第三章 その3
教室に夕日の光が差し込む。
僕は教室の自分の机の上で明日の事を考えていた。
時間というものはとてつもなく早くて、気がついたらもうセンター試験前日だった。
僕は不安に支配されていた。
「大丈夫?」
右隣から川内さんの声が聞こえた。
「さっきから上の空だよ。」
「あ…ああ。ちょっと明日のことが───ね。」
「試験?」
「うん…………。不安で不安で……落ちたら…どうしよう……………って───。」
僕は不安しか無かった。過去問を解き続き、成績は上がったもののそこまで点数はよくない。
第1志望校に入れるかどうかも怪しかった。
そう思っていると机に置いていた僕の両手を川内さんが優しく包み込んだ。
「大丈夫だよ。今まで私と頑張ったんだから。絶対出来るって!」
川内さんの柔らかく、温かい手に少し力が入るのを感じた。
「本当かな…。」
少し長めの間が出来て川内さんがこう口を切った。
「それじゃあ……目瞑って。私がおまじない掛けてあげる。」
───急になんだ?僕を気に掛けてか?
とりあえず言われた通りに目を瞑った。
「右手を出して立って。」
「こうか?」
僕は立って右手を前に出した。
すると右手に何か書き出すようなことをしだした。
何を書いているのか神経を集中してみると。
『勝』
と書いてくれた。
書き終えたらすぐに僕の右手をぎゅっと握らせた。
「じゃあゆっくりと目を開けて。」
僕はゆっくり目を開ける。西日が眩しく、そして教室の風景が目に入る。
その瞬間ガッと川内さんが僕の右手首を思いっきり握られた。
横を見ると、
…あれ?なんで──僕のバックを───川内さんが持っているんだ?
それを考える前に捕まれた右手首を引っ張られた。
僕達2人は廊下に出た。
「う~♪葵ちゃん。ダイタンですね~♪」
いつの間にか夏奈が僕の真横にはいた。
「夏奈。いつからいる。」
「ふぇ?葵ちゃんと一緒に来たんですけど、気付きませんでしたか?」
本当?全く気付かなかった。
「葵ちゃんの言うとおりですよ。ここで不安がっては今までのが水の泡です。だから自分に自信を持ちなさい。頑固たる自信があれば絶対勝てますよ。」
頑固たる自信……。
「僕は───」
その瞬間僕の唇は夏奈の人差し指によってピッと閉ざされた。
「貴方は今から夏奈の命令によって24時間喋る事を禁じます。」
夏奈は長い黒髪をたなびかせながら笑顔を見せると「さあ帰りましょ~!」と言ってウキウキしながら川内さんと僕の腕を引っ張った。




