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異世界を、終わらせようか。  作者: 宗ゆさ
第一章 現実の青春
3/6

2話 上野と雑色

説明文みたいに長くなったのはご了承。

 初日から2日が経った。別に変わったことはない。3年も学校に来なかったヤツがいきなり留年してくるなんて異例中の異例だ。


 親は感動のあまり号泣して、留年祝賀会を開こうなんて言っていた。そんなにうれしいかよ。当たり前のことができなかったヤツが常人レベルになっただけ。別に変わったことはなかった。


 何年ぶりの授業だが、あれはやはりダルい。だが、静かな空間にずっと座っているだけだから、耐えることはできる。ただ、つまらん文章集、もとい教科書を読まされたりノートをとったりするのが、非常に辛い。手も疲れるし内容がつまらない。


 1年の初めは簡単だからと、教師が言っていたがそんなことはなかった。俺が志望したのは中の上ほどの公立。たいして勉強しなくても入れるようなところだ。


 世間的に進学校と呼ばれているが、名の知れた学校へ受かるのは毎年20人ほど。俺は中学にたいして通わなかったが、受験のとき得意だった国語と格好いいから覚えた英語が武器になり入ることができた。


 非異世界ものを書くには、学園ものが書きやすい気がする。だからダルい授業も今更遅い勉強を初めた。だが、まずあることをしなきゃ学園ものなど始まらない。


 「友人制作イベント」


 このイベントは学園生活史上一番リスクを伴うイベント。しかも前の自己紹介イベントでの評価が影響してくる。だから自己紹介イベントは失敗したくなかった。


  まず素材探し。手頃そう且つクラスでの評価も高めの奴を探す。教室を見回す。幸い俺の席は横7列ある中の真ん中、縦1列目。クラスを見渡すには絶好の位置。


 ぐるりと見回す。グループがいくつかに別れて話したり、遊んだり。


 どうやら、何処かしらのグループに声をかけるしかないようだ。ぼっち生徒がいないなんて、いいクラスだったんだろうな。そう思った矢先


 「えーっ!?薫しらんかったのー?あいつ転校したじゃん!」


 茶髪のロン毛女が髪をいじりながら黒髪ショートの「薫」に説明。


 「そうそう。めっちや浮いてたし。クラスの雰囲気に耐えられなかったんじゃない?」


 茶髪ロングより濃いめの茶髪ツインテが、補足説明。


 「そ、そうなんだ。急だね…」


 「薫」が反応。予想外の展開なのか少し引いている。


 しかし、一つ重要なことがわかった。「ぼっちはいない」は間違っていた。ぼっちはいた。が、自ら消えたのだ。そんなことを笑い話のネタにする以上平和ではない。


 心臓が抉りとられるような痛みが走る。緊張だ。学校入って早々に消されるのか?もう時間を無駄にしたくはない、といった焦りが冷や汗となってあふれでる。


 とても友人を作れそうにない。まずは鬼どもの敵にならないようにしなければ


 ─────────


 「元?さん?」


 この静かで落ちつく声は?


 「元さん?」


 今まで寝てたから声や視界がぼやける。


 「あの?」


 そのとき気づく。これは話しかけられていると。重い体を無理矢理起こし、制服が空を切る音ともに目が覚める。


 「良かった、生きてた。」


 「薫」さんだった。形容するには言葉が見つからない容姿。きめ細かい張りのある艶やかな肌、某洗剤メーカーのシャンプーの優しい香り。開いたまどから吹く涼しい風が彼女の髪を靡かせる。


 「ぁぁ、あぁなぁた…は?」


 声は儚くも形にならず涼しい風とともに流されていく。


 「私、雑色 薫っていうの、変な名前でしょ」


 俺の声を認識できたのか、はたまた自分から自己紹介に移ったのか。後者だろう。俺の声が聞き取れれば聴力は常人を軽く凌駕するぞ。


 「小学生のころ、よくいじめられたんだ。この名前で」


 あれだろ?大体予想つくそういうの。子供向けの歌で好きな色聞くやつ。「雑色」って名前聞いたときそう思ったからな…。


 「でね、いじめられてなくても、ちょっと変わった目で見られてる人放っておけなくて」


 なんか、嫌な気分だ。同情か?ならばいらない。そんな自己満足な感情に左右されるほど俺は子供じゃない。


 「さっきあなたの近くで、けっこうエグい話ししてたから、気にさわったかなーって?」


 「それはお人好しってもんだ!」


 俺なりに大きい声で発言した。教室に響かなかったから、多分普通の人が喋る程度の大きさくらいだろう。


 「元くん、喋った!?」


 こいつ、俺を異世界ファンタジー定番の喋る動物か何かだと思ってんのか?


 「えっとー。もう一つ言いたいこと………っていうか渡したい物があって」


 スカートのポケットから四つ折の紙を取り出す。何気に俺の発言を流される。まぁ、同じことまた言ったらそのとき言おう。


 「はいっ。上野くんが元くんに渡してって」


 「上野………って」


 「上野くん?上野智昭って子、クラスにいるでしょ。その子だよ。なんか、話したいことがあるって言ってたから」


 そんな人いたのかよ。顔を知らないが、手頃そうな奴ではないだろうな。


 手紙を受け取り開く。


 「たっ………体…育…館」


 そこには堂々と黒いペンで「体育館」とだけ書いてあった。


 体育館裏じゃねーのかよ!なんでちょっと定番ずらしてくんの?雰囲気味わおうよ!


「上野くん、友達がバレー部だからね」


 友達いんのかよ。話す気が失せるよ。


 「体育館わかりません」


 言葉にするのは無意味だとわかっているから、受け取った紙に書いてしめす。「体育館」か元から書いてあったから少し楽だ。


 ────────


 雑色と俺は数メートルの距離を置いて体育館へ向かう。俺が後ろなのに平気なのか?普通こういうシチュって、女子が嫌がるやつだろ。ダンジョンとかクエスト系で暗いところへ前え進むとき口論になるやつ…うん。


 「上野くん、優しいからね」


 雑色が立ち止まり呟く。何だよそれ。恋する乙女アピールかよ。優しいかどうかは俺が決めるよ。


 「この間食べ物買うときお金が足りなくて困ってたら、後ろにいた上野くんがくれたんだ」


 金関係か…。優しいかどうかは悩みどころだな。


 「いく…ら?」


 全部とか言うなよ。それただの都合のいい奴だから。


 「9円」


 「……っ、て!9円ってなんだよ!あと1円頑張ろうよ!!何でワンコインにしないのよ!9円とかわざわざ財布から数えて出すの大変でしよ!払うときバラバラしてうざいでしょ。10円だして1円釣りもらった方がいいでしょ!いや、待て。面倒なのにちょうどにするところが優しさなのか?いや、わかんねーな」


 突っ込みどころあると、独りても大声だして突っ込む癖があるんだよな俺。そうとうキモかっただろうな。暗い部屋でもそんなこと毎日やってたから、人の視線なんて考えてなかったわ。


 「それでね」


 俺の突っ込みガン無視で話し続行。さすがに後悔が消し飛んだわ!


 「『あ、俺持ってるかね9円だった。昼飯買えねーや』って言って悲しそうに笑ってたの。なんて優しいの!って思ったから買ったおにぎり半分にしたんだ。割り勘って言って」


 「上野得してね?上野くんは明らかに得してますよね!9円で半分は安すぎやしませんか!大体なんで9円しか持ってないのよ!」


 「元くんって面白いね」


 廊下の窓から涼しい風が吹く。普通の風とは感じかたが違う。俺の背中を押しているような、優しい風。彼女の笑顔が見てみたかった。


 ───────


 体育館への渡り廊下は駐車場と隣り合っているから、帰宅の生徒がわんさかいる。もう午後5時を回っているのに、部活はまだ終わらないらしい。


 ゆっくりと体育館へ歩を進める。ユニフォーム姿の汗臭そうな男子が場違いな俺らを不思議そうに眺める。


 上野ってやつはバレー部らしい。体育館のど真ん中にネット張ってやってそう。多分エースで、チームのムードメーカー。努力を怠らず、手を抜くことを不得意とする完璧プレーヤーなんだろう。期待なのか嫉妬なのか曖昧な感情が体を包容する。


 ステージと対面にある渡り廊下側の入り口から堂々と入る。叫び声や、声援、掛け声が無数に飛び交う。どれが上野かと見回す。


 刹那


 「来たな元 終。貴様ら全員かかれ!」


 殺気を感じた。部活に熱中してるやつらを邪魔したから?俺はなんもあいつに恨みを買うようなことしてないのに。


 声はそう遠くない場所から聞こえた。そして自分の耳寄り低い位置から聞こえる。つまり声の主は俺より身長が低いか座っている奴。そして俺との距離が3メートルくらいに存在する奴だ。


 『かかれ!』と言われてから1秒が立つ。動き出したのはネットの向こう側の巨人レベルの身長の男子2名。命令に従っているところ1年だと推測できる。


 走ってくる巨人達はネット両サイドから挟み撃ちにしようと企んでいるらしい。その高さはネットより少し低いくらい。公式戦の高さが2メートル弱らしいから、彼らの身長は180後半から90前半。1年とは思えない。


 5秒。ここまでで巨人達の情報は収集できた。彼らは高さが不利につくはず。歩幅がでかい分、小回りがきかない。挟み撃ちの瞬間、間を抜ければなんとかなるだろう。


 だが問題は上野本人。『かかれ』という、それなりに低音で体育館に響く声。張りがあって部活専門みたいな感じ。身長が高いほど声が低いというが、それが正しいのなら目立つはず。だが、それらしい人物が見つからない。巨人以外は練習しているようにしか見えない。


 7秒。巨人と俺との距離がわずか2メートルほど。今しかない。頼りなく細い足に精一杯の力を込め、前へ跳び出る。


 巨人同士の隙間から前に倒れ込むように抜ける。


 すると見えた。俺等が入ってきた入り口のすぐ右端に、不適に笑う茶髪の少年の姿が。


 「上野!!!」


 叫んだ瞬間、巨人二人が俺の捕獲に成功した。


 ───────


 「俺の名前は上野智昭。お前、同じクラスだろ。よろしくな」


 手をすくっとだし、握手を求める。なんだこいつ、コミュ力の塊じゃないか。きっと俺みたいな人が捨てたコミュ力が集まってできたんだな。


 握手に応じないほどみかけは悪い人間ではない俺は、右手を差し出した。


 「お、俺を、ょよよよび出した理由、だげど」


 「あ、?ああうん。なんでもない。話したかっただけだよって言うと嘘になるな。……お前、いや元さん、あなたが小説大賞小学生の部で優勝した、元 終さんですね」


 ───────


 上野 智昭、雑色 薫。


 俺が教師の次に話した人たちだ。親を泣かせ社会から暇をもらったクズの俺に声をかけてくれた人達。お前達のお陰で最強の日常小説が書けそうだ。期待しているぞ。


 ボサボサで灰色の髪の毛をかきむしる。虚ろで何に対しても無関心そうだった目に光が宿る。今日の出来事を感想つきで愛用ノートパソコン「ニー友」にメモする。


 部屋はやはり暗い。服やゴミやらが散らかっている部屋に何年も一人でこもりきり。学校へ通い出した俺にとって、部屋へ戻り創作活動をするのは至福の時間になっていた。右も左もわからない学校生活だが、昔の俺にこう言いたい。


 


 人生これからだ、と。


 

次回、上野の過去が明らかに

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