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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1025 寄り切った

「では勇者よ、おぬし達とそれから……他も付けようと思うが、明日の昼以降、もう一度ここへ来てくれぬかの、そこで詳しい状況について話をしようと思うのじゃ」


「何でだよっ? 状況が状況なんだ、今すぐにでも行って色々と確かめておくべきなんじゃないのか?」


「うむ、そうではあるのじゃが、いくら何でも今回はの、ちょっとさすがにアレじゃ、そんな得体の知れないモノに対していきなり主力を差し向けるのはどうかと思うのでな、斥候を放って事前調査をと思うのじゃよ」


「はぁっ? ビビッってんのかこのクソババァ、確かにやべぇとは思うよ俺も、だがな、今のうちに叩くことこそが唯一有効な手段であって、ここは気合の正面突破で一撃必殺、俺達の力を見せ付けてやるところなんじゃねぇのか? あぁんっ?」


「勇者様、それ絶対に突っ走って死ぬキャラの台詞よ、ついでに強力なフラグでもあると思うわ」


「そうなのか、セラがそう言うならしょうがないな、ここは少しだけ待ってやることとしよう、だが明日だ、明日までにどうにかなる気配がなければ、こちらは独断で、単独で動くことになるぞ」


「うむ、では早速じゃが東エリアに斥候を差し向ける、明日の朝には結果がわかるはずゆえ、もう一度ここへ来るのじゃ」



 納得したわけではないが、このまま俺の主張を通すことは出来ないと判断したため一時撤退。

 いつものことだが、現場を見ていない者はその危険性を肌で感じていない、そして適当な、悠長なことを考えるのだ。


 今回はそれが仇とならなければ良いのだがと、そう思いながら帰路に着き、万が一明日の昼以降に、俺達だけで人型物体の調査に向かうこととなった場合の作戦を考える。


 もちろん正面突破を主張する仲間が大半であるがミラやユリナ、サリナなどは慎重にいくべきとの意見を有しているようであった。


 こうなったら折衷案として、『ド正面から慎重に』突撃していくしかなさそうだな、それに意味があるのかどうかはわからないのだが、誰の意見も捨てない、非常に平等性の高い選択だ。



「じゃあそういう感じでやっていくわけだが、やっぱり木の上から行く感じの方が良いよな? 奴等、あの形状ならどうしても地上を移動するだろうし」


「わからないですよ勇者様、人型が出現したということは、更に進化してサル型やチンパンジー型などに変化するかも知れませんし、樹上だから絶対に安全とは限りません」


「マリエルの中ではヒトよりもサルの方が進化しているんだな、だがまぁ、その形状になる可能性は少し低いような気もする、だってほら、予想ではあの物体は、魔力に変換して吸収した生物の残滓を読み取って形状を変化したり、他らしい技を覚えているとか、そういう感じだろう? だったら最も多く吸収している人族か魔族、即ち『人間』に寄せられ続けるのが妥当ということだ、それ以上の高等生物に変化するとは思えない」


「なるほど、せいぜい木登りが得意な人ぐらいでしょうか、それなら対処出来そうですね」



 樹上を移動して敵からの発見を避ける作戦は基本的に決まり、もちろんどこにでも物体は存在し、上に逃げた獲物を追って木を……という行動に出た通常の物体が、そのまま枝の上に留まっている可能性は十分にある。


 だがその程度であれば特に問題はなく、討伐してしまうか、場合によっては下に叩き落としてスルーしてしまえば良いのだ。

 今の問題は人型の物体のみであって、それさえどうにかなるようならあとはどうでも良いということでもある……



「じゃ、とりあえずは明日だな、基本的にあのババァが送ったらしい斥候なんぞ戻りはしない、むしろもう今夜のうちに供養してやっても良いぐらいだ、俺達は単独で動くことになるだろうからそのつもりで」


『うぇ~いっ!』


「ひとまずコーティング武器は明日、勇者様が王宮へ行っている間に研究所で受け取って来ます、ありったけ、そして余ったら売りましょう」


「あんなヤバいモノを市場に出すのはやめなさい……」



 こうして作戦会議も終え、その日はそのまま終了としたのであるが、目を覚ましたのは翌朝ではなく深夜。

 マリエルが気に入って使っている元敵の、しかも俺にだけ態度の悪い忍びのような女が、気配を隠したつもりで天井板を外し、俺達の寝ている部屋へと降り立ったのである。


 これは何かあったに違いないなと、狸寝入りをしつつマリエルが起こされ、情報を伝えられているのを確認しておく。

 かなり焦った様子なのは一方だけ、マリエルは特に驚いた様子もなく、『そうですか……ZZZZZ』と、ほぼ眠りこけたような状態で返答したのみ。


 どうやらもう一度寝るようだ、特に問題はなかったということだし、伝令側も役目を終えたため、主君であるマリエルに対してとやかく言うことなくその場を去るらしい、無駄に天井から出入するのはやめて頂きたいところだが。


 で、そのまま朝になってもう一度目を覚ますと、既に他の仲間の大半、もちろん昨夜報告を受けていたマリエルも起床していた……



「マリエル、昨日はあんな夜中に何の報告を受けていたんだ?」


「昨夜ですか……あぁ、確か夕方に王宮が東エリアへ送った斥候の人? が帰って来たとか何とか」


「斥候が帰って来ただと? そんなはずねぇだろうよ、物体が跋扈している場所だぞ、そいつら、きっと適当にその辺で時間を潰しておいて、それで戻って来て『特に何もありませんでしたですっ!』とか何とか言って誤魔化してんじゃねぇのか? いやきっとそうに違いない、俺ならそうするからな」


「国家の任務でそのようなことをするのは勇者様だけだと思いますが……と、そうじゃなくてですね、戻った斥候の人の様子がおかしいそうなんですよ」


「おかしいとは? むしろそっちが正常であって、報告を受けたあのクソババァの頭がおかしいんじゃないのか?」


「いえ、挙動不審というか、質問にも答えないし、何を考えているのかもサッパリわからないような感じだそうで、でも唯一の情報源だからということで無下には扱えなくて困っているとのことで……そこまでです、どうでも良い話なのでよきに計らえって感じでもう一度寝ました」


「そういうことだったか……うむ、どうせ今から王宮へ行くんだし、俺達にもそいつ等に対する質問をする権利があるだろうから、ちょっと現場で見て聞いて実感してみようぜ」



 俺達は話だけで判断しようとする王国中枢のジジババ共とはわけが違う、基本的に現場主義なのだ。

 だから今回も実際にそのわけのわからん連中が帰還しているという王宮へ足を運び、その場で確認をするということである。


 しかし夕方に放った斥候が夜には帰って来て、それが挙動不審でどうのこうのと、またイマイチ掴めない状況となっているであろうことは確かだな。


 斥候は何かとんでもないモノを見てしまい、その恐怖からどうにかなってしまったのかも知れないし、またそうなるような攻撃を受けてそうなってしまったのかも知れない。


 まぁ、転移前の世界にも確か、田んぼだの畑だのでクネクネと動く何かを見てしまうとどうのこうのと、そういう都市伝説があったのは確かだ。


 今回はそのクネクネが人型物体に変わったというだけであって、もしかしたらあの後の変化で妙な動きを獲得し、うっかり近付いてしまった斥候の連中をそういう風にしてしまったという可能性も捨て切れないところ。


 真実はどうなのかわからないが、とにかく王宮へ移動した俺達は、ひとまず研究所へ行く班とそのまま王宮へ入る班に分かれ、王宮組はその帰還したという斥候……5人送って全員が戻り、悉くその様子であったとのことで、その5人を確認する……



「こいつらか、一応立って整列はしているんだな、顔は……無表情のお手本みたいな感じか……ふむ」


「どうじゃ勇者よ、何かわかったか?」


「わかるわけねぇだろそんなもん、精霊様、何かわかったか?」


「知らないわよ私に聞かれても、セラちゃん、どうかしら?」


「う~ん……そういうオブジェみたいね、町中に立っていそうだわ」


「だそうだ、特に何だかわからんし、ひとまず話し掛けたり、1匹ブチ殺したりしてみても構わんか?」


「ブチ殺してはならぬが、話し掛ける分には特に構わんじゃろう、ひとつ言っておくが拳で語るとかそういうのはナシじゃぞ」


「わかってるって、お~い、もっしも~っし……ダメだな、まるで反応がないぞ、おーいっ!」



 うつろな表情というか何というか、とにかく問い掛けに対しては全く反応しない5人。

 昨夜戻って来たときからこの状態とのことで、王宮の方でも何が何だかわからないらしい。


 だがああしろこうしろという、普段していたような単純な動きに関する命令に関しては、特にぎごちない動きを出すことなく、普通に従うのだというから不思議だ。


 まぁ、もしかすると精神は完全に破壊されてしまったものの、王の間では整然と並んで立ち、命令に従うという、普段から染み付いてしまっていた行動については、良くフィクションである『道具を使う系ゾンビ』のように残っているのかも知れないな。


 とにかくこのままでは埒が明かない、転移前の世界であればここで電気ショックを喰らわせてみたり、何やら凄い装置で記憶を戻そうと試みたり、そういうことが出来るのかも知れないが、魔法に頼り切りのこの世界では幻術ぐらいしかやることがない。


 しかしもしそれをやったとしても記憶が戻るとは限らないし、場合によっては完全に壊れてしまうようなことも考えられなくはないのだ。


 やはりこの連中から話を聞くというのはもう諦めて、俺達が実際に東エリアへ出向き、人型物体の現在の様子を確認しつつ、可能であれば討伐にも力を注ぐというのが最善ではなかろうか……



「てことでだ、この連中の仇は俺達が討ってくるよ、すぐに例の場所へ向かって、今現在何が起こっているのかということの確認も任せてくれ」


「うむ、仕方あるまい、じゃがおぬし等がこの状況となれば、それこそわが軍は戦力の半分を失うことになる」


「いや、俺はいつお前の言う『わが軍』に参入したんだ? フリーの勇者だぞこちら」


「細かいことはどうでも良い、とにかく……そうじゃな、捨て駒として無能の掃き溜めのような部隊を連れて行くと良い、王宮の前に準備しておくゆえ、声を掛けて一緒に行くのじゃ」


「そんなのと行動を共にするのは非常に不安だな……」


「良いじゃないの勇者様、そんなのでも盾代わりにはなると思うわ、使えないのは承知のうえで連れて行きましょ」


「まぁそういうことならしょうがないな、とりあえず研究所に行っている仲間と合流して、それから考えることとしよう」



 一旦王宮の外へ出ると、前庭の隅には『勇者パーティー御一行様』と書かれたプラカードを掲げた、いかにも使えなさそうなおっさんの集団が待ち受けていた。


 こちらに目線をやりながら何やらもごもごと言っているようだが、今連れて行くのは面倒であるため、一旦ガン無視して先を急いだ。


 そのまま研究所へ向かうと、仲間達は既に装備を整えた状態で正門前にて待機しているではないか。

 同じ待っている人々でも、あのおっさん達と比較して『待っていてくれてありがとう』という気持ちが大きく湧いてくるのは気のせいではあるまい。


 ちなみに、研究が進んだ結果、かなり高品質の時空を歪めるコーティングを施した武器が、全員が普段使用しているものと同じ形状、同じ重さで完成したのだという。


 もちろん俺の聖棒もあったのだが、ブラックな感じがいかにも闇落ちした勇者のように……まぁ、棒切れで戦っている時点でもう勇者とは思えないのだが、その辺りは気にしないでおくこととした。


 それらの武器を装備したうえで、捨て駒とされていた使えなさそうなおっさん達を拾うため、嫌々ながら王宮の前へ戻る……



 ※※※



「さささっ、さっきはすみませんでした、きっと勇者パーティーだろうなと思いながら声とか掛けれなくてすみませんでした」


「そうか、すまないと思うなら死んでくれ、貴様のような無能はこの王国に相応しくないからな」


「そ、それはちょっと……」


「なら黙っておけこのクズが、てか何だお前等? このクソ暑いのに被り物なんかするのか? しかも恐竜か、子どもじゃないんだからさ」


「え、えぇ、このフードは我が『ステゴサウルス小隊』のモチーフになってまして、だから熱中症の危険がある夏場でも頑張って被ろうと、皆で決めたことなんですよ」


「馬鹿じゃねぇのかお前? こりゃ相当に使えねぇんだろうなきっと」


「物体も跨いで通るようなゴミね、全員魔力も戦闘力もゴミ相応だし、栄養がなさすぎるせいで喰われなくて済むんじゃないかしら?」



 もう見ただけで使えないとわかるようなゴミ軍団であったが、喋ってみるとその使えなさは全身から滲み出るような、もう仕事などしなくて良いから家で引き籠っていてくれと懇願したくなるような、そんな感じのおっさんが……もう数を数えるのも面倒だな。


 とにかくそんな連中を連れて王都を出て、探索をしつつ東の森林エリアを目指したのだが……かなり近付いてみても、木々の隙間に見える物体の数が少ない、どころかほとんど存在しないではないか。


 物体の数が自然減となることは考えにくい、もしかすると奥の方で集会でもしているのでは? あの人間のような姿をした物体が中心となって、組織めいたことを始めたのではないかと疑ってしまうような光景だ。


 だがここで考えていても仕方がないため、当初の予定通り樹上を移動する作戦で……お供の馬鹿共が木に登るだけで四苦八苦している、こいつ等は本当に兵士なのか?



「……もう良いわ、あんた達は普通に歩きなさい、下には物体が居ると思うけど、襲われても絶対に助けないからね」


『わかったであります』


「よろしい、じゃあ私達は行きましょ、あの物体確認エリアに……っと、静かにして、早速居るわ……と思ったら物体じゃなくて人間だったのね」


「ホントだ、どうしてあんな所に人間が……待て、様子がおかしいぞ、あいつは……うぇ~い系チーンBOWの人じゃねぇかっ⁉」


「そんなはずはないでしょう、あの不快なビジュアルの軍団は全部物体の餌食になったはずで……捨て駒の方、申し訳ないですけどちょっと行って、あの人に話し掛けてくれませんか?」


「あい、俺が行きます、人間相手でラッキーだった、いってきまーす」



 などと言いながら、楽で簡単で特に意味のない仕事を任されたときのように舞い上がり、ガサガサと大きな音を立てながら、まるで警戒していない様子でそのチーンBOWの人に近付いて行く無能。


 もし物体が近くに潜んでいれば一撃であるというのに、そんなことはすっかり、綺麗サッパリ忘れてしまっている様子だ。


 そして接近し、当たり前のようにターゲットの肩を叩いて自分の存在をアピールする無能だが……振り返ったものの言葉での反応はない、うぇ~い系なのにボーっとしたままではないか。


 確かに反応はしている、だが無能の呼び掛けに対しても、手を振るような仕草に対しても、かつてのようにうぇ~いで応えることをしないターゲット。


 あの王の間で出会った斥候と同様、得体が知れないというか何というか、とにかく不気味極まりないというのが現時点での感想だ。


 しかもそのボーっとしてしまっているのが、ついこの間確実に死亡したはずの元祖うぇ~い系チーンBOWの人であって、ここに居るはずがない存在であるということも……いや、それはさすがにおかしくはないか……



「なぁ、チーンBOWの人は全部確実に死んだんだよな? だとしたらどうしてアイツだけがあそこに……」


「わからないですけど、フサ室長に最後の連絡を寄越したのはあのうぇ~いの人なんですよね? だとしたら部隊の消滅だけを報告しておいて、卑怯にも自分だけ逃げ出したと考えるのが普通じゃないですか?」


「あの状態でか? それはちょっと無理があるような気がしなくもない気がしてしまう気がするぞ」


「勇者様が何を言っているのかはわかりませんが、とにかくその可能性も踏まえて、ちょっと近付いて本当にそのうぇ~いの人なのかどうかというところを確かめて来て下さい」


「また俺がその役回りなのかよ……しょうがない、ちょっと行って来るわ、何かあったらすぐに対応できるように準備しておいてくれよ、もしかしたら何かの罠かも知れないからな」



 罠かも知れない、そうはいうものの、もし本当にそれが何者かの罠であったとしたら、既に話し掛けに行ってしまった無能がその発動によって死亡していないとおかしいタイミングだ。


 ゆえに何者かが意図してそうしている、というか元祖うぇ~い系チーンBOWの人にそのような行動をとらせているとは思えないのだが、果たしてどうなのであろうか。


 接近し、その表情がぬぼーっとしていることが細かく確認出来るほどの距離からその様子を窺う。

 特に動きはないようだが、あの顔は間違いなく研究所に居たうぇ~い系の馬鹿研究員だ。


 しかもあの部分にはしっかりと装備されたチーンBOW、全身もツギハギであり、この状況を見る限りでは奴が何らかの理由で生存していた、そう考えざるを得ない。


 だがもう少し詳しく見てみようと、本当にそれが本人なのかということを確かめに行くと……なんと気配を感じないではないか。


 そういえば先程の帰還したという斥候、それについても何も気配がなかった、単にボーっとしているだけのアホなのかとも思ったが、今になって考えてみれば、アレはそういう系ではなく人間ではない、というか人間に擬態した生物や怨霊の類でもない。


 となるとここに残された選択肢はひとつ、あの5人も、そして今俺のすぐ近くに居る元祖うぇ~い系チーンBOWの人も、人間でも生物でもない、即ち物体であるということだ……

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