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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1036 合流

「さてさて、どこへ行くんでしょうか物体さんは? お家ですか? それともお買い物ですか?」


「ルビア、接近しすぎだし、あと物体に話し掛けるのはやめておけ、余計な情報を与えてしまっているのかも知れないからな」


「だって暇なんですもん、それにほら、どうせ他の何かと出会う前に潰してしまうから、別に話し掛けても良いんじゃないですか?」


「う~ん、かなりやべぇ奴に見えなくもないからな、可能であればやめて頂きたいところではあるというのが実情だ……で、ホントにどこへ行くんだろうなそいつらは?」


「やっぱり王都に向かうんじゃないかしら? まっすぐそっちへ向かっている……わけでもなさそうね、相変わらず予想とズレているわ……」



 王都の北に鎮座する魔王城、いや旧魔王城と呼ぶべきであって、今はもう物体に支配されたゴーストタウンと、信じられないサイズを誇る巨大な天守閣と、そして数ある建造物の中に、突如出現したのだという物体の城。


 その物体で構成された城から弾き出されるようにして出現したいくつかの物体について、元々追跡して来たスタッフ3号君の代わりとして監視しているのだが、やはりどこへ向かうのかというのがまるで見えてこない。


 これが生物であれば、最短とは言い難いルートを用いてみたり、途中にある何かに気を取られる、例えばしばらく活用されていない、木の部分が腐り始めている俺達のドライブスルー専門店とか、あとはもう最初からどうしようもない感じである俺のプレハブ城だとかにだ。


 そういう行動を全くしないうえに、実に無機質な感じで移動を続ける物体であるから、俺達のような要著溢れる人間キャラ達にはその行動が理解出来ないのである。


 だがその向かう方角から、おおよその行き先は……というかもう王都の城壁に辿り着くコースではなくなっているのだが、本当にどこへ行くというのだこの物体共は……



「おいおい、揃いも揃って方向音痴なのかこいつ等は? 全然明後日の方角に向かっているじゃねぇかよ」


「わからんぞ主殿、このまま行けば王都の東門付近を通過することになるからな、もしかしたらあの付近の物体は、東の森林エリアではなくあの城のようなものから分離して、わざわざ遠回りしてそこへ到達したのかも知れない」


「……何のためにだ?」


「え? あ、まぁフェイクとか、あと防衛側の意識をそちらに集中させておいて、実は別働隊が機を窺っているとかそういう……違うか」


「違うだろうよ、物体が既にそこまで高度であったとしたら、俺達なんかもう太刀打ち出来ない状態になっているはずだぞ、さっきの城が変形合体して動き出したりするかもなその状況なら……いや、この流れだとありそうだが……」


「イヤな予感がするわね、さっきのほら、馬鹿旦那型の物体だって変形して究極バトルモードとかになっていたし、合体については元々物体が有している性質なわけだし」


「やべぇな、あんなモノが動き出したら王都は蹂躙されるぞ……でもその可能性は十分にあるわけだから、先に引越しの準備をしておこう」


「逃げてどうするのよ、てかどこに逃げるわけあの物体から、もうね、あんなのが起動したらこの世界はお終いなのよ実際」


「ひでぇなこの世界、ここのとこ月イチ以上のペースで滅亡の危機に瀕しているような気がするぜ」



 嫌な予感がしてしまう状況となったのだが、この世界においてそういう予感というものが杞憂であることはごく稀。

 きっとあの物体城は動き出し、今回の事案のラスボスとして俺達の前に立ちはだかるのであろう。


 だがその前に、その操縦者? となり得る人型物体について、もう少し変化のスピードを鈍化させるとか、その他の生物の吸収が出来なくなり、維持が難しくなるように仕向けるとか、そういったことをやれば、最終決戦が少しは楽になるのではないかという予想。


 結局あの城も、そして目の前を東寄りに移動している黒い塊も、ベースとなっているのは単なる物体なのだ。

 その討伐方法はこれまでと何ら変わらないし、時空を歪めるコーティング武器の登場によって、個々の戦闘においてはこちらがかなり有利な状況。


 あとはもう少し、文献などで(魔王が頑張って)知識を獲得すれば、あの城がやはり動き出したときにさえ対抗することが出来るのではなかろうか。


 まぁ、そこについてはそこそこに期待しつつ、バックアップとなるほかの作戦も考えることとして、そのための物体追跡、および行動パターンの把握を進めていくのが現状やるべきことだ……



「うむむむっ、もうちょっと右に行くみたいですね、これだと東の城門からかなり離れた場所を通過してしまいますよ」


「どこへ行くんだよマジで……ってこの言葉、もう物体を追跡し始めてから何度口にしたかわからんな」


「もう暑いです~、帰りたいです~」



 ずっと物体を追いかけて、広い王都の長い長い城壁をたどるようにして進む俺達、陽の光は燦々と照り付け、まるでオーブンの中にでも放り込まれたような暑さである。


 地面を這うようにして移動する物体はこれでもかというぐらいに真っ黒なのに、どうしてあれで焦げてしまわないのだと、逆にこちらが不安になるような状況だ。


 で、徐々に王都から離れつつも、やはり東の森林エリアには向かおうとしないいくつかの物体群であるが、ちょうど東門と森への入口を一直線に繋ぐ場所、街道の真上に停止したではないか……



「止まったわね、さてここからどうするつもり?」


「さぁな、良い位置に停止したし、仲間と合流でもするんじゃ……マジでそうするつもりらしいな、見てくれ、森の方からも物体がやって来たぞ」


「ホントね、数はちょうどこっちから来た物体と同じで、サイズも同じような感じでって、融合でもするつもりなのねきっと、2倍のサイズになって何かやらかすつもりなんだわ」


「だがそんなんじゃアレだろう、人型になったとしても怪しまれるだろう、たまに居るモヒカンとかスキンヘッドの強雑魚ぐらいだぞそんなサイズの人族は」


「じゃあ他に何があるの……ってほら、私正解! 融合したじゃないの」


「チッ、どういうわけかセラに負けるのは非常に悔しいな、後で仕返ししてやる……っと、おいっ、せっかく融合したのにまた分離しやがったぞ、どうなってんだよマジで?」



 俺達がここまで追跡して来た魔王城発の物体群は、東の森林エリアからやって来た同数の物体群と邂逅、それぞれがふたつでひとつの状態に融合合体し、倍のサイズの物体となった。


 だがその直後、いや直後というほどではないのだが、その倍の個体はもう一度分裂し、再び元のサイズの物体が元の数だけ存在している状態に戻ったではないか。


 もちろん既にどれが魔王城発のもので、どれが東の森林エリア発のものなのかを判別することは一切出来ない、全てが同じサイズの真っ黒なスライム型物体であるためだ。


 完全に入り混じった状態で、さらに動き回っているのだが、もちろんその集団がどこへ行くのかについても、まだ定まったような様子はないのであるが……と、また半々に分離するようだな……



「……結局何をしたんだろうな? くっついたり離れたり、せっかく邂逅したのにまた分離したりと、相変わらずパターンってものがないぜその行動に」


「どうでしょうか? 魔王城から来た物体がここで東から来た物体と情報を交換したとか、そんな気がしないですか?」


「おそらくマリエルちゃんの予想が正しいですの、魔王城の物体は王都で得た情報を掻き集めていて、それとは別の場所で集合している、おそらくは大きいサイズの物体、もうひとつの『大元』があって、それにゲットした人族の情報を伝えているはずですわ」


「そういうことか……と、半分は森に戻って、もう半分は王都に向かうみたいだな……なるほど、わざわざここへ立ち寄ったのは、情報を混ぜて均質化するつもりだったんだな、東の森林エリアにあるもうひとつの『大元』のために」


「でもさ、どうしてその『別の大元』のためにそんなことをしてあげるのかしら魔王城の物体城は? 関係ないじゃないの、そんな義理はないと思うんだけど」


「さぁ? 仲が良いんじゃないか物体同士だし、それか物体の成長と繁栄のみを志すようになっているとかな、そのためだったら全然関係のない、別所の物体とも必死で交流するとか、そんな感じなんだろうよきっと」


「う~ん、良くわからないわね……とにかく、どっちの物体群を優先的に始末しようかしら?」


「まずは森へ向かうものを仕留めた方が良いと思います、王都の方はまだ城壁を越える手間があるでしょうから、それよりも情報を東の大元に伝えられる前に……確認、しておきますか?」


「……またかよ面倒臭せぇな、今度はどんなのがお出迎えしてくれるのか、もう今から楽しみでしょうがねぇよ全く!」



 今度は東の森林エリアに鎮座しているであろう、もうひとつの『大元』を探しに行かなくてはならないことが確定した俺達。


 実に面倒であって、本来であればなかったことにして帰還して、適当にそれなりの報告をしたうえで帰って冷えたビールでも飲みたいところであったのだが、そうも言っていられないのが今回の物体事変である。


 最近はこういうことも多くなってきたな、早く元の生活に、グダグダであった冒険初期のあの感じに戻りたいなと考えつつ、物体を追って東の森へと向かった……



 ※※※



「うわぁ~っ、うじゃうじゃ居ますよ、前より増えているような気がするんですけど」


「そりゃアレだろ、チーンBOWの人達とか、色々取り込んで成長したんだからな、見ろ、森の入口にある人型物体、門番みたいな格好で立っていやがるぞ、人族の兵士のマネかな?」


「甲冑は着ていても武器は持っていないんですね、再現性がイマイチです……で、どうします?」


「俺達が普通に通過しようと試みて、どういう反応をするかで決めようぜ、とにかく物体の後に続くんだ、ごく自然な感じでな」


『うぇ~いっ』



 しれっと、本当に平時の感覚で、まるで隣の村に買い付けに行く商人がそうするようにして、門番の姿をした物体が守護している街道沿いの、森林エリアへの入口を通過しようと試みる。


 既に複数の物体が、俺達と同じようにして通過した後であるし、その際にはこの門番風の物体も何の動きも見せない、どころか視線を送るような仕草も見せなかったのだ。


 もちろん目でものを見ているわけでもないであろうし、この姿は人族がそうしているのを真似ているだけ。

 そもそもどこかで門番をしていた兵士を喰らった、その情報を得たこともないようで、近付いてみると造りの方がかなり粗雑である。


 きっと『門番に声を掛けられがちなチンピラ風』を取り込んだ際に、その記憶の中に残っていた『鬱陶しい門番』から、その姿を再現しようと試みたのであろうが、やはり現物を取り込んだのとはわけが違うようだ。


 だが、その姿は『鬱陶しい門番』なわけであって、もちろん行動パターンに関しても……そのような、声を掛けがちな門番のそれであるという可能性が極めて高いな……



『……そこのお前、待てっ……怪しい奴め』

『怪しい奴は排除排除排除』


「……もしかしてさ、何か言われているのは俺だけってことコレ?」


「間違いなくそうだと思うわよ、ほら、私達は横を通過しても何ともないもの」


「きっとモチーフになったどこかの門番が声を掛けるような、明らかな『怪しい奴』だけの反応するようになっているのね、つまりこの中では……勇者様だけってことよ」


「クソッ、コイツと同じ顔の門番を見つけたらブチ殺してやる……っと、攻撃方法は通常の人型物体と何ら変わりないようだな、相変わらず気持ち悪りぃぞ」



 2体同時にボディー中央のあの部分をみにょ~んっと、真っ黒な状態にしながら伸ばしてくる兵士風の物体。

 その攻撃は軽く回避し、聖棒の代わりに持っていたブラックな物干し竿で、どちらにもヒットするよう横薙ぎの攻撃を喰らわせておく。


 真っ二つになる両物体、すかさず後ろからの援護射撃が入り、4つになってしまっていたそれはさらにいくつかの破片に、そして更なる追撃によって消滅する。


 さて、これで『門番』を手に掛けてしまったのであるが……通常の人間のような行動は、物体に関してはまだ浸透していない様子だな。


 このことによって大騒ぎになるようなものでもないようだし、そもそも先程通過したばかりの物体群が、この状況にも拘らず振り返ったり……まぁ、どうなったら振り返っているのかさえわからないのだが、とにかくこちらに反応したりはしないのだ。



「……うむ、周囲も大丈夫そうだな、せいぜいその辺の小さな物体が反応して攻撃してきたぐらいみたいだぞ」


「物体同士の連携は取れていないってことで、でもそれならこの先も気配を消していけば大丈夫かしら?」


「一応気を付けた方が良いですわよ、『大元』になっている物体の近くでは、情報量の多い物体群がどんな感じで存在しているのかわかりませんもの、この辺の『野良物体』と同じじゃないかもですわ」


「なるほど、ここの雑魚とかはまだ『集合知』には参加していない可能性もあって、実質さっきの門番系の奴だけが、この先にある『大元』から発せられたものだったってことだな……うむ、この辺のコイツとか、どう考えても人型物体にはならないだろうし、そんな感じなのかもな」



 物体の数は多いものの、これまで通り接近しないように、その持っている力を発揮しないように心掛ければ、それは単なる物体であって安全である可能性が極めて高い。


 もちろん人型物体となり、それが進化してフルカラーのリアルなものになったような、そんなモノに関してはかなりの注意が必要であることは変わりないが。


 ということで俺もさらに力を抑え、全員でまた木の上を移動する方法を取って、そこらの物体を刺激しないように意識しつつ、移動を続ける物体群を追った。


 森の中のかなり深い位置、かつて魔王軍の作戦によって『弱体化エリア』が構成されていたような場所まで来たところで、どういうわけか森の木が完全になくなっているような、そんなエリアを見つけたのだが……



「何だろう? あそこは木がありませんけど、でもさっきみたいなお城? が建っているようには見えないんですが……」


「マジだな、じゃあ何か平べったいものでも、というか平べったい物体の『大元』でもあるってことかな?」


「ちょっと近付いて確認してみるべきね、物体群もそっちへ向かっているようだし、あそこに何かあるのはもう間違いないわ」


「おう、可能な限り慎重にな……」



 ということでそのエリアへ向かって接近していく、もちろん物体群を追い越すようなことはせず、その動きに従ってではあるが。


 で、しばらくそのまま移動していると、木々の隙間からようやくそのエリアが見えて……真っ黒な物体の……四角い土台ではないか?


 先程魔王城内にあった異世界風の……この世界から見たら異世界風かも知れないが、俺からすれば現実世界風の城。

 それではなくその基礎に近い、本来であれば石垣のような状態になっているべき部分だけが、その木のないエリア全体を覆うようにして『建築』されていたのである……



「何コレ? 真っ黒じゃないの、しかも相当に大きい……物体の塊よね?」


「見て下さいご主人様、あそこほら、小さい物体が近付いて来て……そのままくっついちゃいましたよ」


「本当だ、まだ今現在、物体があそこに集結している最中なのか……」


「つまり、この先あの土台が魔王城にあったお城みたいなのと同じものいなるってこと?」


「それ以外考えられませんわね、魔王城にあったのが1号で、こっちが2号の『大元』そんな感じであると判断するのが妥当ですことよ」


「なんてこった、じゃあ元々北と東に『大元』があったわけじゃなくて、ここの『大元』は2号機、つまり勢力を拡大している真っ最中だってことか」



 最初にリリィが発見し、指摘した通り、そこら中からやって来たと思しき通常の物体が、徐々にではあるがこの『大元の基礎』に取り込まれている様子。


 そしてそこに、北の『大元』である魔王城からやって来た物体群が取り込まれて……なんと、単に真っ黒な塊であったその基礎部分に模様が入り、完全に『城の石垣』と取れる状態に変化したではないか。


 つまり今の物体が持って来た情報は単に人型物体の情報であるだけではなく、アレと同じ城型の物体を構成するための、それをよりリアルな人工物に見せかけるための情報であったということ。


 こうやって徐々に『情報』を『大元2号』に移動させ、物体はこの王都の東に位置する場所の、元々大量に存在していた物体をその『組織の一員』に取り込みつつ、より高度な集合体を形成するつもりなのだ……



「なぁ精霊様、もし、もしもだけどさ、このまま南側と西側も、同じように物体城を建立されたらどうなると思う?」


「きっと取り囲まれて凄いことになるわね、物体が四方八方から押し寄せて、歯止めが効かなくなるとかそういう未来しかないと思うわ」


「その前に何か手を打たないとだな、全く毎度毎度俺達ばっかりこうやって危機的状況を……と、それよりもさ、あの城、まだ建設の途上であることは確かだよな?」


「そうだけど……まさか試しに攻撃してみるつもり?」


「あぁ、だがさすがにヤバそうだし、ちょっと離れた所から、安全を確保しつつ一撃入れてみることとしようぜ、だから一旦退くんだ」


「大丈夫かしらそんなことしちゃって……」



 不安に思っている様子なのはパーティーのおよそ半数であるのだが、実際に攻撃をかます役割であるセラはやる気満々であるため問題はない。


 念のため森から出て、もちろんその建設中の物体城があるがある場所は地図に記録して、森の木々を飛び越える感じでそこを狙って攻撃をする。


 そして安全を確認した後に、改めて様子を見に行くのだ……

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