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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1043 作戦準備

「うぃ~っ、そろそろ例のブツは出来上がったか~っ? ってあれ……また寝ていやがるのかあの新室長は……居た、おい起きろっ! 勇者様のお出ましだぞっ!」


「全く大丈夫なのかしらコレ? ほら、早く目を覚まさないと、二度と覚醒しないようなとんでもない状態にするわよ」


「……ん? あぁ、これは精霊……大精霊様と、そっちの不快極まりないサルのような顔をした生物は……実験用の新しい素体か?」


「いや寝惚けてんじゃねぇよ、この異世界勇者様が何だって? 不快極まりないサルのような? どういうことだオラァァァッ! そのメガネブチ壊してやろうかぁぁぁっ!」


「っとすまない、これはまだ実験中の『真実の姿が見えるメガネ(魔導)』で、装備したまま寝てしまっていたようだ、ちょっと調整が上手くいっていなくてな、『ありのままの真実が見えすぎてしまう』という欠陥があるんだ、もっとオブラートに包んで、ソフトな感じで見えるようにしないと……」


「フンッ!」


「あぁぁぁっ! 目がっ、目が……」



 目潰し攻撃によって、馬鹿なことを言う新室長のアホなメガネを粉砕し、ついでにダメージも与えておいてやる。

 それによって完全に目を覚ました、というか半分潰れてしまった新室長は、回復の魔法薬を使って元通りの眼球を取り戻し、何事もなかったかのように戻って来た。


 掛けているのは通常のメガネか、もしあの不快極まりない何かが見えるという不快極まりないメガネをもう一度装備してきたのなら、それこそ二度と何も見えないようにしてやろうかと思ったのだが。


 で、そんなくだらないモノで遊んでいたということは、どうやら俺達が要請した研究の方は完全に終了したということらしいな。


 サボって遊んでいたというのであれば、俺と精霊様がここへ来た時点で、それなりに焦ったような仕草を……この女に関してはそのような反応もないかも知れないが、とにかくミッションは完遂している感じだ。


 早速昨日の件がどうなったのかと尋ねると、新室長はコーヒーか紅茶か、或いは未知の飲み物がの入ったカップを傾けつつ、自信満々の表情で頷いた……



「それでは旧フサ室長より引き継いだ部分も含めて、新たなチーンBOW軍団、そのトップを張る面々を紹介しようではないか、私のオリジナルも多分に含まれているが、性能としては一級品なので安心して欲しい」


「そうか、で、何体出来上がったんだ? もちろん教祖を素体にした奴はそれが教祖だとわかるようになっているんだよな?」


「もちろんだよ、では来いっ、チーンBOW指導団よっ!」


『あぁああぁぁあっ……あぁぁああぁあぁっ……』


「え? ちょっと何かアレじゃない? 人間の言葉を喋るようなタイプの感じじゃ……あ、でも教祖の顔だけはわかるのか……」


「これは……微妙よね、教祖のボディーに『教祖』って書いてあるのがちょっとアレだし、どうして全部胸元に研究所のロゴが入っているのかしら? これじゃあ研究所がカルト教団のスポンサーだと思われてもおかしくないわよ」


「……なるほど、ではご指摘頂いた点を調整しよう、言語は……うぇ~い語が通常であったか、ポチッと」


「リモコン(魔導)で調整可能なのか……」


『うぇ~いっ、うぇ~いうぇ~い』

『うぇいっ、うぇ~っ、うぇいうぇい』


「うぇ~いだけで会話を始めたわね、しかもツギハギのおっさんばかりで……ころしたいほどに気色悪いわ」


「それと、スポンサーロゴ表示機能を停止しておこう、確かにこんなモノが研究所の作だとバレると、関係各所よりどうのこうので鬱陶しいことになりそうだからな、ポチッと」


「あっ、胸元の研究所ロゴマークが消えて……乳首が再生したのか、その機能も要らんだろう普通に……」



 何だかわけがわからないのだが、とにかく教祖を始めとしたカルト幹部連中は、昨夜のうちにここへ連行され、もう既にチーンBOWへと成り果てていた。


 もちろん捕まえた幹部を全てチーンBOWにすることが出来たわけではなく、一度バラバラに分解して、使える部分を、特に教祖の姿をしたチーンBOWに集中して配置してあるため、多少歩留まりが悪く、全部で3体しか出来ていないようだ。


 だがそれでもあのカルトに心酔したような、もう使えないしゴミでしかない元ハイスペック連中は、こいつ等が信ずべき何かであると勝手に認識してくれることであろう。


 教祖は顔も教祖のままだし、ボディーはかなり変化してしまっているのだが、それでも教祖である旨の記載があるため、誰も間違えることなくその指導に従うはずだ。


 ということで次のミッションとしては、あの庭に集ったカルト信者の連中を、どうにかして連れ出し、チーンBOWの人として使用可能な状態になるための『改造』を受けさせるよう仕向けることである。


 あの感じの連中を動かすのは、教祖の威光をもってすれば非常に簡単なことであるようにも思えるのだが、気になっている、というか問題となり得るのはそこではない。


 王都の住民に、あのヤバそうなカルトの連中が、かなりヤバい見た目となった教祖他、チーンBOWの人の先導によって町を移動しているところを、王都民に見られて話題となるのがヤバいのだ。


 もちろんそんなモノ、というか先頭に立つあのチーンBOWのビジュアルからして、人型物体以上の噂となってしまうのは必至。

 そしてその集団が入って行った先、研究所が何らかの疑いを掛けられるのも確実であろう。


 それでは色々と都合が悪いから、ここはキッチリその姿を隠し、もはや信者の連中が移動したことさえバレないような、忽然と姿を消したかのような演出が必要だ。


 で、もしそれらがチーンBOWとして活躍していることが信者をどうにか脱退させようと、洗脳状態から脱出させようと頑張っていたその支援者達にバレた場合に、俺達や国家の機関である研究所がしらばっくれることが可能なようにしなくてはならない。


 そこまでやってようやくミッションコンプリートなのだから、特にこの目立ってしまう教祖チーンBOW他を、目立つような場所に連れ出すのはNGであって……行きは使い捨ての馬車でも使うか……



「なぁ、この教祖のチーンBOWの人、実際どれぐらい薄汚いんだ?」


「うむ、最初に『解剖』したときには腹の中まで真っ黒だったね、相当に汚らしいよ、手袋どころか魔導防護服を5重に着込まないと触ることさえ出来ないね」


「そうか、じゃあガチで汚れても良い馬車を用意しないとだな、それにこの連中を詰め込んで……信者共と引き合わせる場所をどこにしようか?」


「あの邸宅を使うと、また掃除の手間が増えるわよ、変形合体ロボを造るのに時間が掛かる遠因になるかも知れない、だとしたら別で、どこか広い公会堂でも借りてそこでやるべきよ」


「なるほど、カルト教団のイベントにそんな場所を貸してくれるところがあるのかは疑問だがな、まぁとにかくやってみよう、もちろん夜中のうちにな」


「イベント自体も夜間が良いであろう、あのカルト教団の連中がそこに詰めていると知られると、放火したり魔法で襲撃したりする連中が必ず出てくるからな」


「いや、どんだけ嫌われてんだよこいつ等……」



 カルト教団なので嫌われていても当然なのだが、それでも集まっているだけで放火されたり、明らかな殺害目的の攻撃を仕掛けられたりというのは珍しい。


 もっとも、自分が直接に勧誘を受けた側であって、この世界における通常の人権意識しか有していなかった場合には、その場で殺害するのは通常のことである。


 だが無関係の者が、そのカルトが気色悪いということを理由としてブチ殺しに行くレベルとは……この邪教、普段は一体どのような行いをしているというのだ……



「それで、信者が移動する際に、静かにさせるための方法はどうしたら良いんだ?」


「さぁ? 普通に『静かにして下さいby教祖』とかいう紙でも掲げさせておけば良いんじゃないかしら?」


「いや、それは無駄だと思うよ、この邪教、『深夜に大騒ぎをして人々を徹夜させる』という活動を精力的に行っているんだ、夜になると自然に騒ぎ出すのが、その洗脳されている信者の特徴だな」


「鬱陶しい連中め、じゃあ昼のうちに、フードを被って静かにってのは……」


「この邪教、昼は『奉仕活動』という名目で、教団に寄付するための金を集めるということをしているんだ、だから洗脳されている人間は、昼間に一度でも見た顔を発見すると駆け寄って、『金を貸してくれるまで帰さん(借りた金は返さん)』といって立ちはだかるという特徴を持っているんだ、だから静かに行進なんて出来やしないよ」


「もう、全員殺してあげた方が良いんじゃないかしら普通に……」



 想像していたよりも遥かにヤバいらしい当該邪教、だがその信者共を生きたまま、そして誰にも気付かれないままに、この研究所へ運び込まなくてはならないのである。


 仕方ない、ここはやはり使い終わったら消毒などすることなく捨ててしまう、というかもう廃車になる予定の馬車を掻き集めて、それを用いて集団で移動させる以外に方法はなさそうだな。


 さすがにその数の馬車を用意するとなると、国の方で協力をしてくれるようババァに要請する他ないが、果たして他言無用で、情報の開示請求などされたとしても黙って、ということは可能なのであろうか……



 ※※※



「……てことなんだよ、汚ったねぇ馬車を数台、いや十数台以上は用意してくれないか、今回のミッションの性質上、もちろん一般の王都民には一切機密でな」


「う~む、対象があのバグッたカルトの連中となると、馬車の台数をもう少し増やさねばならんじゃろうしの……」


「あ、いや、一応数の方は大丈夫だと思うぞ、というか余裕を持った見積りなんだ」


「いやの、最初は良いかも知れぬが、あの連中、かなり凄まじく発狂して暴れだすことが多くての、自分と自分が乗る馬車の破壊ぐらいは日常茶飯事じゃろうて、特にあの教祖の邸宅に集められていた連中は……」


「そんなにやべぇのかよあいつ等……」



 ババァ総務大臣曰く、あのカルト教団の連中は教祖に対して金銭を支払うのが喜びであり、それで食事も出来ないほど困窮するのが救いであるのだという。


 そして最終的な到達点が、あの邸宅で見たように、教祖が撒き散らした『餌』に群がる愚民共に成り果てるということ、それが信者の夢なのである。


 しかしその夢のような状況も、わずかに残った財産から、或いは人伝に掻き集めたものでも良いから、可能な限りの金銭を教祖に収めていないことには続かない。


 つまり『餌』を受領する権限を剥奪され、最終的にはあの邸宅の庭から追い出され、そして最初から、一般信者からやり直しになるという、(奴等にとって)極めて屈辱的な結果が待ち受けているとのこと。


 それゆえに、一定時間『寄付』をしていない信者は、それに向かって動いている最中でない限り、突然発狂して暴れ出し、周囲のものを破壊したり何だりと、凄まじいことをやってのけるのだ……



「で、その発狂も伝播するみたいじゃからの、少し前の話じゃが、親族によって連れ戻された信者が発狂して、向かいの家で同じく連れ戻された信者も、そして3軒先の元信者も……という具合でとんでもないことになっての、結果としてその発狂した全員を処分する事態になったことがあるのじゃよ」


「てかさ、そんなカルト潰してしまえよ普通に、殺戮部隊でも送り込んでさ」


「そういうわけにもいかぬのじゃよ、別に『寄付された金を受け取ること』が違法なわけでもあるまいし、ついでに言うとあの邪教、王国の中で燻っている反乱分子の加護を受けて……」


「そのパターンなのかよっ!? 面倒臭せぇな、だがババァ、ここはやっぱり頑張って、捨てても構わない馬車をありったけ用意してくれ、この件は後に、物体事変の終息後にも繋がりそうな気がするからな」


「うむ、では今夜じゃの、奴等が夜になると暴れる習性があるという話も聞いておるのじゃが……ひとまず防音性能高めのもので、そのまま廃車にしても良いものを調達せねば……」



 その辺りの手続はババァ、というか実際に動くのは命令を受けた下っ端であろうが、とにかく国の方に任せてしまうこととした。


 俺達は俺達の方で、その信者共を静かに、絶対に王都民にそのことを悟られないように運ぶための作戦を考えなくてはならない。


 そしてそれはもちろん俺や精霊様の力では不可能……まぁ、殺して黙らせることは可能だが、生きたまま良い感じに黙らせることなど出来はしないのだ。


 ここは仲間達の力を借りて、そして既にチーンBOWの人と化してしまった教祖やその他の幹部の威光も借りて、どうにかしていく必要がある。


 ということで屋敷へ帰って皆に相談し、ひとまずはサリナの幻術を駆使して、それ以外の仲間も馬車に乗り込むかたちで警戒し、可能な限り静かに運搬する方法を考えた。


 ヤバそうなのはどの信者も同じだが、本当にヤバいムーブをした信者、それが馬車の中で他の信者にも伝播してしまうような動きを見せた者は、その場でピンポイント殺害する方法を取るしかないというのが、結果として編み出された対応策であるが……



「それってさ勇者様、もし隣の信者が死んで、それを見てむしろ発狂したりして……みたいなことはないのかしら?」


「むしろその方が恐怖を煽るというか、そういうのはどうにかしておかないとなりませんね、例えば……どうでしょう?」


「簡単ですの、『死んだ者は信心が足りなかったゆえだっ!』みたいなことを、教祖の口から言わせれば良いんですのよ、サリナの幻術を使って」


「なるほど、ちゃんと教義を信じて、疑いなく祈りを捧げている限りは死なないと、そういう感じで騙すのか」


「そんなくだらない邪教に入信してしまう連中ですから、そう信じ込ませるのは比較的容易でしょうね、ちょっとやってみようと思います」


「わかった、じゃあ信者を黙らせるのはその流れで、馬車は……ゴミみたいなのばかりだと思うから比較的スピードが遅い、それを目立たないように分散して動かすから、それなりに時間は要するぞ」


「朝になる前にはどうにかしたいわね、少なくとも市場が開いたりして人が動き出す前には……」



 なかなか難しいことではあろうが、根本にサリナの幻術があるため大丈夫であると信じたい。

 あとは馬車を分散するうえで、誰がどこに乗り込んで警戒するのかということを考えなくてはならないのだが……それはだいたいで構わないか。


 もちろん徹夜の作業になるゆえ、仲間によってはフルで参加出来ないようなこともあるはずだが、そこは俺やその他夜更かししすぎなメンバーで補っていけば良いところ。


 もしどこかで失敗があったときのリカバーのため、馬車には乗り込まずに走り回る役目も必要だな……夜までに少し詳細の作戦を立てた方が良さそうだ。


 そこからしばらく、屋敷に引き篭もって作戦会議をした後、北門付近に侵入した物体があるとの報せに軽く対処して、早めに夕食を取った後に王宮へと向かった。


 前庭、いやその手前、まだ王宮の敷地でない場所に並んだ汚らしい馬車と、それからもう引退間近としか思えない馬と御者のじいさん達。


 経歴の方は確かであろうが、未だに現役時代の実力を有しているかどうかについては疑問だ。

 だが御者の方は歴戦のプロであるため、守秘義務がどうこうという話に関しては、もはやする必要もないような次元であろう……



「どうじゃ勇者よ、これだけの数を複数回動かせば、国を悩ませるあの邪教の信者を、誰にもバレぬよう内密に一掃してしまうことが出来るのではないかの?」


「あぁ、ピストン輸送ってやつだな、ちょっと時間は掛かると思うが」


「くれぐれも民衆に見られることのないようにな、結構な有力者の子弟が、あの邪教団に連れ去られたりしているのじゃから」


「あぁ、後々問題にならないようにだけは気を付けるぜ」



 などと言ってしまったのだが、まぁもし何かあれば、国やその機関である研究所が責任を被ってくれるはずだと、内心期待していた感は否めない。


 もちろんその責任回避可能性が高い状況にあっても、その場で信者の関係者、支援団体等に発見され、大騒ぎになるようなことがないよう、全身全霊での隠密行動を取る流れなのだが……



「ところでババァ、一応俺達もそれぞれの馬車に乗り込むつもりなんだがな、そうすると人数が足りない、そっちで少し優秀な兵士を融通して貰いたいんだが……無理か?」


「いや、そこはおぬし達でどうにかしてくれ、こちらでその人員を出すのは限界を超えておるのでな」


「そうか……じゃあサリナ、幻術であの教祖チーンBOWを増やしてくれ」


「あんな気色悪いものをどうして増やさなくては……まぁ、仕方ないですか」


「そういうことだ、各馬車には俺達が乗るが、それが足りなかったところには教祖のニセモノを配置して、少しでも信者共が落ち着くよう配慮するんだ」


「熱狂して余計にヤバいことになりそうだけど……」


「まぁ、『静かにして下さい』を連呼するような、そんな感じのニセモノにしておきます」



 追加の作戦を色々と立てつつ、王宮前から兵士を、もちろんこの計画について知ることを許された口の堅さではトップクラスだという精鋭中の精鋭を1人派遣するかたちで、研究所内に収容されている教祖やその他の幹部を出すよう、要請をする。


 しばらくして『危』だの『毒』だのの表示が全面に張り巡らされ、魔導的な封印も施された状態の物々しい箱が3つ、明らかに何が入っているのかわかるような状態で馬車の停まったエリアに運び込まれた。


 そこからブツを慎重に取り出し、先頭を往く予定の馬車にセットして、さらに認識を阻害するための魔法を掛けてと、準備は着々と進む。

 あとはコレを信者の前に引き出して、それなりの先導役に仕立て上げるのみだ……

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