人魚姫の歌声ー17
美しく、そして気高いその姿。
飛び散る汗すらも宝石のように輝いて見えた。
もう自分が正常ではない。
そんなこと、すぐに理解することが出来た。
しかし、惚れた弱味というやつだろうか。
彼女の為なら、今までの努力など全て投げ捨てても良いと思えた。
彼女がもう一度輝けるのなら、自分はどうなっても良いと思えた。
これからは、遠くから彼女を見守ろう。
それで良い。
彼女を見ていることさえ出来れば良い。
「先輩っ!」
声がする。
憧れていたあの娘の声だ。
とうとう幻聴が聞こえるまできてしまったのだろうか。
明日は学校を休むべきだろうか。
「先輩待ってください!」
いくらなんでもこはくのことを好き過ぎやしないか?
段々彼女の声が近づいてくる。
まさか自分がそこまで彼女のことを好きだなんて知らなかった。
ぐいっ。
腕を掴まれる。
振り向く。
「ようやく捕まえましたっ……。」
肩で息をするこはく。
それだけで、彼女が必死に追いかけて来てくれたのが分かった。
だからこそ、辛かった。
これは流石に分かる。
幻聴でも幻覚でもない。
紛れもなく本物だ。
「なんで追いかけて来たの……?」
自身でも分かるほど声が震えている。
「いや……あはは……。」
言い渋るこはく。
苦笑いで頬をかいている。
何かを誤魔化そうとしている。
そんなことなどすぐに分かった。
それでも良い。
追いかけて来てくれた。
彼女の中に、自分という存在がが少しでもいた。
それが嬉しかったのだ。
「ありがとね。」
そう言うと、こはくがゆっくりと近づいてきた。
どうしたのだろう。
無言で近づく彼女を見つめていた。
真顔なこはく。
整った顔の彼女は、やはり美しく、見惚れてしまうほどであった。
気がつくと、こはくの胸元に抱き締められていた。
「ここなら泣いても声聞こえませんよ。」
それがいけなかった。
必死に押しころそうとしていた感情が溢れ出してしまうのであった。




