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異世界を、終わらせようか。  作者: 宗ゆさ
第一章 現実の青春
5/6

4話 学校生活はギャルゲーじゃないんです2

区切りかたを変えました

            1


 上野と雑色に言わなければ。まず上野に謝罪を、雑色には感謝を。


 できる。俺ならできる。教室は2階、上る間にセリフを考えておこう。


 『すまん、昨日は喧嘩別れ見たいになっちゃって』、『す、すまん。お、俺が悪かったよ。もういいだろ?』、『よっす!昨日はごめんな!俺が悪かった。これからも仲良くやろうぜ』。


 『あのさ、昨日はそのありがとな』、『ありがとな!雑色。お前のお陰で上野と出会えたぜ』、『よっす!昨日はありがとな!これからも仲良くやろうぜ』。


 何でこんなセリフしか出てこないんだ。ギャルゲーで散々あっただろ、こういうシュチュ。アニメでもわかりきったセリフだろうが。やっぱシンプル・イズ・ベストなのか。


 そうこうしているうちに教室の目の前。まずは上野からだ。軋轢はできるだけ生じさせたくない。穏便に終わらせるんだ。


 教室の白い引戸のノブに手をかける。『すまんな上野。俺が悪かった』よし、これでいこう。もう今更後には引けないし、放っといても後が面倒くさいだけ。


 覚悟を決めた瞬間、これまでに無い勢いでドアをスライドさせる。


 がらがらがらっと滑車がレールを走る音が数秒。俺は堂々と教室に足を踏み入れる。なんだかいつもより周りの視線を感じるが、多分気のせいだ。俺が緊張しているだけ。


 さて、上野は……と、机に荷物を置き、早速周りを見回す。しかし、茶髪の好青年は見当たらなかった。仕方ない雑色の件を先に回すか。と、改めて見回す。しかし、彼女も見当たらない。


 「何か?お探しかい」


 「…っ!」


 後ろから、甘い声が聞こえた。その声には不思議な余韻があり、声の後味が濃厚だった。………声の後味ってなんだよ。とにかく、なんか素晴らしい音楽とか聞いたあとに、謎の虚無感と満足感がごっちゃになって『素晴らしい』くらいしか言葉で言い表せない感じ。


 「そ、そんな怖がらなくても大、丈、夫!」


 なんだこいつ。ビビってガクガクブルブルの俺を笑いながらほざく。


 「僕の名前は、鶯谷 芦妙緒、僕も君と同じ18歳」


 鶯谷 芦妙緒(うぐいすだに ろみお)。銀髪で高身長、青眼を持つ、成績優秀、勇壮活発、眉目秀麗という完璧超人。自己紹介で絶対に高評価を得られる勝ち組。だが、最後の言葉が引っ掛かる。


 僕も18?どういう事だ。確かに中学生がら上がりたての童顔ではない。限りなく大人のお兄さん臭が漂う。……女子みたいな臭いだ。


 「18歳って言っても今年で、だけどね。まあ、気軽に接してくれ。で、困っている様だけど、どうかしたのかい?」


 そんな甘い顔と声で迫られたら、何も言えませんよ。


 「い、いや。う、う……ぇ………のくん………。と、ぞ………ぞぅし……きさん」


 駄目だ、こいつの取り巻きが俺を見てくるから余計話せない。冷や汗が滴る感触もし始めた。


 「上野くんと雑色さんか。確かに今はいないようだね。でも、二人とも鞄を机に置いているから、学校には来てるね」


 こいつ、俺のあの空気に消えそうな声を救いとって文章を完成させやがった。さすが学年上位だ。穴埋め問題の勉強の質が違う。と、突然


 「芦妙緒!生徒会の仕事残ってるのに!」


 教室の後側から銀髪且つ短髪、青眼の低身長、控えめな体つき。この教室にいる誰かさんと顔が似ている。


 「樹里絵!?お前生徒会室のはずじゃ」


 少し驚く銀髪男。


 「もうっ、予算の報告書まとめてたら、芦妙緒の書きかけの書類があったのよ。今日までだから早く渡さなきゃって思って」


 少し怒っているが、親しみのある優しい感じで接する銀髪女。


 「そうか、それは悪かったな。ごめんな樹里絵。わざわざ届けに来てくれてありがとな」


 少し考えた様子を見せて、笑顔で謝る銀髪男


 「もう無いようにね。じゃ、またね、芦妙緒!」


 颯爽と後にする銀髪女。


 なんだこの典型的なラブコメ展開。他の小説家のラブコメとアニメを見てきた俺ならわかる。自然な流れ、つまり日常的な茶番と見せかけて、既に後の後まで完璧に仕上げられたシナリオをなぞっている展開だ。


 「ごめんね元くん。僕の妹って言っても同じ学年なんだけどね、話が途切れてしまったよ」


 こいつの家族どんだけスペック高いの?兄妹が美男美女って、親の遺伝子逸材過ぎ。


 妹の『お兄ちゃん』と呼ばないところが現実味を帯びていて、本物っぽい。これはネタとしてありだな。だが、妹物って概念が既に世間にはお腹いっぱい名のかもしれない。


 「い、いや。だ、だ……いじょう…ぶです」


 「そうかい?じゃあ困ったらいつでも頼ってくれよな!友達なんだから。じゃあまた」


 肩をポンポン、振り向いて取り巻きと机に戻る銀髪男。いや、芦妙緒。


 さすが強キャラ。3つのずるすぎる特性を持つが故、発生するイベントの質が違う。普通友達制作イベントって、大まかな自己紹介のあと、しばらく会話して


 『友達制作イベント!A君編』


 →大胆に肯定する。


 →根本から否定する


 →「俺、お前が好きだ」と告白する。


 みたいに、あからさまに不正解と、微妙な複数の選択肢が出てくるはずなんだが、こいつは違う。こいつと接触すれば形だけでも強制的に友達になれる、まさにチートキャラ。さらに妹とのイベントが発生し、俺が妹と知り合う。そして、友達の妹が俺の彼女になり、完璧な青春を送る。


 こいつ一人で俺の人生を覆せるのか、いい意味で。これは仲良くする他無い。しかも友達が3大特性揃った人気者となれば、俺を攻撃することはできない。1人のときも『鶯谷 芦妙緒』の名前を出せばそれだけで厚いシールドになる。


 虎の威を借る狐。後楯は最強だ。もうあのつらい毎日を送る心配はない。


 そんな現状、俺に課せられている事は、上野に謝罪、雑色に感謝イベント。友達の芦妙緒に迷惑はかけられない。自分でやって、クラスカースト上位へ駒を進める。そこからが小説の創作活動だ。


 鞄は2人ともある。学校のどこかにはいるってことか。そう考えると上野は部活で体育館の可能性が高い。雑色はわからない。彼女の友達もいない。これといってやってそうな部活が見当たらない。まずは位置が予想できる上野からか。


 体育館へ歩みを進める。ホームルームまで、後10分。昨日は体育館まで歩いて5分程度、走れば3分くらいだろう。


 足を踏み込んだ瞬間、肺に力が掛かる。喉に空気が大量に入り込む。咳がでる。ものの3秒で息切れする。


 「かっ、げっふぅっ、ごっふ、かっっ、かはあああ。はあはあ、な、何で、何でこんなつらいん、だ」


 廊下を全力疾走。その速度はクラスで短距離走ビリの人と同じくらい。両横っ腹に激痛が走り、足が笑い始める。筋肉が全方向から引っ張られてるような異常な張りが体力消耗に拍車をかける。


 階段を下りてすぐに下駄箱。それを横目に職員室を突っ切れば渡り廊下に出られる。


 我慢の限界など遠に越した。今は体がどれだけ耐久できるか。こんなに激しい運動をしたのは何年ぶりだろうか。がむしゃらに走っていてふと思う。体育はいつもサボってたな。体力テストもいつも『測定不能』だったし。


 そしてついに目の前に大きな建築物。


 「着いた」


 等速で走っていた足を止める。体を支配していた痛みが少し弱まり、体のなかの空気が一気に抜ける。


 「はあはあはあ…………ったく。つかれさせ、やがっ……て」


 足をおもむろに動かし、開きかけたドアを開き中へ歩みを進める。興奮して、いつもより倍の早さで拍動する心臓のお陰でテンションが一段階上がっている。今の状態ならビビらず言える。



 「おい、上野」


 疲労から、下を向いて叫ぶ。


 「き、昨日はすまんかった!」


 その声は体育館中に響き渡った。それを遮る物は何もなく奥の奥まで響いてこだました。


 俺の声にビビっちまったのか?運動部とは言えど、さすがに今の叫びには口は出せねぇか。疲れが一気にとれる。膝で手を支え息を整える体勢を直し、しっかり立つ。そして俺は自信満々に頭を上げた。


            2


 「おい、元。お前なんで今朝体育館へ言ったんだ?」

 

 職員室は嫌いだ。中学生のとき散々職員室へ言って担任と話していた思い出がある。時には親も呼ばれて、『進路、どうするんですか?』と嫌そうに言われる。そんな場所へ、放課後呼ばれた。


 そして俺を呼んだ教師が運悪く体育教師。怒ると拳で語り始める属性。顔のごつさと汗の染み渡った短髪が特徴の典型的な体育教師。名は知らない。


 「…………」


 何でって言われても、『上野くんをさがしてました』なんて言えるわけがない。待てばいいだの、と正論を言われては何も返せないくなる。そして称号『せっかちなぼっち』を獲得してしまう。この称号は『急ぐ必要なくね?こいつ何やってんの?』という風に思われてしまうということだ。


 今は黙って言い訳を考えよう。


 「黙ってちゃ困るよ。お前が体育館開けっ放しにしてたから、上の先生方から色んな部活に指導が入ったんだよ」

 

 ん?聞捨てならないな。その時は俺の聞き間違えかと思った。


 「聞いてるか?お前が開けっ放しにしたせいで」


 聞き間違えではないようだ。間違えてるのはこの体育教師だ。俺が開けっ放しに?どういう事だよ。そんな記憶全く無いんだが。ただ、開きかけのドアを全開にしただけで、そのあとは閉めたはずだ。


 御言葉ですが、と返したいが声がでる気がしない。


 「おい、元」


 体育教師がイライラし始める。全く短気だ。そんな性格の人間が体育教師をやっていいのか?今の社会はちゃんと人選してんのか?


 「元 終っ!いい加減答えろ。なんの目的で体育館へ行ったんだ!用はないはずだろお前は」


 机を拳骨で叩く。白いマグカップに入ったコーヒーは津波となる。束ねられたプリントが斜め前に少し移動する。他の教師は話や作業を止めて視線をこちらへ移す。殺風景な職員室を沈黙が支配する。そこへ場違いにも、コピー機を起動させ印刷する事務員。無機質で灰色のその音はただただ場を虚しさで包むだけだった。


 この空気は中学生の時と変わらない。嫌な空気が漂う。そんな状態が嫌で、俺は


 「お、おお、おお………おお、俺は、やっ、やっ……やって、ない」


 裏返る「お」きょどる俺。体育教師はさらに睨みを聞かせこう続けた。


 「あのな!行ったことは事実だろ。開けっ放しにしたのはもう咎めない。何故行ったかが問題の本質なんだよ」


 一呼吸置く。緊張と恐怖で震える右手を左手で抑える。この数年間恐怖なんて忘れていた。思考の枠の外にあった感覚がふつふつと体に沸き起こる。口を開こうにも頬が震えているから開けない。


 「は」


 咆哮をあげようとした体育教師の口を遮るように俺は


 「上野を探していた」


 落ち着いたトーンの声でハッキリと述べた。背後には羞恥心が俺を喰らおうと待ち伏せている。


 「上野に何のようだ」


 問題の本質だ、とほざきながら質問の内容がかわる。


 「謝罪です」


 不自然なほどに落ち着いた俺に体育教師は唖然とした。学校に通いはじめて3日、体育教師に呆れられた顔をされたことに悔いが残った。


 ─帰り


 結局微妙な雰囲気になって話は終わった。体育教師は呆れられた理由に拍子抜けようで、あの後は大したことは起こらなかった。


 そしてその日上野を含むバレー部は大会で休みであったことも伝えられた。朝おいてあった荷物は俺が体育館へ行った後、他の生徒が部の送迎バスに積み込んだらしい。上野には会えなかった。


 雑色はたまたまその日、家の事情で休みだった。荷物は雑色の友達のものだったらしい。って、荷物を休みの人の机に置くとか酷すぎ。


 つまり俺は出欠状況を確認していたら、起こられる未来もなかった……あー、朝からやり直してー。ギャルゲーの主人公みたいにとか言ってたけど、重要な選択肢を見過ごしていたっ!不覚。


 取り敢えずギャルゲーの主人公みたいに一日を振り替えるか。確か最初の一日を終えた、つまりチュートリアル終了ってことか。


・・・


 一日が終わりを迎えようとしている。今日はいろいろあったなあと、帰り道でふと思う。既に濃い人生経験を積んでいる俺は今日という一大イベントにも同じない。


 元 終、18歳。数年ぶりの学校生活、つまり真の青春が始まろうとしている。上野、雑色の評価は上がり始めている。


 今まで人生の難易度は変えられぬハードコアだと思っていたが、考えすぎかもしれない。目の前にある優しい現実を目が霞んで見えてなかったのかもしれない。なら、そんな濁った視界を晴らすのが一番の目標なんじゃないか?


 時刻は5時を回った。梅雨の空はいつになく儚い。淡い赤に夜の青が滲む空。真っ黒な俺の心に2つの色が滲んでいるようだ。そして、今日初対面の2つの色も、もうすぐ黒い心に滲み始めるだろう。


 帰路を色々な想いを馳せながら歩いているうちに自宅の前まで着いた。目の前の公園で親と帰る子供たち。夕焼けの景色とかしたカラスの群。もうすぐ夏だ。夏までには最高の環境、人間関係を築いておきたいな……


・・・


 なんて、主人公風に。


 実際、今の状況下で人間関係なんて築ける気がしない。上野、雑色、あと芦妙緒と樹理絵だっけ?何の関係もない俺に積極的に接してきたこいつらは……


 ──イベントが始まる


・キャラの自己紹介を見る←


・キャラの友情フラグを全て折る←

次回、「人生はギャルゲーじゃないんです」

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