人魚姫の歌声ー2
あぁ、この人達には何を言っても仕方がない。
悲観的になるこはく。
気がつくと、こはくは駆け出していた。
こはくは旧校舎へ来ていた。
老朽化から使われなくなった場所であり、間もなく取り壊しが始まるような所だ。
バスケ部の彼女が、肩で息をしている。
どれだけ思いきり走ったのだろう。
調度良い。
少し建物内で涼みながら休んでいこう。
立ち入り禁止のコーンを無視し、こはくが旧校舎内へ歩を進めた。
カビから発せられる独特の臭いが、こはくの鼻を刺激する。
若干の不快感。
それでも、先ほどまでいた体育館に比べれば何倍もまともだった。
ギリギシ。
木の軋む音が響く。
それは、そのまま床が抜け落ちてしまわないか心配になるほどであった。
こはくは、少し恐くなってきた。
立ち入り禁止とされている場所で何か問題を起こすこともだが、事故に合うこともだ。
万が一、床が腐っていてそのまま足が落ちていってしまえば怪我をしてしまうかもしれない。
そろそろ戻ろう。
こはくが踵を返そうとした時、それは聞こえてきた。
誰もいないはずのそこから、音がした。
耳を澄まさなければ聞こえないような小さな音。
それが聞こえた時、こはくの心臓は飛び出てしまいそうなほどに高まった。
何かがいる。
正体の分からないものがいる恐怖。
どうすれば良いか分からず、その場に立ち尽くしてしまった。
その音が、声だと気づいたのは、少ししてからだった。
そして、その声が歌声であると分かったのは、すぐのことであった。
儚くも力強い。
影を帯ながらも、ひだまりに包まれているような暖かさ。
そんな不思議な感覚になる歌声だった。
それは、一言でいってしまえば、魅力的なものであるということであった。
ギリギシ。
さらに奥に進むこはく。
何かの魔力にとりつかれたのだろうか。
帰らないと、戻らないと。
そう思っている。
そう思っているはずなのに、こはくはずんずんと奥へ進んで行ってしまう。




