人魚姫の歌声ー3
誰が歌っているのだろう。
生きている人間だろうか。
それとも、既に亡くなっている幽霊だろうか。
こはくはそんなことを考えていた。
しかし、実のところはこの時の彼女にとって、そんなことはどうでも良かった。
とにかくこの歌声を出してしている者を見たい。
それだけだった。
一階を見渡す。
軋む音が大きく鳴るような場所を避けながら進んだ為、神経が磨り減っていた。
校舎に響く声。
その反射がこはくの耳を惑わせる。
どこから聞こえるかを分からなくさせていた。
「……いない。どこなんだろう。」
結局、その日歌声の主を見つけ出すことは出来なかった。
翌日。
いつもどおり登校するこはく。
通学路を歩くこはく。
その姿に、クラスメイト達が気づいた。
すると、我先にと、彼女へ挨拶を始めるのであった。
こはくに応えてもらった者達は、皆黄色い歓声を上げている。
ボーイッシュな見た目、そして一年生でありながら、バスケ部のスターティングメンバー入りがほぼ確実と噂されている彼女。
人気にならないわけがなかった。
彼女自身、知る由もないが、一部では非公式ファンクラブが出来るほどだ。
彼らの中には、同級生だけでなく、彼女の噂を聞きつけた上級生も含まれていた。
大半は校内の女子生徒であり、少数ではあるものの、他校の生徒や、一部の卒業生もいるとのことであった。
どうしようか。
先輩達に喧嘩を売ったも同然だ。
朝から憂鬱なこはく。
そんな姿もまた、彼女を取り巻く者達には、憂いを帯びた美しさを纏う魅力的な姿に見えた。
誰も彼女の心配などしない。
一部とはいえ、熱狂的なファンがいるこはく。
そんな彼女が何かを悩んでいるなど思う者はいなかった。
同年代なのに、彼女らにはそれほどこはくが遠く、浮世離れした存在に見えていた。
もちろん、こはく自身はそうではないと自覚している。
完全無欠の最強ヒロイン。
そんなもの、アニメやゲームの中にしかいない。




