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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1015 大捜索隊

「さてさて、行き先は王都の中であるとはいえ、どこに繋がっているかが問題だな、やべぇ場所もあるだろうし」


「そうですね、私の友人に日がな一日お風呂に入っている子がいまして、その子の家のお風呂場に出てしまわないか本当に心配です」


「いや、それはきっと大丈夫だ、完全にコンプラ違反であるとして消されたらしい現象だからな」


「あらそんなことが、それで、本当にどこへ繋がっているのか……」


「今から確かめるんだ、行け駄王」


「うむ、今回は極めて安全であるの、では参る」



 極めて安全だ、などと口では言いつつも、実はかなりビビッている様子の駄王であった。

 まぁ、王都の中のどこなのかということは確認の必要があるが、行って帰って来た奴が居る以上、少なくとも危険はないのだから安心して欲しい。


 むしろ魔王軍に関与していた魔族が勝手に入って、それで騒ぎにならず戻って来ることが出来た場所であるという時点で、基本的に誰も居ない、誰かに見つかることがない場所であると考えるべきだ。


 ということで先頭の駄王を急かすようにして送り出し、その報告を待っているのだが……なかなか向こう側からの声が聞こえない、事故などで死んでしまったのか?



「チッ、何やってやがんだあの馬鹿は、おーいっ! 死んだならそう言えーっ!」


「王様、死んでしまったんでしょうか? お香典はどのぐらい包んだら良いですかね?」


「いや、要らねぇよあんな奴には、だが結構しぶといはずだからな、生きてはいるような気がして、おーいっ!」


『わ、わしじゃっ、わしはここに居るぞいっ!』


「ほら、やっぱ生きていやがる、何やってんだ? どこだそこはっ?」


『助けてくれっ、ここは王都の端にある小さな動物園の、ゴリラとチンパンジーとオランウータンの共用スペースじゃっ、こっ、殺されるマジでっ』


「何でそんな所に接続されてんだよ……」


「おや、接続先に居たやけに毛深いのは人族ではなかったというのか、似たようなものなので普通に挨拶を交わして戻って来たのだが」


「その勘違いは相当だぞ、だがまぁ、サッサと行かないとリアルに駄王が喰われてしまうな、その光景を見させられる来園者の気持ちになるといたたまれない、俺達も早めに行こうか」


『うぇ~いっ!』



 わけのわからない場所に出てしまった、というか接続されてしまった駄王を助けるつもりはないが、やはりあんなモノを食べてしまっては動物園で暮らすゴリラ達の内臓に悪い、来園者だけに迷惑が掛かるわけではないのだ。


 ゆえに『救出』ではなく『回収』作業のために階段を降り、真っ暗な空間を通ってその先を目指す。

 明るくなった瞬間に立ちこめる臭い……これは動物園そのものだな、規模こそ小さいが、臭いだけはどこの世界でも同じだということか。


 で、その臭いが漂うこの場所は、周囲に木々が生えた草原のような、いやそれを模して造られた人工の庭のようだな。

 俺達の出現に際してざわついたのは、人間ではなく類人猿と称されるタイプの、少なくとも矮小な人間などよりは強く賢い方々だ。


 そんな敬愛すべきゴリラとその仲間達が集う広場の中心に……全裸の駄王が磔にされているではないか、これから儀式の生贄とされ、解体されて喰われるのであろうが……ゴリラというのはここまでのことをする生物であったろうか。


 良く見れば周り、俺達の方を見ながらサル語で何か話しているチンパンジーの中に、明らかに松明を持って威嚇している奴も居るのだが、火を使うのは人類の専売特許ではなかったのかと不思議に思ってしまう。


 だが今そんなことはどうでも良い、まずは駄王を解体するのを止めさせなくては、このままだと愚かな王を討ち取った英雄が、人間ではなく類人猿ということになってしまうではないか……



「はいはいっ、ちょっとストップだ、そんなモノを喰うと腹を壊すぞ、すっげぇんだ不潔な菌とか」


『ウホッ、ウホホッ』


「あぁ、友人ではないが知人ではある……いや、人じゃねぇかコイツ、とにかく返還してくれ、一応まだ使うモノなんでな」


『ウッホッホッ』


「ありがとう、恩に着るよ」


「なぜ主殿はゴリラと普通に会話しているのだ……」


「何か、そっちの方が生物として近いんじゃないでしょうかね……」



 俺の話を聞いて、快く駄王を返還してくれたゴリラやチンパンジーやオランウータンの皆さん。

 代わりといってはなんだが、地下書庫で見つけた人間向けのエッチな本を1冊、適当に選んで譲渡してやった。


 さて、これで駄王の回収も終わり、ついでにこの場所を亜空間との接続のために利用するという、そこそこ有用な権利も取得したのだが……ここは一体どこなのだ?


 看板にあるマップで見る限り、王都の東の外れに位置しているということは確かなのだが、あまり人気がないうえに王宮や、俺達の屋敷も遠すぎる。


 迎えの馬車を呼ぼうにも、軍事的な拠点ではないゆえ兵士の姿がなく、飼育員などに問い合わせても全く無駄である様子。


 これは困ったものだと、ほとほと困り果てていた俺達に、先程のゴリラのうち1頭がやって来て、何かを告げようとする……というかこのゴリラ、売店で買い物をしていなかったか……



『ウホホホッ、ウホッ』


「あら、えぇ、そうなんですね、それは有益な情報をありがとうございました」


「……なぜ女神様までゴリラと話をするのだろうか」


「きっと存在としてゴリラに……神罰を受けそうなのでこれ以上は言わないでおきますが……」



 先程から何かヒソヒソと話をしているミラとジェシカ、ゴリラがそんなに珍しいのか、そのぐらい、その辺の森や草むらなどで無限に見つかるというのに。


 とまぁ、その2人については特に気にすることもないとして、ゴリラが女神に伝えた内容はひとつ、この動物園には地下通路が存在して、そこが王宮へ繋がっているということだ。


 これでひとまず王宮へ戻ることが出来ると安堵し、教えて貰ったその地下通路がある場所へ向かう。

 もう長い間使われていない感じの鉄の扉が、盛り土をした場所に斜めに設置されているのがそうであるようだ。


 扉の鍵は腐り、簡単に開くことが出来る状態であったのだが、王宮へ繋がる通路のセキュリティがこれで良いのかと疑問に思ってしまうほどのものだ。


 なお、ここでババァが思い出したように言う、そういえばこの通路は、先代の王、つまり駄王のオヤジが開設したものであったとのことである。


 その王は駄王同様頭が悪く、通路開設当時は50歳を超えていたというのに、執務中に『どうしてもゾウさんが見たい』と駄々を捏ねて、お忍びで動物園に行くことが出来るよう、こんなものを用意させてしまったのだという。


 もちろん全て税金で、飽きたら忘れて放置することになるのを承知のうえで、自分だけのためにそうさせたのだから質が悪い。


 もはや動物園のサルと交換して貰うべきであったな、そんな奴がやるよりも、サルが王座に就いていた方が幾分かマシなのである……もちろん今の馬鹿と比較してもサルの方がマシだが……



「それで、この通路はどこへ繋がっているんだ? 駄王のオヤジが使っていたってことは、やっぱ王の間に出るのか?」


「うむ、数回しか使わずに終わってしまったでの、わしも良く覚えておらんのじゃ、確か……あれ?」


「……おい、大丈夫なんだろうなホントに? わけのわからない、それこそ亜空間に出たりとかしないよな?」


「それについては大丈夫じゃ、普通に造ったトンネルじゃし、おかしな技術などは使っておら……ぬはずじゃったが、何やらここは……ふむ」


「ふむ、じゃねぇよっ! ここどう考えても国立おっぱい図書館の中だろうがっ!」



 王宮へとつながるという地下通路、それを進む中で出現したのは、あろうことか先程まで居た魔王城地下書庫とその接続元の亜空間の、さらに接続元となっていたはずの国立おっぱい図書館、その中のどこかであった。


 そういえばこの図書館も地下にあったのだな、そして今用いている地下道と、かなり近い位置にあの巨大扉の入り口があって、それを強い衝撃と時空の歪みによって消し去った際に、魔王城亜空間支所だけでなくこの場所、現実世界に位置するこの通路までも接続されてしまったと、そういうことになる。


 となると、俺達はまず国立おっぱい図書館からスタートして、魔王城亜空間支所へ行って、そこからようやく魔王城地下書庫のピンクのカーテンの向こう側へ到達して、そこから帰還するのにショートカットをしようとして、またこの国立おっぱい図書館へ戻って来てしまったのか。



「……まぁ、あの動物園が現実世界で良かったわね、もしあの場所も亜空間ならどうなっていたことか」


「全くだ、亜空間の無限回廊を彷徨うだけの残念な人々になっていたぞ俺達は、で、ここからどうする?」


「ひとまず動物園に戻って……って、来た道が消えているじゃないの、どうしたのかしら?」


「完全に亜空間に取り込まれてしまいましたわ、こうなったらもう、また同じルートで魔王城地下書庫を通過して、動物園に戻って今度は地上から帰るしかありませんの」


「チッ、クソみてぇに面倒臭せぇな、だが文句を垂れていても仕方がない、とりあえず行こうぜ」



 こうして同じルートを辿ることとなってしまった俺達、面倒だが仕方がない、それ以外に帰る方法といえば、トラップだらけの長いルートを辿らなくてはならない地獄の行軍ぐらいであるからだ。


 国立おっぱい図書館から魔王城亜空間支所へ、そして魔王城地下書庫のピンクのカーテンの向こう側へ、順番に移動した俺達は、再び隠し階段を発見して元居た場所へ戻ることとなった……



 ※※※



『ギョェェェェッ! はっ、早く助けてくれぇぇぇぃっ!』


「何だ駄王は? またゴリラとかチンパンジーとか、オランウータンに喰われそうになっているのか?」


『今度は違うんじゃぁぁぁっ!』


「違う? どういうことだ……っと、マジでどういうことだっ?」


「あらいらっしゃい、いきなり変な所から来たけど、まぁ存在が存在だけに気にしないわ」


「いや、こっちが気にするんだが……というかここは動物園の、ゴリラ類の共用スペースじゃ……」


「店の共用ラウンジよっ! 誰がゴリラかっての!」



 駄王が襲われているのは先程と同様、これから生贄……ではなく財布を没収されているだけのようだ。

 ここは明らかに動物園ではないし、もちろん屋外でもない、それどころか店内である。


 先程この階段の先、空間同士の境目を通過した際に立ちこめた動物園の臭いはせず、今回は香水だの何だの、凄まじく甘ったるい臭いが充満した部屋に出てしまったのだ。


 ここは王都で唯一営業を許可された、というか俺が勝手に許可したボッタクリバー。

 元魔王軍四天王のアンジュが経営している、ゴミのような金持ちから全財産を搾り取るだけの店だ。


 で、今現在搾り取られているのは金持ちの駄王であって、特にサービスを受けるようなこともなく、普通に財布だけを奪われ、返してくれと懇願して……サキュバスのお姉さんに顔面を蹴飛ばされて吹っ飛んだ。


 まぁ、今のは人によっては金を払ってでも受けたいと思うサービスだな、駄王もそういう趣味があるのかも知れないし、全財産と引き換えにそれを受けたと思って貰い、今回のことはなかったものとしよう。


 いや、それは別に良い、俺に続いてやって来て、サキュバス連中との再会を祝い始めた魔王や副魔王もどうでも良いし、早速ボッタクリの被害に遭っているモブ魔族の面々もどうでも良い。


 問題はなぜこの場所に、あの亜空間から接続されたのかということであって、先程は動物園の一角に出たというのに、どうして接続先が変わってしまったのか、そこが疑問なのである。


 その答えを知っていそうなモブ魔族は……ダメだ、もはや全部につきサキュバスの被害に遭い、金も精力も全て吸い取られて、ついでにお掃除係として雇い入れられているどこかの元四天王ヴァンパイアによって、血液まで抜き去られてしまっているではないか。


 今はもうスッカスカの状態で、少しでも触れればボロボロと崩れ去ってしまいそうな様子のモブ魔族。

 これは回復までしばらく時間を要するであろうな、というか全身の血液を抜き去られて生存している時点でそこそこヤバいな……



「なぁ、俺達ってさ、今どうやってここに出現したんだ?」


「え? そっちの『STAFFONLY』の扉から出て来たじゃないの、違うの?」


「いやそうだとすればそうなんだがな、かくかくしかじかで……と、そういえばドアの向こうは……ふむ、元は更衣室なのか、となるとパンツが……じゃなくてちょっと開けるぞ、ほらっ」


「あっ、はぁぁぁっ? ちょっ、私達の荷物と着替えはっ?」


「知らん、どっかの亜空間に飛んで行ったんじゃないのか? とにかく知らん」


「いや知らんって、どうするのよ一体、私達、こんな格好じゃ帰れないわよ」


「良いだろう別にキャバ嬢みたいなドレスなんだから、いつものパンツだか紐だかわからん格好よりもマシだと思うぞ実際」


「美学をわかっていない異世界人ねぇ……」



 ボッタクリバーの更衣室であったはずの扉の向こうは、確かに俺達が通過した真っ暗な空間の接続面に変化していた。


 試しにということで、普通に客としてやって来て『搾取』されたらしい、その辺に落ちていたカッサカサのおっさんを1匹、紐を付けて向こう側に投げ込んでみると、引っ張って戻したそれは無事な状態。


 そして今度は全財産を奪われ、意気消沈している駄王をその先に向かわせてみると、確かに元居た場所であった、魔王城地下書庫のピンクのカーテンの向こう側であったと主張しているので、現時点において接続に問題が生じていることはないように思える。


 だが念のため、ボッタクリ業に従事するサキュバスの面々は、このスタッフルームの使用を当面禁止することとし、俺ではなく魔王にそう命じさせて言うことを聞かせておく。


 そしてすぐに店を出た俺達は、その足で王宮へと向かって会議を執り行うこととした。

 大臣等の参加者も続々と集まっているのだが、特に発言させる必要はなく、あくまでこちらのやるべきことを伝えるのみの会となる……



「え~、そういうことでじゃ、ここに参加している者は、それぞれの権限をもって人員を搔き集めるように」


『う~いっ』


「なお、動員される者は無給、死んでも別に知らないうえに、そこそこ危険が伴うこともあるゆえ、可能であればどうでも良い人材を選別するように」


『う~いっ』


「では散会とする、特に期日などは設けないので、準備が整い次第『捜索隊』を差し向けるように、場所はここじゃ」


『う~いっ』



 極めて簡単な方法で、一方的に命令が伝えられたような感じで終わった会議であったが、参加者達は我先にと、人員を搔き集めるべくその場を去って行った。


 きっと早ければ早いほど良いと、ここで目立っておきさえすれば、今後より良いポストに案内されるのではないかと、そのようなことを期待しているのであろうが、そもそも自分達がモブキャラであるということを理解していないようだな。


 まぁ、頑張ってくれる分にはそれで良いのだが、無駄な空回りをして、かえって俺達の邪魔になるというような事態は避けて頂きたいところだし、そうなったらそいつが動員した連中ごとブチ殺す。



「さてと、じゃあ俺達も現地へ向かおう、ババァも駄王も、ここからは別行動ということでよろしく」


「して勇者よ、そこでカッサカサになっている複数のモブ魔族はどうするのじゃ? 不潔ゆえこの場に置いて立ち去るようなことはしないで欲しいのじゃが」


「安心しろ、まだギリギリで使い道がありそうだから、もうしばらくは持って移動することにするよ……でも邪魔だから手足は捥いでおこうかな……」


「勇者様、それをしたら用途が減ってしまいますから、面倒ですがこのまま持って行きましょう」


「だな、ということでまた後程、まぁ俺達はすぐに亜空間の方へ戻っているがな」


「うむ、気を付けて行くが良い」



 こうして王宮を出た俺達は、外で買い食いなどして待っていた仲間達と合流し、大型の馬車をチャーターして全員で元の場所、ボッタクリバーのスタッフルームの前まで戻った。


 建物の手前には既に大部隊が配備されており、それぞれがそれぞれの組織や家など、所属する場所の威信に賭けてミッションを成し遂げようなどと、出陣式のようなことをやっている。


 というか、そもそもこの先の亜空間で何をすべきなのかわかっている奴がどのぐらい居るのか。

 そのアンケートを取れば……まぁ、どうせ馬鹿ばかりであって、イライラするだけなので止めておこう。


 俺達は俺たちなりに亜空間へ戻って……中は凄い騒ぎである、外で出陣式をするのであればまだわかるが、亜空間に入り込んでからそれをやる意味がわからない。


 普通に狭いし邪魔だし、やかましいため既に着手している他の組織の連中が作業に集中出来ていないではないか、この組織のトップは……なるほど、なり上がろうと必死になっている雑魚貴族か、殺してしまおう……



「おいおっさん、ちょっとお前等の兵? うるせぇんだけど」


「む? 何を言うかこの頭の悪そうな顔をした若造は……どこかで見たことがあるように思えるが……」


「なんと、まさか勇者様の顔を知らんとは……ひとまず死ねっ!」


「ブッチュゥゥゥッ!」


『何だっ? 誰か死んだぞっ』

『あのうるさかった組織のトップだ』

『やべぇ、勇者来てんじゃねぇか』

『静かにしろ、目が合ったら殺されんぞ』

『あぁ、静かにしておこう』



 こうして静寂に包まれ、図書館然としてきた魔王城地下書庫のピンクのカーテンの向こう側。

 新しくやって来る連中に見せるため、馬鹿貴族の死体はさらに損壊してそのまま晒しておくこととしよう。


 そして俺達も再び捜索を開始だ、先程と同様、セラと2人で組んで魔王と副魔王を見張りつつ、出入口からかなり離れた人気のない場所で作業を始める……

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