二人のグレーテルー8
体調でも悪いのだろうか。
それとも、昼のことを怒っているのだろうか。
そんなことをぼんやりと思うまいであった。
明日もう一度話しかけてみよう。
そう思い、彼女が布団に潜り込もうとした時、扉を叩く音がした。
ノック音。
それは、まいを呼び出すものであった。
「はいはーい、今開けますよーっと……。」
面倒だな。
ペタペタとフローリングの床を歩く。
こんな時間に誰だろうか。
そんなことを思い、扉を開くまい。
そこには、あいが立っていた。
驚いた。
どうしたというのだ。
目の前のあいは、俯き表情を伺うことは出来ない。
「ど、どうしたの、あい?」
まいが訊ねる。
「お願いがあるんだけど良い?」
お願い?
何だろう。
「なに?」
聞かないと叶えられるものかどうかは分からない。
取り敢えず聞くだけ聞こう。
そんなまいの考え。
「学生証見せてほしいんだ。」
「……学生証?」
そんなもの、何に使うというのだろう。
それに、自分のものではない、まいのものだ。
同じ高校に通っているし、学年も同じなのだから、デザインは全く同じだ。
そんなものを見ても仕方がないだろう。
「お願い……。」
震える声。
まいにはあいの顔は見えないが、おおよそ想像がついた。
泣きそうなのだろう。
それほど追い詰められているのだろう。
理由は分からない。
しかし、そんな彼女が見たがっているのだ。
「……ちょっと待ってね。」
まいがあいに背を向けて、ハンガーにかけてある自身の制服を漁り始めた。
まいの視界から、完全にあいが消える。
それを確認すると、あいはすぐに顔を上げた。
彼女の右目の目尻には、本来ないはずの黒子があった。
そして、普段とは分け目が逆になっていた。
つまり、ただでさえそっくりなまいに、より近づけた容姿になっているということであった。
「……ごめんね、まい。ちょっと痛いけど我慢してね。」
バチン!
後頭部に、体験したことのない凄まじい痛み。
目の前に火花が飛び散ったかのような衝撃。




