人魚姫の歌声ー21
二人は旧校舎へ来ていた。
姫華が教室へ向かう途中の廊下で、こはくに捕まったからである。
こはくは胸の奥に、暖かな痛みを感じた。
心地良いそれは、姫華を見ている時に限って度々起きているものであった。
もっと彼女に近づきたい。
気がつくとこはくは姫華の隣に座っていた。
「ね、ねぇ海野さん……。」
無意識に口が開く。
「なに?」
「今週末ね、試合があるの。」
「そうなんだ。」
初耳の姫華。
応援しに行こうか。
誰かを応援しようなど思ったことのなかった姫華。
そんな彼女が人生で初めてそのような考えが生まれた。
「えっと……ひ、暇かな?」
これはこっちから言った方が良いのだろうか。
それとも向こうが言い出すのを待った方が良いのだろうか。
対人経験が少ない姫華には、どちらの選択肢を選べば良いのか分からなかった。
「ひ、暇……だよ……。」
「なら、な、ならさ……。」
頑張れ。
勇気を出せ。
試合を見に来てほしい、応援してほしいと言えば良いだけだろう。
「あの……。」
「あの……。」
二人の声が重なる。
数秒の沈黙。
しかし、もうお互い言わんとしていることは分かっていた。
「じゃ、じゃあそういうことで……。私頑張るね。」
「う、うん。詳細教えてほしいな。部活の応援とか初めてだし……。」
「初めて……なんだ……えへへ……。えっと、このアプリやってる?」
こはくが姫華へ自身の携帯電話を見せる。
それは、今若者の間で広く知られているメッセージアプリであった。
送信からほとんどタイムラグがない為、非常に利便性の高いものとされていることが流行の原因だろうとされている。
こはくもほとんど利用したことはなかった。
それをあまり使わなかった理由は至極簡単。
人間関係というしがらみが面倒だったからだ。
その為このアプリを入れていても使いづらくほとんど使っていなかった。




