1012 最終目的地へ向けて
「俺達はな、この亜空間の最後の調整をしていたんだ、それで、出入口を魔王城の例の玉座の裏に固定しようと試みて……」
「失敗してアレなことになったと、残念だったな、自分達の無能さを呪いながら無様に死ね」
「えぇ、ぜひそうさせて下さい、もう生きてる意味とかないんで……」
「張り合いのない奴等だな、ホントにつまらんぞお前等」
「もっと命乞いとかして、無様な姿を晒しなさいよね、そういう『生きたくて仕方がない雑魚』を甚振り殺すのが面白いんだから、そのぐらいわかっているでしょう?」
「は、はぁ、それはどうも……」
「ダメだなこいつ等、死体が喋っているみたいなもんだ、もう死んでいるんだよこの時点で」
イマイチ反応が薄い、俺達が目指していたのとは別の亜空間に閉じ込められてしまっていた魔王軍の残党。
絶望の中現れたのが敵である勇者パーティーであって、また、魔王も副魔王もそれに捕まっている状態であったのだから仕方ない。
きっとこの連中には、今しがた俺達が魔王城を攻略し終え、魔王と副魔王を捕縛したうえでここにやって来ているように見えているのであろうな。
実際にはその事象はしばらく前の話であり、今はもうここに取り残された者のことなど忘れ去られてしまっていたということを伝えてやれば……まぁ、この状態からさらにショックを受けることなどないか。
しかしこいつ等から情報を、この亜空間と魔王城を繋げようとしていたことの詳細だけでなく、亜空間そのものの構造や、他の亜空間との接続可能性について引き出さなくてはならない。
それがこんな感じでは拷問の効果も薄いと思うのだが、逆にこの感じゆえ、普通に質問したら答えてくれるかも知れないな。
或いは魔王か副魔王が、直接そのことに関して質問すれば、いくら俺達によって言わされているということがわかったとて、それを拒否してどうのこうのというわけにはいかないであろう……
「おいお前等、そうやって諦めるのは勝手だがな、俺達はまだやらなくてはならないことがあるんだ、この世界のためにな」
「……だからどうしたというのだ? もう俺達には関係のないことであって、そんなのそっちでやれば良いじゃないかと思うぞ」
「ざけんな、この世界のためにお前等の知識が必要なんだって言ってんだろ、ここに閉じ込められたとか、それ以前にこんな場所を創り出そうとしていたこととか、全部ひっくるめて、洗いざらい情報を吐いて貰うぞっ」
「えっと、私と魔王様からもお願いします、事故でこの亜空間に閉じ込められてしまったあなた方を、5秒後にはすっかり忘れてなかったことにしたうえ、適当に自己都合退職扱いして魔王軍のデータベースからも消し去ったことに関しては謝罪しても良いかなとは思っていますから」
「副魔王、お前なかなか酷いな部下の扱いとか」
「まぁ、こういう方々ですから、使い捨ての駒というか、特に大切な仲間ではないというか、そんな感じの存在なんです」
「……酷すぎる」
確か取り巻きの女の子達には、襲撃中の王都から逃げるよう指示したり、自分が助かるような行動を取るようにと命じたりと、かなり大切にしていた様子の副魔王。
確かにあの襲撃では副魔王の部下に犠牲者が出たりはせず、魔王城の陥落に際しても、全員が無事生還してこちら側の捕虜となったことが確認されている。
それに対してこの連中……まぁ、いつもの如く野郎魔族ばかりなのだが、これに対する扱いは何だというのだ。
もし俺であればこういう自らを犠牲にしてまで頑張っている部下達に対して……同じような態度を取るであろうな。
普通に考えたらこの連中はおっさん、別に大切にする必要はないし、命の価値としては副魔王の部下であった女性キャラと比較して、100万分の1程度しか有していないのだから。
で、そんな感じで扱われ、しかも生きながらに死んでいる野郎魔族共は、なぜか『副魔王から直々の御言葉を頂いた』ということに関していたく感動し、少しだけ気を取り直したようにも見える。
もちろんまだ目が死んでいるし、口数が多くなったとは言えないのだが、それでも先程までの、まるで心霊写真の心霊サイドの人のように、うっすらとした存在感ではなくなってきている感じだ。
次は魔王から直接話し掛けさせよう、自分の計画のために使い、そして失敗の際に簡単に切り捨ててしまったこの部下の連中に、改めて優しい言葉を贈らせるのが魔王の役目であろう……
「おう、ちょっと言葉を掛けてやれ、もうちょっとテンションを上げさせれば、少しぐらい話をするようになるかも知れないからな」
「わかったわ……え~っと、皆さんごめんね、顔も名前も知らないし、居ても居なくても一緒だとは思っていたけど、ここで奇跡の再会を果たしたことについては……別にうれしくはないけどそこそこ奇跡だわ、生きているなんて思わないもの……以上」
「ウォォォッ! 魔王様から直接お言葉を頂いたぞっ!」
「俺がっ、こんな俺が魔王様から……」
「犠牲になっておいて良かったぜ、これで心置きなく死ねるなっ!」
「あぁ、もうウッドチョッパーに頭から突っ込んでも構わねぇぜっ!」
「……もしかして逆効果だったんじゃない?」
「うむ、言い方も凄くアレだったし、それに対してこんな反応を見せるとは思いもしなかったぞ……どうなってんだこいつ等は」
勝手に盛り上がってしまった馬鹿な連中、魔王からも副魔王からもディスられていたようにしか思えないのだが、普段の扱いからして、話し掛けられたということが単にそれだけで相当にうれしいことであったようだ。
そして盛り上がったのはそれで良いとして、この状況でもう満足を得ているというのが少し芳しいとは言えない。
自らの役目を完全に終えたかのような、最初から犠牲になることが決まっていて、その際にねぎらいの言葉を貰ったかのような、そんな態度であって、このまま放っておいたら勝手に、というかもう自然に死亡してしまってもおかしくない感じである。
そうすると情報が得られることはなくなり、俺達はゼロから、全く何のヒントもない状況から、この亜空間を他の亜空間と接続するための場所や方法を探らなくてはならないということになるではないか。
そうならないために、どうにかしてこの連中に生きる希望を持たせたいところだし、そんな希望に満ちて、しかも魔王や副魔王も望んでいることを成し遂げた、これからもっと頑張っていこうと考えるようになったところで、あたかも高所から突き落とすようにしてブチ殺してやるという楽しみが生じるのだ。
で、このためにはまず……そうだな、生きる希望となり得るのはエッチなことであり、エッチな本を見せれば、自ずと生存本能とか、そういうものが呼び起こされるに違いない、まずはここからアプローチしよう……
「ねぇねぇ魔族さん達、どうせ死んじゃうんだったらさ、その前にほら、ちょっと良いモノを見ていかないか? 冥途の土産ってやつなんだが、良品が揃っているぞ」
「ん? そんなモノがあるのか、もしそれで極楽浄土へ行くことが出来るというのであれば、ぜひ最後に見ておきたいものだな」
「まぁ、お前等は地獄へすら行けずに存在ごと消滅して……あ、いや何でもない、今ならほら、ここに居るこの世界の女神、コイツをモチーフにしたおっぱい系エッチな本も読み放題なんだ」
「勇者よ、女神であるこの私をダシにするなど言語道断ですよ」
「……じゃあ何か? このババァが有する冷蔵庫の奥で忘れ去られてアレなことになっていたニンジンみたいなおっぱいをダシにするってのか? そんなもん誰も求めてねぇんだよこのクズが、おっぱい以外役に立たないんだから静かにしておけ、それと用がないなら喋るな、お前への対応でいちいち話が長くなることだけは避けたいんだよ、なぁ、迷惑なんだよお前、またケツを蹴飛ばされたいのか?」
「長文での辛辣な言葉、ご苦労様でした……」
「それで、その冥途の土産とやらはどこにあるんだ? 早く見せてくれないと死んでしまうぞ」
「まぁ待て、こっちにあるから来てくれ」
ようやくこちらの話に喰い付いた死にたがりの廃棄魔族達、これはもう仲間にすることさえ出来てしまいそうな感じだな。
というかどこかで、元魔王軍の関係者を仲間にしたような気がしなくもないが……しかも大量であったな、それについてはどう処理したのか忘れてしまった。
まぁ、それはもう別にどうでも良いことだ、せっかく『少しだけ生きながらえる気』になったこの連中を、ひとまずおっぱい書物で刺激し、しばらくこの世界に留まってくれるよう、俺達に情報を提供することが出来るよう取り計らうこととしよう。
亜空間から亜空間へ、国立おっぱい図書館を目指して移動した俺達は、煤になってしまったこの連中の仲間がなるべく目に入らぬよう、少しルートを考えながら境界線を越えたのであった……
※※※
「見ろっ、ここにある大量の書籍、これらは全て、古のものから最新のものまで、本当に全てがおっぱいに関するものだっ!」
「……本当だ、これもおっぱい」
「これは人族のおっぱい関連雑誌か」
「すげぇ、バックナンバーまで全部あるぞっ!」
「どうだ、気に入って頂けたかな?」
『……うっ……ウォォォォォッ! ここは最高だっ! そして人生も最高だっ!』
「生きていて良かった、そう思うだろう?」
『ウォォォォォッ! 生きていて良かったぁぁぁっ!』
「よろしい、じゃああとは魔王から話を聞いてくれ、あ、おっぱいの本を読みながらで良いぞ、俺のオススメはこちら、『神界おっぱい見聞録』だ、ここに居る女神のおっぱいについてかなり詳細な記述があってだな……」
「勇者よ、そういうのはやめて頂きたいと」
「ちなみに、実物がここにあるゆえ、それと書籍に記載された内容とを比較検討して論文を執筆するなどということも、今この場においては可能だ」
「話聞いてます?」
結局女神を、というかこの世界の女神において唯一といって良い評価ポイントである女神おっぱいをダシにして、廃棄されて忘れ去られた魔族達に生きる活力を取り戻させることに成功した。
まぁ、こんな感じで元に戻ったところで、この連中はもはやこの空間から出ることが出来ない、もし出入口が復帰したとしても、それから魔王城の地下書庫へのルートが構築されたとしても、ここで死んで貰うことに変わりはないのだ。
そうとは知らずにおっぱいの本を読み漁り、雲の上の存在であったはずの魔王や副魔王からの、直接的な指示に対して感動し、非常に楽しそうにしているのがまた面白いところである。
最後、自分達の活躍によって俺達が目的を達成し、これから表彰などもワンチャンあるのではないかと、期待に胸躍らせているところで、冷たくあしらって切り捨てるその瞬間を楽しみにしておこう。
で、魔王からの指示によって廃棄魔族達は起立し、一列に並んでこちらの、俺達側からの要請に耳を傾ける感じで待機している……かなりやる気を出しているようだな、この感じであれば問題なく情報を提供してくれるであろうな……
「え~っと、ここの書籍は好きに持ち帰って良いとして、問題はここと、俺達が行きたい場所を節度くする作業、つまり亜空間同士を繋ぐという極めて困難で危険なミッションだな、それについて話をしたい」
「……それは、俺達が失敗した魔王の間との接続よりも大変なことだぞ」
「わかっている、だがこちらには『ツール』もあるんだ、ほら、このおっぱい図書館、これは人族の地で封印されていたわけのわからん場所でな、既にここと、お前達が閉じ込められていた亜空間を接続することに成功しているんだ」
「というと、何か接続し易い場所みたいなのを探せば……」
考え始める魔族達、確かに俺達はおっぱい図書館につき、元々現実空間との接続を成していた扉から、その境目を時空歪みに放り込んで消滅させるという方法で入って来たのである。
そしてその際、強力すぎるリリィの攻撃および武器の効果によって、亜空間の内部がどうこうしてしまい、結果として放棄されていた魔王城亜空間支所との接続がなされたと、そういう経緯であったのだ。
つまり、リリィはたまたま扉以外の場所で、というか扉に対して攻撃した際に、この亜空間とあの亜空間の接続し易い場所を貫いたということ。
となると、この亜空間とあの亜空間のうちあの亜空間の方、即ち魔王軍のそれに近い方の亜空間のどこかをアレすることで、この亜空間とあの亜空間が接続された状態のまま、その亜空間へ至るルートも構築されるのである……たぶん。
もはやどの亜空間がその亜空間なのかわからなくなってしまいそうな勢いではあるが、結果として魔王城地下書庫へ辿り着くことが出来ればそれで良い。
途中、この魔族達が犠牲になったり、うっかり何かに巻き込まれた駄王がミンチになったりしても一向に構わないし、その程度のことであれば作業を続行して欲しいところである……
「うむ、ここがこうなってこうなって……この辺りが本来魔王城と接続すべきところであったな」
「あぁ、だが思ったよりも空間の境目が割れ辛かったせいでこんなことになったんだ、あのときに死んだ作業員もかなり多かったしな」
「となると別の場所からアプローチして……ここはどうだ?」
「いや、そこも同じことになるであろう、実際にはこっちの方が……」
「……あの、ちょっと良いかしら?」
『はい魔王様何なりとっ!』
「えっとね、そっちのやっていることはわからないから、そのまま続けて欲しいってのと、あと私達はもう別の場所へ移動するから、何か結果がわかり次第伝えに来てちょうだい」
『へへーっ! 畏まりましたーっ!』
完全に職人感を取り戻した魔族達であるが、それらが輪になってブツブツと話し合いをしているのを見ても何も面白くないし、そもそも話の内容がわからない。
よって俺達は別の場所、食事がとれそうなエリアへ移動して、そこでこれからどこをどうするべきなのかという報告を待とうということとなり、魔王から直接そのことを伝えさせた。
移動先は……うむ、本来この亜空間において、魔王本人を含む魔王軍の上層部が使用するはずだった、最高級の部屋で休憩を取ることとしよう。
「こっちよ、こっちにいい部屋を作って、そこにお酒とか高級缶詰なんかも置いてあるわ」
「ほう、缶詰は全員分あるのか? 内容は? あと酒についても詳しく」
「缶詰は全て星がいくつも付されるような魔族領域の高級店のものばかり、しかも当時残っていた幹部全員が100年生活することが出来るだけの数ストックしておいたわ、お酒も最高級品をそれはもう物凄い数で……ちょっ……あいたぁぁぁっ!」
「この魔王め、人々を苦しめておきながら自分は贅沢しやがってっ」
「それだけのものがあれば、勇者様の生活水準だと3回生まれ変わっても遊んで暮らせる次元ですよっ、それをちょっとミスしたぐらいでアッサリ諦めるなんてっ、このっ」
「痛いっ、痛いから叩くのをやめなさいっ、ちょっ、水の精霊まで便乗しないで! 殺す気?」
調子に乗りやがった魔王には当然の制裁を加える、抓り、引っ叩き、そしてカンチョーを喰らわせ、俺達が苦労している間に贅沢な暮らしをしていたことに関しての反省を促すのだ。
で、そんな魔王の案内で、俺達はその贅沢品が大量に収納されているという贅沢スウィートルームへ。
なるほど、確かに贅沢だが……色々と金ピカすぎて、貧乏人の俺には落ち着くことさえ出来ないではないか。
まぁ、ミラが壁に貼られた金箔を剥がし始めているので、そのうちにこの部屋は無骨な、コンクリート打ちっ放しのような風景に変わるはず。
調度品に関しても、既に俺やミラ、精霊様のバッグの中にしまい込まれたものが多いし、あとは酒と食料を、今から食す分とお土産の分、キッチリ分けて確保しなくてはならない。
と、既にカレンが戸棚を開けて、これまた金ピカに輝く缶詰をひとつ取り出し、そして開ける……最高級の霜降り牛肉が、甘辛く味付けされた状態で缶の中に詰め込まれているではないか。
次いでリリィが開けたのは牡蠣のオイル漬け、こちらも超高級であって、この世界において普段はそうそうお目にかかれないもので……うむ、俺が手に取ったものだけなぜか激安の輸入コーンであった、だがこれはこれで美味なので良しとしよう……
「しかし、どうしてこんな場所を作ろうと思ったんだ? 戦いから逃げるためであれば、もっとこう、アレだ、地下壕みたいなそれっぽい雰囲気の場所で良いのに」
「だって、それだと絶対に疲れちゃうじゃないの、ここに逃げ込んで、しかもあんた達が来ないってわかっていれば、それはもう普通に高級な生活をするべきよね……で、忘れた頃にまた勢力を拡大して……みたいなことを思っていたわけ、失敗しちゃったけどね」
「ふ~ん、おい女神、そういうことらしいぞ、亜空間を勝手に用いて、しかも真面目に戦うことなく贅沢な暮らし? みたいな感じだそうだ魔王が考えていたことは、どうする?」
「そうですね、これはかなり厳しい神罰を受けるに値します」
「ひぃぃぃっ! そっ、そんな……いったぁぁぁぃっ! 痛いっ、何よこれちょっと、痛いぃぃぃっ!」
「これはずっと足が攣っているような感覚に陥る神罰です、ちなみに本当は攣っていませんので歩くくことは出来ます」
「ヒギィィィッ!」
「どんだけ地味なんだよ毎回……」
そのまま魔王が反省するまで締め上げ、ついでにその場にある高級缶詰をどんどん消費していった。
そしてせっかくなのでということで、酒の方にも手を出そうと試みたところで、色々と考えていた魔族連中が飛び込んでくる。
どうやら何かわかったことがある……というよりもここでわかるような、そんな雰囲気のムーブだが、一体どうしてしまったというのだ……




