人魚姫の歌声ー18
大声で、叫ぶように泣く。
こはくは、そんな彼女をただ無言で優しく抱き締めていた。
こはくに恋してしまったこと。
彼女が部内で苛められ、悲しんでいること。
そんな彼女を救う為、自身が彼女から遠ざかれば良いと考えたこと。
それら全てが涙として彼女から溢れ出した。
優しくしないで。
より好きになってしまう。
彼女の胸元からは、うっすらと汗の匂い。
それも、不思議と不快ではなかった。
むしろ、この匂いが癖になっているのかもしれない。
認めたくはないが、変態なのだろう。
十分に匂いを堪能したところで、こはくから離れるのであった。
「私さ……。」
「……はい。」
「部活、辞めるんだ。」
「……そう、なんですか……。」
彼女が部を辞める。
その事実に驚くこはく。
そして、それは自分のせいではないかと思ってしまった。
「うん。……でも、琴原さんのせいじゃないよ?むしろ、貴女のおかげ。」
「……私の?」
「そう。貴女のせいじゃなくて、貴女のおかげ。」
数秒の沈黙。
それを破ったのは、こはくだった。
「えっと、私が先輩に何かしたってことですか?」
「そうだよ、分かんない?」
ふふふ、と笑う。
何のことか、本当に分からないこはく。
頭が混乱してしまった。
「ありがとね、もう大丈夫。」
「先輩……。」
「これからは琴原さんが引っ張ってってね。……もう部活サボるんじゃないよ!」
「はいっ!」
良かった。
これで良かったのだ。
最後にこはくにもう一度会えて良かった。
「良かったです。」
「え?」
「先輩、泣いてると思いましたけどそうでもなかったみたいです。」
ニシシと笑うこはく。
あぁ、全てお見通しであったのだな。
「もー、自意識過剰なんじゃない?泣くわけないでしょ?」
バレバレの嘘。
こんな真っ赤に腫れ上がり、ヒリヒリする眼で言っても説得力など皆無であった。




