人魚姫の歌声ー13
今さら部活を辞めたいだなんて言えない。
まさかスターティングメンバーだと思っている者が、最近部活に顔も出さずに旧校舎に響く歌声に夢中になっているとは思わないだろう。
「うん!ありがとう、頑張るよ!」
こはくはそう言うしかなかった。
それを聞き、笑顔になるクラスメイト達。
彼女達の期待の眼差し。
それは、こはくの罪悪感をかきたてるには十分であった。
「……私どうすれば良いかな……?」
「……そんなこと私に言われても……。」
放課後の旧校舎。
夢華がいつも通り歌を歌おうとしていたところにこはくが入ってきた。
あまりにも自然に入ってきた為夢華も驚かずに返答してしまった。
「この前はクールな雰囲気出しながらバシッと言ってたじゃん!」
「……止めて……恥ずかしい……。」
本人にとってよほどの黒歴史だったのだろう。
耳を塞ぎしゃがみこんでしまった。
「そんなに嫌なら行かなきゃ良いんじゃない?って言ってよ!」
「あああああ!」
夢華の濁音混じりの叫び。
普段の澄んだ声とは大違いであった。
可愛いな。
彼女に意地悪をしながら和んでしまったこはく。
現実逃避もここまでにしておこう。
「……謝って部活に戻った方が良いよね?」
「まぁ……と言うか、琴原さんはどうしたいの?」
何事もなかったかのような夢華。
「……正直辞めたい。」
「何が嫌なの?スタメンなんでしょ?」
「……だって皆が意地悪するもん。」
初耳だった。
教室内で、彼女と話すことなど皆無だ。
それでもクラスの中心であるこはくのことは嫌でも耳に入ってくる。
そんな中で、彼女が苛められているなど一切話されていなかった。
それどころか、順調にスターティングメンバーへ昇格し、クラスメイト達からも絶大な支持を得ていた。
夢華は、まさに順風満帆だと思っていたのだ。
「意地悪ってどんなこと?」
もしかしたら、彼女の誤解かもしれない。
そう思い、夢華が聞くのであった。




