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僕、なぜか幽霊と同居しているんです  作者: 三峰時雨
第一章
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第一章 その4

「sin45度は2分のルート2だから……」

 秒針と彼女の透き通る声が室内に響く中、僕は全く意味不明な数学の問題を解いている。分からないと本当にただの暗号だ。それを川内さんに教えてもらっている。

 まるで追試を受ける人みたいに。

 いやあね。しょうがない。夏休みの宿題なんだから。

 川内さんは数学が得意で歴史が苦手らしいが、僕の場合逆であって、数学が苦手で歴史が得意なのだ。歴史といっても日本史の方が得意なのだが。なんか都合があまりにも良過ぎるような気がするが、これが現実です。

 2日後は僕の部屋で日本史Aの方を片づけることになっている。数学は1日で片付くとは思わないが。

 しかし、いくら冷房をガンガンに付けたって、キンッキンに冷えた麦茶を出されたってこいつ数学の問題は文字1つも変わらず難しいままだった。これで四則計算の応用ぐらいまでレベルが下がってくれれば嬉しいのだが…。理想と現実はこれでもかと言わんばかりに滅茶苦茶かけ離れている。

「天城くんボーっとしない。ここもうちょっとじゃん。頑張れ頑張れ。」

 うん。川内さんの応援なら何でもできるような気がする。

 一方あの幽霊は何かの本を読んでいた。持参なのか、それとも僕ん家か川内さんの本棚から借りているのかは分からない。

「ねえ。何で数学が好きななの?」

「え?何でだろう。よくわからないな。気付いていたら好きになっていたな。」

「気づいたら…か。」

「あ、天城君の誕生日っていつですか?」

 唐突になんだよ。

「6月7日。平成11年の」

「月曜日です。」

 即答だった。おそらく1秒も掛かってないだろう。

「1999年の6月7日は月曜日です。どう?合ってる?」

「いや、曜日なんて――」

 覚えているわけがない。まず、自分が生まれた曜日なんて知らない。

「1999年と言えば――」

 急に夏夜が話を割って入ってきた。

「東海村の臨界事故があった年じゃありませんでしたっけ?」

「なんか聞いたことがあるな。『茨城の東海村という所で原子力事故があったって話は。」

 川内さんが「あ、なんか目的ズレ出してるな。」と呟いた後「その話は後にしよ。はい。天城くんは数学に集中。」と強制的に戻した。

 それからずっと。2人は黙々と数学と向き合っていて。気がついたら数学の夏休みの課題は終わっていた。外は完全に日が沈んでいた。


 その2日後。

「えっと、黒船が来航したのが1853年で、その時に――」

 日本史の宿題は2学期の予習。で渡されたプリントに答えを書いてこい。とのこと.

 僕は川内さんにヒントを与えつつ、川内さんと同じスピードでそのプリントに書いていった。なんか、僕にとっては簡単だったが。

「ところで、何で天城くんは歴史が得意なの?」

「んー――。」

 考えた事も無かった。

「予想が出来ることかな?」

「よそう?」

「うん。予想。たとえば『大政奉還』とかかな?もし大政奉還が行われていなかった場合はどうなっていたんだろう。とか。」

「んー。私にはよく分からないや。」

 そのまま返すよ。僕には数学の面白さや楽しさが全く分からん。


 日が暮れ出すころに日本史Aの課題は終わった。時間の経過はかなり遅く感じた。

「後は各自でやっていく感じかな?」

「『各自』かあ。1人で出来る気がしないなぁ。」

「じゃあ図書館行きましょう。夏夜が監視しますよ。」

「図書館…。」

 確かにいい案だ。誘惑するような物も少ないから勉強するにはもってこいの場所だ。しかし、僕には閉鎖的で学校の教室よりも圧迫感が圧倒的に強く感じるので嫌いな施設堂々の第1位に輝いている。中学校の図書室は1回も使ったことはないし、高校3年になった今でも高校の図書室は1回も使ったことがない。今後も使う予定はない。

「あのー。図書館より――」

「よし。悠くん。明日から図書館行ってやろう。夏夜が特別に見てあげますよ。」

「……ハイ。」

「川内さんも一緒にどうですか?」

「じゃあお言葉に甘えて見ていただこうかな。」

『図書館に行く』という時点で僕は察していたが、これはどんな手を尽くしても避けられない道だというのは分かり切っていたので諦めて明日からも頑張ることを決めた瞬間であった。


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