1040 改造版を
「……てことなんだよ、いけそうかその工事?」
「おう勇者殿、いけるにはいけるが……さすがの俺達でもそこそこの時間が掛かるぞ、まずその何だかわからないグレート超合金とやら、それを探す冒険から始めないとならないからな」
「あ、やっぱ知らないんだなグレート超合金、俺も見たことがないんだよ実際、てかホントにあるのかそんなもん?」
「というか勇者殿、その金属の存在はどこで知ったんだ? それによって探す場所が変わってくると思うのだが」
「あ、え~っと、どこだったかな……すまんが完全に忘れたぞ、そっちでどうにかしてくれ」
「おうっ、少し時間が掛かるとは思うが任せてくれ、この世界に存在するものであれば確実に発見するし、もし存在しないのであれば創造しようではないか、それが俺達の役目だからな」
「後者は神に任せた方が良いと思うぜ」
極めて適当な感じではあるが、このゴンザレスという男は確実にやってのけるタイプの男であり、基本的に失敗はしない。
失敗があるとすればミッションの途上であり得ない次元の敵と遭遇して敗北し、全身を強く打ってグッチャグチャにされるぐらいだが、その程度であればすぐにボディーを再生し、ミッションの方も修正を掛けつつ時間内に達成することであろう。
だが、今回はそんな期待出来る男の口から『時間が掛かる』という言葉が出ていて、そしてこれまでで初めてではないかと思うような、終了までのおおよその時間が告知されていないという状況。
普段、爆発炎上した屋敷を再建してくれなどの簡単な工事であればの話だが、もう呼んでお願いしようと思ったときにはやって来ていて、既に工事が完了していることさえあるこの男とその仲間の筋肉がアレすぎて気持ち悪い人達。
そんな連中であってもミッションの達成がいつになるのかわからないということは、かなり難易度の高い、普通の業者ではその場で匙を投げるような工事ということ。
まぁ、『グレート超合金』なる未知の金属を発見するところから始めて、その建材の全てに時空を歪めるコーティングを施して、しかも変形合体する100階建ての高層ビルディングに改装するのだから、並大抵の努力では完成に漕ぎ着けることが出来ないのもわかることだが……
「では勇者殿、俺達はその何とやらを探す旅に出るゆえ、留守中は王都の守りを固めておいてくれっ」
「わかった、戻ったら俺達に……いや、王宮にでも連絡しておいてくれ、ウチにそんなヤバそうな超合金を持って来られても困るからな」
「ハッハッハッ、確かにその何とやらはかなりの重量を持っていそうな名前であったからな、とにかくその何とやらを見つけ次第、王宮へ運んでおくぞ、ではっ!」
後半、目的物であるグレート超合金について『何とやら』としか言わなかったごゴンザレスであるが、名称の方は本当に記憶しているのであろうか。
その辺り、あの男なら大丈夫だとは思っているが、この暑さなので何が起こるかわからない。
いくら最強クラスの人間……ではなく生物だとしても、灼熱の太陽の下でオーバーヒートして頭がダメになっているかも知れないのだ。
まぁ、そこは部下として後ろに控えていた、いかにもクールそうなツルツルのヘッドをした連中が、1人ぐらいはしっかりとその名称を覚えていてくれることであろう。
そのように期待しつつ、今はゴンザレス一行の帰りを待つ他ないということで、一旦屋敷へ戻ることとした。
と、俺が戻って早々、皆は出掛ける準備をしているではないか、このクソ暑い中一体どこへ行こうというのだ……
「お~いっ、どこ行くんだ皆、門の前で待っているってことは、用意された馬車で行くってことか?」
「えぇ、今のうちに次の物件を探しておきましょって話になって、あの不動産屋さんの所へ行くの、まだまだ建物は必要だし、勇者様も行く?」
「うむ、そうだな……面倒だが俺も行こう、行かない仲間は……上でゴロゴロしているのか、だらしない奴等め」
「勇者様には言われたくないと思いますよ、あ、馬車が来ました、今日はとりあえず調査だけにして、実物を見に行くのは明日以降にしましょう」
『うぇ~いっ』
ということで最初と同じ不動産屋へ、この動きは最後、つまりグレート超合金の居住型変形合体ロボが完成するまで、何度となく繰り返すことになりそうだ。
その2周目の始まりである馬車の中で、改めて仲間達にその『グレート超合金』について話を聞く。
ミラも、そしてユリナもサリナも知らないではないか、もちろんセラは何のことだかわかっていない。
今回は精霊様が来ていないということもあるが、もしかしたら精霊様が知っているかもだな。
というか、精霊様が知らないような物質であれば、それを発見するのは極めて困難なことだ。
その場合、女神を呼び出してこの世界に顕現させ、神界に対して必要な数だけ発注させることとしよう。
もし精霊様が知らないような希少で、かつ存在感のない物質であったとしても、女神であればどうにかするはず。
……いや、超『合金』であるがゆえに、もしかしたら自然界には存在しないような配合のもので、人工的にどうにかしないとならない性質のものなのかも知れないな。
だとするとゴンザレス以下筋肉団の面々には申し訳ないことをしてしまった、今頃は絶対に見つからない、存在しない金属の鉱石を求めて、この世界の陸地と海底とを問わず、全力で探し回っていることであろう……後で全員分のプロテインでも送付しておこう、もちろん国の金を用いて購入するものだが……
「……っと、そんな話をしている間に着いてしまったな、グレート超合金の話はまた後に、精霊様が居るときにしようぜ」
「そうですわね、今はとにかく次の不動産の情報を集めておかなくては……と、店内に物体らしき何かが居ますの」
「ん? 普通の客じゃ……ないようだな、上半身だけどこかのヒーローみたいになってんぞ……」
人間という存在の認識を誤り、縦にハーフ&ハーフで登場した物体ならば見たことがあったのだが、今回はまた違うタイプの間違いを犯した物体であるようだ。
不動産屋の店主は冷や汗をかきながら、憲兵に通報するタイミングを狙っている様子だが、残念なことにそれは通常の不審者ではない、そしてそれに気付いていない様子。
まぁ、パッと見では何というか、ヒーローショーで使うありきたりな『レッド』の着ぐるみを、なぜか上半身だけ装備した感じの明らかにおかしな人であるから仕方ない。
下はなぜかパンツ一丁だし、どうやったら通報されずにここまでやって来られたのかと、そのことを疑いたくなるような風貌であって、それをおかしいとも思っていないような素振りで不動産屋と話しているのがまた滑稽である。
ちなみに、近付いても人間らしい、そして変質者特有のオーラを感じることがないため、コイツが物体であるということはその時点で確定だ。
あとは物体である旨の指摘をしてしまわないよう、もちろんその他の余計な刺激も与えたりせぬよう、とにかくトリガーを引かないように、物体が物体の本性を現さないよう取り計らうのみ。
そのためにはまず通常通り不動産屋に……店主がチラッとこちらを見た、すかさずミラが『そのまま続けて』の指令を、何だか良くわからないジェスチャーを用いて送信する。
……どうしてかは知らないがわかってくれたようだな、視線をその変質者の方へと戻し、再び不動産屋としての会話を始める店主。
俺達も急ぎ、不動産屋の店舗内に一般客を装って入ると、まずは普通に興味を持った振りをしつつ、その明らかにおかしな物体に話し掛けた……
「よぉ兄ちゃん、今日はどうしたんだ? お部屋探しなら良い物件を知っているぜ、地下で、しかも鉄格子付だけどな」
「……黙れ悪の味方が! 正義は我にありっ! 去らぬと成敗するぞっ!」
「悪の味方って、またそうそうないような言い回しを……お前、『人として』何なんだよ一体?」
「去らぬか、だとすればもう処分の対象、このライダーを怒らせたこと、地獄で後悔するが良い」
「ライダーだったんだ、もっとこう、アレかと思ったぞ、ほら、集団で粋がるタイプの5人組とか」
「正義の権化、このライダー様がそのような卑劣なマネをするとでも思ったかっ! もうお喋りはお終いだ、貴様の顔面に跨ってくれるわっ!」
「顔面なのかよ、とんでもねぇライダーが現れたもんだな……」
パンツ一丁で人の顔面に跨ると宣言した物体顔面ライダー、もし人間であったとしたら凄まじく不快であって、直ちに通報しなくてはならない案件なのだが、物体である以上その動きを分析しておきたいところだ。
飛び上がったライダーの狙いは俺であり、仲間達を危険に晒すようなことはないようだし、このまま様子を……見てはいられないな、さすがにキモすぎる。
と、おそらくこの攻撃だが、人型物体がする『あの部分が伸びる攻撃』を改変したものなのであろうな。
それに元々……ではないが、通常の物体が有していたジャンプ攻撃を組み合わせたハイブリット攻撃だ。
もちろん通常の人間がそれを喰らえば、変質者に跨がれてしかも分解され、その不快な部分から吸収されてしまうという最悪のエンドを迎えることとなる。
俺はそんな目に遭うつもりはないため、聖棒の代わりに所持していた時空を歪めるコーティング物干し竿で一撃、とんでもない所に突きを喰らわせてとんでもない目に遭わせてやった。
静かに消滅していく物体、あっという間に人間の姿をキープすることが出来なくなり、そして尋常でないほどの勢いで、急速にそのボディーを萎縮させていったではないか。
いや、さすがにこれは効きすぎだ、とんでもない所を突いたとはいえ、さすがに攻撃の効果が大きすぎる。
まるで人間に対して急所を突いたかのような……もしかして本当にそうなのか?
「……なぁ、今のってさ、確実にアレだよな、ほらアレ」
「見たくもない光景だったぞ、まさかあんな変質者のあの部分をアレしてしまうとは、主殿はかなり勇気があるな」
「いやそうじゃなくてさ、間違いなく『クリティカルヒット』していたよな? これまでにはなかった効果が得られていたぞ」
「あっ、そういえばそうですわね、これまでそういうヒットの類は出なかったというのに……人型を取って、それに近付いてきたことによって初めて『弱点』が出てきたということ……かも知れませんわね」
「じゃあもし『勇者様が』今の攻撃を繰り返せば、あの程度まで変化した物体であれば容易に討伐することが出来るということですかね? 『勇者様が』やればの話ですが」
「いやちょっと待て、さすがにあの攻撃はイヤだぞ俺は、もしそれで人類が勝利するとしてもさすがに無理だ、別の策を考えてくれ」
変質者型の物体、ライダーだと名乗るそれが顔面を狙ってライディングしてくるのを見計らい、その人間であれば大変に貴重な部位を棒で突くという行為。
たとえそれが攻撃であって、物体を消滅させるのに最も適した方法であるとしても、率先してやって以降とは思えないし、誰もやりたがらないことであろう。
だがこの弱点の出現によって、しばらくの間は物体を押さえることが出来そうな、そんな予感もする。
この機構の搭載が誤りであったことを物体が認識し、その変化を取り止めて修正するまでの間だけだが……
「でもね、アレが弱点である以上はやるしかないと思うのよ、確実に狙い目なのよ、わかる?」
「わかるにはわかるが……と、今は不動産の話をしよう、おっさん、さっきのリストの中で『次に悪い金持ち』はどれだ?」
「はっ? あ、え~っと、こいつかな、変な地下組織のカルト邪教団を運営して荒稼ぎしている馬鹿で……それで、さっきのは……」
「さっきのは物体です、ここも不動産屋さんである以上、いつかは狙われると思っていましたが、とにかく普通のお客さんのように対応していれば、当面はそれで大丈夫なんじゃないかと思います」
「そ、それなら良いんだが……変質者すぎてもう何を言って良いやら、アレ以上の者も出現するってのかね?」
「えぇ、縦にハーフ&ハーフの人間が出現したり、広場で見たかも知れませんが、知り合いのようであって何だか知らない激デブであったりなどしますから、ここは注意が必要です」
「・・・・・・・・・・」
さすがにビビッた様子の不動産屋ではあるが、王都内に数あるその業種の全員を守り通すことは困難である以上、そうやって自己防衛して頂く以外に道はない。
で、次の不動産については場所と見た目だけ確認して、明日以降にその権利を獲得していくということで、まだまだ使えるこの不動産屋には、物体にやられてしまうことがないようにと念を押しておく。
まぁ、あの攻撃的な変質者タイプの人型物体に対して、通報しようとハしていたものの冷静に、どうにか対応し切ったのだから、このおっさんについては安心しても良いかと、そういったところだ。
「さてと、帰ってどうするか? まだ何かやるべきことがあるか?」
「ご主人様、もうあの黒い武器のストックがあまりないです、研究所へ行って箱で貰ってこないと」
「っと、そうだったそうだった、あの武器は使い捨てなんだよな残念なことに……でも徐々にグレードアップしているんだ、耐用期間も長くなってきているような気がするからな」
「えぇ、そろそろ2週間とか1ヶ月とか、そのぐらいは使えるものを出して欲しいところですね」
「まぁ、それはまだ求めすぎだろう、1DAY使えるようになっているだけでも画期的だよ」
などとコンタクトレンズ感覚で物体対策における唯一の武器である時空を歪めるコーティングを施されたものについて論じる。
これは研究所においてもなかなかのヒット作と言えるのではなかろうか、他にも色々と便利な兵器や日用品を開発してはいるはずだが、ここまで『数が出る』ものはなかなか出てこないであろう。
それと、この時空を歪めるコーティングを施した武器以外に、その研究室では物体を召喚出来ることが判明したり、その物体とコーティングとが、元を同じにしている可能性が示唆されたりと、なかなか成果を挙げているというのが現状。
そんな大成果の中で唯一失敗してしまったのは、まさかの人型物体の出現によって敗北し、単なる餌にされてしまった『チーンBOWの人々』である。
ハゲ室長……ではなくフサ室長渾身の作ではあったのだが、見た目がキモいのと動きがキモいのと、あと存在そのものがキモいのとで、その後チーンBOWに関する研究はあまり進んでいないらしい。
……いや、今は王都に人型物体が侵入し、それによってかなりの被害が、不動産屋を中心に出ている段階、つまりあの森での戦いのフェーズは終わったのだ。
もしかしたらだが、あのチーンBOWの人々をさらに改造することによって、この状況に比較的対応出来る、そして物体に対して新たに付加された要素である『弱点』を叩くことが出来るようになるのではないか。
そうとなれば単に研究所へ行くだけではなく、そこでフサ室長に掛け合って、少しで良いからチーンBOWの研究を、もう一度前へ進めてくれと要請する他ない……
「カレン、リリィ、すまないが研究所へ行ったら、全員分の武器を受け取って、そのまま馬車をチャーターするなりして帰還していてくれ」
「ご主人様はどうするんですか? 1人だけ買い食いとかするのはズルいですよ」
「しねぇよそんなもん、研究所にちょっとだけ用があってな、精霊様辺りも連れて行こうか」
「えぇ、何の用があるのかは知らないけど、暇だから付いて行ってあげるわ、つまらない内容だったら即帰るけど」
研究所へ到着した俺達は、そういうことで武器の調達班とそれ以外とに分かれ、俺とルビア、精霊様の3人で上階の研究室へと向かう。
他にも仲間が来るかと思っていたのだが、今日はマーサの元部下であるマトンが出勤していたため、そちらに注意が行ってしまった者が多かったようだ。
俺はマトンとは挨拶程度に済ませて、そのままフサ室長の研究室に直行した……のだが、肝心要の本人が居ないではないか、もしかして休みなのか?
「おいそこの研究員、フサ室長は?」
「元室長ですか? 元室長ならもうとっくに出世してしまいましたよ、あのガラクタを残して」
「なんてこったあの野朗、ちょっとハゲが治ったからって調子に乗りやがって、すぐに呼び戻せっ」
「いえ、何だか知りませんが、後任を指名していたものですから、もうすぐその方が赴任して……確か今日でした、待っていればそろそろ来るかも」
「そうなのか、じゃあそいつに期待しておこう、ん? 何だ精霊様」
「もしかしてあんたさ、あのチーンBOWをさらにグレードアップして使おうとか思っていない? ここまで話しが進んだ以上、もうあんなものはガラクタよ」
「いや、まだいける気がするんだ、あの飛び上がって跨ろうとしてくる人型物体顔面ライダーに対してのみだがな、なぁルビア?」
「チーンBOWって何でしたっけ? おかしな名前ですね……」
お前はもうそんなことさえも忘れてしまったのかと、呆れ果てつつ改めてチーンBOW説明をしておく。
比較的滞空時間が長いあの物体の攻撃の最中を、その股間のBOWで狙うことが出来ればという考えも同時にだ。
馬鹿なのではないかと、その程度のことはチーンBOWでなくとも出来るであろうと笑う精霊様に対して、更なる力説をしていたところで……研究室のドアが開いた。
そして入って来たのは眠そうな目をした髪の長い若い女性、白衣を着込んではいるが、あのフサ室長のようにやる気に満ち溢れている感じはない。
これは『常にやる気感じられない系天才美人科学者』の類だ、ズボラでグダグダしていて、まともに会話が成り立たないこともあるが、それでも能力の方は一級品なのである。
ひとまずコンタクトを取り、この部屋の隅に打ち捨てられたチーンBOWについて話をしよう……




