人魚姫の歌声ー4
自分がそれらの類ではないことは、等の本人のこはくが一番分かっていた。
しかし、決して悲観的なわけでない。
年相応に喜び、年相応に悩む。
そうして成長していく。
こはくもそれを充分に理解し、それこそが思春期の喜びであると考えていた。
「琴原さんおはよう!」
「こ、琴原さん!おはようございますっ!」
「うん、おはよう。」
周囲の挨拶に、少し無理をして笑顔を作る。
再びの黄色い歓声。
誰か話し相手になってくれる人はいないだろうか。
欲を言ってしまえば、友達が欲しい。
互いに喜びや、悩みを分かち合える対等な友達が欲しい。
教室に着いても彼女を取り巻く環境が変わることはなかった。
むしろ、酷くなっているかもしれない。
クラスメイト達からの挨拶。
それだけなら良い。
しかし、彼女の席の中が問題だった。
中には無数の手紙。
可愛らしい手紙を丁寧に折ったもの。
内容は、誤差こそあるが、十中八九同じものだ。
同年代の学生の間で流行っているメッセージアプリ。
その連絡先が記載され、こはくの連絡先も伝えて欲しいというものだ。
彼女も自身の携帯電話に、そのアプリを入れている。
友達に半ば強引に勧められてインストールしたものだ。
しかし、彼女自身使いこなせていないもので、何度かそれを介して送られてきたメッセージに返信したことがある。
しかし、自分から積極的に使ったことはただの一度もなかった。
端的に言えば、面倒くさいから使っていないということだった。
それなのに、連日彼女の元にはメッセージのやりとりをしようと提案する手紙が集まる。
彼女の気持ちとしては、直接会って話をする方が楽であった。
良くも悪くもいつも通りの一日を過ごしたこはく。
放課後も、彼女への声かけは続いた。
他の生徒がめっきりいなくなる頃には、こはくはぐったりとしていた。
いつも通りのはずなのに、満身創痍になっていた。
それはやはり、昨日の出来事が原因だろう。




