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中小企業の「メインバンク」を考える

作者: 小早川好和

小企業の「メインバンク」を考える

小早川 好和


中小企業の倒産はその企業の業績悪化が原因と考えるのが一般的でありますが、もう一つ取引金融機関の都合によるところが大きいこともあります。

社長さん、自社の「メインバンク」をどのように考えていますか。

実質的に借り入れのない会社はどの金融機関でも問題はありません。設備資金であったり、一定程度の運転資金を金融機関融資により調達している企業にとっては、実は大問題です。バブル崩壊後の1990年代半ば以降「貸し剥がし」が社会問題となっていました。金融当局も問題視して金融庁検査や日銀考査により厳しくチェックされていました。表面的には金融機関の自己資本比率維持のために貸出の抑制や、無理な回収が行われていないかを調査するものでした。実質的な内容はルールに則り適切に貸出や返済が行われているかを調べていました。検査に来た担当官が、「貸出について、金融機関の自己資金を顧客に貸出しているのであれば、金融機関の自己責任であり何も言いません。私たちが金融機関の貸出状況を詳しく調査するのは、金融機関が帰ってこなくなるかもしれない貸出を行えば、被害は一般の預金者ということになります。だから、預金者保護の観点から問題がないか調査を行うのです。また、金融機関の自己保身のため貸し剥がしが行われると経済活動が停滞し、日本経済にも悪影響が出るのでチェックしています。」とよく言っていた。

当局検査が直接の引き金となって倒産するケースは、当局及び金融機関は絶対に否定しますが、実際には発生しています。業況の芳しくない企業について当局検査により「個別企業への貸出」に対して引当金の計上を要求され、結果、その企業に対して新規の貸出が出来ない状況になります。企業は資金繰りに詰まって倒産するというケースです。これには当該企業が「メインバンク」か「非メインバンク」によって大きな違いがでてきます。メインバンクとして長年取引がある企業であれば、現状が多少厳しい業況であっても、これまでの取引実績や将来の展望等を勘案し、金融機関がリスクをとって資金繰りを応援することがあります。いわゆる一蓮托生の感覚です。一方、金融機関が非メインバンクと認識している企業については、引当金を積んでまで貸出をする必然性は認められず、資金がストップすることになります。いわゆる資金繰り破綻しやすい状況に陥ります。

「メインバンクは持たないほうがいい」と言う社長さんがいます。金融機関同士で競い合わせることで、より良い条件が引き出せると考えているのでしょう。その時その時で、一番条件のいい金融機関と取引することで、最大のパフォーマンスを追うことが狙いです。業況が順調であるときはその通りであり、より収益に貢献できます。しかしながら、企業は生き物です。健やかなる時も病める時もあります。メインバンクを持たない場合、業況が芳しくない状況に陥った時に資金調達に支障をきたすことになり、復活しにくくなります。最悪、倒産に至ります。金融機関側から見ると、金利や条件だけで動く先は「いずれ自行よりも条件のいい他の金融機関に流れていく」と見て、絶対に自行のリスクを負うことはしません。また、良いか悪いかは別として、日本の金融機関、特に地方銀行では未だに「義理と人情」の伝統が残っています。不義理によりメインバンクを乗り換えた企業には、旧メインバンクは絶対に応援しません。他の金融機関も「メインバンク」の動向には敏感で、一度でも裏切るような行為をした先は、どんなに業況が良くても、また同様の行為に及ぶかもしれないと躊躇するのです。

では、どのように「メインバンク」を決めたらよいのでしょう。規模が大きければいいのか、財務内容が良好な金融機関がいいのか等、意見はいろいろあると思います。メガバンク、地方銀行、信金信組等数多くの金融機関の中から自社にとっての最良の「メインバンク」を見つけるのは簡単ではないと思います。私は自社の規模や現状の財務状況に応じた「メインバンク」選びが最も適していると考えます。資金運用特に預金する場合と異なり、融資を伴う場合、金融機関の規模が大きければいい、財務内容がいいというだけでメインバンクを決めると大変な失敗をします。自社の規模に見合わない規模の大きな金融機関をメインバンクに選んだ場合、絶対的な顧客数が多いため、きめ細やかなサービスが受けられないことが多いようです。残念ながら現在の日本は何事も申請制度となっています。自ら申請しないと何事も恩恵を受けられない仕組みとなっています。「できるのに」「受けられるのに」していない、受けていないケースが多く見受けられます。補助金や助成金、利子補給や各種補填等いろいろ活用できるものがあっても、特に中小企業の経営者の皆さんの頭の中に入っているものは少ないのではないでしょうか。自社の規模に見合った「メインバンク」を選んだ場合、このような申請の情報を金融機関は豊富に把握しており、「提案」という形で支援が期待できます。また、財務内容が良好なことのみで金融機関を「メインバンク」に選んだ場合にも考えなけばならない問題があります。仮に業況が芳しくない状況に陥った場合、「自己資本が充実している金融機関だから助けてくれるだろう」と考えるのは間違いで、むしろ逆と考えた方がいいと思います。体力のある金融機関は、引当金を積極的に積むことにより早期の不良資産解消を図ります。つまり、業況が芳しくない状況に陥った場合、通常は資金需要が増す傾向にありますが、新規の融資が受けられない場合が多くなるということです。近年担保に寄らない融資を国が推奨しており、この傾向は一層強くなっていると感じます。また、金融機関の担当者は数年で変わります。担当者の対応状況は現場にとって大きな問題ですが、これのみで選択すると「あの人の時は良かったのに」と後悔するケースが多くあります。

今一度、「わが社の『メインバンク』として利用するのは、どこが一番メリットを享受できるか」、「現在の『メインバンク』は本当にわが社にマッチしているのか」を検討することをお勧めします。


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