人魚姫の歌声ー14
つつかれたり、こしょぐられたり、それくらいだろう。
要はスキンシップがやや過剰気味になってしまっただけなのだろう。
夢華はその程度に思っていた。
「先輩から囲まれてスタメンから降りろって言われるの……。」
「おぉうへぇ……。」
言葉に困る。
こはくから聞かされたそれは、夢華が想像していたよりも重い内容であった。
「す、凄い声……。どこから声だしてるの?」
自身の肩をプルプルと揺らすこはく。
笑いを必死に押しころしていた。
「ふっ、ふふ。声なんだからそりゃあ喉からだよ。の、喉を震わせて声を出すんだよ……ふっふふふ……。」
吹き出す夢華。
笑いを我慢しつつも至極真っ当なことを言っている。
「あっははは!」
我慢出来ずに笑い出してしまったこはく。
こはくの笑いにつられる夢華。
彼女はクスクスと笑っていたのが、こはくの反応を見てちゃんと声を上げて笑うようになってしまった。
この後も笑い続けた二人。
ひとしきり笑い終えると、二人の息が上がり、大口を開いて呼吸していた。
こはくは悩んでいたことが何だか馬鹿らしく思えてしまった。
「私謝ってくる。」
「……え?」
「部活サボってごめんなさいって、顧問の先生と先輩達に言ってくるよ。多分怒られると思うけどね。」
こはくがあははと笑いながら言う。
「……が、頑張ってね。」
自分のことではないのにこはくの決意に心臓が高鳴る夢華。
緊張しているのであった。
「……もしも……。」
「うん?」
「色々言われて辛くなったらまた歌聴きに来ても良い?」
「馬鹿だなぁ……。」
「なっ!?ば、馬鹿って……。」
「嫌だったらそもそも話聞いてないよ。……行っておいで。」
「ありがとう。……行ってきます。」
「……さて、歌おうかな。」
一人になった教室で、夢華が呟いた。
しかし、なかなか歌い出すことが出来なかった。
何かをしたいと思えない。
そわそわする。




