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これで地味とか嘘でしょう?

 死んだ。生まれ変わった。美少女だった。よっしゃ勝ち確。



『てっ天の神様ぁぁぁぁ!!!! ありがとぉおおあああ!!!!』



 なんて言うのかなぁ、徳を積んだ覚えも野良猫をトラックから助けた覚えもないんだけど、毎日普通にコツコツ生きてきた私へのご褒美かなーあははー。とか思うくらいには美少女だった。


 パッチリお目々。

 小ぶりな鼻。

 うるつやぷるりん唇。

 サラストロングヘア。

 スッキュッスッなモデル体型。


 最後のは別に自虐じゃない。おっぱいなんか要らねーし、そこそこでいいし、気にしてねーし。


 鏡に映る自分は、そりゃ日本ではお目にかかれない美少女だった。輝きすぎてもはや白髪にすら見える銀髪とか、淡い黄色の瞳とか。むしろ日本人どころか地球人でもない色彩ですありがとうございます。ん? 日本? 地球? なんだそりゃ、っと。



『どういたしまして』



 ガッツポーズしたまま首を傾げる不審な美少女。直後に頭の中で響いた声。駆け巡るたくさんの情報を飲み込んで、一瞬で冷静になった。


 おい、コレで地味めってどういうことだよ。


 なんと、私が美少女だと思った顔はこの世界では中の上レベルらしい。美のゲシュタルト崩壊かよ。何言ってんだ自分。


 自分の顔を見たのは今日が初めてだった。というか家にある鏡が粗悪品で、ちゃんとした鏡を見たのが人生初だったんだけど。


 初めて見た自分の顔で何か思い出した。ここは前世で読んでた漫画の世界だって。


 タイトルは忘れた。光の何とかって難しい横文字だった気がする。あらすじは、簡単に言うと仮想の中世ヨーロッパ風の貴族社会で、子爵家の末娘ルモナが学園で王子様と恋に落ちて波乱万丈の末に結ばれるシンデレラストーリーだ。


 簡単に言うから何番煎じ乙って感じだけど、これが説明に困るくらいには面白かった。ラブコメとシリアスとの配分が程よくて、笑って泣けてときめける近年稀に見る良作だった。


 弱って甘えてくるイケメンとか、包容力抜群のイケメンとか、ひたむきに努力するイケメンとか、ぶっきらぼうでツンデレなイケメンとかと交流しつつ、ちょっと国の闇に触れたり触れなかったりして最後はめでたくゴールイン。賛否両論あったものの、一応は大団円で完結した。


 そんで今の私と同姓同名の、エラ・シスト・ロジオールって子は漫画に出てくる脇役だ。伯爵家の長女で、この国の唯一にして国教である国神教教会に籍を置いているシスター兼学生。


 あまり笑わないし話さないしで陰が薄い。地味子って派手な派閥の方に陰口を言われているシーンだってあった。それが面と向かって言われなかったのは、エラが公爵令嬢の取り巻きとしてそれなりにやっていたからだった。


 公爵令嬢マリステラ・シートン。王子様の婚約者で主人公のルモナをいじめる今作を代表する悪役。


 エラは彼女と幼馴染という立場から取り巻きの一人としてマリステラのいじめ現場を傍観する。ある時は言葉で、行動で、権力でルモナをいじめ満足したマリステラが去っていく時、必ずエラが無表情で振り向いてルモナをジッと見つめるの。しかも背後に黒い靄のトーンを背負って。


 そのせいで結構終盤までエラ黒幕説が消えなかったんだけど、結局はルモナのお助けキャラとして彼女の幸せに一役買うんだよねー。


 そう、エラの出番なんて最後に一肌脱ぐ以外はマリステラの背後に突っ立ってるだけ。ついでに黒い靄のトーンを背負って見つめればお仕事は終わり。というかむしろ一肌脱ぐのだって私がやらなくても勝手になりそうだなって思うわけ。


 じゃあ好きに学園生活送って適当なイケメンと恋愛しよー、とかウキウキワクワクしたかった。現実は美少女にも冷たかった。


 エラの、つまり私の本名はミュリエラ・ロジオールっていうたいそうなお名前。なんだけど、現在愛称のエラが正式名称になっているのは、私がシスターとして国に登録されてしまったことを意味する。


 この国の人間ほぼ100パー信仰している国神教。その教会に勤める信徒、特にシスターは貴族の若い娘が多い。というか軽率に親が教会に送り込む。娘が生まれたらシスターにするってのを少なくとも貴族の半分はそうする。


 国神教は簡単に還俗できる。学園卒業後の18~22歳の間に婚約者を見繕って婚姻を結べば還俗、結べなければみんな一生そのまま純潔シスターになる。けどよっぽどの過誤がない限りは各家があらかじめ根回しして婚約者候補みたいな人を作っている。そして18歳になると同時に還俗するので、結婚するまでの行儀見習いみたいなノリで送り出す家が大半だ。


 貴族が娘をシスターにする理由としては、シスターは純潔じゃなきゃなれないから。シスター=神様公認の処女証明書みたいな感じ。『うちの子は男遊びなんかしない貞淑な娘なんですよ~』アピールにもってこいってわけだ。まあ、ないよりマシって程度だし、よっぽど熱心な信者以外は真面目に送り出す人は少ない。中にはマジの教徒の子供ってこともあるけどね。


 そういう潔癖処女アピールのために例にもれず私も教会に送り出され、シストの名前をいただいて、学生寮じゃなくて教会のシスター用の宿舎で寝泊まりしている。明日は学園の入学式。その一週間前に教会に入って、今いるのは教会玄関に飾られているめっさ金のかかった巨大鏡の前。人目をはばからず(自称)美少女顔とご対面中、だった。


 ポーズだけのシスターだってそれなりに戒律ってヤツはある。むしろ恋愛に関しては18歳になるまで確実に無理だ。つまりあと三年は恋愛禁止。18歳になってからだって決められた相手と政略結婚なんて恋愛もクソもあるわけがない。私の人生負け確じゃないですかーヤダー。



『マケカク、という言葉は分かりませんが、婚姻相手は選り取り見取りではないでしょうか?』

「へぁ!?」



 コイツ、脳内に直接……!?



『あー、あー、ちゃんと聞こえていますか?』

「いぇす、さー」

『私はサーではありません』

「ま、まいろーど?」

『まあ、それで良いでしょう』



 言い忘れていたけど、この世界って本当に神様がいるんだよね。


 そんで、マジで気に入られた人じゃないと直接御声を聞けなくて、そんで聞こえた人は教会の特別階級として生家とは別に爵位みたいなものをもらえるっていう。しかも制約が増える代わりに特別階級に応じた権力をいただけるっていうか、国的に一種のステータスっていうか。



『ミュリエラ・ロジオール。あなたを私の隣人として認めましょう』



 隣人。つまり神様のお気に入りって、神官さんが言っていたような……。


 頭の中に直接響いているくせに耳がジーンと熱くなる。手足の先や耳や目が熱を持つのは神力が働いている証拠で、神様の『認める』は重要語句として自動的に教会に保管されている聖記録書に書き記されるってばっちゃが言ってた。つまり今の神様の宣言は正式な書面として神官の手元に保管されているわけで。



『これで結婚相手には困りませんね』



 至急、クーリングオフを要求します。


 そんなことを言える雰囲気ではなく、むしろ普通に『くーりんぐおふとは?』と聞かれ愛想笑いした。


 え、エラって神様の隣人だったっけ? いや、絶対そんなことはない。仮にそうだったらもっと周りから注目されていただろうし、むしろご令嬢が地味子って笑った瞬間に神官さんが殴り込みにこない? 国王陛下とか熱心な信者だったよね? 処罰はされないだろうけど絶対嫌われまくるでしょ。結果王族からも針の筵状態でしょ。詰むでしょ。



『ああ、彼って結構大袈裟ですよね。何もそこまで傾倒しなくても良いのに』



 おいこの神様ずいぶんフランクだな。


 前世の漫画含めて知らなかった事実に軽くビックリした。漫画の中でも神様の存在は明言されていたけど、実際に声を聞く神官さんからのまた聞き程度にしか登場しない。どんな神様かなんてよく分からなくて当たり前だし、むしろ神様の存在に疑問視してるキャラとかいたよね。神官さんが私腹を肥やすためのでっち上げじゃないかとか。私も日本でそんなこと言うヤツがいたら同じこと思う。


 でも今、誰もいない場所で、仮想とはいえ本来は魔法も何もない世界観で、どこからともなく声が聞こえてきたら真っ向から否定はしづらい。あと神罰怖い。やだやだおうち帰りたい帰るぅ。



『おうちに帰っても教会やめても声は聞こえたままですよ』

「うわあ」

『あなたの言動にはこちらも“うわあ”ですよ。素直で結構なことです』

「神様も嫌味をたしなむのですね……」

『本心から言いましたのに』



 ちょっとむくれている気配を何となく感じられる。不思議体験真っ只中なのに妙にほっこりしてしまった。あれ、だんだん神様が可愛くなってきた……ハッ、これが洗脳!?


 失礼な、とプンスコ抗議を受けている途中で教会の奥からお迎えがやって来る。その後、問答無用で教会の神官長の部屋に連れていかれ、聖記録書を前にまた別の手続きをすることになった。


 漫画には存在しない過剰設定のエラ・シスト・ロジオール。期せずして爆誕。


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