第二章 その6
なんだろう。この空間。
なんだろう。この妙な感じ。
僕の部屋では人生では感じたことのない程の変な緊迫感があった。
僕の集中力はこれもあってか切れかけの糸1本で支えている状態だった。
パキッ――
シャープペンの芯が折れた。
それと同時に僕の糸もプチっと言う音をたてて切れた。
「あぁ~もう無理。」
「天城くん。頑張って集中力を続けさせて下さい。」
「川内さん。静寂空間が苦手な僕はこの静けさの中3時間以上も黙々と集中は出来ん。」
時計の時刻はたった今午後9時21分28秒を指した。
夏奈の提案で行われた勉強会兼お泊まり会。会場は当日親は出張。妹も全国大会でいないことから僕の部屋となった。
これが夏奈という名の『幽霊』によって強制的に決まった時、僕は夏奈を本気で殴りたくなった。
夏奈と一緒に寝るなんて毎日の事で馴れてしまったが、問題は川内さんだ。純粋で異性かつ
………
……
…………
………ッ。
ん………。
んッッッッッッ!!!!?
なぜだ?
なぜベットで寝ているはずの学年一美人と言われている女の子が僕が寝ている布団ですーすーと寝息を立てているんだ!?
しかも完全密着である。
……ハッ!!これは夢だ。夢に違いない!
僕は思いっきり頬を叩いた。
パシンッ!
部屋に音が響き渡り、反響してくる。
しかし、我ながらめっちゃいた……いるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!
これ現実かよっ!!
「おはようございまーす。って、あれ?」
割烹着を着てこっそり入ってきた夏奈と目があった。
「あらら、起きてたんですか。ドッキリ失敗ですね。」
「ところでMs. Kana.」
「何ですか?」
「What is this?」
そう言って密接するお隣さんを指差した。
「んー。夜中ガサゴソと聞こえたので目を開けてみたらこんな状況でした。」
「うむ。なるほど。」
言いたいことはなんとなく理解できたようなできなかったような。
しかし、知らぬ間のうちに彼女が僕の布団に潜ったらしい。
「ところでどうする?起こすか?」
「いいえ。まだ少し時間があるのでもう少しだけ寝かせてあげてください。」
「そうだな。幸せそうに寝ている彼女を起こすのもなんか勿体ないしな。」
「悠くん…。時々可笑しなこと言いますよね。」
お前だけには言われたくねえ。
そう思いながら川内さんにそっと布団を被せてあげると素早く着替え、下に降りた。
しばらくしてホットコーヒーをすすっていると「おはようございます」と眠そうな顔をしながら起きてきた。
「おはよう。よく眠れた?」
「うん。よく眠れた。」
そう言うと夏奈がご飯に納豆。味噌汁に焼き魚とサラダが盛られた朝食定食並の量を優しく置いた。
これ夏奈が見えない人達から見ると浮いてるんだよな。
それを僕達2人は平然と過ごしている。おっかないな。
「さて、先にいくよ。」と言うと川内さんが「ちょっと待って。私も一緒に行きたい。」と言われて止まった。
川内さんが朝食を急いで食べると素早く準備してきた。
2人で玄関を出ようとしたら「夏奈も行く。」といってプラス1柱で行くことになった。
いつもよりも朝日が眩しい。
目が冴えてきた。
この時間で川内さんと歩くのは初めてだし、またここから学校までずっと話ができるのも初めて。
そしてこれはもう恐らく今後することはないと思う。
僕はこの時間がとても嬉しかった。




