1045 大活躍
「上出来じゃねぇか、特に問題がありそうなのも居ないようだし、このまますぐに実践投入することが出来る感じか?」
「いえ、新室長さんが言っていましたが、まだあの部分の瞬間接着剤が乾いていないモノも多いようで、しばらく経ってからひとつ発射実験をしてみて欲しいとのことでした」
「瞬間接着剤でくっつけてんのかよコレ……まぁ良いや、そういうことであればこのまま待機させよう、その間に国の偉いさんを1匹か2匹呼んで来て、この新しい兵器についての確認をさせよう」
「見ただけで卒倒しそうね、これに税金が注ぎ込まれていると思うと……」
「まぁ、やる気のない兵士だの木っ端役人だのに金をくれてやるよりは随分マシだろうよ、ちゃんと死ぬまで戦ってくれるんだからな」
「死体が自動で削除される機能があるとなお良いんだけどね」
信者チーンBOW軍団について、セラとそんな話をしつつ国から派遣されて来るであろう人間の到着を待つ。
しばらくして出現したのは、そこそこの高級官僚と思しきお姉さんで……どうやら新室長の知り合いであるらしい。
ソファでグダグダと寝ているのを見て叩き起こし、その開発した新兵器というのがどこにあるのかと問い質す。
そして指差された教祖チーンBOWおよび幹部チーンBOW、並びに信者チーンBOWの姿を見ると、次の瞬間には卒倒して床に倒れていた。
どうやら『税金の無駄遣い』以前の問題がどこかに生じていたらしいな、見た瞬間に倒れてしまうということは、それだけでわかる決定的なダメさがこのチーンBOW軍団にはあったということ。
そしてその『どこがダメなのか』ということについてはもう考えるまでもない、ビジュアルが終わっているのだ。
こんなモノを見て気を失わないのは、そういう系の敵に慣れている俺の仲間達と、それから神経の図太い新室長ぐらい。
マーサとジェシカによって新室長とは別のソファに運ばれた女性官僚については、一般的な感覚しか有しておらず、あの部分がああなってしまっているチーンBOWの人を見て、無事でいられるということはなかったようだ。
で、更にしばらくして、軍団のあの部分を取り付けた瞬間接着剤も乾いたであろう頃になって、悪夢にうなされていた官僚が目を覚まし、バッと起き上がった。
もう一度軍団に目をやった瞬間、またブッ倒れそうになってはいたのだが、何とか気を取り直して指摘する……
「この不快なモノは一体何なのですか? こんなモノを国の兵器と認定するのはどうかと思いますが?」
「まぁ気にすんなって、強ければそれで良いんだよ、強ければな」
「いえ、強いとは思えないのですが……というかこの顔、世間を悩ませていたカルト教団の教祖にそっくりではありませんか、どうして顔までこんなに不快なモノに寄せて……」
「それホンモノです、捕まえて来て改造? したんですよ」
「……何を言っているのかしらこの子は? この教祖は信者の肉の壁に守られて……もしかして本気で言ってらっしゃる?」
「超本気です、あと信者の人もさっき捕まえて来て……一緒に来て貰ってこういう感じにしました」
「・・・・・・・・・・」
最初は適当な説明をしようとしていたカレンだが、俺が余計なことを言う名のジェスチャーを送ったのを見て、当たり障りのない表現で『信者の拉致』について触れた。
黙ってしまった官僚、もちろんこの場で見たことは、王宮のごく一部の人間がやっていることであって、大々的に批判したり、信者に関することを告発したりすればどうなるのか、賢い頭で理解したらしい。
もちろん、国側がこの官僚の女性を送ってきたのには理由があって、結局はこれからチーンBOW軍団の管理者として、こっかの秘密作戦を指揮する役割を担うに足りる人物であると判断したということだ。
その素質の中には口が固く、明らかにヤバい行為であっても『国のためである』として黙認することが出来、さらには多少やるべきことを捻じ曲げてでも、目的達成に向かって進むことが出来るという気概がある。
こういう感じの人間であって、しかも最新型反りッドチーンBOWの開発者である新室長とも知り合いと……完璧な人選であるが、本人が今時分の置かれている状況を理解するまでは少し時間が掛かるであろう。
今現在も訝しげに研究資料に目を通し、一体どうしてこのような姿にしなくてはならなかったのか、もう少しまともなビジュアルがあったのではないかなど、必死になって『指摘ポイント』を探しているのだから……
「……全く、本当にわけがわかりませんね、とにかくこのおかしなモノについては、原則夜間の、それも目立たないような場所での使用とします、王都民にこのような無様な国軍兵器を見せるわけにはいきませんから」
「へいへい、じゃあ早速明日の夜にテストだな、最近出没している変質者タイプの、ジャンプして跨ろうとしてくる物体がターゲットだ」
「敵側にもそのようなモノが……いえ、ここまでくれば何が出現しても驚いたりハしません、では明日の夜、この場所でもう一度落ち合ってから作戦を開始しましょう」
「わかった、そしたら皆、せっかくだから武器でも補充して帰ろうか」
『うぇ~いっ』
官僚の女性はそのまま、ソファに転がっていた新室長に散々文句を垂れた後に帰って行ったらしい。
あまり効果はないと思うが、知り合いから何か言われれば、この女も少しは態度を改めると期待したいところだ。
で、翌日の夕方には研究所へと向かった俺達、直前に出会ったその辺のモブ兵士に、東門付近の物体が凶悪な見た目で、凶悪なジャンプ攻撃を繰り出して数人を殺害したという話も聞いてあるため、ターゲットに困ることはなさそうである。
向かった先の研究室でしばらく待機していたところ、やって来た官僚の女性は……なぜか甲冑を身に着けて完全防備であるのだが、このクソ暑い中ご苦労なことだ。
すぐに『そんな装備は物体に対して意味がない』ということと、『むしろ逃げ遅れて餌食になる可能性が高まる』ということを伝えて外させる。
甲冑はまたしてもソファで寝ていた新室長の腹の上にドサドサッと置いておき、呻き声を上げ、苦しそうな表情になったのを確認して成敗完了とした。
「さてさて、早速この新型の実力を試しに行こうか、場所は東門付近で良いな?」
「強いですかね? 頑張りますかねこの変な人達?」
「わからんが、もし使い物にならないようならリリィが頑張ってくれ、作戦に失敗したとしても、物体の方は始末しておかなくてはならないからな」
「わかりました、この伝説の剣でザクッと……あ、でもあの新しい物体はキモいからイヤです、ご主人様がやって下さい」
「やっぱそうなるのか……カレンは?」
「私も武器が短いからイヤです、あまり近付きたくありません、もし触ったりしたら汚くなりそうです」
「だよな、マーサは……」
「あのね、私ほぼ素手なのよ、触っちゃうどころかめり込むわよね」
「ですよね……まぁ、結局この反りッドチーンBOWがそこそこの力を有していることに期待する他ないってことか……とりあえず行こう」
『うぇ~いっ』
「ちょっと待って下さい、外に人が居ないか確認して来ます、それと、正門ではなく裏の搬入口から出るようにして下さい」
「面倒臭せぇなぁ……」
やはりチーンBOWを外に出すことに対してかなり警戒している様子の官僚、一般の王都民に見られたくないのはわかるが、それでも戦わせないことにはどうしようもないのに。
まぁ、それでも勝手に改造してしまった信者の関係者に見られるのは俺も避けたいところだし、裏口からコッソリと出て、誰にも見られずに戦うという、勇者らしからぬ動きを取るのは致し方なしか。
確認に行った官僚が戻ると同時に、まずは俺達が出て、そして寝苦しさで目を覚ましていた新室長がリモコンのようなものを操作し、教祖チーンBOWを動かす。
それに続くようにして幹部チーンBOWが、そして信者チーンBOWがゾロゾロと歩み始め、まるでデモ行進でもしているかのようにして研究所内の、マイナーすぎて誰もいない廊下を進んで行く。
裏口にも誰も居ないようで安心したが、ここからは外、いつどこで王都民と遭遇してもおかしくはない状況となる。
万が一に備え、チーンBOWのチーンBOWたる部分を布で覆ってあるが……やけにモッコリして逆に不自然だな……
「ご主人様、こっちの裏路地を通りましょう、東門へ行くにはかなり近道なんです」
「何だルビア、どうしてそんなに裏路地に詳しいんだ……まさか皆に隠れてチンピラ掃除などの慈善活動を?」
「いえ、お遣いのときとかになるべくショートカットしたいだけです、面倒なんで」
「……やっぱ人間って見た目通りなんだよな……だがわかった、そちらから行こうか」
ルビアが提案したショートカットは至極上手くいき、途中で遭遇したのは悪事を働きに出ようとしている最中であった1匹のチンピラのみであった。
そんなモノは当然、その場で始末して先へ進んだのだが……あのチンピラ、どうして今まで物体の餌食にならずに済んでいたというのだ。
王都の東門付近に多く侵入している物体は、なぜか狙われている、というかそれが作戦なのかも知れないが、ターゲットである不動産屋以外に、路地裏に屯するチンピラなども好んで食しているのだが、そうではない場合もあるのか。
まぁ、今のチンピラは確かに人間であったわけだし、スルーしてしまっても問題は生じないであろう。
俺達が今考えるべきは、この新型のチーンBOWがどの程度の活躍を見せてくれるのかということだ……
※※※
「……早速だけど居たぞ、見ろ、あのヒーロー風の格好に、下はパンツ……しかもブリーフじゃねぇか気色悪りぃな、しかも今度は青だぞ」
「どうしてあんなモノがこの王都に……もう絶望的なのではないですか戦況は?」
「かもな、だがこの新型の力をもってすればどうにかなるはず、おい新室長、信者チーンBOWを1体出してくれ」
「わかったよ、じゃあまずは……この一番貧弱そうなモヤシ男で良いかな? ツギハギにはしてあるんだけど、ベースがなよなよすぎてここまでにしかならなかった」
「あなたも適応力が凄いわね、研究所のどこかの新室長になったと聞いたから、もっとまともに出世したと思っていたのに、やっていることがコレでしかも特に疑問に思っていないとは」
「だって、意外と奥が深いんだものこの新兵器、面白いからやってるだけ」
「・・・・・・・・・・」
官僚女と新室長女、2人の考えが合わないのはきっと新室長の方がどうかしているからに違いない。
で、そのどうかしている新室長が、教祖チーンBOWを経由して1体の信者チーンBOWに命令を送る。
うぇ~い状態のまま動き出した、その確かに最も小さくひ弱そうなモノは、前に進んだうえで物体に向かってまっすぐに走り出し、攻撃の態勢に入った。
それに気付いた、というか機械的に感知した様子の物体が、ウネウネと人間にしては不自然な動きでそれと対峙する姿勢を取り、同じく攻撃の態勢に入る。
そこに会話などはない、チーンBOWも物体もそれが敵であると存在を確認した当初から認識していたようで、特に物体は人間らしい動きを完全に捨てて戦闘モードに入っているのであった。
飛び上がる物体、ブリーフ一丁の明らかな変質者が、こちら側のキャラである新型チーンBOWに跨るために、魔力高めに設定されたその腕部分ではなく、顔面を狙って攻撃を放つ。
直後、走っていたところを急停止したチーンBOWが、まるで立ちションでもするかのような、いやさらに上半身を後ろへ倒すような姿勢を取り、その反り立ったBOWの部分を高く掲げる。
発射、タイミング良く放たれた矢は、飛び掛ろうとしていた物体の最悪な部分を正確に捉え、そしてザクッとめり込んだ。
直後、その部分を中心にしてポッカリと穴が空いたような状態に、次いでそこに残ったチーンBOWの矢がさらに先へ進み、人間の形をした物体の上半身部分も、更には頭部までも消し去ってしまったではないか。
残ったのは腕の部分、そして両脚の膝から下の部分のみ、その質量のほとんどを失いつつ、合計4つのパーツに分離した物体は……地面に落ちることもなく、連続で発射された矢によってアッサリと消滅させられたのであった。
攻撃を終え、物体の残りカスが一切存在していないことをスキャン? によって確認した信者チーンBOWは、クルッと向きを変えてこちらへ向かい、隊列の元居た場所に帰還する。
しばらく何が起こったのかわからない様子でボーッとしていた官僚が、ハッと気が付いたような表情になったのは、攻撃終了からおよそ30秒後のことであった……
「こ……この力はっ!?」
「だから言っただろうに、物体対策にはチーンBOWが一番なんだ、死んでも惜しくないし、しかもこの実力だ」
「最初は失敗したけどね、まぁでも、あの森の物体は数も多かったし、そもそもあのときにはまだ人型に対して全然警戒していなかったわけだし」
「そうだな、この新型があれば、主殿が夜通し王都を回ってこの変質者タイプの物体を潰して回らなくても良くなったぞ」
「あぁ、ただし物体側が『弱点を付与するのは良くないことだ』ということに気付いて、その修正をしてくるまでの期間限定の活躍だろうがな」
「ご主人様、あの戦った人にはご褒美をあげたりしないんですか?」
「やるわけねぇだろそんなもん、気持ちの悪いバケモノだぞ、それに邪教の信者だったわけで、自分から入信していたとしたら相当なゴミカスだからな、今現在、誰にも殺されずに生きていること自体がもうご褒美みたいなもんなんだ、それ以上は全く何もやらん」
「そうなんですね、あ、でもお腹が空いたときはどうするんですか? そのままだと普通に死んじゃうと思うんですけど」
「その際は……どうするんだ?」
「チーンBOWに食事など不要だよ、エネルギーが足りなくなったら、自分の特に失っても差し支えない部分を食して凌ぐよう調整してあるし、そもそも餓死するよりも戦死する方が早いと思うからね」
「だってさカレン、食べ物はあげなくて良いからな」
「生きていてつまらなそうですねこの人達……」
カレンの言うことはもっともだが、この連中に何かを与えたところで、どうせ潜在意識のどこかにある『信者の記憶』によって、全てを教祖チーンBOWに捧げてしまうであろうことは明白。
もちろんそんなことをしても意味がないし、何のご利益もないのだが、もはや『財産は教祖、教団へ』というのが染み付いてしまっている馬鹿なのだ。
そんなチーンBOW共だが、今回の活躍はかなり期待出来そうであり、このまま運用しても問題がない状態にまで仕上がっていると判断して良い状況であろう。
そしてその指揮官となるのはこの官僚の女性であり、いつの日か、自分がチーンBOWに関与していたことを他者に対して誇らしげに話す日が……来るはずはないが、とにかく頑張って貰わねばなるまい。
で、その日は引き続き、見える範囲での変質者型物体を討伐していくこととし、かなり長い時間夜の王都を回った。
結局消滅させた物体が20以上に対し、信者チーンBOWの損耗はたったの3体、これは上出来だ……
「うむ、予想を遥かに上回るような出来だなこの反りッドチーンBOWというのは」
「だろう? 私が夜も寝ないで研究した成果だ、このまま運用してくれ」
「その分昼は寝ていたがな……だが運用に関しては問題ないだろうな、あとは指揮官の護衛を付けて、安全安心の物体対策をしていくよう、国の方に追加で要請しておけば良い」
官僚の女性も今回のチーンBOWの活躍は認めているようで、大変気持ち悪いがこのまま使う他ないという意見を有しているとのこと。
それはつまり指揮官を引き受けるということであると、そう捉えた俺は、彼女を守るための人員要請をすぐにすべきだという判断に至った。
しかしこれで王都の守りはかなり固くなったはず、しばらくは俺達が夜な夜な、というか朝も昼も戦いぬかなくてはならないような状況にはならないであろう。
そうなると、今度はもうひとつ進行中の作戦、物体を完全に始末してしまうための、巨大建造物系変身合体ロボ同士の戦いへ至る、不動産を掻き集めるミッションに注力することとなる。
この作戦のキモとなるのは、今ゴンザレスがそれを探して世界中を旅していることであろうグレート超合金とやらとなるのは確実。
それが一体どのようなもので、誰が合金として調合し、保有しているのかもわからないし、そもそも存在しているのかさえ不明なもの。
だが発見しないことには始まらないため、俺達は変形合体ロボのベースとなる建物を集めつつ、報告を待つということになる……
「さてと、じゃあもう今日は帰るか、ちょっと寝て、明日は休みにでもしてしまおうぜ」
「勇者様、せめて北門付近の物体には対処しないとですよ、あっちはまだノーマルの人型が多いと思いますから」
「結局戦うのかよ、面倒だな……」
「それと、不動産集めの方も急がないとです、こっちの作戦にかまけていて色々と遅れがちですから」
「・・・・・・・・・・」
屋敷に帰り、また辛い明日がやってくることに恐怖しつつ布団に入った俺だが、疲れていたためすぐに寝入ってしまったらしく、気が付くともう朝日が登っていた。
セミの鳴き声がやかましい庭には、ムッキムキの野郎共が押し掛けていて……どうやら調査に行っていた筋肉団のメンバーが戻って来たらしい。
その先頭に立っているゴンザレスの様子からして、グレーと超合金の方は見つからなかったのであろうといったところ。
まぁ、ひとまず話だけでも聞いて、それについて追加で考えるための時間を設けよう……そうすれば今日は外に出なくて良い、実質オフになるのだから……




