人魚姫の歌声ー23
「そ、それは友達が勝手に……。」
恥ずかしさから、目の前にいる姫華を力一杯抱きしめてしまった。
「その割には写真の琴原さん凄い可愛らしい笑顔してるよ?」
「うぅー、恥ずかしい……。」
「フギュッ!?」
突然背後から目一杯締めつけられた姫華。
ビクッ。
驚くこはく。
「あっ、ごめん!」
奇っ怪な姫華の悲鳴。
その声を聞き、すぐさま離れようとする。
「大丈夫!……大丈夫だから……。離さないで……。」
姫華の口から出た言葉。
それは、彼女自身も全く言うつもりではなかったものであった。
「……で、でも……。」
「と、友達同士のスキンシップってこ、こんな感じなんでしょ?大丈夫だよ。」
そう言う姫華。
もちろん彼女はそんなことをしたことなどない。
これは彼女が読んでいる漫画で女子同士で行っている行為のことを言っていた。
しかし、友達のあまりいない彼女は、それが当たり前なのだと思い込んでしまっていた。
「な、なるほど、そうだね。私達友達だもんね。そうそう。」
よく理解せずに肯定してしまったこはく。
友達や、部員同士のスキンシップでも彼女はここまでしたことがなかった。
精々ハイタッチや軽くハグをするくらいであったのだ。
ここまでしっかりと誰かを抱きしめたことなど彼女の記憶の中には存在しなかった。
初めての経験であったのだ。
「せ、せっかくだしここで今アイコンの写真撮っちゃおうよ。」
それは、つかさの提案であった。
「そ、そうだね。」
そうは言ったものの、SNSなどをしたことののない姫華。
どのような写真にすべきなのか分からなかった。
「ど、どんな写真が良いんだろ?」
少しの沈黙の後、再び姫華が口を開く。
どんなものでも良い。
正直に答えても良いのだが、つかさはそう答えたくはなかった。
「基本的には自撮りかな?」
「地鶏……?名古屋コーチンとか?……鶏って個人で飼えるの?」




