白雪姫と林檎の魔女ー9
「りんちゃんの膝枕で寝てたら急に何かが近づいてきたから薄目で見てたの。」
見ていたのか。
恥ずかしさにりんごの心臓が騒ぐ。
顔が熱くなり、赤くなっているであろうことがりんご自身にも分かる。
「み、見てたんだね……。恥ずかしいな……。」
「ふふ、凄いドキドキしてるね。やったぁ。」
いつの間にかりんごの胸に耳を当てていた美姫。
子供のような無邪気な笑みを見せた。
嗚呼、めんこい。
とにかく可愛い。
なぜこんなに可愛いのだろう。
世界の可愛いという存在を凝縮した姿が美姫なのではないのだろうか。
りんごはそんなことを考えていた。
もしもの話。
もしも今、美姫にキスをしたらどうなるだろう。
ふと過る純粋で、邪な欲望。
目の前には、白雪のように美しい少女。
美しい姫、美姫。
それが、彼女の名前である。
名前に負けない、むしろこれ以上にないほど彼女に合った名前だろう。
そんな彼女は今、自身の胸の中に抱かれている。
それも、彼女の意思でだ。
誰も知らない彼女の本当の姿。
今、それを自分にだけ見せている。
そんな彼女を自身の手で汚せたのならばと考える。
どれほどの罪悪感があるだろう。
どれほどの独占欲が満たされるだろう。
どれほどの征服欲が満たされるだろう。
「ね、ねぇ美姫?」
聞くだけだ。
聞くだけ聞いてみよう。
駄目なら止めれば良い。
冗談だと笑えば良い。
大丈夫だ。
美姫なら許してくれるはずだ。
大丈夫。
きっと大丈夫だ。
美姫ならば、受け止めてくれるはずだ。
そう思っていても、りんごの心臓はうるさく警鐘を鳴らす。
「うん?なに?」
きょとんとする美姫。
その大きな瞳には、緊張と興奮で目が充血し、焦点が合っていない赤面したりんごの顔が写っている。
大丈夫。
許してくれる。
「もしだよ?……もしも……。」
「うん。」
「も、もしも……そのぉ……。あのぉ……へへっ……。」
言いずらそうなりんご。
最後には笑って誤魔化してしまった。




