人魚姫の歌声ー25
「じゃ、じゃ帰ったら連絡するね。」
「……うん。部活頑張って。」
二人は別れた。
姫華は下校、こはくは再度部活へ参加するのであった。
初めは視線が気になっていたこはくであった。
しかし、自身が集中して取り組んでいけば自ずとそんなことは気にならなくなっていくのであった。
「スタメンは交代しない。異論がある者はついて来い。では解散。」
顧問はそう言うと、体育館から出ていった。
こはくが後を追いかけようとしたが、呼び止められそれは叶わなかった。
呼び止めたのは、今まで彼女のスターティングメンバー入りへ苦言を呈していた彼女の先輩達であった。
「その……。」
言いずらそうに視線を逸らしている。
何となく言いたいことは分かる。
「私気にしてませんから!それより今まですみませんでした。これからはちゃんと練習頑張ります!先生に話があるので失礼しますね!」
そう言うと、こはくは駆け出した。
「凄いなぁ……。」
「厭味一つ言わずに出てちゃったよ。」
「……あいつがなんで好きになった理由分かったかも……。」
体育館に取り残された彼女らの言葉であった。
「先生!」
顧問を呼び止めるこはく。
「……なんだ?スタメンに何か不満があるか?」
「い、いえ……その、良いんですか?……わ、私が出ても……。」
「だから、不満があるのか聞いているんだ。」
「な、ないです!すみません。」
「なら馬鹿なことを聞くな。当日結果を出せ。」
そう言うと、顧問は再び歩き出すのであった。
何も言えなかった。
なぜ自分が継続なのか。
注意も何もないのか。
彼女が何かをしたのだろう。
予想しか出来ない。
ただ一つ分からないのは、なぜここまでしてくれるのかということであった。
ただの後輩にここまでしてくれるのだろう。
先ほどの彼女の表情を思い出す。
「……私のこと、好きだったんだ……。」
こはくは、今さらなことを呟くのであった。




