第2話:追剥さん、
血潮と死臭が満ちた小高い丘の上で、仰向けなりながら夜空を見上げてみると輝き続ける無数の星空があった。
全ての闇を曝け出そうとする不躾な月明かりはどうしても好きになれない。
「本当に笑えない。私が無能な貴族から毛嫌いされていることは十分すぎるほど理解しているつもりだけど……何も知らない無関係の将兵たちを巻き込んで、勝ち目のない戦争の中で邪魔な私という存在を葬り去るつもりなの」
私の名はアデライード・フォン・シェーンバッハ。
職業は……いや、この場合は全ての国民に周知されている称号という名の二つ名のほうがいいだろう。アデライード・フォン・シェーンバッハという名前は今生の親から勝手に名付けられたものだ。宮廷魔導士を代々輩出してきた高貴で優秀な血筋(笑)を誇る今生の実家に思い入れはほとんどない。
私の称号――二つ名は『始まりの魔女の意志を継ぐ煉獄の使徒』だ。
「いや、笑えるかも。腹から腸をはみ出しながら、血反吐を吐いて敵兵を道連れにしようなんて考えているんだから」
魔法を発動するための魔素伝達路は既に焼き切れている。
当たり前だ。侵攻を開始した自国の兵力は敵軍の五分の一に満たなかった。
ちょっと気に食わない敵国の軍勢を挑発してしました。
相手を挑発したら、思いのほか強そうなので思わず逃げ出しちゃいました。