人魚姫の歌声ー12
「あ、あはは……。い、いやぁ、歌上手いねっ!」
途端に俯いてしまう夢華。
そして、崩れるようにしゃがみこんでしまった。
両手で顔を押さえ、縮こまっている。
どうしよう。
固まってしまうこはく。
目に映るのは、縮こまって動かなくなってしまった夢華。
その姿は、大きな動物に怯える小動物のようだった。
数分か。
それとも数時間か。
こはくは体感ではかなり時間が経過しているような感覚がした。
「ま、また聞いて良い?」
「……え?」
落ち着いたのだろうか。
しゃがみながらこはくの声に反応した夢華。
顔を上げ、彼女を見た。
「凄く綺麗だったから……また聞きたいな。……駄目……かな?」
「……あ、う、……うん……。」
目を逸らして頷く夢華。
こはくの目に映る夢華の横顔は夕日に染まっているせいか、それとも違う理由からか。
真っ赤に染まっていた。
見てはいけないものを見てしまった気がしたこはく。
背徳感から自身の胸の内に何かが沸き上がる感覚がした。
こうして、二人だけの秘密が出来た。
翌日からこはくの生活は変化した。
誰と話している時も、一人でいる時も無意識に夢華を目で追っていた。
彼女が見つかれば、目が合うまで見ていたし、見つからなければ今どこにいるのだろうと考えてしまっていた。
あんな小柄な子から、美しく伸びやかな歌声が出るのか。
一体あの身体にはどんな秘密が隠されているのだろう。
「……琴……ん。……原さ……。琴原さん!」
「え?あ、はい。」
いけない。
また彼女を見ていた。
「今週末試合なんでしょ?」
「私達応援しに行くね!」
しまった。
すっかり忘れていた。
こはくの血の気がサーッと引く。
彼女はここ最近、一切部活へ行っていなかったのだ。
退部にはなっていないだろうが、スターティングメンバーからは確実に外れているだろう。
目の前の彼女らの期待の眼差しが痛かった。




