人魚姫の歌声ー11
こはくにとって、それは都合が良かった。
いつもよりも大きく感情的な歌声は、位置を特定するにはもってこいだった。
これならすぐに分かるはずだ。
声の方へと歩を進める。
とうとう歌声の聞こえる教室の前まで来た。
いよいよ歌声の主を見ることが出来る。
ドキドキと心臓がうるさい。
よし。
意を決したこはく。
教室へと入った。
足音を立てないように入るこはく。
細心の注意を払っていたが、普段は逃げられていた。
しかし、今は歌に夢中で気づいていないようだった。
窓の方を向き、歌うその姿。
夕日に照らされた後ろ姿は浮世離れした美しさがあった。
その姿に見蕩れるこはく。
いつまでも聞いていたい。
いつまでも見ていたい。
そう思っていた。
しかし、そんな時間も終わりを迎える。
歌を歌い終え、息を整える。
その後窓の外を眺める野でった。
どうやら余韻に浸っているようだった。
思わず拍手してしまうこはく。
そして、紅子は自身の口から感嘆の吐息が溢れたことに気づいたのだった。
こはくの拍手と吐息。
それら二つでこはくの存在に気づいた少女。
ビクッと小さく身体を震わせた。
そしてその後、油の切れた機械のようなぎこちない動き。
その顔は深海のように青く染まっていた。
餌を食べようとしている金魚のように口をパクパクと動かしている。
そんな彼女の顔は、こはくの知っている顔であった。
そして、彼女もこはくのことを知っていた。
互いに目を大きく見開き驚きを隠せずにいた。
「海野さん……。」
「こ、琴原さん……。」
見つめ合う二人。
その二人ともが今、気まずさから苦笑いになっていた。
その二人とは、こはくと夢華であった。
こはくは、まさか歌声の主がクラスメイトだったとは思わなかった。
そして、小柄な彼女から美しくも力強い声が出ていたことに驚いていた。
「え、えっ……あの……あ、あぅ……。」
夢華の口から声が出る。
しかし、彼女の声は言葉にならず、ただ音が出ているだけであった。




