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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1022 量産型

「よしっ、もう良いぞ止まれっ! おい聞いてんのかっ?」


『あぁぁぁっ! あぁぁぁぁぁっ! あぁぁぁぁぁぁっ!』


「何コレ、もうダメみたいだし処分する? それともこのまま生かしておくべきかしら? どっちにしても今後の進捗にデメリットがあると思うけど」


「そうだな、ちょっと気持ち悪いし殺しておいた方が……どうするハゲ室長?」


「いやいやそれはとんでもない、殺してしまっては『量産型』の作成に繋がらないのじゃよ、ここにある怪人は全部適当に造ったゆえ、現物を見ないともう造り方とか余裕で忘れておるのじゃよ」


「やっぱ適当だったのかよ……」



 そこそこの力を見せつけ、元々の強者以外では初めて物体を滅することに成功したツギハギチーンBOWの人。

 もちろんチーンBOW以外にも、物体に対応するための機構は見つかった、そのボディーが単一ではないという点である。


 結局、腐りかけの生死刑囚をいくつも組み合わせて造ったことが功を奏したようで、その一部が物体に触れられたとしても、その部分のみの消失で済んでしまうということだ。


 また、狙われるのはボディーのうち高い魔力を発している部位、つまり組み合わさった死刑囚の中でも、元々魔力が高かった奴に起源を有する場所となる可能性が極めて高いので、比較的コントロールが可能な感じといえる。


 さらに、最も重要である武器、チーンBOWの部分については、普通に『モノ』であることから攻撃の対象にはならず、一撃で致命傷を負うことがなければそのまま攻撃し続けることが可能であると考えれば良いであろう。


 なんとも夢のような兵士が出来上がったではないか、あとはもう少し知能の方をどうにかして、この物体消滅後も暴れ続けるような常態を解消しなくてはならない……



「とにかくっ、コイツをどうにかして大人しくさせよう、殺せないんだったら動きを止めておくしかないだろう?」


「うむうむそうであるのじゃぞ、ちなみにここの怪人、万が一に備えて緊急停止機構が備わっておるのじゃよ、例えば……ふんっ!」


『ふごぷっ!』


「うわ鼻水汚ったねぇっ! でも鼻フックされたら止まったぞ、やりたくはないがな」


「ビジュアルも不潔なら停止するための方法も不潔です、よくも国の予算でこんなモノを……」


「うむ、マリエルの言いたいことはわからんでもないがな、きっとこれがこの研究所の、ハゲ室長の限界だと思う、周りを見渡してもこういうタイプの研究者しか居ないようにも思うしな」


「もっと高度でデザインセンスに満ち溢れた人材を雇用したいところですね……」



 マリエルの願いはきっと叶うことはない、どうせこの世界はこんな連中ばかりなのだ。

 敵も味方も中間者も、生物兵器であればきっとこのような見た目のキャラを精製していたはず。


 最悪の場合、博士的なキャラ自らがこのような姿となって出現するなどということも……と、ハゲ室長には絶対に真似しないようにと伝えておかなくてはならないな。


 ここからさらにカオスな状況に落ちいてしまった場合、もう収拾がつかなくなってこの世界は爆発ENDを迎えてしまう。

 そうなればもう物体どころではなく、俺はきっとまたどこか別の異世界で、最初から冒険をさせられることになってしまうのだからたまらない。


 そのようなことにならないためにも、まずは死刑囚のみを用いた、既存の『ツギハギチーンBOWの人』を増産していくという、当初の予定から乖離しないところから始めて頂きたいところだ……



「やれやれ疲れた、ではわしはこのまま、複数の優秀な部下を伴ってコレの増産態勢に入るのじゃ、ちょっと、そこの髪型が目立つ助手よ」


「うぇ~い?」


「そうそうお前じゃ、何か知らんが面白そうなのでお前を主任助手としよう、付いて来るのじゃ」


「うぇ~い」


「一番ダメそうな奴を選んでしまいましたね、他人を見る目がないんでしょうか?」


「まぁ、あのうぇ~いなら助手なんぞにするよりも、こっちのツギハギチーンBOWの素体にしてやった方が良さそうだよな」


「あ、いえきっとどこかの貴族の方の子弟ですよあのうぇ~いは、どことなくうぇ~いに気品を感じますから」


「気品あるうぇ~いとかどんなうぇ~いだよ、俺には通常の馬鹿にしか見えないんだが」


「何が違うかは説明出来ませんが……というかごめんなさい、適当だったかもです……」



 などとくだらない話をしていたのだが、出て行ったハゲ室長と何人かの助手の安否について、直後に別室で起こったらしい爆発音によって不安になる。


 きっとあのうぇ~いが何かやらかしたに違いない、そう考えたのは俺だけではなく、研究所のその他の研究員らも同様、すぐに自らの仕事を中断して席を立ち、ハゲ室長らが向かった部屋の様子を見に行った。


 だがまぁ、俺達はこのまま待たせて貰うこととしよう、そもそも向かったのはその数名ではなく改造された50匹程度の死刑囚もということであるし、あの爆発の規模からしてきっととんでもない光景が広がっているに違いない。


 最悪の場合、全部が融合して最悪最凶の、これまでに例のないグロモンスターが爆誕しているかも知れないのだ。

 そんなモノの姿を目撃してしまえば、きっと今日の夕飯は肉の出ない、味気ないものにしなくてはならなくなってしまう……



『こっ、これはぁぁぁっ!』

『凄いことになっているじゃないですか』

『ハゲ室長はどこにっ?』

『あっ、うぇ~いの人がツギハギチーンBOWに……』



「何か事故ったみたいだなやっぱり……と、出てきやがる、チーンBOW、チーンBOWこいつもチーンBOW……あいつもチーンBOWになってしまったのか」


「ハゲの人はどこへ行ったんでしょう? 皆同じタイプになっているからわかりませんね、きっとこの中に……あっ、違います、奥の方で気絶しているけど、あの凄まじいビジュアルにはなっていません」


「セーフだったってことね、でも爆発の結果……大量のこれが精製されたと……」



 最初に存在していた改造人族はおよそ50匹程度であったのだが、どういうわけか爆発後、200匹以上に増殖してしまっているのであった。


 どこをどう間違えればこんなにも増えるのか、というかもう明らかに質量が保存されておらず、どこか別の世界から呼び出したとしか思えないような光景だ。


 しかもチーンBOWの人々はほぼ全部についてツギハギで、実験に失敗したことの原因を作ったと確実視されているうぇ~い研究員も、ボディーと顔面以外の大半が別の奴のものに置き換わってしまっている始末。


 ついでに言うとそのうぇ~いの頭に乗っかっているのは……どう見てもハゲ室長のズラではないか。

 唯一完全に無事だと思われたハゲ室長だが、頭皮のみをうぇ~い研究員と交換されてしまったらしい。


 そんなハゲ……いや、今では若手であるうぇ~いの逃避に置き換わり、フッサフサになった状態の室長が目を覚まし、そのまま起き上がる……



「うぇいうぇいこれはどうしたことか、うぇ~いじゃ……あれ? ちょっと思考がおかしくなってしまったようじゃな、うぇ~い」


「脳味噌の一部が置き換わってんぞ、大丈夫なのかこれ? 知能の方は……」


「そこは無事みたい、だってほら、うぇ~いの方もうぇ~いしているし、きっと思考する部分の一部に混同が生じたのみで、賢さの数値が極端に下がったりはしていないわ」


「うぇいうぇいそういうことじゃ、派手に爆発してしまったが、わしだけは少し離れていたので平気……いや、未来ある若者から毛根をこんなに奪ってしまったことは申し訳ないところじゃが……」


「そんなの良いだろうよ、どうせこのうぇ~いはチーンBOWになってしまったんだ、その若くて将来のある頭皮だけでも、誰かに使って貰えていることにつき大変感謝していると思うぜ、どうせ生きていても他者に迷惑を掛けるだけのボンボン野朗だろうからな」


「うぇいうぇいそうじゃな、そう思っておくしかあるまい、ところでこの状況……ふむ、チーンBOWの人の増殖には成功しているようじゃな、増産計画は一部成功といったところじゃ、あとは中身の問題なのじゃが……動けっ、我がチーンBOW軍団よっ!」


『うぇ~いっ!』


「全部うぇ~いな人になっちゃっているわね、でもさっきまでの腐った脳みそのアレよりはマシかしら……」



 およそ200匹のチーンBOW、その全てにうぇ~い研究員の脳味噌が配布されてしまったらしく、中身というか思考というか、その辺りに関しては完全にうぇ~いと化してしまった模様。


 だが一応は『人間』として生きてきた奴の思考を移植されているわけだから、先程までの第一号とは違い、脳味噌が腐って暴れ回るような、凶暴な死刑囚のそれではないということだけは確か。


 あとはこのうぇ~いチーンBOW軍団に、上手く調整したコーティング鏃を用いた矢を大量配布して、王都の外に跋扈する物体との戦闘に参加させよう。


 ついでにそちらの鏃も弓矢の使い手に大量配布したうえで、それ以外の小型武器についても、精度の高いコーティングを施した武器を精製し、それを戦闘員となり得る者に配布すべきだ。


 まぁ、こういうのは研究所ではなく王宮の役目だな、生産の方はここに任せてしまって、俺達は早速王宮のババァにこのことを報告するのだ……



「よしっ、じゃあ俺とセラ、マリエルの3人で王宮へ行く、他の仲間はここで万が一何か起こったときのための待機を、あと魔王が調子に乗らないか見張っておくことも忘れないようにな」


「主殿、一応私達の武器がどうにかなるよう、実験を進めて貰っても構わないか? 昨日より今日の方が研究は進んでいるとのことだし、上手くすればかなり早い段階で時空を歪めるコーティングの大型武器が完成するやも知れないぞ」


「わかった、その辺りについてはもう任せる、任せるが……余計なことをするなよ」


「私が居るから大丈夫だ、安心して任せて欲しい」


「・・・・・・・・・・」



 確かに賢さは高く、さらに大人でもあるのだが、こういうときのジェシカはイマイチ信用に値しない。

 逆にユリナやサリナが制止して、それでも大丈夫だと主張して何かやらかす未来が透けて見えるのだが……まぁ、この場所であればそんなに大きな事件となることはないであろう。


 ということでこの場は残るメンバーに全て丸投げし、俺とセラ、マリエルの3人で、研究所に用意させた馬車に乗って王宮へ向かったのであった……



 ※※※



「……というわけなんだ、これから戦闘に出るから準備をさせてくれ」


「何じゃ? まだあの亜空間書庫の捜索も終わっておらず、かなりの数の行方不明者や戦死者を出し続けている状況じゃというのに」


「仲間だけの空間で競わせた挙句戦死者とか、マジで笑わせてくれるぜ、でもな、これはかなりのチャンスなんだよ、もしかしたらノーリスクで物体を始末することが出来るかも知れないんだ、その効率を確かめたい」


「効率というと……どういうことじゃ?」


「だからさ、戦闘に参加させるブツは確かにまるで価値のない素体を用いているんだが、それが最終的には物体に喰われてその養分になるということでだな、それがこうでこうでこうで、そんな感じでアレなんだよ、わかる?」


「ほぉ~、その説明ではちっともわからんの、もっと賢さを上げて出直して参れ」



 俺が考えている『効率』に関してだが、チーンBOW軍団を戦いに出して、それが物体を討滅して減少させる分と、最終的にそのチーンBOWがボロボロになり、倒れて物体に吸収される、つまり物体が栄養をゲットして巨大化し、分裂してしまう分。


 その減少分と増加分の差が大きく開いているようであれば、チーンBOW軍団を大量投入することによって物体をどんどん減らしていくことが出来るのだ。


 だが微妙な差であったり、むしろ大量の物体に囲まれた際にチーンBOWが対処出来ず、まともに戦う前に喰われてしまうなどということが考えられなくもない。


 そうなればもういくらチーンBOWを投入しても物体を増やしてしまうことになるのだし、この作戦は完全なる失敗であるということだ。


 それをまず、今研究所で完成している200匹のチーンBOWを用いて確かめてみたいということをババァに伝えているつもりなのだが……なかなか理解が得られないのはどういうことであろうか。


 まぁ、きっとババァの方も、駄王のやらかしによって面倒臭くなった亜空間の探索につき、かなり苦労しているのであろうということで、こちらが突発的に考えた作戦などに構っているほど暇ではないということなのであろう。


 となると誰か戦果を確認するのに適した人材が……と、マリエルがいつの間にか消えたと思いきや、王の間の隅で勉強をさせられている弟の、王子のインテリノにちょっかいを掛けて邪魔をしているではないか……



「姉上、非常に邪魔です、しかも暑苦しいので近寄らないで頂きたい」


「そういうことを言ってはなりませんよ、ほら、勉強ばかりしていると馬鹿になってしまいますから、私と遊んで時間を潰しましょう」


「馬鹿の姉上が何を言っているのですか? 私は姉上達のようにだけはなりたくないと思って必死に……あ、助けて下さい勇者殿」


「しょうがない馬鹿王女だな……ところで王子、ちょっと頼みたいことがあるんだが構わないか? 一応戦勲というか功績というか、そういうものにはなると思うんだがな、しかもただ黙って見ているだけの簡単なお仕事だ」


「何ですかそれは? 言っておきますが勇者殿、くだらない悪戯の片棒なら担ぎませんよ」


「……マリエル、王子を拉致するんだ」


「はいっ!」


「あっ、ちょっと待ちなさい姉上、私はそんなわけのわからない……あぁぁぁっ!」



 こうして検分役をゲットすることに成功した俺達、後ろでババァが何やら叫んでいるようだが、クソでも喰らえとひと言残して王の間を後にした。


 その足で研究所へと戻り、まずはハゲ……ではなかった、フサ室長に実戦における実験の許可が、すんなりと下りたということを説明する。


 もちろんフサ室長も馬鹿ではないから、俺達がズタ袋に王子を収納して戻って来たことから、きっと無理矢理に計画を承認させた、いや承認さえ受けずに行動しているということを察したようだ。


 だが実験についてはしてみたい、しなくてはならないということがわかっているため、特に何も言わず、インテリノに大量のチーンBOWを紹介している。


 呆れ果てた様子のインテリノに対し、フサ室長はかなりアツくその計画について語っているのだが、もうチーンBOWのビジュアルからしてまともではない、ふざけているものだと判断されても仕方ない。


 で、ジェシカが主導した時空を歪めるコーティング武器の、その両手剣を始めとする大型武器の作成実験についてだが……何やら無駄に盛り上がっている様子だ……



「見てくれ主殿、このクラスの武器であれば、比較的大きなものも完成させることが出来たぞ」


「……このクラスの武器であるとして手に持っているそれは何だ?」


「これか? これは布団叩きだ、そこそこのアツさのコーティングがなされて……貸せだと? ついでに尻を出せだと? 構わないが……ひぎぃぃぃっ! それで叩くのはやめるんだっ! あぎゃぁぁぁっ!」


「馬鹿には仕置きをしないとだからな……ふむ、だがなかなかに高品質だ」


「いてててっ、凄まじいダメージを負ってしまったではないか……もっと頼む、いったぁぁぁぁっ! もっとだぁぁぁっ!」



 馬鹿には付き合いきれないということで、ジェシカのお仕置きについてはユリナに任せておく。

 他に出来上がったコーティング武器は……ハエ叩き、Gを狩るための粘着のアレ、蚊取り線香……はコーティングを施す意味があったのか?


 とにかく対象が虫けら以下のもののみであって、こんなくだらないことに貴重な実験の成果を用いていたということについては、この場に残って、きっとこの計画を主導していたであろう複数名に罰を与える必要がありそうだ。


 誰がこんなことをやっていたかについては、おそらくだが……日用品をこんな強烈なものにしてしまうのは1人しか居ないであろう……



「ミラお前、こんなものどうするつもりなんだ?」


「え? どうして私が作ったとわかったんですか? でもまぁ、物体タイプのGとかが台所に出現したら困りますし、あと実際にかなり効果がアップしているので、売ろうと思えば高く売れて……ちょっと、そのハエ叩きはお尻を叩くものじゃ、ひぎぃぃぃっ!」


「全くしょうがない奴等だな、まぁ良い、ジェシカの武器はしばらくその布団叩きだ、ミラも物体との戦いではハエ叩きを使え、良いな?」


『とても勇者パーティーの武器とは思えないんですが……』



 その他、まともに完成したいくつかの武器については、それぞれ使用に適した仲間にいくつか配布しておく。

 どうせすぐにダメになってしまうであろうが、取り替えつつ今日1日の戦闘ぐらいはどうにかなると考えておこう。


 で、インテリノはフサ室長からの説明によって、作戦の概要をかなり理解した様子であり、凄く嫌そうな顔をしてはいるものの、一応検分役を引き受けてくれるとのこと。


 あとは北の森、いやいきなり物体が大量発生している東方面を目指しても良いのではないか。

 他にやることが山積みであるため、最初からガチの実戦でこのチーンBOW軍団を試し、今日中にその結果を得たいところである。


 ということで俺達は研究所を出て、先に魔王を屋敷の牢屋の中に片付けつつ、引き続き物体関連書籍の解読を進めるようにと命じて王都東門へ。


 この作戦が上手くいけば、そしてコーティング武器を一般の戦闘員その他にも配布することが出来れば、あの忌々しい物体をこの世から消し去り、王都民の生活を元に戻してやることが出来るのだ。


 それはこの後すぐ、実際にチーンBOW軍団を戦いに投入して見極めていくこととしよう……

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