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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1038 基本的対応策

「オラッ、早く読書に戻れっ、痛い目に遭いたくなかったらサッサと読解するんだ、もしサボっていたりしたらわかってんだろうな?」


「後ろに竹刀をもって立つのはやめなさい、気が散るし、もっとこう、あるじゃない? 監視する方法とかって」


「じゃあ修行僧みたいな感じでいくか? でもあの坊さんの叩く奴はないからな、竹刀と鉄パイプ、あとはバールのようなモノか……どれが良い?」


「殺傷力が高すぎて何も言えないわねもう……とにかくやめなさい危ないから」


「しょうがない、じゃあさっき道端で拾った伝説の釘バットで妥協しておいてやろう」


「・・・・・・・・・・」



 亜空間で発見された物体関連書籍のうちのひとつ、『物体に滅ぼされた』というどこかの世界の、しかも一番最初に殺されたような奴がどういうわけか口伝したというその世界の末路について記載されている大変怪しいもの。


 もちろん内容については多分にフィクションが含まれている、というかほぼほぼ創作なのであろうが、その巻末に『有識者のコメント』として入っているという、どうすればその世界が物体によって滅ぼされることなく存続することが出来たのかという記述、これが気になるところである。


 だが俺にもその他の仲間、精霊様にでさえ読むことの叶わない、その謎の言語で記述されている書籍を、唯一読解することが可能な魔王に全て頼るしかないのが現状。


 必要な部分を面倒だからといってスルーしていたことについてはかなり腹が立つのだが、ここで当人の機嫌を損ねるのはあまり芳しいことではない。


 へそを曲げられ、ウソを伝えられたりしたら大事であるし、自分がどうなっても構わないという思いの下、その作業を拒否されでもしたら完全にそこで終わりなのだ。


 ゆえにどこにでもあるような、ごくありふれた伝説の釘バットで脅迫するに留め、魔王にはその巻末付録だかコラムだか何だか知らないが、とにかくその部分の記述ををわかる言葉で俺達に伝えるよう要請した。


 巻末のちょっとしたものとはいえ、そもそもの書籍がなかなか分厚いものであって、おそらくそのコメントか何かも、俺達のような物体に対処出来ていない者ではなく、もはや物体ガチ勢が書いたものであろうから、その内容は極めて専門的で難解なものなのであろう。


 それを一字一句、たまに前のページへ戻ったりもしながら精読していく魔王……ちょっかいを出したいところだが、これは重要な作業であるゆえ勘弁しておいてやるべきか。


 そのまま静かに待っていると、徐々に読解が進み、何人かの仲間が布団に引き篭もった頃には、魔王も1人でウンウンと頷きながらそれを読んでいるような状態へと移行した……



「……どうだ、そろそろ何かわかってきたか? ここまでの要約でも良いから教えて欲しいんだが」


「そうねぇ、まずはやっぱりあのコーティングされた真っ黒な武器を使うのが理想だそうよ、魔力とかが一般的じゃない世界では科学的に作成するらしいけど、この世界であればそれは問題ないわね」


「うむ、今も研究は進んでいて、日進月歩でどんどん良いモノが出来上がっているはずだ……で、それをどうすれば良いんだって?」


「時空を歪めるコーティングを施した地雷を敷設、同じくコーティングを施した非人道的な兵器を空中から投下、コーティングを施した鎧を纏った兵士を突撃させて、コーティングを施した爆雷をもって自爆すべし……とか何とかよ」


「なるほど、とにかく効率良くコーティングされた攻撃を物体に届ければ、それはそれで効果があると……それを俺達の高すぎる攻撃力と掛け合わせれば最強だな」


「えぇ、こと勇者が存在する世界においては、そのパーティーがそれぞれコーティング武器を持って突撃を……物体城ひとつと相打ちして伝説となるべし、だって」


「死なせてんじゃねぇよ、直ちにその有識者を殺せ」


「知らないわよどこの誰だか……あ、それと物体城はやはり最終的に変形合体して襲ってきた、直接、世界の中心にその究極バトルモードで足を踏み入れたのだ……みたいな記述もあったわね、本文の方だけど……で、それに対抗するためにはみたいなのがここから続いているから、ちょっと待っていなさい」


「へいへい、じゃあ引き続き頑張って読んでくれ……居眠りをしたら承知しないからな」



 物体城が複数出現した時点でそんな気はしていたのだが、やはりあの城は変形して動き出し、合体して超巨大要塞ロボに変化するようだ。


 これはどこの世界においても同じことであり、そういう系の建造物は確実に変形し、戦闘をこなすものとなるのが決まりである。


 もちろん俺や魔王が元々居た世界においても、日常的にそのようなことが起こって……はいなかった気がするな、もしかしてあの世界、相当に特殊な部類にあったのではなかろうか。


 まぁ、魔法さえ存在していない時点でもうお察しなのだが、あの世界には夢も希望もなかったということだ。

 あったのは生涯に渡る過酷な労働と、それには見合わないほどに低廉な賃金のみ……上級な人々にとってはもう少し違った風に見えていたのかも知れないが。


 それはともかくとして、今はこちらの世界、今現在物体によって危機に瀕しているこちらの世界のことを考えるべき時間である。


 うつろうつろと居眠りを始めた魔王を小突きつつ、早く内容を確認して、それを俺に伝えろと急かす。

 本当にノロマな奴だ、このままだと夜が明けるどころか年が明けてしまうではないか。


 既に飽きてしまった仲間達の大半はもう布団の上に転がっているが、俺と精霊様、それからわけがわかっていない分際で無駄に興味を示しているマーサの3人が、魔王の周りを囲んでその『読書』を眺めている。


 しばらくしてパタンと書籍を閉じたと思えば、大きな溜め息を付いてこちらを向く魔王……ようやく読破したということだな、早速内容を伝えて貰うこととしよう……



「……色々とわかったわ、結局のところ変形合体ロボには変形合体ロボで対抗するしかないみたいなの、普通に戦っても、巨大な城が融合した超巨大起動物体要塞には敵わないってことね」


「というと……こちらは何で変形合体ロボを造ったら良いんだ? 王宮を使うか? ちなみにお前の魔王城はもう物体の本拠地に成り下がっているから使えないぞ」


「あら、そんなの使わなくても良いじゃないの、ほら、このお屋敷を改造して変形合体ロボにするのよ」


「ざっけんじゃねぇっ! 何考えてやがんだ全く、だいいち超巨大物体城が掛け合わさったブツに、こんな貧乏貴族が寂しく暮らしていそうなしょぼくれた屋敷で勝てるかよ、いくら変形合体したって無駄だぞ質量的に」


「そこを大々的に改修するのよ、最低でも『時空を歪めるコーティング済みグレート超合金造陸屋根100階建』ぐらいにはしないと」


「固定資産税もグレートだよそんなもんっ! 秒で破産するっての、まぁ税金払ってねぇけどさ、でも維持費だけで飛ぶだろ、一生働いても返せない借金……てか誰も金なんか貸さねぇよそんなもんに」


「大丈夫、○○○銀行なら書類を偽装してでも貸してくれるわ」


「詐欺的スキームやめろ」



 ひとまずグレート超合金造の戦闘型投資マンション(詐欺)は諦めるとして、どこかの、可能であれば巨大な建物を改造して、変形合体ロボに……合体……


 ということは複数の建造物を変形が可能なように改造し、それが空中で合体して良い感じに戦闘形態になるようなものを、何の科学技術も有していない剣と魔法のファンタジー世界で実現しなくてはならないということだ。


 ナイスな提案をしたと自負し、コロコロと転がっているマーサの耳を引っ張って遊んでいる魔王の耳を、引き千切れるほどに引っ張ってやりたいと思ったのはこれが初めてではないが、今まで以上に腹が立つ感が否めない。


 とにかく近いうちに候補となる物件を探し、それを、いやそれらを変形合体させるための許可を得たり、業者に頼んで設計図を出させたりなど、色々としなくてはならないな。


 まずは不動産屋に行って、どんな物件があるのかを見に行くのが第一段階で……と、もしかして物体共め、この作戦が敢行されることを警戒し、予めこちら側の拠点である王都の不動産屋を落としにきたのか?


 だとしたら相当に高度な作戦だと思わざるを得ないが、これは偶然ではないような気がしてならない。

 いずれも未だにパニックとなっているであろう王都の不動産屋に、それだけの物件を探す余力があるのかが微妙なところだ。


 ……というかそれなりの物件自体、王都には存在していないかも知れないな、そうなると新たに建造する以外に方法がないのだが、それをするにしても不動産屋に頼んで、その変形合体ビルディングが普段の所在地とする土地を確保しなくてはならない。


 結局不動産屋頼みににはなりそうだが、その前にこちらで、王都にはこの作戦に適した建物があったのか、そしてあったとすればどこなのか、その辺りを詰めていくこととしよう……



「う~ん、やっぱり王宮じゃないかしら? そこそこ大きいわけだし、もしダメになってもまたすぐに元通りでしょう? それなら有効活用すべきだと思うのよね」


「いやぁ~、もしだぞ、王宮をメインにしたロボで戦ってだ、一時的にでも敗北したらどうだと思う? 人々がそれを見た際に受ける衝撃は計り知れないぞ、完全に終わった感が凄いじゃねぇか」


「そうねぇ、ならやっぱり王都の端にそれなりのものを建造するべきかしら? 国のお金で、もちろん使い終わったら私が貰う感じで」


「良いけど精霊様、固定資産税払えよな自分で」


「あんたに言われたくはないわよ、でも予めマンションにする予定で作って、仮の内装はダンボールベッドにしたりして……」


「あ、ちょっと待って今見つけた、この本によると、変形合体する建物は区分建物でない建物じゃないとダメなんだって、だからマンションはアウトね、それから所有権の保存登記をする必要があるみたい、表題登記だけだと戦闘力が半減して、それもしていないと起動しないし、最悪金貨10万枚以下の過料だそうよ」


「何だその超高額な過料は、違法かつ不当だろそんなもん……しかもいちいち面倒臭せぇな」


「マンションがダメとなると……終わりね、場合によっては莫大な負債を抱えるかも、私は降りるわよ」


「金の問題で降りてんじゃねぇよ、世界の危機なんだからさ」



 結局話し合いはグダグダになってしまったのだが、ひとまず方向性はきまったということでその日は終了にした。

 魔王はそのまま寝てしまったため、タオルケットを掛けてそのままにしておいたが、朝起きたら忘れずに牢屋へ叩き込んでおかなくてはならない。


 しかしせめて屋敷以外で、あと可能であれば王宮以外を用いて、その変形合体ロボをどうにか調達する必要があるということか。


 少なくともそのような利用目的では誰も不動産を貸してくれはしないであろうし、ここは国家権力に頼って接収するなど、大技を使うことになってしまうかも知れないな。


 とにかく明日、王都の中でまともに稼動している不動産屋を探し、そこでさらに『使えそうな物件』を探すこととしよう……



 ※※※



「……ということなんです、借家を改修して他の建物と合体して、しかも戦闘によって全部が滅失しても一向に構わないという大家さんを探しているんですが……居ませんよねそんな殊勝な心がけの人は」


「あのねミラちゃん、後ろのおかしな勇者に何を言わされているのかわからないけどね、もう少し常識で物事を考えるように言っておいてくれないかね?」


「無理だと思います、勇者様の知能ではそのようなことを理解することは出来ませんから」


「・・・・・・・・・・」



 何だか知らないが、ミラが時折バイトをしているという、物体による襲撃時には比較的安全なエリアにあった不動産屋のおっさんに呆れられてしまったようだ。


 さすがに要求が過ぎたか、もう少しハードルを下げて要求していかないと、いきなりこの内容では断られてしまっても仕方がない。


 それはわかっているのだが、その過大な要求が既に『最小限必要なもの』であるため、ここでクオリティを下げてしまうわけにはいかないのである。


 いや、最悪変形合体のうち『合体』の部分については諦めても大丈夫か? 当初から巨大な建造物であれば、特に他の建物と合体しなくとも、どうにか物体城と渡り合うことが出来るかも知れない。


 というかそもそも建造物を変形合体して戦う意味がどこにあるのかと、今更ながら疑問に思う。

 普通にそれなりのゴーレムでも作成すれば良いのではないか、むしろその方が普通なのではないかと、ここにきて初めて気が付いてしまったではないか。



「なぁ、ちょっと思ったんだけどさ、その、不動産じゃなくても普通にロボ造ったら良くないか? 何で建物が変形合体する必要があるんだよ?」


『いや、普通は建物でしょ』


「全員でハモるなよな……わかったよ、もうわかった、建物を借りるか購入するかして、それを改築……というか性質を根本的に変更してロボにするんだよな……」



 どうやら建物が動き出し、変形合体して戦うのはあまりにも常識的なことであって、それ以外の手段というのが思い付かないほどに定着してしまっているらしい。


 まぁ、魔法によって何もかもどうにかしてしまっているこの世界においては、そのぐらいの『ロマン溢れる事柄』など通常なのであろう。


 むしろこれだけ長い間この世界に居て、それを理解していない俺の方がその人格を疑われてしまうのは言うまでもない……で、問題はその建物の調達なのだが……



「う~ん、どうしましょう勇者様、さすがにそんなアホでドMな大家さんは居ないみたいですよ」


「だろうな、そんな気がしていたぜ、じゃあどうするかって話だが……おい不動産屋、この近くに悪徳貴族の屋敷とかはないのか?」


「……逆にその条件だとありすぎて絞り込めないんだがね、悪徳じゃない貴族なんてそうそう居ないと思うし、この近辺でデカい屋敷を持っているのはだいたいそうだよ、庭に噴水があるのがそういう貴族の特徴だね」


「そうかもちろん庭に温泉があるけど貧乏な俺達は含まないよな?」


「あぁ、ファック爵だったかな、そんなろくでもないのは貴族にカウントしていないから安心してくれ」


「何かムカつくな……で、その悪徳貴族のうち、代表的な連中で良いから数人教えてくれ、ちょっとそいつらの屋敷を『内覧』しに行くからな」


「あぁ、それならちょうど良いのがあるよ、えっと……」



 資料を探した不動産屋のおっさんが持って来たのは、ついこの間までこの不動産屋で『社会勉強』として働いていたうぇ~いな奴の実家だという伯爵の館。


 そのうぇ~いはいきなり押し付けられたうえに、初日だけで10回以上のバイトテロをやらかし、飽きたとのことで3日目にブッチしたというトンデモな野郎であったそうで、もちろん見つけた際には殺しても構わないとのこと。


 王都ではここのところ、わけのわからない貴族が平民の店で子弟を働かせ、やたらに迷惑を掛けるという事案が頻発していたようだが、物体事変のせいでそういった話も途絶えてしまった。


 まぁ、また平和になった際には復活するようにして湧いてくるであろう、もちろんそれと関連があるのかないのか、魔王を暗殺して新しいものに挿げ替えようとしたり、勇者である俺を直接狙うような馬鹿共もだ。


 で、不動産屋からファイルの中にあった資料を受け取ってそれを見てみるのだが……ふむ、伯爵家だけあって敷地はなかなかの広さだな、建物もそこそこ使えそうである……



「ふ~ん、この真ん中の邪魔な噴水を撤去すれば、この建物の位置から正門までまっすぐ、かなり距離が取れるわね」


「だな、ブチ壊して整地して、本体が飛び出すための滑走路にしようぜ」


「良いわね、じゃあこの東屋みたいなのは発射して敵を爆撃するための装置に……」


「ちょっと、勇者様も精霊様も、適当なこと話していてもしょうがないわよ、まずは現物を見に行かないと始まらないわ」


「そうだな、ちなみに不動産屋、この伯爵? か何かのプロフィールはないのか? 子弟の1匹がうぇ~いだってことは良くわかったが、それ以外についてどこがどれだけ悪辣で死んだ方が良いのかとか、今のうちに知っておいた方がブチ殺すときに楽だからな」


「それならこちらですな、私の『恨みノート』の写しを差し上げよう、この貴族には散々な目に遭わされたからね……まぁ他の貴族もそうだが、いつか糾弾しようと思ってこうやって書き留めているんだ」


「マメだし、凄く陰険だな、まぁ役に立つのであれば何でも良いが」



 ということで不動産屋から受け取った『恨みノート』の写し、どうやらこの貴族、馬鹿を社会勉強だと称して送り込むこと以外にも、かなりの数の不当要求を繰り返してきたようだ。


 顧客リストの提出の強要、使用人向け宿舎の見返りなき提供の強要、金銭の強要に自宅を無料修繕する業者の紹介の強要……暴力団よりも質が悪いではないか。


 これであれば安心して、この屋敷……いやもう城に近いな、とにかく本人を発見し次第全財産の引き渡しを要求、渋るようであれば痛め付け、最終的にはブチ殺して死体を広場で晒してしまっても良さそうである。


 早速その貴族の屋敷、王都の南側の比較的金持ちが生息しているらしいエリアの中心にあるというその邸宅を目指して移動を始めた。


 付近へ行くとすぐにそのターゲットが見つかる、他の建物とは明らかに雰囲気が違うのだ。

 門番も立っているし……ちなみに物体ではないことは確認済みである、今はもう、どこのどいつが物体に置き換わっているかわからない状況だからな。


 で、その門番はもしかしたら良い人なのかも知れないため、先ずは通常通り、普通に用があってやって来たその辺の勇者感を出して接近することとしよう……

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