人魚姫の歌声ー1
とある高校の、体育館。
事件は、そこで起きた。
「あんたさ、ちょっと上手いからって調子のってない?」
少女へ向けられた声。
それは、一つや二つではなかった。
筆舌しがたいものも含め、彼女一人へ向けられた悪意。
周りを大人数に囲まれ、皆がよってたかって一人へ言っている。
なぜこうなったのだろう。
少女は、自身の今の状況を、俯瞰して見ていた。
他人事のような感覚。
ふわりと、浮遊しているような、おかしな感じ。
ただバスケットボールがしたかった。
他の部員と切磋琢磨し、他校との試合に挑みたかった。
それだけだったのだ。
ボーッとしながらそんなことを考えていた少女。
それなのに、少女はただ一方的に責められていた。
そんな少女、琴原こはくは、憤りを感じていた。
好きなことをして、それが上達した。
そして、レギュラーとなったのだ。
つまりこれは、彼女自身が自力で掴み取った、云わば努力の結晶なのだ。
他人にどうこう言われる筋合いはない。
「あんた本当に空気読めないね。部活辞めろって言ってんの。」
「私らは今年が最後の大会なの。あんたはまだ一年なんだし、まだ後があるでしょ?」
「最後の晴れ舞台なんだしさ、今回はレギュラー辞退して、あの子に譲ってくれても良いんじゃないの?」
こはくに詰め寄る上級生達。
そこには、彼女が憧れていた先輩の姿はすっかり消え失せてしまっていた。
あの子とは、こはくと同じポジションであった三年生のことだ。
去年まではベンチ入りメンバーであった。
そして、今年ようやくレギュラーになれると思っていたのだ。
しかし、いざ進級してみるたら、新一年生として入学してきたこはくに、あっさりとその座を奪われてしまったのだった。
「で、でもそれは監督が決めたことじゃないですか!」
こはくが言う。
それが、彼女の精一杯の反論だった。
しかし、周りの先輩部員達には、彼女の声をまともに聞こうという意思はなかった。
依然変わらない態度の彼女らがそこにいた。




