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甘え嬢's  作者: あさまる
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人魚姫の歌声ー30(完)

彼女が焦り、今より良く見せようとする。

しかし、伴奏が聞き取りずらくなり音がずれ、リズムが狂っていく。

そしてまた焦ってしまう。

負のスパイラルに陥ってしまっていたのだ。


姫華にとって地獄のような四分半であった。

ポップな曲のはずなのに、歌が終わった後の空気は酷いものであった。


「……。」


「……わ、わー!よ、良かったよー!」

パチパチパチ。

手を叩くこはく。

彼女もどう反応して良いのか分からず困っているようだった。


恥ずかしい。

ひたすら顔が熱い。

姫華は縮こまりソファーの端に座るのであった。


「き、緊張しちゃって上手く歌えなかった……。」

なんとか出た言葉がそれであった。


「……良かった……。」


「……え?」


「海原さんっていつも凄い綺麗な歌声だったから失敗もするんだなって知れて……なんだか嬉しかった。」


「そ、そうなんだ……。」

恥はかいてしまったが、こはくが喜んでいるようなのでどっこいどっこいか。

そう思う姫華であった。



「じゃ、じゃあさ……。」


「うん?」


「……これからも特訓しようよ……。私と海原さんの歌が上手くなるように……。また来よう?」


無言で頷く姫華であった。



「あ、琴原さんは自分が音痴だって自覚あったんだ……。」


「わ、わー!うるさーいっ!」

真っ赤になりマイクに叫ぶこはくであった。



翌週の放課後。

そこには体育館で部活に専念するこはくと、ひっそりと彼女を見つめる姫華がいた。



コート上で輝かしい活躍を見せるこはく。

しかしその実音痴なのを、体育館にいる者達の大半は知らないだろう。

そのことが姫華には嬉しかった。


こはく以外は知らないであろう美声の持ち主の姫華。

教室では見せない彼女の真の姿。

それを知れていることが、こはくには堪らなく嬉しかった。


互いに真の姿を晒せる幸せを噛みしめながらまた、彼女らはカラオケへ行くのであった。

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