第四章 その1
…………
………
……
───寒い…。
寒さで目が覚めるとレースカーテンがハタハタとはためいていて、奥には星々が鏤められていた。
窓は…全開だった。
冬は基本的しっかりと閉めているので窓を開けた犯人は1人しかいなかった。
「夏夜のやつ……」
キレながら窓を閉めて振り返り、気づいた
「夏夜?」
夏夜がいなかった。
部屋の扉が少し開いていたのでゆっくりと半開きの扉を開けて廊下に出る。
闇に包まれた廊下。『一寸先は闇』ということわざがあるがまるでそれを実際にこの世界に表してるかのような感じがする。
目が徐々に暗さに慣れてきて暗くても形が分かるようになってきた。
1階のリビングに降りるとする誰かが椅子にちょこんと座っていた。誰かはシルエットだけですぐに分かった。
リビングの蛍光灯を点ける。
光が入ったと同時に「ひっ」と間抜けな声を出して少女の肩がピクッとあがった。
「…なんだ。悠君か。びっくりさせないでよ。」
「むしろこっちがびっくりする。で、どうしたのさ。真っ暗の中1人で座って。」
そう言いながら僕は冷蔵庫から冷えた2リットルペットボトルの緑茶を取り出し、2人分コップに注ぐ。
「───あのさ、聞いていい?」
「……うん。」
僕はいつもと違う夏夜に戸惑いながらお茶を入れたコップを差し出して僕も椅子に座った。対面する形だ。
「夏夜のこと。どう思う?」
……。
「つまり、好きか嫌いかって事か?」
「うん…。あっ、異性としてじゃないよ。」
それは分かっている。
「嫌いだった。」
「嫌いだった?」
「嫌いだった。今は楽しいし、いないと何か困る感じがする。」
静かで無機質な部屋に突如として現れた彼女は、知らないうちに僕にとっては切っても切れない存在になっていた。
「夏夜が来る前の部屋は本当に何も無かったし、楽しい事なんて一切無かったよ。でも夏夜が来てから何か、暖かみが増したというか…、賑やかになって楽しい事も増えた。今までのが馬鹿みたい。だから──」
「──僕は夏夜が好きだ。」
僕は単純に2つの意味を込めて回答した。
夏夜は数秒程黙ると「クスクスッ」と笑った。
「な、うっ、ちょ…そんなに変だったか…。」
「いや──なんか悠君らしくないなぁ。って」
なんか、頭から蒸気がシューと音を立てて抜けるのが分かった。僕の勇気を返してくれ…。
少し無言を挟んで、夏夜は口を開けた。
「さっき、天国からの使者が夏夜のところに来て、『来い』と言われました。」
「天国の使者?」
「はい。おそらく三途の川を渡った先の人達です。その人達曰く、早く三途の川を渡れ。ということらしいです。」
『おそらく』なんて言ったがおそらくではないだろう。
「で、その使者とやらはいったいどうしたんだ?」
「今日は引き下がってくれました。次の満月にまた来るそうです。」
確か月の周期は四捨五入して約30日だったような…。
僕はそう思いながら壁にかけられた月の満ち欠けカレンダーをチラリと見た
「……4月1日…。」
長いのか…短いのか…この日付を見ただけでは僕は分からなかった。
「夏夜ね、1つだけ、やり残したことがあるんですけど、それはお別れの日にやりたいと思っているんです。」
「ん?なんだ?今でもいいじゃん。何でも言うこと聞くよ。」
「ふふふっ。ひ・み・つ──です。」
そういうと夏夜は立ち上がって「さあ、今日はもう寝ましょう。4時になっちゃいます。」と言ってスタスタと上に上がっていった。
僕も少ししてゆっくりと上に上がり、ベッドに突っ伏せた。
「ありがとう。悠君。」
そう耳元で囁かれた気もした




