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暗黒の皇帝(仮題)  作者: 雅 彦
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01

これは15年以上前、ファミリー劇場大賞、アニマックス大賞に投稿した脚本を多少手直ししたものです。

三人称で視点が固定されていません。


 かつて、勇者と仲間達、そして人類全ての希望を託した軍と、あらゆる穢らわしい魔物と呪いを集めた、魔王軍の決戦が行われた。

 残念な事に勇者は真っ先に討ち取られ、復活の呪文を使わなかった人類陣営も、王国の城塞を焼かれ、戦いは魔王軍の勝利に終わった。

 人類には暗闇の時代が訪れ、誰もが奴隷として暮らし、暴力を受け、蔑まれ罵られ、重い労働を請け負わされて、全ての人が惨めな人生を贈る世界が訪れる、はずだった。

 魔物だけが貴族として君臨する人間の街は何故か豊かになり、ならず者や腐敗した政治家と小役人は真っ先に処刑されて姿を消し、魔族も私服を肥やそうともせず、自分の名誉とプライド、ついでに民衆のために力を尽くしていた。


 以前は市場で売られていた、奴隷身分の人間やエルフの綺麗な娘は、全員魔物に買いとられてしまい、屋敷に連れ込まれ、まず醜いメスの召使いに洗い場に連れて行かれ、人間やエルフが嫌がる温かい湯を頭から掛けられ、髪の毛や体全体を石鹸で洗われ、地面をこするようなブラシで肌が真っ赤になるまで擦られてしまい、体温を保つための脂分まで全て落とされ、全身の汚れや蚤やシラミを取られてしまう有様。

 さらに40度以上も有る高温の熱湯に漬けられ、100数えるまで熱せられる拷問を受け、湯上がりに暴れて逃げようとしても、魔物や召使いに柔らかい布で拭かれてしまい、熱い暖炉や火の前で乾かされる、酷い拷問を毎日繰り返された。

 さらに雌牛の腹から絞り出した、魔物には飲めるはずもないマズくて臭くて白い体液を、湯気が出るまで温めた物まで飲まされてしまう。

 そして猫にまたたびチャウCHUーる、人の心を操られてしまう毒、現代では人間を狂わせる猛毒として知られる、砂糖まで混ぜられてしまい、2型糖尿病を誘発する呪いと病いの元まで飲まされ、筆舌に尽くしがたい、凄まじい虐待を受けてしまった。


 そして与えられる食料は、味気ない酷いもので、脂身が少ない不味い食べ物、毛玉防止で嘔吐させないための食べ物、腎臓病防止の塩気が少なすぎる薄味の食べ物ばかりで、とても成人を満足させられる量でもなかった。

 それとは別に、太っているのが尊ばれる種では、いつでも食べ放題エサを与えられ、無様に醜く太る様を観察され、腹肉がだぶついているのを笑われた。きっとフォアグラにされてしまう。

 さらに寝床は、柔らかすぎて眠りにくい、ノミもシラミも存在しない、清潔過ぎる寝具で寝かされ、自分の匂いを付けて縄張り主張することすら許されないで、数日で奪われて洗われてしまう。

 周囲を囲む保護板すらない、箱になっていない広すぎる場所で、敵の襲撃に怯える恐怖に震えながら飼われてしまった。

 裸で過ごしたがる奴隷にまで、きれいな装飾が付いた着物を着せ、所有権を主張する首輪を巻かれて鈴も付けられる屈辱、人間が嫌がる布の服を毎日被せられ、裸足で歩くのが普通なのに、変な脚カバーまで被せられて虐待。

 一日の仕事といえば、魔物にブラシを掛けられて、髪を綺麗な状態にしておくか、膝の上に載せられてしまい、頭や喉を撫でられる作業だけ。

 先端に毛が生えて尖っている植物が付いた棒を目の前で振られて、狩猟本能を刺激されて、グッタリするまで戦わされることもある。

 さらに命の危険すら有る、魔物に捕食される時のような、腹を上に向ける芸をさせられ、手や脚で抵抗しても遊ばれ、楽しげに人類が抵抗をする様子まで観察。

 内臓が詰まっている柔らかい腹を見られ、恐ろしい爪を持った手で、直接モフモフされ、恐ろしい牙が付いた口を近付けられて、最も弱い場所で急所を頬でスリスリされてしまう恐怖を味わう。


 それがオスだった場合、最も弱い急所、睾丸を後ろから撮影されたり、丸出しになっているのを指でツンツンされて笑われるという、惨めな地獄も有る。

 有ろう事か、増えすぎないように去勢されたり、争わないように、声が子供のままで暴れたりしないようにする、たったそれだけの理由で去勢されることすらあった。

 そしてオスメスとも年に数回、広場や客の前で見世物にされ、毛並みの良さや声、恥ずかしいのに歌まで教え込まれて、惨めな鳴き声を3~5分に渡って、カラオケなども使用して、延々披露させられる地獄。

 髪の毛が綺麗に刈られたり纏められている状況も競わされ、肌の艶や傷の無さ、血色の良さまで、服を脱がされて性器や体毛まで丸出しのまま、衆目監視の中で審査員に隅々まで観察されてしまう地獄。


 同じ催し物では、オスの人間が競技をさせられ、走る速さや泳ぐ速さを競わされ、魔物が命じるままに輪をくぐり、ハードルを超え、飛び上がってアンパンを食わされ、粉の中から口だけで飴を取り出さされ、顔中粉だらけのまま人前で走らされる、ありえない程の屈辱を味合わされていた。

 三半規管を狂わせる回転を繰り返させられ、そんな状態でも真っ直ぐ走るように命令され、転倒して歩けない状態で見世物にされ、魔物からも嘲笑われて、仲間である人間からも爆笑されてしまう無間地獄、等活地獄。

 速さを競わされる以外にも、力持ちの人間は重宝され、体中に油を塗られたり、褌一丁という恥ずかしくも寒い格好で投げ合いをさせられていた。

 そして魔物だけで話し合い、競技の優勝者と雌を掛け合わせ、美しくて強く早い、そして病気にも強い個体ばかり選び出されて、人類の種としての在り方まで捻じ曲げられてしまった。


 雌も雄達が走らされ泳がされ、手に柔らかい布や海綿を巻かれて殴り合わされたり、血を流して争わされている状況を見せ付けられて発情してしまい、優勝者に集って種を植え付けられるのを喜ぶように仕組まれていた。


 それを人間なら70年以上、エルフなら数百年間掛けて苦しめ続け、最初から長い時間を掛けて虐待して殺すのを目的に買われてしまい、そんな苦しみが続くように、病気にかからないよう予防注射までされて、魔法で長寿の呪いまで受け、食料と温かい寝床に困ることもなく、眠るばかりの何の目的も存在しない暇な人生を送らされ、特に労働もさせられないまま堕落しきって、部屋の中で住んで外出もさせないで、一日に数回、逃げないように首輪をつけたまま引っ張られて散歩させられ、それ以外は飼い殺しにする、恐ろしい罰を受けていた。

 これはそんな地獄のような王国でのお話。


 魔王城

 とある王国の王宮で、地味な王座の前に引き立てられて来る、もっとみすぼらしい、年老いた僧侶。

 僧侶は椅子に鎖で縛り付けられ、魔法禁止の首輪でも厳重に縛られ、魔物の衛兵が退出して行く。

「魔王様のおな~り~」

 近衛兵の魔物に囲まれている地味な王様が入ってくるが、できるだけ王様を飾り立てようとして、王冠に見えるように巨大なティアラを翳してみたり、地味な服の前に旗の飾りが掛かるようにして、見栄えを良くする。

「久しぶりだな。以前、お前が司教になるのを断って以来か?」

「今更何の用だ、貴様のような悪党の手下になるつもりは無いっ、我らの勇者を倒し、姫様までも妻として、この国を欲しいままにして来た悪魔に膝を屈するぐらいなら、死んだ方がましだっ」

 唾棄した所を近衛兵や衛兵に殴られ、王に暴力行為を止められる。

「そいつに危害を加えるな。問題はそこだ、最近の若い者には、お前達のように気骨がある者はおらん。戦乱が終わって豊かになってしまえば、わしに逆らおうともしない」

「ふんっ、どいつもこいつも、貴様の正体を知らんからだっ」

 王座から立ち、窓際に向かって遠い目をして今の世界を見る魔王。

「そうだ、わしは自分と同じ匂いがする悪党は全部始末して来た。するとどうだ? 国政を預かる宰相達は、自分の私服を肥やそうともせず、民衆のために身を粉にして働き、将軍達は反乱を起こすどころか、災害が起きると復興に向かい、隣国にまで救援に出動する有様だ、おかげで戦争すら起こらないっ」

「はあ…?」

 涙ながらに訴える王様と、それを呆れて見ている僧侶。

「それに先日亡くなったわしの妻。前の王国の姫が、いまわの際に何と言ったか聞いているか」

「姫が? 何と言っておられた?」

「驚くなよ「いつまでもご自分を責めるのはお止め下さい、貴方はこの国の民衆を救うため、腐敗した王朝を倒したのです、貴方こそが本当の勇者だったのです」と…」

「嘘をつくなっ! 姫の最期の言葉まで捻じ曲げようと言うのかっ、この悪魔めえっ!」

 鎖を引き千切らんばかりに怒り狂い、顔を真っ赤にして、魔王に襲いかかろうとする僧侶。

 憤りの余り、血走った目から涙まで流して悔し泣きして叫び、王に掴みかかろうとするが、鎖と魔法禁止の魔法円が働いてしまい動けない。

「嘘だと思うなら、侍従長でも侍女にでも聞いてみるがいいっ! あいつはとんでもない勘違いをしたまま、あの世に行ってしまった。自分の国を簒奪した男を尊敬し、その上、自分の子供や孫にまで、その嘘を吹き込んで信じさせたっ」

 机を叩きながら泣いている魔王と侍従の魔物。


「なん、だと?」

 残念ながら 僧侶もそれが事実だと悟り、目眩でよろける。

「わしが今、何をしているか知ってるか? 農業政策と疫病対策だぞ? 業を拭い去るためとは言え、暗黒の皇帝、悪魔に魂を売って世界を滅ぼそうとした男とまで呼ばれたわしが、何故「予防注射のお知らせ」をせねばならんのだっ?」

「そこまで変わったか… だがそれも神の御心。貴様は勇者に成り代わり、善政を行わなければならない運命だったのだ」

「そうだな、これは奴の呪いだと思った。だから勇者を称える碑文を作って王宮に祭った。そしたら今度は「志は違っても、この国を救おうとした王が、死後も勇者を尊敬している」などと良い評判が立ってしまう有様だ」

 窓際に立って、泣きながら遠い目をして地平線を見る。

「あの頃は良かった。薄暗い「ひみつ基地」から、魔物や悪党を送り出してお前達と戦わせ、腐った王国を滅ぼし、最後にお前達と対決した」

 イメージ映像、炎の中で若い頃の僧侶や勇者が、巨大な暗黒の皇帝に立ち向かっているシーン。その絵をシャッターを上げるように画面上へ押し上げる王様。

「だがお前達は弱かった。たった6人で魔界の軍勢に戦いを挑み、真っ先に勇者が倒れた。どうしてあの時、お前らは復活の呪文を使わなかった?」

「死者の復活など、あってはならない事だからだ。それが我らの神の教え」

 綺麗事を聞いて顔を歪める王様。僧侶の傍に近寄って話しを続ける。

「もう少しでわしを倒せただろうっ、後で死ぬなり、どうにでも出来たはずだ?」

「それは貴様のような、愚か者だけが持つ汚い考えだ。勇者は潔く天に旅立ち、生き残った我らは再起を計るべく、今のような屈辱に甘んじているのだ」

「そうか、やはり再起したいのだなっ、では頼みがある、予算は付けるから、見所のある若い者を集めて、わしを倒してくれ」

「は?」

「言った通りだ。新しいパーティーを組んで、わしと戦ってくれ。もうこんな規則正しい生活は沢山だ、わしらをあの薄暗い秘密基地に帰らせてくれっ、一年中じめじめして、カビ臭い部屋にいないと、わしらは駄目になるんだっ」

 王の配下の小悪魔も、白い羽をふさふさ揺らしながら、可愛い顔で頭を下げる。

「わしが魂を売った悪魔を覚えているだろう。あいつはこの国を解放し、民衆を救った罪によって魔界を追われ、あまつさえ飢餓と疫病を払った功績により、妻と共に天界に迎えられてしまったのだ」

 イメージ映像、天使にいざなわれ、パトラッシュ?が引く台車で昇天する白い羽の悪魔と、泣きながらネロ君?を見送る王様。

「そんな馬鹿な……」


「このままでは、わしも死ねば天国に連行されてしまう。あんな線香臭い所で、永遠に心穏やかに暮らす羽目になるのだっ」

「素晴らしい死後の世界ではないか、貴様のような奴には勿体無い」

「それはお前達のような馬鹿者だけが持つ甘い考えだっ、死後は地獄に落ちて、魔界の底で永劫に戦うのが夢だったと言うのに、わしの人生設計は台無しだっ」

「…確か貴様は生贄を捧げ、禁断の不老不死の魔法を使ったはずだが?」

「それも悪魔が天使になった時に、無効化された。わしが地獄から召還した暗黒竜を見たか? あれも今では白くなってしまって、この国のご神体として祈りまで捧げられている」

 神殿に祭られ、信者達に祈りを捧げられて、足元以外は白くなっている暗黒竜。雄叫びではなく、悲鳴のように泣いている。

「ギャーーーーッ!!」

「自滅したければ、また悪魔でも呼んで魂を売ればいい。家臣達も貴様の力で堕落させればいいだろうっ」

「分かっているはずだ、わしは暗黒魔法が使えなくなった。それに悪魔達も、わしに関わると魔界を追われ、天使にされる恐れがあるので誰も契約しようとしない」

 何かを思い付いたようにニヤリと笑い、僧侶の肩に手を置いて話す王様。

「良い事を教えてやろう、その代償に、わしは神聖魔法が使えるようになった」

「ふざけるなっ、神聖魔法は神に対する篤い信仰が無ければ使えない」

「その通り。どれ、年を取って関節が痛むだろう、治してやろう」

 王が何か分からない神聖な言葉を唱えると、僧侶の体が光りだす。

「何故だっ? どうして貴様のように卑劣な奴が、そんな高等治療魔法をっ!」

 僧侶の方も、もう泣いてしまい、この世の余りの不条理に、床に膝をついて嗚咽を始めた。

「魔力さえ強かったら使えるんだろうな、呪文が勝手に頭の中に浮かんで来るんだ。親切などこかの誰かさんが教えてくれるんだよっ」

「歴代の法皇でも、そんな人物は稀だ、よほど神に愛され、若くして天に召されるような子供で無ければ、そんな事は有り得ないっ」

「それで今度、わしがこの国の大司教を仰せつかる事になった訳だ」

「暗黒神を奉ずる貴様などに、何と愚かな決定をっ」

「王と大司教を兼任する国は多い。わしは丁重に断って来たが、司教に神聖魔法を使っている所を見られてしまってな、無条件で交代するよう内示が来た」

「間違ってるっ、この世の中は何もかも間違っている…」

 首を振って目を硬く閉じ、今はなき勇者を思って嘆いている僧侶。

「そうだ、その間違いを、お前の手で正す時が来た。報酬として、この国の大司教だけが閲覧できる、呪文の全てを網羅した写本を見せてやろう」

 王が持ち出した写本を目の前に置かれ、生唾を飲みながら恐る恐る見る。

「これは普通に出回っている本と違って、最初に呪文を聞いた者が書いた注意書きも写してある、読んでみろ」

「空中浮遊? この呪文は、私が首を吊って死のうとした時、口が勝手に唱えた物だ。私は呪われている、死ぬ事も許されないのか? この呪文を唱える者が、私と同じ境遇で無い事を祈る… 何だこれはっ?」

「わしも以前、首を吊ろうとした時、本の男と同じように口が勝手に空中浮遊の呪文を唱えた。毒を飲んだ時は治療呪文、刃物で心臓を刺そうとした時は絶対防御呪文。その呪いは今も解けていない、この本はわしと似た怨嗟の声で満ち溢れている」

「何故だ?」

「きっと、この世界の構造がそうなっているんだろうな。神を信仰し、清く正しく生きる者には貧困と疫病が与えられ、誰かを憎み陥れ、その功績を盗む者には、豊かな生活と健康が強制的に与えられる」

「それは違うっ」

「お前もその年だ、もう分かってるだろう? それが世界の正しい営みだ。わしのように人間どもを破滅させたい者には、神のご加護が与えられ、民衆を救う力が与えられる。勇者のように民衆を救いたい者には、破滅の力と死が与えられる。今にして思えば、奴は自殺したのかも知れない」

「そんな事が、あろうはずも無いっ」

「そう言うと思った、だからこれも見せてやろう」

 魔道書に付箋をはさんだページを開く王様。指差してその場所を教えてやる。

「これは… 彼の字だ」

「そう、最後の戦いの前、この城に来た勇者は、自分だけが聞いた魔法の全てを写本に書き込んで行った」

「最大の攻撃呪文? これは味方以外の全てを炎で焼き尽くす呪文である。しかし、私はどこまでを味方だと思っているのだろう? 仲間、家族、市民。今は国王でさえ私を疎ましく思い、悪魔との停戦を願っている。市民の半分以上も、これ以上の戦いで家族を失いたくないと思っている…」

「それから数日後、わしの軍勢がこの城を囲んだ。確かにわしらは短期決戦のために街に火を放った、しかしそれは城塞の全てを焼き尽くすような物では無かったはずだ。昨日、その一文を見て、全ての謎が解けて行くように思えた」

「言うなっ、それ以上何も言うなっ! 全ての罪を彼になすり付けて、自分を正当化するつもりかっ、許さんぞっ!」

「その呪文はゾンビやスケルトンの雑兵を全て焼き、悪魔にすらダメージを与えた。だが奴の後ろでは全ての悪人から炎が噴き出し、街を焼いて行ったのが見えたはずだ。それからこの国は善人だけになった。姫も両親の体を焼いたのが、この呪文だと知っていたのだろう。あいつは勇者の墓所を生涯一度も参った事が無いのだ」

 自分が見た光景を思い出し、震えている僧侶。城壁に立つ勇者一行の後ろで、魔法が発動した瞬間、次々に出火し街が炎に包まれて行ったのは自分が一番良く知っている。

「今は緘口令をしいて、この話が外部に漏れんようにしている。しかし、これに関しては、わしも今でも信じ難い。だからお前の目で確かめて欲しい、その足で歩いて全てを明らかにしてくれ」

「……分かった」

「わしはこれを見て退位する決心をした。これらからは姫の息子に王位を譲り、わしは大司教として、悪魔… いや、今は天使だな、その復活の儀式をしようと思う。お前達はそれを阻止してくれ、仮の計画書も作っておいた、この通り実行すれば、わしもお前達も、呪いから開放されるはずだ」

 魔物の衛兵が来て、鎖から解かれる僧侶。

「旅の途中、勇者と恋仲になった娘を覚えているか? あの娘は勇者の子を産み、孫もできた。その子が奴の魂を受け継いでいる」

「どうして貴様がそんな事まで知っている? それだけは絶対に隠して来たはずだっ」

「天啓を受けたんだ。呪文と同じように頭の中に浮かんで来た」

「何を企んでいる? まさかその子を殺すつもりか」

「頭の悪い奴だなあ、さっきから言ってるだろ、わしを殺して地獄に落として欲しいって。そんな事だから、数万の軍に6人で突っ込むはめになるんだ。さあ、愛しの勇者様と再会できるんだぞ、早く行ってやれ」

 計画書が渡されると、魔物が綺麗な服を持って来て、僧侶を着替えさせようとする。

「この目で確かめに行くのは同意したが、貴様の計画に荷担するつもりは無い」

「中を見てみろ。儀式としてそれ以外にこの呪いを解く方法は無いはずだ、何か意見があれば言ってくれ」

 計画書を読んで、とても嫌な顔をした僧侶。

 残念な事に、今までの話通りなら、その計画書は正しかった。

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