人魚姫の歌声ー28
「や、やっぱ駄目かな?疲れてるみたいだから私が抱いて連れていこうと思ったんだけど……。」
一切目を合わせないこはく。
どういうことだ?
もしかして、誤解しているのではないだろうか。
只でさえ疲労し酸素の回っていない姫華の脳が混乱する。
「私はもう体力ないよ?」
「うん、だから私が海原さんを抱いて連れていこうと……。」
同じことを言うこはくであった。
再度聞き、姫華はようやく理解することが出来た。
「わ、私をお姫様抱っこする……の?」
「う、うん?そう……だけど……駄目?」
どうしたものか。
運んでいってもらえるのなら楽が出来る。
しかし、彼女は見た目はピンピンしているが、疲労しているだろう。
また、道行く人の視線も気になる。
悩む姫華であった。
「……だ、駄目かな?ごめんね、そうだよね。さ、行こっか。」
しょんぼり。
「……うっ……。」
踏んだり蹴ったり。
泣きっ面に蜂。
姫華の応援に応えようと奮闘したが、思うような結果が出なかった。
そして、今度は彼女の願いが断られ、恥ずかしい思いをした。
姫華は罪悪感で胸が押し潰されそうになる。
そんな彼女の口からは、自然と言葉が出るのであった。
「あ、あー。痛いなー。」
「え?」
「足首捻ったかもなー。痛いなー。もう歩けないなー。」
棒読みにもほどがある。
姫華には演技の才能はまるでなかった。
「……?」
「あー、歩けないなー。誰かおぶってくれないかなー?」
チラッ、チラッ。
「……ふふ、抱きたいなー、運びたいなー。誰かお姫様抱っこさせてくれないかなー?」
「あ!奇遇だね。お願いしようかなー?……ふふ。」
こうして姫華はこはくへ横抱きされるのであった。
他人の視線が気にならないと言えば嘘になる。
しかし、二人はその嬉し恥ずかしながら雰囲気を楽しんでいた。
その為、そんな周囲の反応すらも楽しんでいるのであった。




