1042 ソリッドタイプの新型
「あ、ハイこんばんは、勇者パーティーの時間です、教祖さんでいらっしゃいますか? この邪悪極まりない教団の、まぁ、そのデブさ加減と口髭、その辺りを見ればもうわかってしまいますがね」
「……曲者……曲者だぁぁぁっ! 何か知らんが信者じゃないのが入って来たぞっ! クスリが効いていないのかも知れないっ! 誰かぁぁぁっ!」
「うるさいですねぇ、そんな大声を出したらご近所迷惑ですよ、まぁ、この世界全体に迷惑をかけている時点で、もうそんなこと気にする必要がないのかも知れませんが……あ、ちなみに助けは来ません、他の幹部とかも全部、今頃は運び出されていますから」
「ひっ、ひぃぃぃっ! そんな馬鹿なっ、あの信者の壁をどうやって越えて……」
「ミラ、そろそろ行かないと、皆もう脱出を始めているぞ、ほら、この汚ったねぇズタ袋に教祖を入れて、ちょっと汚れてしまうかも知れないがな、もちろん汚ったねぇズタ袋の方がな」
「あっ、ちょっとやめっ、我は、我はこの大教団の教祖であるぞぉぉぉっ! 貴様、珍離教を舐めるなよっ! 絶対に後悔させてやるからな……ぬわぁぁぁっ! あげぽっ……」
やかましい教祖に死なない程度かつ気絶する程度の一撃を喰らわせ、黙らせてうえで運搬を開始する。
いや、だがどこへ運べば良いというのだ、やはり国に通報して、カルトの上層部を捕らえたので牢屋を貸せとお願いするか。
きっとあの建物の所有権も、それから中の財産も全部国に持って行かれてしまうのであろうが、それはこのクソのように汚い、もちろん内面まで汚れ切った教祖を、俺達のハウスに連れ込むという行為をするよりはまだマシなことだ。
こんなモノを1秒でも屋敷の敷地内へ入れれば、庭木は枯れて温泉は毒に変わって、屋敷には火が付いて土地は沈下してしまうことであろう、それだけは何としてでも避けたい。
で、教祖を抱えてミラと2人で敷地を出ると、教祖の5倍程度の質量を有する、おそらく戦闘タイプの教団幹部を抱えていたマーサが、ズタ袋が破れてしまったのか、仕舞い直すために敷地横の木陰に隠れているのを見つけた。
その横にはマリエルの姿があるはずだ……と、やはり木の影で見えなかっただけか、手を振るとどうにかこちらに気付き、マーサにひと声掛けたうえでこちらに向かって来るようだ……
「どうしましたか勇者様、教祖は……無事に確保することが出来たようですね」
「あぁバッチリだ、だがこいつ等を運び込む場所がなくてな、やっぱり地下の牢屋敷を貸してくれるよう、伝書鳩でババァにお願いしておいてくれないか?」
「わかりました、ではもうすぐに送りますので、このまま全員で向かえばその頃には話しが通っているはずです」
「あぁ、じゃあ他の仲間にもそちらに向かうようにと、もし途中で出会ったりしたら確認しておいてくれ、俺とミラの方も可能な限り全員に伝えるようにするがな」
「えぇ、それでは私達も、あの汚い袋が直って、もっと汚いゴミを運べるようになったらすぐに行きますから」
おそらく最後尾になるであろうマーサとマリエルのチーム、俺とミラの後ろには誰も居なかったはずだし、どちらかというと俺達が皆に行き先を伝える役目となるであろう。
というか、最初の段階で『どこに集合すべきか』ぐらいは確認しておくべきであったな。
まぁ、実際にどこへ行くべきなのかは、知らなければ立ち止まって確認するのが普通だし、皆すぐに見つかるであろう。
早速前を飛んでいるのは精霊様とリリィのセット、それからジェシカとカレンのセットである。
さらにはユリナとサリナのセットに、一番心配であった馬鹿同士の組み合わせであるセラとルビアのセットも。
これで全員なわわけだが……精霊様などは完全に屋敷の方に向かってしまっているし、セラとルビアはターゲットを気絶させることもしていないらしく、ズタ袋がジタバタと暴れているまま、地面に降りて休憩してしまっているではないか。
ミラにはひとまず精霊様を追わせ、俺はセラに牢屋敷へ向かうようにとジェスチャーを送り……無視されてしまった、そういえば認識を阻害する都合の良い魔法を使っているのであったな。
仕方なく隣に降り立ち、ビックリする2人に対してすぐに要件だけを伝えて残りの2チームを追跡した。
ジェシカは……カレンも『荷物』を持っているのか、あの2人が向かった先にはターゲットが2匹居たということだな。
もっとも、適当に突入しただけであって、教団幹部がどのぐらいの数存在しているのかについては調べていないし、もちろん誰も知らない。
それでもあの建物の中に6匹は居ることが確認出来たため、それぞれ2人でひとつのチームとして突入したのだが、影が薄いか寝ていたのか、とにかく7匹目の幹部が、ジェシカチームの所には存在していたということだ。
他は皆1匹ずつの収穫のようで、メインターゲットであるこの教祖を含めて、これで信者を誘導するには十分な数の『餌』を集めることに成功したはず。
あとはこれらを公開処刑に付して、立て続く事件によってストレスが溜まっているであろう王都の人々を満足させ、ついでにカルトの幹部がどういう目に遭うのかを知らしめてやることとしよう・・・・・・と、もっと良い活用方法がないのか、それも考えてみたいところだな。
まぁ、その件も含めて研究所に話を通し、『信者系チーンBOWの人』を作成するために必要な話し合いをしよう。
そうすれば教祖や幹部、或いはその死体の有効な活用方法も、新たに見えてくるのではないかと思うからな……と、最初から牢屋敷に向かっている様子であったユリナとサリナに追い付いた……
「うぃ~っ、行き先は……言わなくともわかっているようだな2人共」
「はいですの、牢屋敷へ向かって、この幹部を死刑囚小屋に押し込んでしまえば良いのですわよね」
「そうなんだがな、実はもっと有効な活用方法がないものかと、今になって考えてしまってな、何か良いアイデアがあるか? 出来ればこいつ等の自我を保ったまま究極に苦しめるタイプのやつで」
「う~ん、そうですわね……」
「ご主人様、教団幹部と教祖を、ツギハギにしないで使って、そのままの状態でチーンBOWにしてしまったらどうでしょうか? もちろん他の部分は一切弄らずにですよ」
「おぉっ、チーンBOWリーダーとか、スペシャルチーンBOWとか、そんな感じの強キャラチーンBOWの人を作るってことだな、面白そうじゃねぇか」
「しかもかなりの屈辱を感じさせることが出来ますわねそれなら、あの情けない格好で、前線に立って同じ情けない格好の連中を指揮する役目、で、使用しなくなったら処刑、良い感じだと思いますわよ今のサリナの案は」
「だな、ちょっと新室長に提案してみるとするか、どうせこの後研究所へも行くんだし、そのときに一緒に話をしてみよう」
ということでそのまま牢屋敷へと向かい、既に話が通っていたのを確認して教祖と、それから仲間達が運んで来た教団幹部を引き渡す。
もちろん後程利用する可能性があるため、教団のことを吐かせるために死ぬような拷問をしたり、また殺してしまうような行為は避けて欲しいとだけ要請しておく。
その了承を得て、俺と精霊様は2人で、昨日頼んだ研究の結果がどうなっているのかということを確認しつつ、良い素体が手に入るかも知れないということを伝えるために、その足で研究所へと向かった。
俺だけで行こうかとも考えたのだが、あのだらしない新室長が、精霊様の恐怖を常に与えていないと動かなくなるのではないかと、そういう懸念を抱えていたため、2人で一緒に行くこととしたのだ。
そしてその予想は正解であった、精霊様は他の研究コーナーに少し用があるとのことで研究所内部の下層で遅れたため、俺が1人で例の研究室へ向かうと、新室長は挨拶しようとした動きを止めて、今まで寝そべっていたソファに戻ったのである……
「おいコラ、やる気がねぇようだなこの女、チーンBOWの研究の方は一体どうなっているんだ、おいっ!」
「ZZZZZZZZZZ……」
「寝やがって、言っておくがな、精霊様がまた来ているんだぞ、今は別のフロアに居るが、そのうちにやって来てお前を鞭でシバき倒すだろうよ」
「ZZZZZZZZZZ……」
「嘘だと思っているようだな、まぁ、後程後悔すると良い、今度は白衣が破れる程度じゃ……ってお前、昨日の白衣を捨てずに、直しもせずにそのまま使っているのか」
「ZZZZZZZZZZ……」
「・・・・・・・・・・」
完全に寝入ってしまい、反応を示さなくなった新室長に、俺の放った言葉は無駄に吸収されて何も返ってくることがない。
だがそのうちに研究室の扉が開き、お土産を抱えた精霊様が入って来たと思ったら、新室長はいつの間にか起き上がり、真面目に仕事を始めていたのであった……
※※※
「……いやマジだぞ精霊様、この女はな、さっきまでそこのソファに寝そべって寝ていたんだ、鞭で尻をフルバーストした方が良い」
「まぁ、証拠がないから何も言えないけど……それが真実っぽいわね、でも昨日からずっと研究をしていて疲れていたっていう可能性もあるし、一応研究の進捗具合だけは聞いておきましょ」
「おうそうだな、おい新室長、どうなんだ進行具合は?」
「う~ん、あまり芳しいとは言えないね、形の方はもう完全にこれしかないってのがあるんだけど、ゴミ死刑囚が素体じゃ物理的にもダメだし、メンタル面でも弱すぎるのよね、犯罪に走るぐらいだし」
「なるほど素体が……うむうむ」
俺と精霊様は目を見合わせる、素体の良し悪しで悩んでいるというのであれば、かなり優秀なものが俺達の中にストックとしてあるということを伝えれば、この新室長はかなりの高反応を見せることであろう。
しかしその前に、決まっている形というのがどういうものなのか、念のためその辺のゴミ死刑囚を使って再現して貰いたいところだな。
それがすぐにダメになってしまうのは問題がないのだが、もしわけのわからない、本当の意味でゴミのようなモノであった場合には、せっかくの信者を使ってそれを作ってしまうのはもったいないためである。
すぐに精霊様がサンプルの作成を命じたため、新室長は尻をフルバーストされることのないようにと、そのダルそうな動きを捨てて機敏に準備を始めた。
しばらくして魔導装置が作動し、その中から出て来たのは……どう見ても普通の、いつも通りのチーンBOWの人である、髪型もアレだし、これが死刑判決を受けたその辺のチンピラから作られ、その他の個体のパーツをツギハギにしていることはもう間違いない……
「おいこのチーンBOW、これまでのとどこが違うってんだよ?」
「これはね、実はチーンBOWのBOWの部分に大幅な変更を加えただけなんだ、良く見てみてその部分を」
「イヤに決まってんだろそんなもん、気持ち悪くて目も当てられないぜ全く」
「そうか、じゃあ口頭で説明するとして、まずはこの矢だね、ほら、これまでのものは軽量化のためとか色々でチューブラー構造だったけど、今回のは完全なソリッドタイプなの、時空を歪めるコーティングが中に浸透していることがわかったから、それを最大限に活用するためにこうしたの」
「なるほど、なかなか攻撃力が向上していそうだなこの矢は……それで他には変更点があるのか?」
「それと、相手のジャンプ攻撃に対応すべく、チーンBOWの角度自体をかなりの勢いで可変するようにしたんだけど……これは失敗だったわ、捥げるの、すぐにバキッて……」
「ひぃぃぃっ! 恐ろしいことを言うんじゃねぇよっ!」
チーンBOWが捥げて落ちるというのは、即ちその部分がリアルに、ブチッといかれて地面に落ちたというのと全く同じことである。
つまりは最大の恐怖であって、そんな話を聞いただけでヒュンッとなるような、そんな感覚に襲われてしまうのだ。
しかしそんな俺を無視して、というか俺の感じている苦痛に気が突く様子もなく、新室長の話は先へ進んでいるようだな。
今はどれだけ苦労してチーンBOWを、ジャンプ攻撃を仕掛けてくる最中の敵に向けるか考えたことについて、その過程と失敗した実験の数々を紹介しつつ語っているのだが、これはひと晩でどうにか出来るような仕事量ではない。
おそらくこの女、相当に優秀であって賢さも高く、それでいて馬鹿であるという、なかなか稀有な特徴を兼ね備えているがゆえ、ここまでのことが出来てしまうのであろう。
そんな新室長の渾身の作が……良く見ればこのチーンBOW完全にまっすぐではなくて……上に向いているというのか……
「っと、わかったようだね、そのチーンBOWなんだが、通常のものに比べてかなり反っている、つまり『反りチーンBOW』なんだ」
「反りチーンBOWって益々発言してはならない言葉に近付いているじゃないか、もうそのぐらいにしておけよマジで」
「あ、いや、何の話をしているのかはわからないがね、この反りチーンBOWを搭載することによって、上から覆い被さるようにして攻撃する敵の、その急所を正確に突くことが可能になったのだ、どうだね?」
「じゃあ量産すれば? 見たところ特に問題はないようだし、このままでも十分使えるんじゃないかしら?」
「それがだね……動け『反りッドチーンBOW』、矢を放つのだっ!」
「反りッドチーンBOWって、酷い名前だな……」
俺がそう思った直後、その反りッドチーンBOWは矢を放ち、そして……矢の勢いとソリッドタイプであるが故の重量に、無駄に反りまくっている自分のそれが耐え切ることが出来ずに……とんでもない光景を目の当たりにしてしまった。
チーンBOWのチーンBOWある部位を失い、地面を転げ回って悶絶していた反りッドチーンBOWの人を、部屋の隅のダストシュートに放り込みつつ、新室長は溜め息をついている。
まぁこんな感じなのだと、そして壊れてはしまったが、最初の一発であって最後の一発であるその放たれた矢は、良い感じの角度でジャンプ攻撃を仕掛ける敵を狙うことが出来るであろうコースで飛んだことも、追加で確認するようにとの仕草だ。
形式としては成功であって、既にこの反りッドチーンBOWについては実用化が可能であること。
そして唯一不足しているのは、その能力に耐え得る強靭な素体であるというのが、チーンBOWを取り巻く現用なのである。
で、だとすればそれについては、この場に居る俺と精霊様の中に解決策が存在しており、高い確率でその必要なものを提供することが可能な状態であるといえよう。
早速新室長に対し、つい先程滅ぼして来た邪教の、その信者である元は比較的スペックの高い人間について、合法的……ではないが、かなり批判を受け辛い、人権に関する指摘等を回避することが可能な感じで、相当数を利用することが可能だと伝えてみる……
「……ふむ、元々は高学歴でハイスペックで、実家も裕福でそれなりの力を有しているはずの者が、どういうわけかゴミのような教祖が作ったゴミのようなカルトに心酔して……ということなんだね?」
「そうなんだ、そいつらを大々的に使うと、色々と問題が起こりそうだがな、一応犯罪者じゃないんだし」
「そうか……いやちょっと待って欲しい、それはもう犯罪者なんじゃないのか? カルトなんぞ、もし自分が洗脳されていたとしても、それを他に推奨したり、場合によっては押し付けたりもするはず」
「あぁ、宗教勧誘でやって来る例の奴等な、来たら確実にしとめるようにはしているがな」
「そう、もうそれと一緒だ、その連中は被害者ではあるが、同時に加害者でもあるんだ、そもそも考えてごらん、『邪教の信徒』なんぞ、どんな理由があれ『掃除すべきゴミ』じゃないのか?」
「この女の言う通りね、アレに気を使う必要はないわ、もう教祖とか幹部とかと一緒に、思い切って全部チーンBOWにしちゃいましょ」
「……まぁ、精霊様がそう言うのであればそれで良いのかも知れないが……うむ、そうしようか、もし文句を言う奴が居たら殺せば良いんだし、そもそもその連中の自業自得なんだからな」
なかなかハードな事態であるのだが、俺が有していた『カルトに嵌まってしまった者は助けないと(助ける素振りを見せないと)』という感覚が、この世界では特に必要のない、踏まなくても良いステップであるということがわかった。
もちろん、助ける素振りを見せたところで、最終的な結果、つまりあの信者連中がチーンBOWとして、その必要のなくなった命を俺達に利用されるということは変わらないのだが。
だがその『助ける素振り』の過程をパスすることによって、かなりの時間の短縮と、必要となるコストの削減が見込まれるのもまた事実。
俺達が既に捕らえている教祖とその他の幹部を上手く使って、信者がそれと同じような、最新型のチーンBOWへと、自発的に改造を受けることによってなるように仕向ければ良いのだから……
「よし、そうと決まったら精霊様、すぐにあの教祖だの何だのをここへ運ばせることとしよう」
「そうね、ちょっと良いモノをあげるから待っていなさい、きっとこれから運ばれて来る馬鹿共が、そのチーンBOW軍団を指揮するチーンBOWリーダーとなるはずよ」
「わかった、ではそれを用いて研究、というよりももう実証だな、とにかく全力で進めていくゆえ、ひとまず明日まで待っていて欲しい」
ということで新チーンBOW軍団の組成に期待を込めつつ、翌日の朝には来るというアポを取って研究所を出る。
この方法であれば、『教祖が勝手にやった』とか、『信者の意思でこうなった』ということで、あの連中をチーンBOWにしてしまうことにつき、何かこちらの関与があったと思わせない手法を取ることも出来るであろう。
あとはそれを、王都内に侵入し始めた新型、『弱点付き』にぶつけて効果を確かめるのみだ……




