済みだからな」
「じゃあ何なわけ? ちょっと気持ち悪いから殺すわよっ、そりゃぁぁぁっ!」
「うむ、任せ……早いな、そして死体が消滅するのも一瞬だな……」
「手応えはあったんだけど……その後が凄かったわね、シュッて消えちゃったのよシュッて、でも雑魚には違いなかったわ」
建物の中から現れた第二の執事ジジィに嫌悪感を抱いたマーサが、ひと言ふた言喋ったところで攻撃を仕掛け、一瞬でその人間の姿をブチュブチュの肉塊にしてしまう。
後ろに影響がない、つまり建物に被害が及ばないよう力を抑えて攻撃しているにも拘らずこのダメージであるから、第二の執事ジジィも戦闘タイプの何かではなかったということが確定した。
そして今度は目の前で、あからさまに消滅する死体、ブチ殺される直前に何か言おうとしていたようではあるが、死体が消えてしまったということは……出た、第三の執事ジジィだ……
「……また出たんだけど、また殺したら良いの?」
「まぁちょっと待て、ほら、何か喋る感じだぞ、少しだけ聞いて、その内容を確かめてから殺そう」
「……貴様等、こちらが下手に出ていれば調子に乗って……大切なグレート超合金製の扉はどこへ持って行ったのだ? 早く返したまえ」
「うるせぇボケが、あの扉はもう俺達のものになったんだ、というかお前何者だ? どうして何度も死体が消えて復活するんだ?」
「闇の力だ、私は何があってもワンプッシュで新しいものが製造されるようになったのだ」
「……意味がわからんぞ、というかとても人間のやっていることには思えないな、親玉を出せ親玉をっ!」
「ここには居ない、もちろんこの世界には居ない、そしてこの執事のジジィもそろそろ再生時のバグで執事のジジィではなくなって……と、勇者パーティー! まだ居たのですか? 扉は? 邸宅の扉はどうしたのですか? いや私はそれを知っているはず、先程は下敷きにされて死んで、その後ウサギ魔族に殴られて……おや?」
「あ、元に戻ったな、というか執事ジジィ本来の頭に回帰したというか、マーサ、そろそろ殺しても……もう興味を失ったのか、氷の壁の方が良いのか、仕方ないから俺が殺ろう」
「勇者パーティーの皆さん、もうわかったでしょう? 私には何をしても無駄だということを、むしろ復活するたびに闇の力が強くなってもう我は最強の……失礼しました」
「ごちゃごちゃうっせぇんだよ、とっとと死ねや……っと、どうしたユリナ?」
「もう少し待ちますの、その闇の力とかいう謎ワード、絶対にスルーしてはならないものですわよきっと」
「そうなのか……まぁ、確かにこの状況においては一応そうだよな、普通の雑魚がそう言い張っていたってだけなら笑い話だが、コイツは現にこんな感じなんだからな、グレート超合金の件もあるし……」
あながち適当とも言い切れない、執事ジジィが発した『闇の力』という言葉、そういえばあのグレート超合金製の扉も、闇の商人から買ったと言っていたような気がするな。
となると、この執事ジジィの復活能力はその闇の力が関わっており、グレート超合金にもその力が関与……少しキッチリ調べる必要がありそうな予感だ。
ちなみに、先程からスルーしていたのだが、執事ジジィの後ろから、つまり建物の中からなのだが、2匹のおっさんキャラがやって来てそれに合流した。
その姿を見て、最初に慌てて避難して来たメイドの方々が恐れ戦いたような感じで悲鳴を上げ、ざわざわと騒ぎ出したのだが、その原因がそれであるということにつき見た目からは判断出来ない。
執事ジジィにしろ後ろのおっさん2匹にしろ、どう考えても普通の人間、人族にしか見えないのである。
普通に立っているし、もちろん服も着て仕事もしているということは、それが人間である証。
それがメイドさんにキャーキャー言われてキモがられるような存在であるとは、とてもではないが思えない……まぁ、後ろのおっさんの顔面はキモいのだが……
「……とにかくさ、お前等まずこの邸宅の主を出せよ、そいつが闇の力をどうこうしているんだろう?」
「あんな奴は関係ねぇぜ、むしろ俺達の操り人形なんだよ、なっ、執事? だか何だかのダンナ」
「その通りです、ここの主は少々頭が悪い性質のようでして、私が執事としてお仕え……あれ? カッチカチだったような、どうしてこんなに氷が……おや?」
「すまんな、コイツはときどき元の人間とやらに戻ってしまうんだよ中身が、だがもう立派な『闇の勢力』だ、勘弁してやってくれ」
「はいはい、ここの主は氷漬けってことね……それで、あんた達の所属している闇の勢力の目的は何なわけ? 光の勢力の代表であるこの大精霊様に教えなさい」
「精霊様、そんなもんの代表だったのか……」
「我々闇の勢力の目的ですか? それはですね、この世界に零れ落ちてしまった我々の管理すべき物体を、全て魔界に返すということです……拠点をここに選んだのは失敗であったが、適当に乗っ取った個体もとんでもねぇ雑魚ばかりだし……それでもこの人間という生物の都市が物体に包囲されているというのは事実、貴様等、邪魔立てすると言うのであれば容赦はせぬぞ」
「ご主人様、この人もしかしたら正義の味方の良い人なんじゃ……」
「味方じゃねぇけど目的が被ってんな、ちょっと方法は違うところがあるが……精霊様、光の勢力の代表として何かコメントは?」
「あ、いえ……さっきのは適当だから特にないわ、それよりも状況を整理しましょ」
どうやら双方の目的に重複する部分があったらしいな、物体に対抗し殲滅するという俺達のミッションと、物体を魔界? に戻すというこの執事ジジィ他のミッション。
それらが同時に達成されることは、殲滅と回収という結果の性質上あり得ないことなのだが、ターゲットが物体であるということ、そしてこの世界からそれをなくそうということについては同一。
つまり、どうにか遣り繰りすれば、お互いに対立しないような関係でやっていくことが出来るのではないかと、そんな気がしなくもないところだ。
例えば可能な限りの物体はこの連中が回収して、その回収が不可能な分については俺達が潰して消し去るという方法。
或いはその逆でもどうにかならないかといったところだな、とにかくそういうのも不可能なことではない。
先程から何か考えている様子の精霊様も、そのような作戦を立て、ここはお互いに争わない姿勢でいこうという提案を……しなかった、ひとまず執事ジジィ以外の2匹をブチ殺してみた感じである……
「……やはり邪魔立てするというのか、貴様等は相当な力を持っていると、このベースとなった比較的賢さの高い、いや高すぎる個体がそう言っている、しかもかなりやべぇ奴等だと……我々も全力を出さざるを得まい」
「いえ、そういうことじゃないのよ、今色々と考えたんだけど、その際にチラチラ見えている後ろのキモいの、何かムカついたから消しておいただけよ、光の勢力の代表であるこの私の前に、そんな陰キャみたいな顔面の矮小生物を置くことは不敬に値するの、わかる?」
「つまり貴様は攻撃の意思がないと、そう良いたいのであげろぱっ!」
「貴様じゃないの、大精霊様と呼びなさい、ほら、サッサと復活して戻って来なさい、さもないと連続で2,000回殺すわよ」
「すげぇな、こちらの意に沿わない場合にはブチ殺してしまうことが可能なのかこの存在は……」
すぐに消失してしまった執事ジジィの死体と、とっくに消えてなくなっていた取り巻き風の雑魚2匹の死体。
その蘇ったものが、今度は並んで建物の中からやって来たのだが……セラがふざけて後ろの雑魚2匹を殺してしまった。
ということでまた執事ジジィのみのご登場となり、俺達はそれと対峙したわけだが、何度も死んでいるうちに元々の有能執事ジジィの中身が消滅していっているというのは、その表情の変化からも窺い知ることが出来る。
最初は執事然としていた、クソのような金持ちだの貴族だのに『爺』と呼ばれていそうな感じのものであったのが、今はもう邪悪そうな、確実に闇の勢力の構成員であることがわかるようなものに変わっているのだ。
そんな闇の執事ジジィは、かなりご立腹な様子で精霊様を睨み付けつつ、またしても何か喋り出す構えのようだが……また余計なことを言って殺されるつもりなのか?
「……うむ、悔しいがきさ……そちらの力は我々を遥かに凌駕している様子、少し要求だけでも聞いておこう」
「うむ、では私が説明しよう」
「おっ、ジェシカさん出しゃばるねぇ」
「うるさいな、主殿や精霊様に任せていたら、殺してばかりで一向に話が進まないであろうに……それで、私達はそちらと同じ、物体に対抗する術を求めてここへ来た、主に変形合体建造物ロボと、それからその構成材料となるグレート超合金も目的物だ」
「物体に対抗する? いや、光の勢力であるというのならそれもおかしくはないか」
「その光の勢力というのは精霊様が適当に言っただけのものだ、そんなものは存在しないしこれからも創設されない、だが私達はだな、この世界に侵略した物体を排除するべく……(どうのこうの)……」
「ふむ、事情はわかったが、せっかくこの世界で増殖した物体だ、もったいないので可能な限り魔界に送り返したいのだが?」
「それは……どうする精霊様?」
「結局私に頼るんじゃないの、光の勢力の代表たるこの私に」
「やっぱあるんじゃん光の勢力……」
「うるさいっ、あんた達は死になさいっ!」
『ギョェェェッ!』
いつの間にか戻っていた雑魚2匹を処分しつつ、精霊様はその闇の勢力とやらとの交渉に入るために考えを巡らせる。
このまま戦っても良いことは一切ない、むしろ侵略を続ける物体が漁夫の利を得るだけであろう。
そうならないための策を考えなくてはならないのだが、果たして闇の勢力がそれに応じてくれるのかが疑問だ。
もちろんこの執事ジジィを始めとした、この世界の人間を乗っ取ってどうこうしている連中は、何度殺したところでどうということはない。
つまり協議が平行線となってしまった場合、武力によってその線を捻じ曲げ、解決に導くことは困難であるということ……俺達が苦手とするパターンだなこれは……
「……とにかく、ここは暑すぎるから中へ入らない? それとこの邸宅のメイドさん達もどうにかしないと」
「……よかろう、あのメイドという生物は特に用がなかったので放置してあったのだが、そういうことであれば始末……したらいけないのか?」
「始末したらお前を始末する、何度も、二度と復活したいと思えないほど徹底的にな」
「そうか、では解放してやろう、ここであったことに関しては他言無用という条件を付してな」
結局メイドの方々は、一時どこかに身を寄せるということで帰って行った、マリエルが王家の紋章を入れた書状を持たせたため、どこの宿でも無料で泊めて、後から国に代金を請求してくれるはずだ。
で、執事ジジィの案内によって建物の中へ入って行った俺達は、そこで氷漬けとなったこの邸宅の主と、その配偶者らしいババァの姿を目撃した。
執事ジジィが闇の勢力に乗っ取られた際、おそらくグレート超合金の扉を闇の商人とやらから購入したのと同じタイミングで、この邸宅自体も乗っ取られてその主は氷漬けに、以降、この場所はや見の勢力の拠点として使われていたということか。
ムカつく顔をしたその金持ちであり、この邸宅の元主である氷像を粉々に粉砕しつつ、2階へ案内された俺達。
一番高級な部屋に並んでいたのは、複製されたと思しき執事ジジィと雑魚キャラの2匹、それがいくつも、まるで発送待ちをしている商品のように保管しているのであった。
きっとメイドの方々はコレを見てしまったのであろう、そして氷漬けの建物から逃げ出すことも出来ずにいたところ、扉が開いた音を聞き付けて慌てて脱走したと……そういう流れであったことはもう疑いの余地がない。
で、かなり涼しいどころか寒いその建物の中で、まずは当該闇の勢力について、どのような存在であるのかを聞き出すこととした……
「……それで、どうしてあなた達はこの場所をこんな氷漬けにしていますの? 皆迷惑しているんですのよ」
「この人間という生物が腐ってしまうのは困るからな、この間も、都市の中に出現する物体を排除するため、この世界のチンピラという生物を乗っ取って、それを路地裏に配置したのだが、何者かに殺害された挙句、放置されてとんでもない臭いを放つようになってしまったとか、既に回収したがな」
「いや生きていさえすれば腐ったりしないぜ人間は、しかしそんなことがあったのか……それ、殺したの俺かもだけど、……そういえば物体の餌食になっていないチンピラを始末したような……まぁ良いや、で、お前等グレート超合金はどこから持って来たんだ? まさか異世界とか魔界とか、そういう手の届かない場所じゃないよな?」
「それは言えぬ、バイトとはいえ一応魔界と守秘義務に関するアレをしているのでな我々は、その秘密は自ら探ると良い」
「お前バイトだったのかよ」
「しかしグレート超合金についてはまだまだってことね……それで、これからどうするの? 対立する? それともお互いに不干渉でいく?」
「協力するっていう選択肢がないんだな精霊様の中には……」
色々とツッコミを入れたいところではあるが、ひとまずは話し合いということで、平和的に、数回程度しか手を出さずに協議を進めた。
ストックしてあったらしい執事ジジィのボディーがなくなり、さらに製造しなくてはなどと言い出した頃に、ようやく話がまとまり始める。
俺達は俺達で物体を滅するための作戦を続行する、そしてその間も闇の勢力はその活動をし、この世界で増え続けている物体を回収し、魔界へ送り返す、つまり不干渉作戦ということだ。
だが最後の段階、俺達がグレート超合金造陸屋根100階建の変形合体ロボを完成させ、王都を四方から囲もうとしている物体城に対抗すべきときには、そのロボに物体を破壊する機構だけでなく、掃除機のように吸い取って魔界へ送り返す機構も備え付けるかたちで協力することが決まった。
また、この世界に物体が召喚され、それが大量に撒き散らされた原因についても、闇の勢力は探っているとのこと。
もちろんその責任者を罰し、物体回収の費用も請求するつもりだとのことだが……ここで魔王を売るか否かだな。
俺達は現在このような状態になった元凶を知っているし、それを捕らえてさえいるのだ。
今すぐにその情報を伝えてやっても構わないのだが……そうなるとこちらばかりの情報的出捐となる。
ならば向こうからもグレート超合金の情報を引き出して、等価交換というかたちでこちらの情報と交換すべきだ。
ひとまず精霊様が含みのある言い方をして、その内容について執事ジジィに察知させた……
「……よかろう、ではこちらも一度魔界に問い合わせて、どのような情報までなら提供しても良いのか聞いておく、そちらは……全権を有しているのだな、実に羨ましい」
「当たり前だ、バイトじゃなくて仕事としてやってんだよこっちは……で、物体漏洩の責任者には、どのぐらいの費用を請求するつもりなんだ?」
「わからぬが、我々の給料がこの世界の時給に換算すると鉄貨3枚だから……貨幣の価値を計算して……金貨1枚程度か」
「安いなおい……」
「だがそれだけではない、責任を有する者には刑事罰として、1週間の強制奉仕活動が科せられるのだ」
「いや、それも余裕すぎだろこの大事件に対して」
どうやら魔界はこの世界の常識とはかけ離れた甘さを有しているようだ、とも考えかけたのだが、もしかすると魔界においては物体漏洩如き、たいした事件ではないのかも知れないとも思える。
それが実際にどうなのかは、魔界の神々に聞いてみないとわからないのだが、いずれ奴等とも対峙するときがくるはずであり、その際の雰囲気で大体のことはわかるはず。
今はとにかくこちらの『今回の件は魔王が一番悪い』という情報を切り札として、向こうの『グレート超合金の全て』に関する情報を引き出すことだけを考えるべき時間だ。
もちろん魔界の、このバイト共を雇っている機関が首を縦に振るとは限らないのだが、それでもいくらかの譲歩はしてくれるのではないかと期待する。
もっとも、魔王が何かやらかしたのであろうことは、魔界の方で少し調べればわかるのではないかと思うのだが……『魔王』を管理する部署と『物体』を管理する部署が別々で、物凄い縦割行政ということであれば、情報が共有されていない可能性もないとは言えないか……
「……うむ、ではこの邸宅だが、ひとまず冷やすのはこれで終わりとして、所有権とやらもそちらに委譲しよう、その代わり、引き続き我々の拠点として使わせて貰うがな」
「良いだろう、じゃあそういうことで、マリエルは王宮に手続きだけしておくよう頼んでくれ、あとは……ひとまず帰るか」
「そうね、グレート超合金が魔界関連であったこと、それから物体の回収先が魔界であることなんかも考慮すると、魔王にも話を聞くべきよね」
「あぁ、完全にわかっていない部分もあるだろうがな、何しろアイツ自体、物体がどういうものなのかよくわかっていなかったみたいだし」
ということで情報を得るためのキッカケをゲットした俺達、氷漬けの邸宅もどうにかなりそうだし、氷魔法使いも解放された。
引き続きグレート超合金について調べるとして、次は魔王から事情を聴取、さらに筋肉団の帰りを待つこととしよう……




