第二章 その7
気づいたら…12月に入っていた。
早い…早すぎる…。
ついこの前まで元旦だったじゃないか。
何でそんなにも時という物は早いんだよクソ野郎!
そう思いながら夏夜と一緒にぶるぶる震えながら駅前ロータリーを歩いていた。
「そういえばさ、夏夜にも幽霊友達みたいな奴いるのか?」
「いますよ。5ヶ月前に知り合った人が。」
いつの間に…。
「へー。その子はどこにいるんだ?」
「ん?そこの路地の喫茶店です。」
ブフォッ!!
びっくりして思わず吹き出してしまった。
「せっかくだから寄って行きます?」
「…どっちでもいいよ。」
「じゃあ行きましょう。」
夏夜はそういうと路地へズカズカと入って行った。
僕も置いて行かれないように追いかける。
夏夜が立ち止った所は洋風な建物だった。
一応言っておこう。
『トンネルを抜けた先は……』みたいな口調だが一切関係ない。
扉を開けるとカランカランと音を立てて、1人の少女と1人の50代後半ぐらいのイケメンマスターがカウンター越しに出迎えてくれた。
2人同時に「「いらっしゃいませ」」と声が聞こえた。
「こんにちはー」
「こ…こんにちは。」
「おや?」
イケメンマスターがそう呟く。
「夏夜ちゃん。今日はお連れさんもご一緒で?」
「はい。この子が天城 悠君です。」
「へえ。君が噂の天城 悠君か。」
「悠くん…。」
「天城君。君は横にいる夏夜ちゃんが見えていて?」
「まあね。ここにいる雪くんも幽霊だからね。」
はぁ…。で、『雪』っていうのはこの幽霊の名前か。
夏夜はカウンター席に座るなり「マスターいつもの。今回は2杯。」とかっこよく。かつドヤ顔で注文した。
「全額悠くんが払ってくれます。」と付け足して。
ぶん殴っていいですか。
「だから雪ちゃんも今日は好きなの頼んでいいよ。」
ぶん殴っていいですね。
夏夜の言うことは大体が本気なのでこれで雪というこのカールの掛かったショートヘアーというちょっと僕好みな子がなんでも注文してしまえば現在極寒の財布がついに絶対零度とか言う世界に達してしまうだろう。
そんな雪さんはくすくすと笑ってた。
若干切れ気味で僕も夏夜の左隣に座る。
雪さんが僕と夏夜の目の前にコーヒーを置いた
「お待たせしました。オリジナルブレンドコーヒーです。」
湯気の立ったそのコーヒーはとてもいい香りがした。コンビニのコーヒーより美味しいだろう。そう確信した。
ブラックは僕はちょっと無理なのでスティック砂糖を1本入れて熱いうちに一口飲んだ。
……あ
コクがあって。でもさっぱりしている。こんなに美味しいコーヒーは人生で初めてだ。
これが夏夜がいつも頼んでいた。
コーヒーが出されて数分。今度はマスターが「どうぞ。ヘルシーサラダサンドイッチです。」と皿に盛りつけられた2つのサンドイッチがトンと置かれた。
『いつもの』って1つじゃないんだ。
「ご注文は以上ですよね。」と言ってマスターは伝票を僕に差し出してこう言った。
「それではよろしく。彼氏さん。」
マスター泣いていいですか。僕夏夜の彼氏じゃないですぅ…。
そんな僕の表情を読み取ったのか、イケボマスターはウインクを返してきた
くぅぅぅぅ…
夏夜に洗脳されてるんじゃないかと思いたい。
コーヒーとサンドイッチを食べながら伝票を見てみるとコーヒー2杯で520円サンドイッチ2つで660円合計1080円だった。
1人当たり540円。コーヒー1杯260円。サンドイッチは330円という感じだろう。中々いい値段だ。
でも1080円ということはなけなしの野口さんを出さなくてはならないという現実であった。
マスターや雪さんとゆっくり話しながらコーヒーを啜、コーヒーの美味しさにおかわりしたいところだがここはぐっと抑えて1080円を払い、この喫茶店を後にした。
「また来ようかな。」
そう僕は呟いた。




