1001 旧勇者パーティー
「あ~っ、これで戦勝記念祭、俺達のための祭りイベントもお終いか、結局襲撃されてばっかりだったな……」
「ご主人様、頭にクナイが刺さっていますよ」
「おっと、酔っ払っている間にやられたのか、まぁ、そういうこともあるさ」
「迂闊どころの騒ぎじゃないわね、で、明日からどうするわけ? 物体の対処と、それから魔王を消そうとする勢力への対処、あとは王都の食糧調達をする人達の護衛、さらに自分達のことも考えて行動しなくちゃなのよ」
「面倒臭せぇ、明日から1週間ぐらい休もうぜ、勝者の特権だよこれは」
「そのままズルズルと堕落していきそうな発言ね……」
戦勝記念祭最終日、結局魔王や副魔王をステージ上で処罰することは出来なかったのだが、俺を狙った暗殺者やその他の襲撃犯については、もうこの1週間で100匹以上討伐することが出来た。
これは祭りを楽しみつつ、勇者パーティーとして立派に活動していたと言えるのではないかと思うのだが……やることが山積みでその成果の余韻に浸る暇はないらしい。
とにかく、大至急やるべきはこの戦勝記念祭で大量に消耗してしまった王都の食糧ストックの確保だ。
それと同時並行で行われるのは物体への対処なのだが……どういうわけか王都の東、森の中でそれが大量に発生しているとの情報もある。
これは単に祭りの中でその辺の王国幹部などから聞きかじった情報であり、実際に自分達で観測したわけではないのだが、とにかく原因は不明であり、東側、ついこの間俺達が通ってセラとミラの実家がある村へ行き、そして戻って来た街道には要注意とのこと。
まぁ、たまたま東に高い魔力を持った何かの集団が居て、それが物体に喰い散らかされたことによって生じた現象なのであろう。
そういうこともあるにはあると思うし、今のところはその『大量発生』の規模が詳細にわかっていないため、何をどうしようかということにはならない。
で、そちらはそのうちに、状況がわかってから対処するとして、先に向かうべきは肉が多く獲れるはずの北、王都北の森だ。
冒険者ギルドの連中もそちらを狙っているはずだし、もし俺達が明日から、大変面倒で不本意ではあるがその作戦に協力するとしたら、まずは窓口となり得る冒険者ギルドを使って護衛任務を受注していくべきであろう……
「ということでだ、明日は朝から魔王でもいじめて、気が済んだら冒険者ギルドへ向かおう、それが俺達勇者パーティーのリスタート第一弾だ」
「あのね、どうして私が朝からいじめられないとならないのよ? そんなことをしている暇があったら働きなさいこのダメ勇者」
「おい、誰かそのやかましいのをズタ袋にでも入れてしまえ、調子に乗りやがって」
「わかったわ、ほら、もうそろそろ帰るんだし、大人しく袋に入りなさいっ」
「ひぃぃぃっ! 酷刑反対!」
ジタバタと抵抗する魔王と、大人しく指示に従う副魔王を汚らしい袋に詰め込んで、それを担ぎ上げて祭りの会場を後にする。
遠くに酔っ払って寝ている駄王が見えるのだが、今はそれにキックを入れに行くような心境ではない。
ひとまず屋敷に帰り、この1週間のパーリィで疲れ切ったボディ、というか肝臓に癒しを与えてやるのだ。
ルビアもジェシカも酒を飲んでおり、飲酒運転はダメなので馬車は王宮に預けておく。
その代わりとしてチャーターした、マリエルが乗っても恥ずかしくない高級なものを用いて、俺達は屋敷へと戻った。
魔王などの荷物の積み下ろしは……その辺の兵士にでもやらせておこう、特権階級の勇者ご一行様である俺達は、後片付けなどせずに布団へ直行することが出来るのだ。
で、知らぬ間に眠ってしまった俺は、朝日の眩しさと、それから隣で寝ていたカレンがゴソゴソと起き上がる感覚で目を覚ましたのであった……
「ご主人様起きて、今日からまた戦いに行くんですよね? 早く行きましょうよ」
「ん~、好きだなお前も、でもまだ冒険者ギルドはやっていないだろう?」
「開店待ちしましょう、並ぶんです玄関の前に」
「パチンコ屋の常連かな? まぁ良いや、あ、魔王と副魔王はどうした?」
「あそこでマーサちゃん達とご飯食べてます」
「……ホントだっ、めっちゃくつろいでいやがるっ」
囚人の分際で、まるでお泊りに来ていた客かのような振る舞いをしている魔王、そしてキチンと正座はしているものの、回復のためかおかわりまで要求している副魔王。
遠慮というものがまるで感じられない2人に対しては、それなりの罰を与えなくてはならないのだが、食事中にテーブルから引き剥がすのはマナー違反だ、少し待って、その間に風呂にでも入っておこう。
となりで寝ているルビアを起こさないよう、カレンをひょいっと抱えて庭の温泉へと向かう。
急かすカレンを押さえ付けつつ、しばらくまったりと湯に浸かっていると……魔王め、食後の朝風呂を求めて降りて来やがったではないか。
魔王も副魔王も、当たり前のように面積の広い水着を……どうして副魔王はスクール水着なのだ? まぁそれは良いが、とにかくそんなスタイルでウチの温泉に入ることなど許されないのである……
「お前等! 当たり前みたいに朝飯ガッついておいて、今度は水着でご入浴か? 脱げ、今すぐ脱いでおっぱいを晒せっ!」
「良いじゃないのちょっとぐらい、あんたが入っているんだし、素っ裸になる方が異常だわ」
「そうか? 後ろの副魔王は大人しく脱いでいるぞ……もっとも今の体型じゃ別に脱いだからどうということはないがな」
「……でもっ」
「早く脱げ、さもないと王都周辺に生息している『女の子の服だけ溶かす特殊性癖のスライム』を持って来て投げ付けるぞ」
「……じゃ、じゃああんたが出て、ここから居なくなるまで待たせて貰うわ、それなら良いでしょ?」
「カレン! 魔王を討伐しろっ!」
「わうぅぅぅっ!」
「あっ、ちょっとまっ、ひぃぃぃっ!」
超高速で水着を脱がされ、その脱がせたカレンによって湯船に放り込まれた魔王、今は素っ裸のままぷかぷかと湯面に浮かんでいる。
その魔王を拾い上げ、まずは掛け湯をしなかった罰、それから水着で入浴しようとした罰を、両サイドの頬っぺたを抓り上げるという方法で与えていく。
どうやら手でおっぱいを隠そうとする方が優先されるらしく、魔王は必至でお仕置きに耐える……反抗的な顔だな。
だがこちらも負けてはいない、頬っぺたを抓る手をパッと離すと、反射的に両手で擦ろうとするのだが、そこで攻撃目標を変更、実にイマイチなおっぱいを抓んでやった。
「ひゃぁぁぁっ! やめっ、やめなさいよこの変態!」
「黙れ、いつまでも従順にならない奴にはこうするしかないんだよ、反省しやがれってんだ」
「いででででっ、わ、わかりました、もう許して……」
「よろしい、では俺達が戻るまで、つまり今日の夕方までだな、部屋の隅に檻を設置してやるからその中で待て、帰ったら追加のお仕置き、尻5,000叩きの刑だ、わかったな?」
「5,000って……せめて100回ぐらいに……ダメかしら?」
「アホかお前は、要らん交渉をしようとすると罪が重くなるだけだぞ、こんなふうになっ!」
「ひぎぃぃぃっ! 取れるっ、おっぱいが捥ぎ取れるっ!」
いつまで経っても態度が変わらない魔王、もうずっとこのままの感じでいくのではないかという不安もあるのだが、それはそれで痛め付け甲斐があるのかも知れない。
まぁ、本気で鬱陶しくなった場合には、精霊様にバトンタッチして『調教』を済ませれば良いのだ。
力を有している副魔王の方は比較的大人しくしてくれているし、今も普通に正座して、反抗の意志を持たないのが明白であるから安心といえよう。
で、風呂で騒いでいるのを聞き付けたマーサに、魔王をいじめないでくれと頼まれてその場は良いにしてやる。
このマーサと、それからユリナ、サリナ、エリナの3人も、魔王を極端に甘やかすことによって、調子に乗らせる元凶となり得るので注意が必要そうだ。
そのマーサもついでに風呂へ入り、遅れてやって来たセラとミラ、アイリスとも話をしていると、カレンがそろそろのぼせそうになっているのを認めた。
仕方ないので俺達は上がろう、なんだかんだで冒険者ギルドもそろそろ営業を開始する時間帯であるし、着替えたら俺とカレン、それから暇そうにしているジェシカを伴って行ってみることとしよう……
「それでは勇者様、北門の兵士に頼んで馬車を回させますので、お着替えして待っていて下さいね」
「ありがとうマリエル、馬車は4人乗りのものが良い、帰りに携帯食の類を相当量仕入れる予定だからな、1人分ぐらい席を空けておいた方が良いだろう」
「わかりました、そうお願いしておきます」
ということで準備を済ませ、それとほぼ同時にやって来た馬車へと乗り込む俺達3人。
冒険者ギルドへなど行くのは久しぶりだが、俺達は勇者パーティー様なので、きっと歓迎されることであろう……
※※※
「え~っと、即応護衛メンバーへの登録ですね、そうすると……勇者パーティーさんは国からの要請もあるとは思いますが、暇なときはこちらからの依頼も受けて頂くと、そんな感じになります」
「おう、国の方は報酬が悪い……どころか費用持ち出しとかそういう危険性もあるからな、信用ならないんだよあいつ等、だからなるべくこっちで活動したい、やっている感も出るしな」
「わかりました、では勇者パーティーさんは……あれ? 勇者パーティーという組織の登録がないんですが……」
「どういうことだ?」
「どっかへ行っちゃったんじゃないですか? 最近こっちへは来ていなかったし」
「私もそう思うぞ、本当にこの窓口を利用するのは久しぶりだからな」
「なるほど、とにかく探してくれ」
「わ、わかりました、少々お待ち下さい」
普段は冒険者ギルドへなど来ない俺達、カレンは保存携帯食の買い出しのため、ちょくちょく来てはいるのだが、用があるのはこちらではなく購買の方のカウンター。
こちらのメインカウンターで依頼を受けたり、何らかの依頼を出したりするようなことはそもそもなく、本当に久しぶりの受付なのである。
それならば、魔法に頼りすぎてデータベースなどがしっかりしていないであろうこの世界においては、過去の記録や登録情報の脱落などがあってもおかしくはない。
それが超有名であり最強の戦闘集団であり、幾度となくこの世界を救ってきた俺達勇者パーティーの名前であることは問題だが、まぁ許してやることとしよう。
先に購買の方で携帯食の買い物でも……既にカレンが行っているのか、だが奴だけに任せると、本来は削ぎ落してしまうような、豚の背脂だけのジャーキーなどといったものを購入しかねない。
すぐにジェシカを向かわせ、肉は比較的赤い部分を、そして野菜系の缶詰なども購入しておくよう伝えさせる……まぁ、選ぶほど品物の量が豊富ではないのが現状なのだが……と、カウンターから声が掛かった……
「お待たせしました、元勇者パーティーの情報が出てきましたよ、そういうことだったんですね?」
「いやいやいやいや、『元』って何だよ? 勇者パーティーなんですが?」
「は? あ、いえ勇者パーティーは魔王城陥落の翌日付で、『水の大精霊様パーティー』に商号変更されているみたいで……もしかして知らなかったとかですか?」
「そんなの知らねぇぇぇっ!」
やりやがった、きっと精霊様が悪戯で、いやガチでそのようなことをしてしまったのであろうが、一体どういうつもりなのだ。
事実を知ってからしばらく、受付カウンターで大騒ぎをしていると、買い物を終えたカレンとジェシカが戻って来たため、事の詳細を伝えておく。
カレンは何のことだかまるでわからないという感じ、ジェシカは呆れ果ててため息を漏らしている。
そもそも精霊様はどうやって商号変更などしたのだ、少なくともここに居る3人がそのことを知らず、きっと他のメンバーも何も知らないというのに。
奴め、きっと総会の決議書を偽造しやがったな、ついでに1人でしかるべき役所へ申請しに行って、誰にも気付かれずに俺のパーティーを自分名義にしてしまったのだ。
とにかく、冒険者ギルドの受付にはこの件が不正に行われたものであり、精霊様は後で引っ叩いておくから元に戻してくれと告げておく。
国関係のことなので自分達ではどうしようもないとは言われたが、冒険者ギルドの力があれば、その程度のことについて口利きすることぐらいは出来るであろう……
「主殿、ついでに精霊様をシバき回すための棍棒を購入していこう、今回のはさすがに度が過ぎているぞ」
「あぁ、ふざけてやったにしても質が悪いな、棍棒はトゲトゲが付いた強力なものにしようか」
「あの~、そういうご相談は武器屋でお願いします」
「……そうだな、とりあえず武器屋へ行こうか、何か色々な効果が付与された棍棒をゲットするんだ」
『うぇ~いっ!』
きっと今この場で起こっていることについては何も知らずに、屋敷でのうのうと過ごしているのであろう精霊様。
俺とカレンとジェシカの3人は、それを処断するための武器を求めて、冒険者ギルドから武器屋へと移動した……
※※※
「う~ん、これなんかどうかな? 巨大生物も2秒でノックアウトする鉄板張りの棍棒だ」
「主殿、その程度のものでは精霊様に近付いただけで粉々になってしまうぞ、もっとこう、シンプルで強力なものをだな」
「ご主人様、精霊様と戦うならこの方が使い易いと思いますよ」
「どれどれ……って単なる棒切れじゃねぇか、そんなもんで叩いても、あの馬鹿はちっとも反省しないぞ」
「でもこれ、特殊効果が付いていますよ、えっと……『攻撃地点の時空を歪めてどうのこうの』です、とにかく凄いみたいです」
「どういうアレなんだよその棒切れは……ふむふむ、なるほどな……これはすげぇ掘り出し物かも知れないぞ」
カレンの説明では良くわからなかったものの、どうやらこの棒切れ、攻撃した対象付近の時空を歪め、大ダメージを与えることを目的としたものらしい。
当然かなりの危険物であり、普通に購入していくような冒険者やその他魔物等との戦闘に従事する職業の者は居ないようなのだが、精霊様にお仕置きする分にはちょうど良いものだ。
早速購入することとして、神にも等しいジェシカ様を拝み倒すことによって資金、購入価格である銅貨7枚の調達を済ませる。
うぇ~いに荒らされ、一般人が王都の外へ出なくなったことによって売上が低下していた武器屋の店主は、こんな危険物でも特に問題なく売り渡してくれた。
持った感じは普通の棒切れだな、木刀のような硬さは持っているのだが、それでも普通に使用すればすぐにポッキリと折れてしまいそうな、そんな程度の商品である。
だがそれなりの力が付与されているのは明らかに感じられるし、これなら最強キャラである精霊様にも、そこそこの反省をさせることが出来るであろうという予想だ。
早速それを持って馬車へ乗り込み度の過ぎた悪戯に怒りを覚える俺と意味のわかっていないカレン、呆れて言葉も出ないジェシカの3人は屋敷へと戻る。
送迎の馬車を降りると……犯人の精霊様は2階のテラスで何やら調子に乗った行動を取っている様子。
恐怖に支配され、抵抗することさえも出来ない魔王を四つん這いにさせ、その上に乗ってお馬さんごっこをしているらしい。
全くどうしようもない奴だ、階段を駆け上がった俺達はすぐにその精霊様の下へと向かい、問答無用で棒切れを振り上げる……
「精霊様! 覚悟ぉぉぉっ!」
「何よいきなり……あっ、ヒョゲェェェッ!」
「すげぇ、時空が歪んで凄まじいダメージが入ったぞ、このままあと数発殴れば討伐さえ可能なんじゃないのか?」
「ちょっとタンマ! 何それ? どこで見つけて来たのその武器は? ギルドは? 武器屋で遊んでいたの? というかどうして私をそんなモノで叩くのよ?」
「精霊様、いや精霊様に聞いても仕方ないな、おい皆、勇者パーティーの商号変更について知っている者は……セラとミラは知らないと、ルビアもか」
『ぜ~んぜん』
「だってよ精霊様、何がどうなって『水の大精霊様パーティー』なんぞという名称になったんだ?」
「ギクッ! あれ……普通に通っていたのね」
「ギクッ、じゃねぇよ、ちなみに俺達3人と、それからセラもミラもルビアも知らないってことは……パーティー総会の議事録は?」
「……適当に満場一致で作って、あんたやセラちゃんが寝ている間に拇印を押しておいたの」
「ばっかもーんっ!」
「ヒギィィィッ! それはヤバい、絶対にヤバいわよその棒切れっ!」
「黙れっ! そして尻を突き出せっ!」
「ひぃぃぃっ、ごめんなさいぃぃぃっ! あぎゃんっ!」
「ちょっと、凄いわねその棒切れ、普通の武器じゃないわよ完全に……というか私を叩かないように注意しなさいよね」
「あぁ、魔王の言う通り、予想以上のシロモノだぞこの棒切れは……」
精霊様にさえ大ダメージを与えることに成功した謎の棒切れ、これは通常の人間に対して使用したらどうなってしまうのか、それを確かめたくもなってきたな。
ひとまずこの棒は危険ということで、精霊様には庭の罰清掃をしたうえ、その後は液状の重金属が満タンに入ったバケツを30個持って廊下に立っておくよう命じておいた。
で、ついでに俺達はセラとミラから、冒険者ギルドでやっておくべきことをせずに帰って来たことを咎められ、本日の買い出しと、それからもう一度冒険者ギルドへ行って、勇者パーティー……ではなく水の大精霊様パーティー(暫定)として手続きを済ませて来るよう強制される、しかも徒歩でだ。
面倒だが仕方ない、一緒に行きたいと付いて来たリリィも伴って、俺達はもう一度王都の町へと繰り出した。
件の危険な棒切れについては……いつの間にかリリィが所持しているうえに、無駄に振り回しているではないか……




