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僕、なぜか幽霊と同居しているんです  作者: 三峰時雨
第一章
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第一章 その6

 夏休みの娯楽も(つか)の間。まだ夏祭りという夏休み定番のイベントがあるが、僕達一行は近くの図書館で試験勉強と夏休み課題の同時進行を行っている。

 幽霊と一緒に。幽霊は同行してきた。

 僕の志望校は自分の偏差値より上だが今の状態を受験当日までキープすれば合格できるレベルだ。

 しかし、やはりこの空間は僕にとってはちょっと辛い。ちょっとしたノイズが欲しい。

「ちょっとトイレ。」

 そう言って一旦席を離れた。


 用を済まし、戻ろうと思った時、本棚にずらーっと収まっている『全国紙一面全日』という名前の通り全国新聞の毎日の一面が印刷された10cmぐらいはある分厚い本が目に入った。図書館が独自で作っているのだろうか?手作り感満載である。

 なんとなくそのうちの1冊を手に取ってみる。

 最初のページ。いわゆる1月1日から順々にページを捲めくっていった。

 ペラッペラッと紙が捲れる音が館内に響き渡る。

「―――?」

 あるページで僕の手はピタッと止まった。

 1面 そこにでかでかと記事が載っていた。

 見出しは見ずに記事本文に直接目を通して見る。

『昨日午後三時ごろ。東京都北区で車が歩道に乗り上げる事故があり、女性一人死亡。運転手や歩いていた歩行者など四人が重軽傷を負う事故があった。警視庁は死亡した女性の身元の確認を急いでいると共に――』

 そこで急に頭がクラっとした。


 そのまま僕は意識を失った。


 気が付くとそこは白に囲まれた世界だった。

「気づきましたか?」

 女性の人が声をかけてきた。服装からして看護師さん?っていうことはここは病院か?それに左腕からゴム製のチューブが伸びていてその先には透明の液体が入った袋に繋がっていた。

 ――病院で間違いないだろう

 でも……

 何故僕は病院にいるんだ?

「今、医師呼んできますね。」

 そう言い残して看護師さんはどこかへ消えていった。

 もう一人。長い黒髪の女性が僕の傍で座っていた。

「夏夜。これは…一体――。」

「覚えてないんですか?悠君図書館で倒れたんですよ。」

「図書館で――。」

「そうですよ。『遅いね』なんて言っていたらなんか向こうの方が慌ただしかったので見に行ったら悠君が分厚い本落としてぶっ倒れていたんですよ。もう…救急車呼んだんですから。」

「………皆に迷惑、掛けてしまったな――。」

「なあ夏夜。お前…事故死か?」

「………私の命日。言えますか?」

「…」

 凄い迷った。けど、

「多分だけど……5月2日。2006年の」

「………ご名答です。やはり見たんですね。倒れたその横に5月3日のページが開いていたので。」

「ごめん。」

「いいんです。悠くんにはそろそろ言わなくてはと思っていましたから。葵ちゃんにはまだ内緒にしておいてください。」

 そう話をしていると医師がやってきて喉やらなんやら触ってきた。

 寝ているときに取ったのか血液検査もしたらしく、特に問題無いからストレスだろうと言われ、しっかり休むことと言われて処置室を出た。

 待合室のソファーには川内さんが一人でじっとしていた。

「大丈夫?」

「うん…。ごめん。心配かけて。」

「いいよ。今日は帰ってゆっくり休んでいいから。」

 そのまま今日はお開きになった。

 もう今日は寝よう。じっくり寝よう。朝まで死んだように寝てやる!

 そう心に誓って自宅に帰ると色々問い出そうとする母親を無視しベッドに突っ伏せた。


 僕がぶっ倒れたせいもあり、少し時が経って7月最終日

 川内さんの家で一気に残りの宿題を終わらせたあと早速大学一般入試の過去問を解いていた。

 外は明日に行われる例大祭の準備と夏祭りの準備が急ピッチで行われていた。

 川内さんの家は氷川神社並木参道のすぐ脇にあるから慌ただしく準備が行われてるのがよくわかる。


「………」

「………」

 カチッカチッと秒針が規則正しく時を刻む音だけが部屋に響く。

 氷入の冷たい麦茶が入ったコップは汗をダラダラと掻いている。

「………」

「………」


 ピピピピピピ――


「終わったぁ~」

 そう言って机にバタンと身を任せた。

 川内さんの机だがもう気にしない。いつも通りの自分の過ごし方を思う存分見られてるんだ。別にどうってことないだろう。

「はいはい。すぐ採点。休憩はその後。」

 そう言われ赤ボールペンを持たされ、黒くなった答案用紙に赤を混ぜていく。

「…うん。128点。上々ね。貴方は?」

「106点…。」

 負けた。別に争ってるわけではないのだが。

 通常100点満点だが国語系に関しては200点満点である。僕の場合100点満点で単純計算すると53点だ。

「天城君は数学何点だったの?」

「42。川内さんは相変わらず満点か?」

 そういうと川内さんはVサインを出した。やはり数字では完全無敵だ。

「ねえ。明日だよね。夏祭り。」

「うん。明日だよ」

「あのさ、待ち合わせどうするか決めよう。」

 そういえば夏祭りの待ち合わせ時間や場所とか入れてなかったな。

「いいよ。いつにす――」

「悠君と葵ちゃんのデートキタコレ!!!」

 家に閉じ込め……いや、留守番させておいたはずの夏夜が知らぬ間のうちに私達の話を聞いていた。まあこんな事だろうと思った。いつも手首を結束バンドで拘束なり何だりしても最終的にはその拘束を解いていたりしてるんだから。完全に犯罪だが幽霊なら問題ない。

「もう悠くんひどいんですよ。夏夜を布団で縛って身動きとれなくさせたんですよ。」

「お前のことだ。お前ならいとも簡単に抜け出すだろうという常識的判断に賭けたんだがな。」

「あんなぎゅうぎゅうに縛ってどこが常識的判断なんですか。」

「緩かっただろ。」

「きつかったです。」

「…あ、そうだ。待ち合わせ場所と時間どうする?」

 完全に川内さんを置いて行くところであった。いや完全に置いて行ったであろう。

「18時ぐらいにいつもの豆の木でいい?」

「じゃあそこで。」

 夏祭り。浴衣姿の川内さんが楽しみである。

「顔に出てますよ~。」

 耳元で囁いた幽霊に対し、僕は「うるさい」と小声で返した。

「そろそろあと2教科。180分やろ。」

 そして僕達は残り2教科の過去問を休憩を1回挟んで180分黙々と解いた。


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