人魚姫の歌声ー22
そのアプリは、彼女の携帯電話の容量を圧迫していただけであった。
しかし、姫華と連絡出来るのならその面倒も面倒ではなくなる。
こはくはそう思った。
「ごめん、やってない……。」
友達が少ない姫華。
アプリをインストールしていなくても不便ではなかった。
「あっ、そうなんだ、ごめんね。」
しょんぼり。
申し訳ないことをしてしまった。
雨の日に外に出された子犬のようなこはくを見て姫華の胸が痛む。
「でもインストールするよ!ちょっと待っててね!」
他の者ならそこまでの決意はいらないだろう。
しかし、今までアプリを全くインストールしたことのない姫華。
未知のものへの恐怖とこはくを待たせてはいけないという焦り。
不慣れな手つきでアプリを探すのであった。
「え、えっと……どれだろ。えっと……ごめんね、ちょっと待っててね。」
姫華の後ろから、柔らかな感覚。
優しく包まれているようだ。
座る姫華を後ろから抱きしめて彼女の背後に座るこはく。
「こ、こうすれば私も画面見れるから教えることが出来るよ。」
「そ、そうだねっ、ありがとう……。」
声が上擦る。
緊張で身体中が熱い。
心臓がうるさい。
すぐ近くにいる彼女に気づかれたくない。
二人ともがそう思っていた。
あっという間なのか、何時間も経ったのか。
それは分からない。
何とか姫華の携帯電話にアプリをインストールすることに成功した。
「よし、じゃあ私を友達登録してね。」
「うん。」
アプリ内の友達という箇所が零から一へ変わる。
スタイルが良く、格好良い見た目のつかさ。
当然そんな彼女同様にスタイリッシュで洒落たものか、シンプルで落ち着いたものである。
姫華はそう予想していた。
しかし、姫華の瞳に写し出されたそれは、彼女のイメージとは真逆のものであった。
可愛らしく加工され、キラキラと眩しい自撮りであった。
「ふふ、可愛い。」
思わず心の声が声が漏れる姫華であった。




