1008 接続元
「なるほどな、じゃあそういう重要な書物に関しては、最奥のカーテンを潜った先にあると、そういうことでOK?」
「そうです、一応は300禁コーナーにして、ピンクのカーテンで封鎖していしているんですが……この中で300歳を超えているアダルトな方々はどのぐらい居られますか?」
「いや、そこは構わない、魔王もそうだったと思うが、俺達のような短命種については300歳を18歳に読み替えて欲しい、それで十分にアダルトなんでな」
「じゃあそこの狼獣人の方も……」
「まぁ、そうじゃない、というかそうじゃなさそうな見た目の奴も居るには居る、気にしなくて良いイレギュラーだ」
そもそも『貴重で重要な書物』がピンクのカーテンを潜った先にあるということ自体が解せないのだが、まぁ魔王軍の考えることだし、特に魔王辺りが考えたことであろうから特に気にしない。
で、管理者らの説明をそのまま受け、書庫は一旦魔王城のかなり上層まで上がった後、そこからフリーフォールするようにして地下へ、直線距離にしておよそ3,000mの旅をするのだという。
いや、そこまでの地下となるとかなりアレな気がするのだが、最上階である魔王の部屋から向かったとしても、余裕で当初からあった地面に埋もれているわけで……まさか魔王城、俺の領地の地下まで不当に占有しているというのか。
そして何となくではあるが、魔王城内に残っていた魔王軍の構成員共は、きっとそういう地下深くの場所に向かって逃げたのではないかと、そんな予想をしてしまう。
当然それを追跡したかたちで、物体の方もそこそこその地下エリアにやって来ているのだとは思うが……その辺りは実際に確認してみないことにはわかりようがないな。
ともかくそこへ行かなくてはならないということはわかったのだが、問題はその物体の召喚に関する記載のある書物の保管場所へ至るまでのルートと、誰を案内係として連れて行くかということである……
「う~む、この書庫の管理者たちを連れて行くってのはな、ちょっと危険が危なくて大変だぞ」
「そうねぇ、この子達を危険に晒すわけにはいかないわ、だからといって案内ナシじゃ……魔王はどうなのかしら? さすがに書庫へのルートぐらいわかっているはずでしょうし、それにゲート? を使えば魔王城のどこへでも行けるんじゃなかった?」
「あ、そうだよな、魔王城の中に入ってから書庫まで、そこまではそれでいけるよな、魔王の間からダイレクトに……でも誰か残ってレバーを引かなくちゃならないんだっけか?」
「それ、ロープとかを使えばどうにかなるような気がしますし、あと玉座の裏を閉じる必要がなければ、別に何もしなくて構わないんじゃないでしょうか?」
「ということだな、じゃあ最初に魔王の間へ向かうというのは決定で、そこからあの転移装置で書庫までワープ、それから……いや、ここが問題じゃね? そのさ、ピンクのカーテンの向こうにある書物はどのぐらいの数なんだ?」
「そうですね……比較的長命な5万年生きるタイプの魔族が、100回生まれ変わればその200分の1程度のタイトルをひと通り眺めることが出来るのではないか、そのぐらいの分量です」
「いや多すぎんだろ、どうせまた亜空間とかに収納しているんdなろうが、その中から目的のものを探し出すのは困難だろうな……」
「ええ、それに書物の数は何もしなくてもどんどん増え続けていますから、本が本を生み出し、また魔族が出版した本は全てその書庫に自動で1冊格納される決まりですから」
「ふ~ん、もう無理だなそこの捜索、きっと誰か迷子になって終了だぞ」
驚異的な広さと蔵書の数を誇っている魔王城書庫のアレなコーナー、もちろんそれ以外の書物に関しては、ピンクのカーテンのこちら側において普通に存在し、普通の書庫の様相を呈しているのであろうが、カーテンの向こうは違う世界らしい。
しかしそんな亜空間の中から、どうやって魔王はあの物体を召喚するための儀式だの何だのが記された書物を得たのであろうか。
まぁ、エッチな本を読んでいたらたまたま、というのがありがちな展開なのだが、それでも一度はその書物に触れているはずのところ。
もしかしたら魔王の奴はおおよその場所を覚えて……その可能性は低いか、書庫、というかその書庫のカーテンの向こうは亜空間であって、今から俺達が行くその場所と、かつて魔王が行ったその場所では、同一のポイントであっても形が異なってしまっているに違いない。
そうなると魔王の知識も使えないか……どうにかしてその書庫の中で、効率良く目的の書を探すことが出来ないものであろうか……と、マリエルが何か気付いたようだ……
「勇者様、話を聞く限りなんですが、その魔王城の書庫、やはり亜空間を用いていそうですよね?」
「だと思うぞ、女神とかにバレたらやべぇだろうなきっと」
「……実はですね、王都にもその類の書庫があったんです、太古の昔ですが……もちろん既に女神さまから注意を受けたことによって閉鎖されてはいますが、王宮の地下に入り口が残っているのではないかと」
「ふ~ん、それがどうかしたのか? もしかしてそこで『亜空間における行動の練習』をしてから行こうなんて、そんな面倒なこと考えてんじゃないだろうな?」
「それはさすがにダルすぎですので、その魔王城のその亜空間書庫と、こちらの亜空間書庫の残骸、お互いを接続することが出来たらな……などと考えたのですがどうでしょう?」
「亜空間同士の接続か……メチャクチャでそれが可能になる理論もわからんのだが、きっとどうにかなるだろう、やってみようか?」
「はい、では早速王宮に取り次いで、その古の書庫の入口を開けて貰うようにしますね」
どうしてこうなったのか、どうしてそのようなわけのわからない作戦が採用されてしまったのかは定かでないが、とにかくこれが成功したとすれば、俺達は魔王城の中を探索することなく、むしろ王都から出ることさえせずに目的地へ辿り着くことが出来るのだ。
捜索班も大人数を用意することが可能になる、物体に制圧されているであろう魔王城内の書庫とはいえ、ピンクのカーテンの向こう側とあれば、そう易々とそれの侵入を許すとは思えないため、ダイレクトにそこへ辿り着くことが出来るとあらば、一般的な人員も、それからこの書庫の管理者達も同行させることが可能なのである。
マリエルがその接続元となる王都内の書庫を開けと、その要請に係る文書を持たせた伝書鳩は、姿が見えなくなったと思った次の瞬間には返事を携えて帰還した。
一体どうなっているのかという点についてはさておき、早速返事として戻って来た文書の中身を確認すると……ダメだ、『王女とあれどそれはさすがに無理です、女神さまのご不興を買うことでしょう』などと書かれているのみ。
これはもう直談判、それでもダメなら強行突破しかなさそうだな、もちろんそんなことをしたからといって、亜空間同士の接続が必ず上手くいくというわけではないのだが、最初から諦めてしまうよりも、全力を出したうえで失敗した方がマシなのだ……
「さてと、ちょっとババァを殴る準備でもしておくか、あと駄王を蹴り殺す準備もな……でだマリエル、その書庫って王宮のどの辺りにあって、何のために設置された場所なんだ? それを知らないとただ殴ったりけったり暴言を吐いたりするだけ、普通の襲撃犯になってしまうぞ」
「あ、そういえばそうでしたね、古の書庫の場所は地下のほら、何か階段がある場所を降りてそこからまっすぐ進んで右に曲がってから左へ……」
「その説明じゃわからんな……うむ、その辺で捕まえた偉そうな誰かを使おう、脅迫して案内させるんだ」
「というかマリエルちゃん、その書庫は何のために亜空間なんか使ったんですの? 普通に広い地下室でも用意しておけば、人族程度の知識量で書かれる本なんてだいたいは収蔵出来てしまうんでないですの?」
「えぇ、学識何とかみたいな本でしたらそうかと思いますが……その地下亜空間書庫の名は『国立おっぱい図書館』、おっぱいに関しての記載が少しでもある書物は、今も世界のどこかで発行されるたび、自動的にそこへ収蔵されているはずなんです、きっと膨大で、普通の空間では溢れる事態になっていたでしょうね」
「マジで何考えていればそんな書庫を創ることが出来るんだ……」
どこかで、もちろんこの世界ではない別の場所で聞いたことがあるような語感の『図書館』、それは国会ではなくおっぱいの図書館であり、もちろん国立の、税金の無駄遣いの一環として開設されたものであることは言うまでもない。
この国、駄王の世であるからこそおかしなことになっているのではないかと思っていたのだが、駄王の先祖である以上、そしてその系譜である以上、これまでもこれからも、腐った政策の連発で人々を呆れさせることになるであろうな。
そんなことを考えながら、ひとまず俺とセラ、あとは一応マリエルと亜空間について詳しいであろう精霊様を加え、4人でその国立おっぱい図書館のある王宮を目指したのであった……
※※※
「じゃからの、あの場所はもうずっと前から禁忌とされておるのじゃ、王ですら入ったことがない場所ぞ、王よ、この勇者に何か言ってやって下され」
「おぉ勇者よ、そんな危険な場所へ行かずとも、今なら魔導オンラインでおっぱいを見放題……ふむ、何か知らんがいきなり金貨50枚請求されたんじゃが? ちょっと払って来る」
「架空請求に騙されてんじゃねぇぇぇっ!」
公務中に魔導何とやらでエロサイトのようなものを見ていた駄王には天罰が下り、金貨50枚を架空請求されたうえにそれを信じ込んでしまった、本当に哀れな馬鹿野郎だ。
そんな駄王に蹴りを入れて制止し、詐欺に金を払うなら俺に寄越せと、そう告げつつ胸ぐらを掴む。
振ってみるとジャラジャラと音がするな、金貨かどうかはわからないが、地味に持っていそうな感じの音だ。
「オラァァァッ! ひとまず金出せやゴラァァァッ!」
「おぉ勇者よ、王の間で王からカツアゲとは情けない、おぬしには良心というものがなけろばぽっ!」
「ちょっとそっちで死んどけ、で、ババァもこうなりたくなかったらその国立おっぱい図書館ってのを開けるんだな、これはあの物体を討滅するに際して重要なこと……なのかどうかはまだわからないがな、とにかく情報を手軽に得られる可能性があるんだ、そういうことなら良いだろう?」
「そう言ってもな、あの地はかつて女神様より禁じられ、何人も立ち入ることが出来ぬとされた地じゃからの、そう易々とその伝統的な禁を破ることは出来ぬのじゃよわしには」
「チッ、堅苦しい奴だな……となると女神か、奴を脅迫してOKサインを出させれば良いんだな、そういうことだろう?」
「いや脅迫って……」
ということで女神を呼び出そうとするが、何やらお出かけ中であったようで通信が繋がらない。
全く役に立たない馬鹿だと文句を垂れながら、留守録に用件を伝え、断ったらボコるとも告げておく。
これで女神の奴の許可は下りたも同然、あとはそのおっぱい図書館の場所さえわかれば、しかるべき役回りの奴に封印を解かせて万事OKだ。
女神からの返事は特に得られていないが、このまま黙っていても仕方ないので行動し始めることとしよう。
ババァに案内させ、なぜか付いて来た駄王を罵りつつ、ひとまずということでその入口がある場所へと向かった。
王宮とはいえ地下は薄暗く、ジメジメしているのが不快だ……まぁ時期もあるとは思うが、とにかくサッサとそのおっぱい図書館とやらへ突入したい。
大量の紙や本棚がある以上、それなりの乾燥状態は保たれていそうだし、案外快適に調べものが出来るかも知れないな。
まぁ、そんなわけのわからない図書館で何を調べるのかといった疑問はあるのだが、それなりにエッチな本があると良いなと、若干思ってしまっている自分が居る……
「着いたのじゃ、この先の扉を開けて、その先にある封印をいくつか解除して、警報が鳴ってゴーレムが暴れ出すので完全に制圧して、ときたま動き出して襲ってくる鎧が並んだ廊下を通過して、岩の大玉が襲い掛かるトラップと、それから堕ちたら最後の落とし穴が大量に設置されたホールをどうにか生き延びて、地雷原を何事もなくクリア出来たら、その先のある扉の封印を解除して、クイズに答えて全問正解して、それから資質があるかどうかを入念にテストされて、そこで認められた者だけが古の国立おっぱい図書館の封印を解く鍵をゲットしてその先のミッションに挑む権利を得るとの伝説がある」
「それ着いたって言わねぇよ絶対……」
王宮の地下にこんな場所があったのかと思えるほどに、ほとんど使われていない感じを醸し出しつつ目の前に聳え立つ巨大な扉、金属部分が恐ろしく錆びていてまともに開く気がしない。
それを潜った後に紆余曲折あって、その紆余曲折をクリアした者のみがおっぱい図書館へ入ることが出来る……のではなくその入るための鍵をゲットしてどうのこうのとは、一体どれだけ面倒なことをさせるつもりなのだ。
だが、俺達は特権階級であって、そんな仕掛けをいちいちクリアするような身分ではないのである。
というか、俺達が遅くなればなるほど、物体の脅威がこの王都を包み込むのが早くなってしまう。
そうならないためにも、俺達はVIPルートなどを用いてサッサと先へ進むことが可能となる方法を取るべきだし、きっと女神が『封印を確認する』などの目的で使う専用ルートがあるに違いない。
もちろん俺達にはそのルートを用いる権利があるのは当然のことであるので、今ここでそれを主張することなく、突入するときになったらそこの鍵でも開けさせれば良いのだ。
そう思って、まずは目の前の巨大な扉だけオープンしておこうと、今日はそれで帰って、明日メンバー全員を引き連れてやって来ることとしようと、目の前の聳え立つそれに蹴りを入れる……
「オラァァァッ! 死ねやボケェェェッ!」
「勇者よ、おぬしは単なるモノに対してもそういう態度を取るというのか、嘆かわしい奴じゃ」
「うっせぇオラァァァッ! てか早く壊れやがれっ、このっ……セラ、ちょっと魔法」
「あ、諦めるのね普通に……」
「なんと情けない異世界人なのじゃこの男は……」
蹴ってもブン殴っても、もちろん体当たりしても、全く微動だにしなかった書庫の手前の閉ざされた扉。
通常、勇者の力をもってしても破壊出来ないものなどほぼほぼ存在しないというのに、この古めかしい扉は何だというのだ。
かなりイラつきつつ、セラが放つそこそこの威力の魔法によって、その鬱陶しい扉がズタズタに引き裂かれ……なかった、全くの健在である。
次はマリエルの槍を使った攻撃……ミス、扉にダメージを与えることが出来なかった。
精霊様のウォーターカッターのような攻撃、ミス、扉にダメージを与えるどころか、洗浄されて一部がピカピカになってしまったではないか。
「全然ダメね、魔法でも物理攻撃でも、ホントに傷ひとつ付かないって感じだわ」
「このクソ扉めっ、人が下手に出ていりゃ調子乗りやがって」
「どこが下手に出ていたというのじゃ、普通にイキり倒していたではないか」
「うるせぇよババァ、ことあるごとに入れ歯がぶっ飛ぶハゲのジジィと再婚させられたくなかったら黙りやがれっ!」
「・・・・・・・・・・」
ひとまずババァを脅して黙らせることには成功したが、それでこの扉がどうにかなるのかと言われれば、そうではないと答えざるを得ない状況である
何か仕掛けがあってオープンする仕組みになっているのか、それとも強固な防御魔法だけが生きていて、それが俺達を阻む要因となっているのか。
とにかくここを通過しないとどうしようもないのだが……ここはやはり、古の文献などからその開き方を探る、或いは女神からの返信があるのを待っている他ないであろう。
しかし女神の奴、この件に協力してくれるのかどうか微妙だな、何だかんだと言い訳をして、結局普通に魔王城の再攻略、しかも今度はかなりの強敵が跋扈している状態でそれをしなくてはならない可能性も……それは最初からあったのか。
ここで扉が開いて、その先の『紆余曲折』もクリアしたとして、そこで全てが上手くいく可能性というのはそこまで高くないのである。
もっとも、やはりやってみないとわからない部分があるゆえ、ここで諦めてしまうわけにはいかないのだが……と、ここで女神が帰還したようだ、少し話をして、そのままこちらへ来させることとしよう……
『どうしたのですか勇者よ? 私が留守にしている間に連絡をいただいていたようですが……あ、また無理難題のようですね、では失礼します』
「ちょっと待てやオラッ、俺達はその何だっけ、アレだ、国立おっぱい図書館とやらに入りたいんだ、速く扉の封印とか何とかをどうにかしやがれこのクソがっ!」
『ちょっと、いくら何でもアレはダメです、今回は本当に聞き入れませんからね……まさか私の神おっぱいを参考にした図書まで所蔵しているとは……あ、いえいえ何でもありません、それではまた~』
「……おいちょっと待て、お前、このおっぱい図書館の件、ほぼほぼ個人的な理由に基づく閉鎖命令だろう、違うか?」
『さ、さぁ、何のことでしょうか……』
「良いからとっとと顕現しやがれっ!」
『はっ、はいぃぃぃっ! 畏まりましたぁぁぁっ!』
ひとまず女神の奴を呼び出すことには成功し、そしてそれが成った以上、ここから脅しを掛けて思い通りに動かすことは至極簡単なこと。
上手くいくかどうかは本当に定かでないのだが、とにかくこのまま『亜空間接続作戦』を推し進めよう。
もしこれが失敗したら……まぁ、全部女神の、或いは魔王のせいにしてしまえば良いのである……




