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闘技場

『さあ、本日も始まりましたグラティア名物闘技会!果たして、本日はどのような熱い戦いが繰り広げられるのでしょうか!剣闘士たちの磨き抜かれた肉体に滾る血と希望を乗せて、思う存分賭けちゃって下さい!』

『『『ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』』』


 闘技場の控室に備え付けられているスピーカーから、実況の女の人の声と騒がしい観客の歓声が流れてくる。

 スピーカーと言っても魔術的な代物らしく、ほら貝のような形をしているが。


「本会場は相変わらずすごい込みようだね」


 アルトはスピーカーから漏れ出る声を聴いて、どこか心を躍らせているようにそう呟いた。


「あ、ああ、ちち地下会場のこっちとは、ええ、えらい違い、だな」

「そだねー」


 控室の窓から四角形の闘技場を覗き込むと、中央の天井付近に青い水晶玉のようなものが浮かんでいて、その周りを数枚のモニターが囲んでいる。モニターには本会場の様子が映し出され、びっしりと埋め尽くされた観客席と猫耳猫尻尾を生やした実況の獣人族の女性が映し出されている。

 獣人族の女性はチューブトップにホットパンツという衣装衣装に身を包んでいて、マイクを片手に観客席へとはつらつとした笑顔を振りまいている。


 俺たちが今いるのは地下(・・)闘技場の控室。

 このグラディアの街には闘技場が七つ存在し、街の中央に城のように堂々と聳えているのが本会場と呼ばれる円形闘技場(コロシアム)で、その地下六方向に等間隔に並んで地下会場と呼ばれる六つの地下闘技場が設営されている。

 その中の第三地下闘技場、通称サウディ―ンに来ている。

 なぜそう呼ばれているかは知らないけど、他の五つの地下闘技場にもそれぞれ名前が付いているようだ。


 俺のような駆け出しの剣闘士はそっちの地下会場で試合をし、英雄だの伝説だの言われている高ランク者が上の円形闘技場で試合を行うようになっている。

 当然、本会場の方が試合の迫力は圧倒的だし、人気も高い。

 試合開始時間のズレは有るものの、本会場も地下会場もほぼ同時に試合が行われていく為、本会場に人が集まり地下会場の方は若干空き気味だ。

 それでも、席代や一口当たりの値段が上より安かったり、という理由で地下に見に来る客は大勢いて、七割くらいの席は埋まっているのだけど。

 しかし、よくもまあ毎日毎日これだけの人が見に来るものだ。この街の人間はいつ働いているんだろうか。


「けど、熱気に関してはこっちもあっちも変わらないよ~?ほら見て、あのおじさんなんて始まる前だって言うのにもう目が血走っちゃってるよ」


 アルトが窓から見える位置に座るおじさんを指さしてそう囁き掛けてきたけど、闘技場を挟んだ距離で目が血走っているかどうかまでは見える訳がない。


「ヒロくんって目悪いの?」

「お前が良すぎるんだ!ったく……原住民族かよ」

「なんだいそれは」

「森の奥に住んでて、耳たぶに輪っか入れたり首に金の輪嵌めたりしてる人達」

「それってヤジャ族の事かい?あ、でも別に森の奥に住んではいないか……」

「こっちにもあるのか、ああいう文化」


 本当、こっちの世界の人種の多さには驚くばかりだ。

 人族、獣人族、魚人族、竜人族、鳥人族、長耳族、小人族、巨人族、等々。更にそこから文化や体の構造で枝分かれしていくのだから、底が知れない。

 ちなみにヤジャ族は人族の中でも精霊に深く関わっている部族らしい。

 っと、そんなことより俺には試合が控えているんだ。余計な事考えてる暇は無い、集中しなきゃ。


「おや、本会場の第一回戦が始まるみたいだよ」


 アルトに言われてモニターを覗き見てみると、円形の闘技場が俯瞰で映し出されていた。全体は砂地で、辺りが岩の林のような岩場になっていて、中央が開けている。

 あの岩場は戦いの幅を広げるために身を隠したりするのに使う為の物だ。


 やがてカメラが切り替わり、赤黒い鎧を身に纏った長髪黒髪のすらっとした後ろ姿と、それと対峙する筋肉ムキムキ上裸に胸当てヘッドギアの厳つい顔の男が映し出された。

 鎧の方は屈強な戦士というよりはモデルのようで、ゲームやアニメの主人公みたいだ。

 筋肉ムキムキなおっさんの方は脳みそまで筋肉で出来ていそうな……いや、印象だけでやられ役だとか思っちゃダメだ。きっとそんなことは無い。


 次に、それを取り囲む観客の盛り上がり様も映し出され、スピーカーからはその熱気が割れんばかりの騒々しい歓声に乗せられて伝わってくる。


『さあ、第一回戦は本日イチ押しのカード、閃龍アルトラVS鋼戦車バルガス!現在ランク6位に位置するアルトラ選手と怒涛の勢いで順位を上げている注目株バルガス選手の一戦です!人気はやはりランク上位のアルトラ選手の方が上のようですが、バルガス選手の鍛え抜かれた肉体に下剋上も期待されています!今日は一試合目から目が離せません!』


 どうやらランキング的にはアルトラの方が上手らしい。

 ていうか6位って。それってつまり、この街で6番目に強いって事じゃねえか。

 しかもこの闘技会には国中、いや世界中から猛者たちが参加している。その皆が皆この街に滞在している訳では無いが、ランキングにはしっかり残る。

 その中で6位ってことは、世界で6番目に強い人物だと言っても過言では無いって事だ。

 バルガスの順位は187位。それでもかなりの高順位だけど、世界で6位の強さを持つ相手じゃ分が悪いだろう。


 と、普通ならそう考える。

 しかし、ランキングで全てが決まらないのがこの闘技会だ。

 試合はルール無しの本気の殺し合い、完全な実戦だ。

 勝負の行く末は実力と勘、相性、そして運と時の流れが決める。

 ランキングは結局、ただの目安でしかないんだ。

 て、これは予想屋の受け売りだけど。


「あれが始まったらヒロくんの試合は三十分後だね」

「お、おう」


 そうだ、地下会場の試合は本会場に三十分遅れで始まる。

 つまり、第一試合に出る俺の出番はあと少しになったということだ。


 ちくしょう、呑気に他人の試合なんて見てる場合じゃないんだった。

 ぐうう、これは非常にまずい、いや、別になにもまずくはないだろ。

 いやこの空腹はまずいだろ!明らかにポテンシャルが落ちるって!


 落ち着け、大丈夫。剣も鎧も整備はばっちりだし、今朝貰った秘密兵器もある。

 厳しいトレーニングも毎日行っているじゃないか。

 大丈夫だ俺、いけるって。


 お腹の中には昨日の夜から水しか入って無いけど、これで負けたらアルト諸共路頭に迷う事になるけど……。

 いかんいかん、余計な事考えるな。きっと勝てるって。

 ああ、震えてきた。これはあれだ、武者震いだ。

 若しくは余りの空腹に身体がおかしくなってるだけだ。

 ちがうって、恐怖で震えてなんかないって。緊張もしてないって。

 とにかく今は少しでも自分の試合に集中しておきたい所だ。


『それでは、試合開始!』


 実況の声がスピーカーから聞こえてくるけど、今の俺に試合観戦をする暇は無い。無視無視。

 もう一度剣を点検し、左腕の秘密兵器を使うイメージトレーニングをする。

 結局こいつは一回も試し撃ちすら出来ていないが、イメージ上は完璧だ。

 うん、余念は無いぜ。


 ペチンッ!


 頭を叩かれた。


「痛って!何すんだ!」

「ヒロくん、他人の試合を見るのも勉強の内だよ。中継があるのは一試合目の短い間だけなんだから、見ておきなよ」

「いやでも、今はそんな余裕が」

「大丈夫だって言ってるだろう?そんなに緊張しなくても今日は勝てるよ。それよりほら、剣を抜いたよ」


 だから緊張してないんだってば。

 (頭を押さえつけられて)見てみると、筋肉ムキムキの戦士、バルガスは俺の剣に似た形状の短剣を引き抜いて、グンと伸びるように踏み込んだ。

 一瞬モニターから姿が消えたが、すぐに駆け抜けるバルガスの姿を捉えた。


 速い。俺ならまず肉眼で視認出来ないだろう猛スピードで、真っすぐに突っ込んでいる。

 車やバイクなんて比にならない速度での突進だ。

 単純で直線的な攻撃だけど、産み出される衝撃は馬鹿に出来ない。


 どういう方法を使っているのか、肉眼で視認できないスピードの動きもここのカメラはしっかりと追いかけ映し出している。

 場合によってはスロー再生もして見せるのだから、魔術の奥は深い。


『おっと、バルガス選手、開始早々ガイアスボンバーか!この一撃の前に粉砕された猛者は多数!閃龍アルトラ、どう凌ぐ!?』


 バルガスは剣先を地面へ垂らし猛スピードのまま引き摺った。

 かと思うと、地面と触れ合った剣先から雷が迸る。

 その瞬間モニターは白い稲妻に埋め尽くされ、バルガスの姿がカメラから消えた。


 どうやらあれが鋼戦車バルガスの得意とする技みたいだ。

 と、別アングル、アルトラが映し出される。


『おっと?アルトラ選手は武器を構えていません。これは……無手で構えを取っています!』


 恐ろしく落ち着いた、流れる雲のように静かな構えだ。

 ただ、どうして武器を構えないんだ?

 腰には立派な剣が下げられているし、武闘家には見えないけど。


 アルトラの目の前に、シークバーを移動させて時間でも飛ばしたかのように、パッとバルガスが現れる。

 瞬間的にスピードを上げたことでそう見えたのだろう。


 バルガスはそのまま凄まじい勢いで剣を這い上がらせて――気付いた時には二つの影が宙を舞っていた。

 ひとつは赤い籠手に包まれた腕。そしてもう一つは――


『何が起きたのでしょうか!バルガス選手、宙を舞っています!』

「なっ……!?」


 実況が入ると、モニターは瞬時にバルガスを表情をアップで捉えた。大男の強面が苦々しく歪む。

 そして、その顔に影が掛かった。


『アルトラ選手、身動きの取れないバルガス選手へ容赦無い追撃だぁ!』


 カメラが離れ、二人の様子を映し出す。巨漢の男の上に、赤黒い鎧の影が被さっていた。


鋼を映せ(ロストオーカー)!』

天惺(てんせい)


 二つの声がスピーカーに流れると、バルガスの肉体は鋼鉄のような鈍色に、アルトラの髪は閃光を放つ白髪に染まり、アルトラの手刀に白い光が集中した。

 弓を弾くように後方へと引かれたその手刀が、矢を放つようにバルガスの鋼の肉体へと突き立てられる。

 アルトラの手刀がバルガスの胸へと触れた瞬間、ガィンと気味の悪い金属音が響いて、そのままバルガスを地面へと叩き落とした。

 同時に、ドーンという轟音と地揺れがした。音も揺れも映像の中のものじゃない。

 衝撃が地下闘技場まで伝わってきたものだ。


「あはー、凄い威力だね」

「あ、ああ……」


 地下会場の人間も、モニターに映る本会場の観客も、凄まじい光景に唖然に取られているようでシーンと静まり返った。

 そんな中、仕事を思い出したように実況が


『バルガス選手!己の肉体を鋼の様に硬くする得意魔術ロストオーカーを発動!対するアルトラ選手は、龍の力を引き出しての大技、天惺を放ちました!立ち込める土煙の中、果たしてバルガス選手は無事なのでしょうか!』


 会場のざわめきを露とも思わないのか、アルトラはマイペースに降り立つと、飛んでいった自分の左腕を拾いに向かった。

 今の一撃で仕留めたということだろうか。


『おっとアルトラ選手余裕の自己治癒、拾った腕をくっ付けます。閃龍アルトラ、今の一撃に相当な手応えを感じているのでしょう!』


 アルトラは左腕を拾い上げると、切断面をぴたっと合わせた。

 それだけでもう腕がくっついていて、自由に元のように動かしているのだから驚きだ。

 普通に魔術で切断された腕をくっつけても、自由に動かせるまで少し時間がかかる筈なのだけど。


『一方バルガス選手、動きがありません。未だ土煙の中です。あの中で機を窺っているのでしょうか、それとも……』

「さっき、バルガスは体を硬化させる魔術を使ったんだよな?」

「ロストオーカー。鋼鉄の肉体。文字通り、体を鋼鉄の様に硬くする技さ。間違いなく、最強クラスの強化魔術だよ」

「マジか。それを詠唱無しに……」


 あまりに筋肉ムキムキ過ぎてやられ役のイメージをしてしまっていたけど、あのおっさんかなり凄いんじゃないか?


「それならまだ」

「いや、もう決まってるよ。アルトラの勝ちだ」


 アルトは全てを知っているような、そんな自信に満ちた表情でそう言った。


『会場を包んでいた土煙が晴れます……っおっと!?バルガス選手の姿がありません!』


 土煙が晴れたそこには、抉れた地面と粉々に砕けた岩場だけで、確かにバルガスの姿は無い。

 一体どこに消えたんだ。

 ちらりとアルトの様子を窺うと、自信に満ちた表情をピクリとも動かさずモニターを見つめていた。

 てっきり、自信満々にアルトラの勝利を宣言した手前、バルガスが姿を消したことに動揺しているものだと思ったんだけど。


『アルトラァアアアアアアアアアアアア!!!!!』


 スピーカー越しにも鼓膜を割られそうな咆哮が響く。バルガスの声だ。

 モニターを見れば、カメラは岩を貫いてアルトラの脇へ飛び出したバルガスを捉えていた。

 態々岩を砕いて出てくる辺り、見せるよなぁ。

 対するアルトラは、いつの間にか引き抜いた剣をバルガスへ真っすぐ構えた。

 真紅の、炎の様にうねった剣だ。

 不動に構えるアルトラと、果敢に突っ込むバルガス。二人の距離は急速に近づき、アルトラの剣先が、バルガスの眉間に触れようという瞬間――


『ピンポーン。本会場の様子をご覧になって頂いている途中ですがぁ、こちらの第三地下会場も試合開始時刻が間もなくとなりましたぁ』

「んなっ!」

「はれ?」


 突然映像が切り替わり、画面いっぱいに青髪の女性が映し出された。

 なんてタイミングで切り替えるんだ!今一番いいところだったじゃないか!

 これには流石のアルトも間の抜けた顔をしていた。


「ふざけんなー!」

「続き見せやがれー!」

「もうすぐ決着だろうが!」

「Cランクの試合よりAランクの試合の方が見たいに決まってるだろ!」


 そーだそーだ!と観客たちからの不満の声が上がる。

 そりゃそうだ、あと一歩で決着かも知れなかったのに、そんないいとこで切られたら怒りたくもなる。

 ドラマのいい所でニュース番組に変えられるようなものだ。


 ちなみに、僕は混ざって声を上げたりしてませんからね。


 いやしかし、これは出て行き辛い。

 運営側ももうちょっと融通を利かせてくれたらいいのに。

 そんな心境で会場の真ん中に立つ、ゆったりとした藍色の法衣を身に纏った青髪の女性に目を向ける。

 おっとりとした雰囲気の女性だ、この場をうまく取り持てるのだろうか。

 気迫に気おされてしまいそうなものだが。

 と、青髪の女性は細い目を朗らかに緩ませたまま、会場へ語り掛け始めた。


『えっとぉ、文句のある人は、より高い席代を払って本会場へ向かって下さぁい。これ以上文句がある人はぁ、あそこの恐ぁいお兄さんが聞いてくれますのでぇ、あちらへどうぞ』

「「「・・・・・・」」」


 うわぁ、あっけねぇ。

 まあ、あの恐ぁいお兄さんを見て食い下がる気にはならないよな。なんせスキンヘッドだし、グラサンだし。

 おかげで多少出やすくはなったけど。


「結局、試合の結果も分からないんじゃなぁ」

「ふふん。けど、緊張は解れたみたいじゃないか」

「ん、ああ、そういえば」


 アルトラとサリバンの試合に夢中になっているうちに、いつの間にか試合への気負いも緊張も忘れていた。

 もしかして、初めからそれが狙いで試合を見させたのか……?


『ではぁ、よろしいようなので第三地下闘技場(サウディ―ン)の試合も、開始したいと思いますぅ。実況は私アイランが務めさせていただきますのでぇどうぞ良しなに。ではぁ、さっそく両名入場して下さぁい』

「ほら、ヒロくん。出番だよ」

「おう。……行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」


 アルトが笑いながら伸ばした拳に、そっと拳を重ねると、アルトの拳はグッと俺の拳を押し返した。

 それはなんとも力強く、心強かった。


『大丈夫、今日はキミが勝つよ』


 昨日からずっと言い聞かされている言葉。

 なんの根拠があってそう言っているのか分からないけど、少なくとも信頼されてるって事だよな……。

 まったく、プレッシャーでしか無いわ。


『第三地下闘技場、本日、一回戦を戦う剣闘士はぁ、九戦無敗の期待の新人剣闘士、ポータ選手とぉ、三戦未勝利、ヒロアキ選手ですぅ』

「ポータ!速攻でやっちまえぇ!」

「おいおい蜥蜴の餌(チキン)じゃ相手にならねえなぁ!」

「ポータさん!頑張ってぇ!」

蜥蜴の餌(チキン)!どんなずるしてもいいから勝ってくれぇ!俺の生活が掛かってるんだ!」


 会場に入ると、観客たちの声援が直に聞こえてくる。騒々しくて誰が何を言ってるのか分からないけど、きっと俺の事を応援している声が多数なはずだ。

 蜥蜴の餌とか聞こえてないったら聞こえてない。

 それにしても、切り替えの早い連中だよ、まったく。さっきはAランクの試合を見せろって喚いてたくせにさ。

 っと、今は観客たちより対戦相手だ。


 対面のゲートから、全身銀色のプレートアーマー姿の少年が現れる。

 あいつがポータか。

 慎重はさほど高くないが、鍛え抜かれ、引き締まった肉体はアーマーの上からでも分かる。

 爽やかな身のこなしは、野蛮な剣闘士や傭兵というより、騎士とか兵士とかにある身なりの良さが感じられる。

 歳は俺と変わらないか、少し下くらいといったところか。

 頭に兜は付けていなくて、短く清潔に切り揃えられた金色の髪が風に揺れている。

 少年的な無垢さをもつ整った顔は、自信と誠実さに溢れていた。


『ポータ選手はぁお城の兵士さんらしいですぅ。この闘技場で十勝する事を隊長さんに言い渡されたのだとかぁ。昇進に関わる重要な試合みたいですねぇ。対するヒロアキ選手はぁ、あまりに情けなさすぎる戦いぶりにぃ、着いたあだ名は蜥蜴の餌。昨日の試合でサラマンダーのテリーに食べられちゃったのもその原因みたいですねぇ』


 実況がおっとりとした口調でポータと俺の紹介をしていく。

 って、蜥蜴の餌公式認定されてるじゃねえか!


「ヒロアキさん、今日はよろしくお願いします」


 と、この声はどうやらポータのものらしい。

 ポータはアイランの目の前まで進み出て、右手を差し出してそう呼び掛けてきた。

 挨拶のつもりらしいな。

 城の兵士という事もあってか、礼儀正しい奴のようだ。

 まあ握手くらい断ってやる理由もないが、これから殺し合うっていうのに緊張感の無い奴だ。

 よほど自信ありって事かもしれないが。


「ああ、こちらこそよろしく」


 差し出された手を軽く握り返すと、ぐっと力が込められた。固い握手という奴だ。

 そんなに力まないでもいいのに。


「ヒロアキさん、あなたがどう呼ばれていようと、俺は一戦士として正々堂々本気で戦いますから」


 そう言ったポータの目には、先程より少し緊張の色を感じた。スイッチを切り替えたという感じだ。

 手を抜くつもりは無いって事か。油断してもらっておいた方がこっちとしても楽なんだけどな。


「お手柔らかに頼むよ」


 本気でそう願いながら交わした手を離す。

 そして俺とポータは改めて距離を取った。


『あらあら、兵隊さんは礼儀正しいですねぇ。あっ、もう時間になりましたねぇ。それじゃあ投票は締め切りですぅ。いよいよぉ試合を開始したいと思いますぅ。それじゃあ、私は離れましてっと』


 アイランはぴょんと無造作に後方へ跳んだかと思うと、本来の実況席のある客席中央くらいにある張り出し台まで一足で飛んで行った。

 アイラン自身、相当な使い手なのかもしれない。

 不満の声を上げてなくてよかったぁ。


『それではぁ、試合開始ですぅ』

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