人魚姫の歌声ー7
こはくが振り返る。
すると、自身と同じ制服を来た後ろ姿が、こはくの目に飛び込む。
そのまま彼女は、こはくから遠ざかっていってしまった。
床の軋みに対し、一切の躊躇いのない踏み込み。
それはまるで、毎日ここへ来ている為、その音に慣れているようであった。
「え、え?」
呆気に取られるこはく。
ぽつん。
一人その場に取り残されたこはく。
落ち着きを取り戻したこはく。
彼女が再び声の主を探し始めた頃には、彼女の周りは静寂に包まれていた。
「しまった、もしかしてさっきの子……。」
彼女が探し求めていた歌声の主であるということを知るのは、それからすぐのことであった。
彼女の正体が知りたい。
知ってどうするのか。
そんなことは、こはく自身にも分からなかった。
なぜ正体を掴みたいのかも分からなかった。
ただ、どんな少女なのか、それが知りたかったのだった。
いつしか、それがこはくの楽しみになっていた。
部活にも行かなくなり、放課後は旧校舎で歌声の主を探す日が続いた。
こはくが探せど探せど、彼女の姿を見れたのは、この間の一度だけであった。
彼女の思考が読まれているのか、毎回違う場所にいるのだ。
そして、こはくが声の主へと近づきの気配を感じれば、歌声は止む。
そして、ギシギシという無遠慮な音が聞こえた後に、いなくなってしまう。
どうすれば良いのだろう。
近づけば、離れる。
かといって、離れた場所にいても近づいてはくれない。
ため息がこぼれる。
放課後、ボーッと考えていたこはく。
クラスメイトとの挨拶も終え、一人教室に残っていた。
と、思いきやこはくの他にもまだ教室にいる生徒がいた。
それは、以前放課後に彼女へやりたくない部活ならば止めたほうが良いと言ったクラスメイトである。
「えっと……海野さん?」
こはくが振り向き声をかける。
海野夢華。
それが彼女の名前だ。




